これからの女性写真家たち 〜私が撮りたかった女優展 Vol.5〜三森いこ

2024年3月16日(土)〜26日(火)に、東京・日本橋兜町「AA(アー)」にて開催される『私が撮りたかった女優展 Vol.5』。今回は起用された写真家の中から、3名の女性写真家にインタビュー。第三回目は女優・松本穂香さんを撮影した写真家・三森いこさんに、写真を撮り始めたきっかけや心に残っている作品、そして「私が撮りたかった女優展」の作品づくりについて詳しく伺った。

PHOTOGRAPHER PROFILE

三森いこ(みもり・いこ)

PHOTOGRAPHER PROFILE

三森いこ(みもり・いこ)

1998年神奈川県横浜市生まれ。明治大学情報コミュニケーション学部卒。フォトグラファーとして活動中。ポートレートをメインに作品を制作している。2023年に初個展「ここでまた会おうよ」を開催。
2024年7月にその続編となる個展「この星の中」と初の写真集を発表。

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写真との出会いはいつ頃、どんなきっかけでしたか?

大学生の頃「写ルンです」がリバイバルで流行っており、友人が使っているのを見て、自分も使ってみたいと思い購入したことがきっかけです。それまでも恋人や友人など、好きな人と一緒にいる時に思い出を残すための記念写真としてスマホで写真を撮ることはありました。その延長線上で「写ルンです」で撮影をしてみたところ、シャッターを押す感覚や現像するまで仕上がりが分からないところなど、スマホにはない体験が楽しくて、少しずつハマっていきました。

その頃は、当時付き合っていた人と授業をサボって散歩をしたり、公園で遊んだり、そんなことばかりしながらよく写真も撮っていました。当時は自分がフォトグラファーになるということは考えたこともありませんでしたし、作品を作るという意識も持っていなかったので、“好きだから残したい”という気持ちだけで、いいなと思った瞬間に撮っていました。

そこから徐々に出かけた先の風景も撮るようになったり、撮った写真をSNSに載せるようになったりしました。そうするとSNSで繋がったモデルさんとポートレートを撮ろうという話になったり……段々と写真を介して自分の世界が広がっていきました。その頃から、写真により興味が湧いてきて、もっと写真を撮りたい、これからも作品を作っていきたいという想いを持つようになりました。

自身に影響を与えた作品があれば教えてください。

小学生の頃からとにかく漫画が好きで、特に中高生時代に読んでいた漫画作品は、その後の考え方や自分の作品に大きな影響を与えていると感じています。

私は、小学校低学年の時に女の子同士の友達の輪に馴染めず寂しい思いをした経験から、「たった一人で良いからお互いの全部を分かり合える存在が欲しい」ということを強く思うようになりました。成長してからも、ずっとその“誰か”を探している感覚があり、クラスメイトの中にいないかと探したりもしましたし、恋人を作ったらその感覚は満たされるのかな、と考えたりしていました。

浅野いにおさんの『おやすみプンプン』を初めて読んだとき、ヒロインの愛子ちゃんという女の子が、私自身がずっと思っていたことと全く同じ台詞を言っていたことが衝撃的で、そこからこの漫画にハマっていきました。この漫画は私自身の恋愛観や写真の撮り方にも影響を与えていると思います。

浅野いにお『おやすみプンプン』4巻 第42話

今でも人を撮る時に「その人と繋がりたい」とか「わかり合いたい」という欲求がどこかにあるような気がします。ずっと満たされない感覚を、撮ることで少しでも満たしたいという気持ちは変わらないんだろうなと思います。

これまでの活動で印象に残っている作品や仕事を教えてください。

「ここでまた会おうよ」(写真展 2023年10月)

昨年10月にはじめての個展「ここでまた会おうよ」を開催しました。この写真展は2022年冬から1年3ヶ月の間、ある1人の男の子を撮り続けていたシリーズの作品たちを展示しました。

社会人になった頃。 

わたしは新生活に馴染めず、毎日忙殺されて、気づいたら寝落ちばかりする日々で部屋も荒れ放題だった。
気がついたときには、やわらかい心はなくなっていた。 
ふと、このまま生きていたら完全な大人になってしまうと気づいてこわかった。 
自分の心が強くなればなるほど、それと同時にやわらかくて繊細なものがなくなっていく。 誰かにもらった言葉、その時に感じた感覚、 その時にいた場所。すべてを、そのまま受け入れることしかできなかったあの頃に戻れないことが悲しい。 

だから、そういうやわらかいものが見たい。撮りたい。
そうして少年や少女に写真を通じて出会うことができれば、わたしはもとに戻れるんじゃないかなと思った。 

そんな時に、偶然、思い描いていたような少年に出会うことができた。
私が持っていないものをたくさん持っている。圧倒的な自由さ、身勝手さ、生きているという実感。
わたしは「この少年になりたい」と思いながら撮りはじめた。

|「ここでまた会おうよ」ステートメントより抜粋

この作品を撮り始めた頃、私は23歳で社会人になって仕事に忙殺される日々の中、このまま大人になってしまうことに対しての焦燥感や悲しみのような気持ちを抱いていました。そんな時に、この先ずっと撮り続けたいと思えるような、思い描いていた通りの男の子に出会い、夢中になってその子の写真を撮りました。

