シャッターを切る瞬間に感動したい〜私が撮りたかった女優展 Vol.5〜 piczo

2024年3月16日(土)〜26日(火)に、東京・日本橋兜町「AA(アー)」にて開催された『私が撮りたかった女優展 Vol.5』。大盛況に終わった本展を振り返り、今回は八木莉可子さんを撮影した写真家・piczoさんに女優展の作品作りについて改めて伺うとともに、今回の作品にも反映されているという撮影の上で大切にしている想いについて伺った。

PHOTOGRAPHER PROFILE

PHOTOGRAPHER PROFILE

piczo

大阪生まれ。東京の武蔵野美術大学でグラフィックデザインを専攻。在学中に写真を学ぶ。その後ロンドンに移りロンドン芸術大学のロンドン・カレッジ・オブ・コミュニケーションで写真を専攻。現在は 『i-D』 をはじめ 『Beauty Paper』『The New Yorker』『Union』 などの雑誌へ寄稿するほか、Dunhill や Chanel、Wooyoungmi、Nicholas Delay、さらには Uniqlo などのブランドとの撮影も手がける。2021年には、2015年から現在まで、作家がプライベートで日記のように撮り続けてきたさまざまな瞬間をまとめた 『nikki』 を aptp books から刊行。W所属。

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私が撮りたかった女優展 Vol.5の様子

── まずはpiczoさんが写真を始めたきっかけから教えてください。

僕は武蔵野美術大学デザイン情報科出身なのですが、実技ではなく学力試験で入学しました。そのため入学時は全然絵が描けず大変だったのですが、授業の科目の中に写真があったんですね。写真はシャッターを切れば撮れるので自分でもできるかもと思い、そこからカメラに興味を持ち始めました。そうしていくうちに、ミュージシャンの人たちと友達になり、趣味で彼らの撮影をはじめたのが本格的に写真を始めたきっかけですかね。

── それからLCC(ロンドン・カレッジ・オブ・コミュニケーション)に入学し、写真を専攻されたということですが、その頃から既に職業としてフォトグラファーをやっていきたいという思いがあったのでしょうか。

そうですね。その頃には写真を撮っている方が楽しくなっていたので、デザイナーではなくフォトグラファーになりたいと考えていました。

──なぜ留学をして学校で学ぶという道を選ばれたのでしょうか。

武蔵野美術大学ではデザイン科にいたのもあって、周りでカメラマンやフォトグラファーになる人が全くおらず、当時はまだSNSもほとんど無い時代だったので、写真家になるためにどうすべきかがわからなかったんです。なのでまずはスタジオマンになるといったアイデアも出てこず、「とりあえず学校に行かなきゃいけないのかな」みたいなところから留学を決めました。

── その後、主にファッション撮影の仕事が増えていったのはなぜですか?

ロンドンに学びに来る人はファッションの仕事に就きたい人が多く、結構周りにもファッション関係の方やヘアメイクをしている友達が多かったんです。そういった人たちと話している時に「じゃあ一緒に撮影しようよ」といった話になり、ファッションの仕事が増えていきました。

── piczoさん自身も元々ファッションが好きだったのでしょうか。

それなりにという感じですね。ものすごくファッションが好きだったかと言われたらそうではない気がします。ただ音楽やファッションなどのカルチャー全般に興味はありました。

── 最近のお仕事で印象に残っているものはありますか?

最近の仕事で印象的なものだと、NYLON JAPANの宇多田ヒカルさんデビュー20周年記念特集の撮影ですね。表紙と裏表紙と中身というところで、1日で約30ページ分の写真を撮影しました。

今回、ロンドンでの撮影だったのですが、ロンドンは曇りの日が多いのでなかなか天候も読めず、撮影時の1月2月は日没が4時〜5時ぐらいでした。すぐに暗くなってしまうので、ライトを焚いたりレタッチで調整しながら工夫して仕上げました。いつもより大変なところが多かった分とても印象に残っています。

