静かさの中にある美しさを表現したい〜私が撮りたかった女優展 Vol.5〜 角田航

2024年3月16日(土)〜26日(火)に、東京・日本橋兜町「AA(アー)」にて開催された『私が撮りたかった女優展 Vol.5』。大盛況に終わった本展を振り返り、今回は小宮山莉渚さんを撮影した写真家・角田航さんに改めて作品作りについて伺うとともに、展示方法のこだわりや展示を終えて感じたことを伺った。

PHOTOGRAPHER PROFILE

PHOTOGRAPHER PROFILE

角田航

1991年 栃木県鹿沼市出身
2012年 スタジオエビス入社
2016年 横浪修氏に師事
2019年 独立
2022年 TRIVAL所属
雑誌、カタログ、広告撮影を中心に活動中。ポートレートを得意としている。アナログならではの手法・表現に魅力を感じ、フィルムカメラでの撮影・暗室でのプリントも積極的に行っている。

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私が撮りたかった女優展 Vol.5の様子

── まずは、角田さんが写真家を志したきっかけを教えてください

元々僕は写真の学校にも行っておらず、高校を卒業してすぐに地元栃木で就職し、写真とは全く関係ない仕事をしていました。その時期は、企業の中で働くだけの毎日で日々の変化がなく、安定はしているけれど果たしてこの状態が自分にとって良いのかという疑問を持っていて、とりあえず何かをやりたいと思っていました。

そんな時に元々東京でファッションや広告のカメラマンをしていたけれど、栃木に戻ってきて写真館を開くという方とたまたま出会い、以前から写真が好きだった僕は仕事のない日にお手伝いをするようになりました。そしてその方から広告や雑誌の話を聞き、そういった仕事が東京にはたくさんあるといった話を聞いたことがきっかけで、上京することにしました。若かったので勢いもありましたよね(笑)。

今は色々な道があると思うのですが、当時はフォトグラファーになるにはまず大体スタジオマンになって、活躍している写真家に弟子入りして、そこから独立するのがスタンダードだったので、飛び込みでスタジオ恵比寿に「人を募集していませんか?」と電話して東京まで作品を持っていきました。幸運にもたまたま人が足りていないタイミングだったこともあり、働けることになりました。

そして、その頃に写真家の横浪修さんの展示を見に行き、直接お話をする機会がありました。当然写真もすごく好きなんですけど、横浪さんの人柄にもとても惹かれるものがあり、いずれは横浪さんに弟子入りしたいというビジョンを持ちました。

アシスタント時代の作品

── そこから、実際に横浪さんのアシスタントになることができたというのはすごい行動力ですね。

写真家に弟子入りするには、スタジオマンを経験していないと難しいというところは元々知っていたので、まずはスタジオ恵比寿で働いて、そこから自分の力がついた頃ぐらいにお願いしようと思っていました。ですが、スタジオ恵比寿には横浪さんは来られないので、自分から手紙を書いて送りました。そこから半年ぐらいロケアシとして手伝いに行かせていただいた後、アシスタントとして採用してもらえたという感じですね。すごく有り難かったです。

横浪さんのアシスタントに就いてから、だいぶ写真の力みたいなものがついたというところはやはりありますね。現場から納品までのことを一通り経験させていただきました。

プリントに関しても、アシスタントがプリントの作業をある程度おこなって、横浪さんがチェックして、そこから調整していくことが多いので、色々な経験を積むことができました。

私が撮りたかった女優展について

── 今回の「私が撮りたかった女優展 Vol.5」で声をかけられた際、どのように感じましたか?

