誰でもやろうとすればできることで、どこにもない面白さを生み出せる – 写真家・小見山峻|撮りはじめた、あの頃。 vol.05
現在活躍されている写真家が生まれる前──
写真家が大切に守り続けている要素が作品にどのような深みをもたらしているのだろうか。
駆け出し時代の初期作品を振り返り、変わらぬ原点やテーマ性の意義を明らかにしていく特集【撮りはじめた、あの頃】。
2014年から写真家として活動し、2018年にJWアンダーソン主催の「ユア・ピクチャー/アワ・フューチャー(YOUR PICTURE/OUR FUTURE)」にて、日本人で唯一ファイナリストに選ばれた小見山峻さん。
今に繋がる過去の写真を振り返りながら、写真家・小見山峻の内側に迫った。
PHOTOGRAPHER PROFILE
PHOTOGRAPHER PROFILE
小見山峻
1988年 神奈川県横浜市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、2014年より写真家として活動。
2018年 「JWアンダーソン(JW Anderson)」による新進フォトグラファー発掘を目的としたキャンペーン、「ユア・ピクチャー/アワ・フューチャー(YOUR PICTURE / OUR FUTURE)」にて世界中の一般公募の中から日本人で唯一ファイナリストに選出される。pen クリエイターアワード2018 「今年新しい領域に踏み込んだ8人の冒険者」に選出。
主な個展に同名の「hemoglobin」、「冴えない夜の処方箋」、KYOTO GRAPHIE KG+「なにものでもないものたちの名づけかた」など。
eyescream 紙面、Webにて写真と詩の連載“popcorn-talkie”を連載中。
間や余白を意識する理由
――小見山さんが、写真に出会うきっかけはどんなことでしたか?
両親が美術館好きだったこともあり、平面作品は昔から好きでした。当時は深く考えずに作品を見ていたけれど、作品として向き合うようになった原点は、中学生の頃に見た円山応挙のある水墨画です。巨大な屏風のキャンバスにほんの4分の1くらいしか描かれていなくて、あとは空白というか間。スカスカだけど成立していたんです。立ち止まって呆然と見てしまうくらいエネルギーがありました。
いま自分が、写真を撮るときに間や余白を意識するのは、こういった作品の影響が強いと思います。語りすぎないというのでしょうか。何かを表現するときに、どうしても見せたいものが中心にはなるけれど、それを引き立てるためには、角度や引き算など、いろんな見せ方があると思うんです。
――幼少期から芸術に触れて育ってきたけれど、まだ写真との出会いは訪れないんですね。
実家が自営業で、継ぐのが当然の流れだと思っていました。だけど、大学3年生で就活が始まる時に、大学3年の秋という時期が来たからという理由だけで就職活動をするということに、違和感を覚えたんです。やりたいことをやるべきだと。そこで初めて将来のことを真剣に考えるようになりました。
悩んでいるうちに大学を卒業して、今後のことを考えながらよく散歩をしていました。ふと、カメラを持って歩けば散歩中の楽しみが増えると思って、中古の型落ちカメラを買ったんです。23歳、そこが写真との出会いでしたね。
原点はストリートスナップ
――当時はどんな写真を撮っていましたか?
服が好きだったので、ストリートスナップを撮っていました。頻繁に原宿に行って、声をかけて写真を撮る。これを繰り返しているうちに顔見知りが増えて、ストリートスナップからじわじわと撮影の仕事が広がっていきました。
当時ストリートスナップを始めた時に出会った最初の1人で、10年前から今でも撮影しているモデルさんがいます。フィルムで人物を撮ったのもその人が初めてでした。
他にも昔から撮影している方が何人かいて、その方たちと撮影をするたびに、良い意味で自分があまり変わっていないことを確かめられます。感覚的に力みすぎずに撮れるので、写真を撮ることの楽しさを再確認させてもらっています。
初めてフィルムカメラで撮った写真も印象的ですね。散歩していたら双子みたいな木が並んでいた。初めての一本にワクワクしながら撮った写真です。
――他にも写真家・小見山峻に繋がる写真はありますか?
今までの写真全部かな。写真を始めた時から、気持ちは一貫していたと思います。昔と最近の写真を並べてみても違和感がないんです。
24歳という人間性がわりと固まった状態から写真を始めていますからね。これが思春期ぐらいから写真を撮りはじめていたらまた違った写真になっていたんじゃないかな。20代前半までに観たり経験したものが、ブレンドされてアウトプットされている形です。
その時その時で面白いと思う写真を撮っていましたよ。例えば傘の写真。ずっと、何かがいっぱいあるという状態は、否応なしに面白いと思っていたんです。写真に自分で何か持ち込んで加えたのは、この写真が初めてだったと思います。
誰でもやろうとしてできることで、写真は面白さを生み出せる
――面白い発想ですね。この写真は、小見山さんのその後の写真に何か影響を与えましたか?