撮影中は、まるで自分がこの子の同級生になったかのような感覚になり、普段の社会で生きている自分とは全く違う自分になれたような、眠っている時に見る夢の中にいるような、そんな不思議な感覚で撮っていました。この撮影は、いつもの自分とは切り離された自分になることでもあり、自分の中にある大事なものを守るために必要な行為でした。

ご自身のクリエイティブの特徴を教えてください。

普段の日常生活そのもの、その生活と撮影という行為の境界線が曖昧になっている状態が好きです。

ロケーションは自分やモデルの自宅や近所で、散歩をしたりご飯を食べたりお昼寝をしたり……といった、いつもと変わらないことをしながら撮ることが多いです。

写真家として、ご自身の活動のコア(核)にあるもの、一貫したテーマがあれば詳しく教えてください。

先述のクリエイティブの特徴とも繋がってくるのですが、“日常生活”は大事にしていることのひとつで、自分の生活圏で撮影すること、相手の生活圏に踏み入ること、それが混ざって溶けて一緒になっていくことが嬉しいなと思います。

「好きと伝えることよりも、終電過ぎの夜道を一緒に散歩する方が大事」という文章の一節を最近見かけたのですが、普段から言葉だけだと相手と繋がりきれないと感じることがよくあります。もちろん相手のことを大切に思う気持ちを言葉にすることも大事なことだとは思うのですが、それよりも二人だけの共通言語というか、二人だけしかわからないことや、その時間を、お互いが認識し合っていることが私にとっては大切だと思っていて。
誰かと手を繋いだ時に何故かものすごくしっくりくる時ってあると思うんですけど、あの感覚にも近いというか……例えば「私たち親友だよね」と口に出して確認しあうよりも、二人だけがわかる気持ちや感覚を共有して、お互いのことを特別な存在だと感じている方がより素敵だと感じます。

言葉にはできないけど二人には通じている何かというのを写真を通してもっと見てみたい、そして写真を見てくれた方にもそういう部分を感じて欲しいなと思っています。

「私が撮りたかった女優展 Vol.5」について  

今回の「私が撮りたかった女優展 Vol.5」で撮影した作品について教えてください。

今回の「私が撮りたかった女優展」では、松本穂香さんをモデルに「一緒に過ごす日常と小旅行」をテーマに、「仲良しだけど少しドキドキするような憧れの女の子と過ごす夏休み」というストーリーを立て、私の自宅やその付近での撮影と、伊豆でのロケ撮影の2日程で行いました。

企画書より一部抜粋

好きな人と同じ家に帰ること、朝起きたら横で寝ていること、同じご飯を食べたり、一緒に海に行ったり、どうでもいい話をすること……そういったいつもと変わらない生活や日常は、自分にとってはものすごく特別で大事なものです。二日間、松本さんと一緒に過ごす中で、その一瞬一瞬がすごく大事で、その中で自然に出てきた表情や仕草を逃さないように追いかけながら撮影しました。自分の私服や松本さんの私服を衣装の中に混ぜてもらったり、普段している仕草などを撮影中にそのまましてもらったりしました。

今回の作品を通して最も伝えたいメッセージはなんですか?

松本さんと一緒にいた2日間は、最初から終わりに向かって進んでいるような感覚があり、とても楽しかったけれど同時に切なく、最後はさみしくもありました。写真を通じて、松本さんのことを大事に思っていた気持ちが伝わったら嬉しいなと思います。また、ふとした瞬間の仕草やあまり普段見ないようなドキッとする表情など、映画やドラマに出ている時の姿とはまた少し違うような、松本さん自身の魅力も楽しんでもらえたらいいなと思っています。

最後に、今後挑戦してみたいことを教えてください。

現在、先述の「ここでまた会おうよ」の完成版となるはじめての写真集の制作中で、2024年7月に写真集の販売とその写真展を都内で7月16日〜28日まで開催する予定です。

昨年の写真展では、被写体の男の子と出会って撮り始めた特に初期の頃の作品、自分が夢中になって撮っていた頃の作品をメインに展示したのですが、今回はその子と一緒に過ごす中でお互いの心の距離や関係性が近づいたり離れたりしていた中期〜後期の作品をメインに展示したいと考えています。

制作開始から約2年半ほどかかってしまい、やっと世に出せるので、たくさんの方に是非見に来ていただきたいです。

『私が撮りたかった女優展 Vol.5』

【会期】2024年3月16日(土)〜26日(火) ※会期中無休
【時間】11:00~20:00
※アーリーチケット制を導入:混雑を防ぐため、初日のみ9:30オープンとし、9:30〜11:00の入場料は大人/学生問わず1,800円となります。
【入場料】大人1,000円 学生600円 小学生以下無料
※アーリーチケットの場合 大人/学生問わず1,800円
【会場】AA(アー)|東京都中央区日本橋兜町6-5兜町第6平和ビルB1F(茅場町駅から徒歩3分 日本橋駅から徒歩5分)
Googleマップ

*前売り券の販売は特に予定しておりません。皆様当日受付後ご入場となります。混雑状況によってお待ちいただく場合がございます。
*入場料・物販は現金の他、各種クレジットカードや交通系ICカードもご利用頂けます。
*開催概要は変更となる場合がございます。随時SNSをご確認ください。