元々vol.1が始まった頃から女優展の存在は知っていて興味があったので、プロデューサーのワンさんから声をかけていただいた時は素直に嬉しかったといいますか、ありがたいなという気持ちでした。

── ミューズに小宮山さんを選ばれた理由を教えてください

声をかけていただいた頃、ちょうど小宮山さんの映画や写真集だったりを目にすることが多く印象に残っていたというのがありました。また、純粋に自分が撮りたい方を選ぶとなった時に、今10代の小宮山さんを女優展で撮った後、また十年後などと長い時間をかけて変化していく小宮山さんの姿も撮ることができたらいいなと思い、今回は小宮山さんを選ばさせていただきました。

また、少女っぽいイメージのある小宮山さんですが、彼女と打ち合わせした時にちょうど18歳になったと聞きました。18歳は法律上だと成人の扱いになりますが、まだまだ子供でもあって、そんなある種の“少女と大人の間”みたいなところが表現できたらと思いました。

── 小宮山さんには『息をひそめて』というドラマを事前にイメージとして伝えていたと伺いましたが、その意図を教えていただけますか。

『息をひそめて』という作品は、中川龍太郎さんという監督が制作した、コロナ禍で起こるストーリーを綴ったオムニバスドラマなのですが、その作品の雰囲気や光の使い方がすごく好きなんですね。彼女には今回の撮影で映画のワンシーンのような雰囲気を演じてもらいたいと思ったので、事前に作品をお伝えしたという形です。

── “少女と大人の間”というコンセプトを作品の中でどのように表現されましたか?

例えばこの写真は中野で撮影したのですが、中野サンプラザはもう取り壊されてしまうんですけれども、その反対側が都市開発がすごく進んでいるんですね。その古い建物と新しい建物の両方が存在している感じが、小宮山さんの少女と大人の間の立ち位置とリンクするなと思い、そういった場所で撮影するなどしています。

中野サンプラザ前
中野サンプラザ前

── 角田さんの写真家としてのコア(核)にあるものと、今回の作品はどのようにリンクしていますか。

師匠の横浪さんから、アシスタントとして光に関して深く学ばせていただきました。そのため、光を意識することはすごく大切だと思っていて、モデルさんが入った状態で、どの光が一番綺麗に見えるのかを常に探しています。また、1枚の画でグッとくるような作品を撮ることを心がけています。

僕の写真はどちらかというと静かめなトーンなのですが、“静かさの中にある美しさ”を表現したいと考えていて、今回の撮影でもそういったところを意識しながら作品づくりをおこないました。

── 小宮山さんを撮影する中で印象的だったことはありますか?

事前に『息をひそめて』の作品のことをお伝えしてはいましたが、彼女の演じている感じをそのまま切り取りたいと思い、当日はそこまで細かい指示は出さなかったんですね。ただ彼女はその大人っぽさという意図を理解して、普段とは違う表情や仕草を彼女なりに出していて、理解や飲み込みの早さに驚きました。

── 会期中には在廊もされていたと思うのですが皆様の反応などはいかがでしたか?

今回展示で二枚の大きな写真を制作したのですが、綺麗に大きく引き伸ばせていることに関して、興味を持っていただいたようで、印刷について色々と質問いただくことが多かったですね。

──どのように制作されたのでしょうか。

今回、フィルムで撮ったものをスキャニングしてデータで出すというやり方ではなく、フィルムを一度紙焼きでプリントして、その紙焼きをスキャニングしてプリントするという方法をとりました。そのようにすると、やはりデジタルとは違う階調の出方になるといいますか、光の当たり方、ハイライトの出方とかがよりなめらかになるんですね。

また“少女と大人の間”というところを表現したかったので、白枠の木製フレームだと少し柔らかすぎるかなと思い、クリーンさを出しつつシャープに見せられるアクリルを選びました。

また、全体的な展示方法として、1歩引いて全体を見るようにしたいと思い、センターにカメラ目線がある作品を飾り、その周りはほとんど目線がない作品を配置しました。そういった展示の仕方に興味を持ってくれた方もいましたね。

── 写真展を振り返っていかがでしたでしょうか。

そうですね、やはり印刷した作品をお見せすることができたというところと、皆さんに実際に展示に足を運んでいただけたということが素直に嬉しかったです。今回は企画のグループ展でしたが、今後は個展としてもコンスタントに出していけたらなと思いました。