芸人のオフショットを撮る理由 #写真家放談 |かが屋 – 加賀 翔

僕がマセキ芸能社に入って最初にもらった仕事はお笑いライブの写真を撮ることだった。

マセキが主催している大きなライブが毎年あり、いつもはその模様をスタッフが撮っているのだけれど、カメラが趣味の若手が入ったということを聞きつけた社員さんが僕にその係を任命した。

マセキに入って一日目なのでもちろん仲のいい先輩はいない。

今でこそ多少は初対面の人と話せるようになったが当時は極度の人見知りだったため、それが突然ライブのオフショットや本番中の様子の撮影を任されたのはありがたいという気持ちよりも“どうしよう”というネガティブな気持ちが強かった。

しかし、芸人の先輩たちはとても優しかった

ライブ当日の朝、初めましての方も多く、首からカメラを下げている状態で今日からマセキ芸能社で「お世話になります」という挨拶をして回る。

すると、芸人なのかカメラマンなのかわからない僕の様子に先輩たちは皆がそれぞれにツッコんでくれた。

優しく接してくださる方が多かったおかげで、芸人の先輩たちにどう思われるだろうかという気持ちから、今日一日がんばって少しでも役に立つぞという気持ちに変わった。

緊張の種類が前向きなものに変わると一気に近づきやすくなり、カメラマンとして扱ってもらえたことでたくさんの先輩と話すことができたのだった。

かが屋 加賀翔さんが撮影した阿佐ヶ谷姉妹さん

お笑いライブの写真を撮る仕事をするたびに、ふとカメラを買ったあの日のことを思い出す。

二十歳の頃、僕はまったくお金がなかったにもかかわらず、当時発売されて間もなかったNikonのD800と50mmの単焦点レンズ、それに併せて初めてのパソコンも買ったため、なんの知識もないのに50万円以上の買い物をし、24回払いという訳のわからないローンを組んでしまった。

まだハマるかどうかもわからないのに恐ろしい衝動買いだ。気にはなっていたけどまさか自分がそこまで思い切るとは思ってもみなかったし、レジの時の手は震えていた。結果として、カメラを思い切って買った後悔をしたくない、という気持ちのおかげで、毎日カメラを持つ習慣ができた。

かが屋 加賀翔さんが撮影した真空ジェシカ 川北さん

一度カメラが好きな芸人だと覚えてもらえると非常に写真を撮りやすくなる。撮らせていただく方の表情が徐々に柔らかくなっていくのがしっかり写真に残る、この些細な変化も飛び上がるほど嬉しい。

撮らせていただく芸人さんと僕との関係性がしっかり出る、というと気持ち悪いかもしれないけれど、取材で撮影された写真よりも僕が撮った写真のほうが楽しそうだと思えることがあるのだ。

芸人のオフショットを撮る魅力

芸人のオフショットを撮る魅力はとてもたくさんある。

まず、芸人は撮る時のサービス精神の良さは随一。基本的にオンとオフという発想がない人が多いので、誰かと一緒にいるときは本番だろうがそれ以外だろうがずっとお笑い芸人なのだ。

かが屋 加賀翔さんが撮影したゾフィー上田さん・吉住さん

そして衣装やメイクなどでそもそも面白い状態が多く、撮るだけで楽しい。芸人それぞれの衣装はもちろんのこと、コントをする人はビリビリに服を破かれたり顔を真緑に塗っていたり。

一般的に写真を撮る人でもプロがヘアメイクをし衣装のスタイリングをされ世界観に磨きをかけられた状況で撮影できることは貴重ではないだろうか。 

かが屋 加賀翔さんが撮影したタイムマシーン3号 関さん

もう一つ挙げるとすると、様々な場所を訪ねて撮影できることも芸人のオフショットを撮る魅力の一つ。都内の劇場だけでも相当な数があり、各劇場の照明や楽屋の雰囲気でたくさんの写真を撮ることができる。

加えてロケに行かせてもらったり各都道府県にライブで行かせてもらえたりすることがあるのだからカメラを持たない日はない。

かが屋 加賀翔さんが撮影したトニーフランクさん

なによりも、芸人は面白がる力がある。 

カメラマンの方々から話を聞いていると、芸人の撮影は笑顔が多く、撮影が楽しいと話をしてくださる方が非常に多い。みんながみんなそうではないだろうけど、一人の芸人としてこういう話を聞くととても嬉しくなる。

よくよく考えたら、撮られる側である自分たちを笑わせようとしたり、ずっとふざけて自ら笑いだす……というのは異常。

だからこそ、僕も芸人を撮る行為そのものが好きなのかもしれない。

かが屋 加賀翔さんが撮影した岡田さん