これからの女性写真家たち 〜私が撮りたかった女優展 Vol.5〜 みやじまなほ

2024年3月16日(土)〜26日(火)に、東京・日本橋兜町「AA(アー)」にて開催される『私が撮りたかった女優展 Vol.5』。今回は起用された写真家の中から、3名の女性写真家にインタビュー。第一回目は女優・玉城ティナさんを撮影した写真家・みやじまなほさんに、写真を撮り始めたきっかけや心に残っている作品、そして「私が撮りたかった女優展」の作品づくりについて詳しく伺った。

PHOTOGRAPHER PROFILE

みやじまなほ

PHOTOGRAPHER PROFILE

みやじまなほ

1998年生まれ、東京都出身。アーティスト写真やCDジャケットの撮影や、WEBマガジン、個人制作の作品集などで制作を続けている。2023年に修士課程終了後、本格的に活動を開始。

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写真との出会いはいつ頃、どんなきっかけでしたか?

写真との出会いは幼少期です。父の影響で写真を撮ることは子供の頃から好きで、小学生の頃はコンデジを持って遊びに行っていました。15歳のクリスマスに自分専用のカメラを買ってもらい、意識的に写真を撮るようになりました。16歳の時、高校の図書館で川内倫子さんの『花火』を手に取ったのがきっかけで、写真を本格的にやっていきたいと思うようになりました。

自身に影響を与えた作品があれば教えてください。

小学校からミッション系の学校に通い、キリスト教美術や音楽が身近な存在だったため、宗教的な絵画・音楽・詩などからはかなり影響を受けていると思います。また、イタリアで見た宗教的な絵画、彫刻や、イスラエルに行った際に味わったそれぞれの宗教の持つ神聖な雰囲気と、そこに集って祈る人たちがとても美しく感じました。静かに祈りながら作り上げられた詩や絵画に魅力を感じるので、そのように私も作品を作りたいなと思っています。

これまでの活動で印象に残っている作品や仕事を教えてください。

1.「空白の輝き」(写真展「死生観 — 一人の女優と六人の作家 —」2021年)

“何かが死んだことによる「いない」という空白は、単なる「無」ではないのではないか”ということをテーマに撮った作品です。簡単に言えば、死んだら無になるという考えに対するアンチテーゼ的な写真を撮りました。

世界には「ない」と思われている存在で実は満たされているのだという思いを込めて、プリントした写真を火で炙った作品を展示しました)。

そして、「空白」とは輝くための空間であり、それによって満たされているということを表現するために焼かれた写真の穴の背後から光が差し込むように展示しました。

2019年に死んだ愛犬の亡骸は、死んだ直後はしばらくなまあたたかく、しかし徐々に冷えていきました。そのとき、生きているということはぬくもりを持っているということなのだとぼんやりと感じました。ちょうどコロナ禍で、店頭で、病院で、家で、体温を測ることが習慣化したということもあり、私もなまあたたかさを持つ存在なのだと意識するようになりました。

しかし、死ぬということは単に冷えて無くなっていくだけなのか、「かつて存在したけれどいまは存在していない」ということと「元々存在しなかった」ということは同じ「無」なのだろうか、そして、かつて存在したということは、ぬくもりとなって存在し続けてるのではないか、そのような存在によって世界は満たされているのではないか、という問いかけのようなものを作品にしたいと思いました。夕方の公園で作品を作るために写真を焼いたとき、その焦げ目をなぞれば、ほんのりあたたかく、焼いてできた「穴」を夕日にかざすと赤い光が差し込んだのが印象に残っています。

2. spring(2023)

“苦しみは苦しみでは終わらない、終わらせない”というのがテーマの作品です。

springという言葉は、「春」以外に、「バネ」や「泉」という意味があり、何かが湧き出てくるような、噴き出してくるような、広がっていくといったイメージがあります。この作品では、苦しみの中で負った傷から溢れ出た血が、光に照らされる過程を描きたいと思いました。

マッチに墨をつけて「私は叫んだ、あなたが私の叫びを聞いたので」という言葉を書き、写真を撮りました。これはこの作品における私の暫定的な答えにもなっています。

この言葉の出典は不明で、どこかで読んだのかもしれないし、私が創作したのかもしれませんが、いずれにしても、ある時ふと浮かんできた言葉でした。普通は「私が叫んだからあなたが私の声を聞く」という時系列になりますが、これは逆で、「あなたが聞いたから私は叫ぶ」という不思議な時系列になっています。私たちがどれだけ叫んでも、それは神の手の中というか、全てに先行して叫びは聞かれているのだから安心して叫べ、という意味だと解釈していて、だからこそ、苦しみは苦しみでは終わらないという確信のようなものがあります。それを一つの作品群にしました。