やりたいことが増えましたね。傘をいっぱい集めるくらいは自分一人で準備できます。でも、他にやりたいことがたくさん出てくると、自分だけでは実現できないことが出てくるんですよね。それで、やってみたいことをいろんな方の協力を得て実現させてゆくというのも一つの方法だと思いました。
砂浜にパイプ椅子が置いてある写真は、初めてクライアントの予算で撮影した写真です。砂浜とパイプ椅子のそれぞれは誰もが見慣れているのに、掛け合わせたら目を惹く。会議室に椅子が置いてあっても、何とも思わないんですけどね。
それまでは、レンズの種類や、撮る角度など物理的な視点で考えていたけど、この写真を撮ったころから、より抽象的な視点で写真を考えられるようになりました。
写真って誰でもできることなんです。一つ一つの工程は誰でもできることだけれど、撮る人の視点や発想によって、とたんに個性的なものになります。そこが好きです。誰でもやろうとすれば簡単にできることの組み合わせで、どこにもない面白さを生み出せますから。
ちびっ子みたいなマインドで
――小見山さんにとって、どういう写真が楽しかったり面白かったりしますか?
掛け合わせで撮影すると面白いです。見てきたものの再構築ですね。10代20代で下心なく吸収してきたものが、頭の中のミキサーでかき混ぜられてコロンと出てくる感じ(笑)。だから直感で湧き出たアイデアは大切です。
技術が無くても良い写真が撮れてしまうことはありますが、発想は技術によってより自由度を高めることができます。40%は吸収してきたもの、60%くらいは技術だと思っています。写真に対する技術と知見があるから形になるし、技術があるから新しい発想に繋がってゆく。
何が面白いかは感覚でしかないですが、子どものいたずらみたいな発想です。いろんな方を巻き込んで協力していただいて、日々いたずらをしてるっていう感じですね(笑)。
写真を楽しむために守りたいものを決める
――常にやりたいことがあるからこそ、小見山さんの写真には特徴があるんですね。写真家として原点にある写真を楽しむために何か大切にしていることはありますか?
写真を仕事にしたとき、自分のやりたいことが出来ないのが当たり前という認識にならざるを得ない業界環境ではあると思います。だけど、そういう人が増えちゃうのはもったいないと思っていて。
自分にとってカッコいいと思うことをやりたいと考えがちですが、やりたいことってピンポイントすぎてピッタリハマることはなかなかないですよね。なので、逆にここは譲れないというラインを決めて、その線引きにしたがってゆく方が自分のスタンスを維持しやすいかと思います。
例えば、撮った写真のセレクトは自分でやる、とかですね。仕事では全データ欲しいと言われることもあるけど、自分は撮影からセレクトまで含めてフォトグラファーの仕事だと思うんです。
自分がどんな人間で、どんなことが出来ないとか、打合せでもこだわりを伝えることを大切にしています。写真を心から楽しむためには、守りたいものを先に決めるんです。
▼Information
小見山峻写真展「CityDiveShinjuku」
カメラをバイクに搭載し街を縫い回ることにより、運転と風の振動によって夜の街を描き出すシリーズ“CityDⅳe”と小見山が名づけた本作は、2019年に発表された作品群の新作。その街の特有の地形や光源、リズムを可視化させ、街そのもののバイタルを心電図のように昇華させる。
Curation by Tomoji Oya
本展示では小見山が夜の新宿にて“CityDⅳe”を行い、忙しない都市の呼吸を光の波形をもって読み解いた軌跡を制作した。
小見山 峻 写真展「CityDiveShinjuku」
【日時】2024年3月22日(金) – 4月22日(月)10:00 – 22:00
【レセプション】3月22日(金) 19:00 – 21:00
【会場】THE KNOT TOKYO Shinjuku 2F(〒160-0023東京都新宿区西新宿4-31-1)>MAP
現在活躍されている写真家が生まれる前──
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特集【撮りはじめた、あの頃。】
「撮りはじめた、あの頃。連載」
- vol.05 誰でもやろうとすればできることで、どこにもない面白さを生み出せる – 写真家・小見山峻
- vol.04 切ない感情をどうにかしたい、誰かに伝えたいと思っていた – 写真家・川島小鳥を形づくるもの
- vol.03 29歳の映画監督・写真家、枝優花
- vol.02 齋藤陽道 前編・後編
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Interview
「あの頃×被写体」- 髙田久美子
思い出を残す仕事は、セルフポートレートから始まった