── piczoさんの写真家としての表現のコア(核)にあるものを教えてください。

そうですね、“リアリティとアンリアリティの間”や“必然性の中にある偶然”などを表現しようとしているのかなというのが最近自分でも思っているところです。

自分の中で、デザイン科上がりのアートディレクター的な自分とドキュメンタリー性を重視するいわゆる写真的な自分とが混ざっている感覚で、それが作品にも出ているのかなと感じています。構成を考えるのががすごく好きなので、コンセプトメイキングやムードボードメイキングは事前にしっかりと行うのですが、その後に写真的な自分がそれをガシャっと崩したくなってしまうというか(笑)。

しっかりと組み立てたものが出来上がってしまうと“瞬間を撮る”という行為ができなくなり、出来上がったものを撮るしかなくなってしまうので、出来上がらなくするためにはどうするかみたいなことを考えていますね。シャッターを切る瞬間に自分でも感動したいじゃないですか。それが写真の面白さや楽しさにも繋がってくると僕は思っています。

私が撮りたかった女優展について

──今回の「私が撮りたかった女優展 Vol.5」で写真家として声をかけられた際、どのように感じましたか?

こういった企画でお声がけいただいたというのが意外でした。参加することにした理由としては、今までの女優展の作品なども拝見して、今自分がいるロンドンと比べると日本での仕事は色々な制限があることも多いので、(女優展の自由さが)楽しそうだなと思ったところが大きいですね。

── 今回ミューズとして八木莉可子さんを選ばれた理由を教えてください。

ちょうど話が出ていた時に『First Love 初恋』を観ていて、いいなと思ったのがきっかけです。また、八木さんの事務所の社長さんとは以前からの知り合いだったこともあり、まずは声をかけてみようとオファーしました。

── 今回の作品について教えてください。

事前打ち合わせの際に、八木さんに休みの日にどこに行きたいか、何をしたいかを聞きました。そうしたら「神社にお礼参りに行きたい。書道をやりたい。」と言っていてすごく和風だなと思ったんです。そのため、まずは軸として“和”というイメージがあって、そこにデザイナーさんの着物の衣装が合わさって、仕上がった写真をまとめてみたときにかぐや姫が現代にタイムスリップしてきたようなストーリーに仕上がりました。

着物での撮影は、どこかに出かけて何かをするといった撮影は難しいかもということでしっかりとスタジオで撮り、他の撮影はもう少しドキュメンタリーのタッチを入れて、何かをしながら撮影をする、といったように撮影の仕方にも変化をつけました。

── piczoさんのお気に入りの写真を教えてください。

この窓際で撮影した一枚はすごく気に入ってます。最初は普通に壁際で立っている姿のポートレートを撮っていたのですが、動きをつけてもらったり移動してもらったりと色々試していくうちに窓際まで行って八木さんが窓にもたれたので「そのままちょっと窓開けてみようか」と言ったところ、この写真が生まれました。

本当にこれこそ偶然性と言いますか、ここに行きつくことは全然予想していなかったんですけど、着物なのにシチュエーションはすごくモダンで、外の景色も普通に見えているという面白いシーンが撮れたんじゃないかなと思っています。

同様にこの写真もこのシチュエーションで撮るということは元々決めていたのですが、撮影中に八木さんが不意にあくびをして、涙がスーッと流れてきたんですね。

結果的に涙の跡が写った写真になり、偶然性の面白さを改めて感じました。

── 最後に、写真展を振り返っていかがでしたでしょうか。

女優さんを相手にここまで自由に、そしてじっくり撮影できることはなかなかないので、自分としても新鮮な気持ちで撮影することができました。

日本はクリエイティブの仕事において、基本的にクライアントの意向が優先されるため、フォトグラファーが撮影の主導権を握れないことも多く、フォトグラファーの色を出しづらい国だと思うんですね。逆にフォトグラファー主導で行う自由度の高い撮影になると、今度は費用面の課題が出てきたりするので、現状は一概にどちらが良いという訳ではないのですが、やりたいことをやりつつ、良いクリエイティブが生まれて、関わった全員がお金も貰えてというハッピーな循環が今後増えていくといいなと思っています。