ご自身のクリエイティブの特徴を教えてください。

自分でも自分の写真にどういう特徴があるのかあまりわかっていません。たまに退廃的な雰囲気があると言われることがあるのですが、私はむしろ反対に永遠を望む気持ちで撮影しています。写真はその性質上、失っていくものばかりに目を向けてしまいがちですが、それを乗り越え、永遠なるものを表現していきたいと思っているからです。

じつは2023年の6月頃まで約一年間、一時的に写真を撮ることから離れていました。

写真というものが、あまりにも具体的で限定的で、またある種の傲慢さを含んでいるのではないかと思うようになったからです。例えば、「コンビニ」を表現する場合、言葉なら読み手が自分の近所のコンビニを想像できます。そのコンビニがどのような時間帯で、朝なのか深夜なのかも個々の想像に委ねられます。しかし、写真は“私が見た”どこか特定のコンビニしか写すことができない。しかもそれをわがままに撮って、過去になったもの(=死んでいるもの)をコレクションするような不気味さに引っかかりを感じ、写真を撮ることから離れていたのです。

しかし、ちょうどそのタイミングで、今回の「私が撮りたかった女優展」の企画にお声がけいただきました。このような機会をいただいたからには、もう少し続けてみようかなと思いました。今はその制約の中で、どのようにして普遍性のある作品を作ることができるのかチャレンジしていきたいと思っています。

写真家として、ご自身の活動のコア(核)にあるもの、一貫したテーマがあれば詳しく教えてください。

苦しみや悲しみ、暗闇の中で彷徨いながら光や希望を探し続けるイメージは何かを作る時には常に意識しています。理由として、暗闇があるからこそ光が美しく輝いていることに気がつくことができると思うからです。光や希望を探し続けるという私の行為によって、たった一人でも良いので美しい光の存在に気づく人がいると良いなと思っています。

そして、私の手元にあったのがカメラだっただけで、このテーマを表す手段は写真でなくても良いと思っていて、それは言葉、絵、彫刻、または祈りでも良いと思っています。

「私が撮りたかった女優展 Vol.5」について

今回の「私が撮りたかった女優展 Vol.5」で撮影した作品について教えてください。

今回の撮影に影響を与えているのは、幼い頃に見た悪夢です。その悪夢は、ホテルで赤い絨毯の続く廊下のつき当たりにあるエレベーターに母が一人で乗って行ってしまい、もう一度扉が開くとそこには遺骨が散らばっているというもので、それを元に赤い絨毯の廊下がある場所をロケ地として探しました。

本当に見た夢なので、夢の中で知らない場所を歩いている時の不安感みたいなものがある意味リアルに表されているのではないかなと思います。また、今回は先述のコアにあるものやテーマを夢を通して精神的な旅路として表現したつもりです。

今回の作品を通して最も伝えたいメッセージはなんですか?

悪夢のような現実においても、美しさを見つけることこそが希望となりうるのだということを伝えたいです。

今回の作品のテーマは美しい悪夢で、悪夢と言っても恐ろしい生き物が出てくるようなものではなく、同じ道を何度も巡ってしまっているような、長い廊下が無限に続いているような不安感、不気味さのようなものを表現したいと思いました。ただそこで終わってしまうのではなく、悪夢が美しさを孕んでいるように、何度も同じ道に戻ってきてしまう悪夢のような現実に希望を持つためには、世界の美しさに目を向けていく必要があると思うからです。

最後に、今後挑戦してみたいことを教えてください。

旅に出ながら、静かに祈るような気持ちで写真を撮り続けていきたいです。ただ、私が表現したいことは、まだ写真がベストな表現方法とは思えていません。ですが、写真という性質上の制約の中で、どこまで表現できるのか、写真にしかできないことを模索していきたいです。また写真に留まらない表現方法も積極的に試していきたいと思っていて、どの表現方法で表すのが一番良いのか、常に考えながら適切な手段を選んでいきたいです。そうやって、これからも悩みながら模索しながら、たった一人でも良いので、誰かの心を掴んで離さないような作品をつくりたいです。

『私が撮りたかった女優展 Vol.5』

【会期】2024年3月16日(土)〜26日(火) ※会期中無休
【時間】11:00~20:00
※アーリーチケット制を導入:混雑を防ぐため、初日のみ9:30オープンとし、9:30〜11:00の入場料は大人/学生問わず1,800円となります。
【入場料】大人1,000円 学生600円 小学生以下無料
※アーリーチケットの場合 大人/学生問わず1,800円
【会場】AA(アー)|東京都中央区日本橋兜町6-5兜町第6平和ビルB1F(茅場町駅から徒歩3分 日本橋駅から徒歩5分)
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*前売り券の販売は特に予定しておりません。皆様当日受付後ご入場となります。混雑状況によってお待ちいただく場合がございます。
*入場料・物販は現金の他、各種クレジットカードや交通系ICカードもご利用頂けます。
*開催概要は変更となる場合がございます。随時SNSをご確認ください。