【レタッチを学ぶ】黒子に徹するレタッチャーの仕事術とは。

DESIGNER MEETS PHOTOGRAPHER Vol.16

編集思考とアートディレクションを武器に、企業やサービスの新たな価値を創出しているデザインコンサルティングファームDynamite Brothers Syndicate。日々、第一線のフォトグラファーとコンタクトをとっているクリエイティブディレクター、デザイナー、プロジェクトマネージャーが実際に出会い、影響を受けたフォトグラファーとのエピソードを明かします。今回は、写真のレタッチをテーマに、株式会社ヴィータに所属しているレタッチャー、志村亮さんを迎え対談を行いました。

前回の記事
>>>レタッチャーが新たなヴィジュアル表現をするために必要なこととは?
DESIGNER MEETS PHOTOGRAPHER Vol.15


髙木:レタッチャーにも個性の違いがあるのではないかと思っているのですが、志村さんはどうお考えですか?

志村:得意不得意っていうのはあると思います。レタッチャーそれぞれ、世界観も違いますし。同じ作品で同じレタッチの指示を受けたとしても、仕上がりは違うものになると思っています。

髙木:肌の質感の作り方とか、きっと人によって違うと思うんですよね。

志村:そうですね。恐らく、Photoshopの使い方という面でも違うのかなと。レイヤー構成とかベースの作り方は一緒だと思いますが、過程が違うと思います。経験を積むごとに知識も増えて、「これはあっちにも応用できるな」とか、独自のやり方を編み出したりしています。効率っていう言葉はあまりしっくりこないですけど、自分なりにやりやすい方法が身についてくると、それが個性のひとつになるのかもしれません。

髙木:絵画における、筆の使い方の違いが表現の差になるようなことですかね?

志村:それですね。

髙木:写真の違いはある程度わかるつもりですが、レタッチとなると、正直難しいです。どうしてもフォトグラファーに紐づいてしまうので、レタッチャーに個性があっても気づかれにくいですよね。でも見える人は見えているのかな。

志村:難しいと思います。レタッチって作業した部分がわかりやすいと、あまり良くないなと。これだけ作業しました、というのが見えてしまうと僕らの仕事としては良くないなって個人的には思っています。そんな中でほんの少しだけ自分の感じを出せると、自分の中で満足はするのですが、それがあまりにも主張しすぎてしまうと、フォトグラファーの意向ではなかったりする場合もありますし。そもそも0から1ではないので、その中で共存する何かを上手く溶け込ませることができればいいなと思ってやっています。

髙木:レタッチャーとデザイナーは似ていますね。デザイナーもデザイナーその人自身が商品ではないので。もちろん「このデザイナーがデザインしました」という事実がPRになったり価値を発揮する時もありますが、どこまで自分のエゴを出すのか、出さないのかって考えますね。

高橋:今のお話を聞いていて、個人的にはエディトリアルデザインとの親近感も同時に感じました。現在DBSは広告やブランディング案件のご指名をいただくことが増えていますが、元々エディトリアルデザインから始まった会社なんです。エディトリアルデザインって読者がいかにストレスなく文章を目で追える設計になっているかが重要で、読者が違和感なく、スムーズにその一冊を読み終えられることをゴールにデザインします。
だから、そこに妙な個性というか主張がありすぎると読みにくくなってしまう、という考え方を昔教えてもらったことがあります。志村さんが感じているレタッチャーとしての大事な部分=「黒子感」や「縁の下の力持ち」みたいな部分がエディトリアルデザインと重なるなと思います。

髙木:確かにそうですね。レタッチャーってフォトグラファーの違いを一番理解しているのではないかと思っているのですが、どうですか?このフォトグラファーの〇〇は素晴らしいから、その部分は残そうとか。物理的にも写真データに一番ズームして近いところで見ているので、感じることが多いのでは?

志村:そうですね、フォトグラファーによって、構図を大事にする方、人物のアウトラインにこだわる方、一発撮りにこだわる方、三脚を使わないで撮る方など、いろんな方がいらっしゃいます。そういう一つ一つをきちんと理解した上でレタッチすることを心がけています。

髙木:黒子的に徹するならば、そこは重要ですよね。

志村:はい。初めましての方とお仕事するときは、その方の作品を研究して、こういうのが好きなんだろうなとイメージして何パターンか作ります。フォトグラファーがレタッチャーに求めているものって、自分にはない引き出しだったり、「こういうのもあったか!」っていう気づきだったりもするのかなと思うので、そういう役割を自分が出来れば嬉しいですね。それは良い場合と良くない場合があるので、ベースは作っておきつつ、こういうのも作ってみましたと提案するため、何パターンか用意しておくことは常にしています。

髙木:いいですね。

高橋:過去に仕事をしたことがないフォトグラファーからの依頼は結構あったりするものですか? 

志村:フォトグラファーの方が初めましてでも、アートディレクターは知っている方だったりして、全員全く知らない方というのはないですね。

髙木:専門誌にはレタッチャーのクレジットが載ると思いますが、一般的な雑誌には載らないですよね。

志村:そうですね。稀に雑誌でも載ることはありますが、基本は載らないです。フォトグラファーの名前だけっていうのが多いですね。

髙木:デザイナーの名前も載らないことがありますが…。載せてもらいたいですよね。(笑)

志村:載せてもらえるなら…お願いしたいですね。(笑)雑誌の仕事をしていて楽しいのは、自由度の高いところです。好きなことができたり、色々挑戦できるので。

髙木:月刊誌はどんどん新しい号が出るから、新しいチャレンジできるので、わかる気がします。アウトプットとして、紙媒体とデジタルの比率はどういった感じですか?

志村:デジタルは増えました。雑誌案件でもwebにしか載せませんというのもありますし。と言いつつも、担当しているものの割合的には7割は紙媒体ですね。

髙木:そうなんですね。モニターで見るか、アナログな紙媒体で見るかで同じ写真でも印象が変わると思いますが、レタッチする際にその違いって意識されたりしていますか?

志村:実際に印刷するとモニターで見えていたものと違うものが見えてくるので、そういう「差」には気をつけています。web用でしたら、ipadを導入して、そこにチェック画像を送ってモニターで見てもらうなど、それぞれの媒体に適したもので確認するのがいいのかなと思っています。

髙木:そうですよね。インスタ用なのに、A4の紙に印刷してきたりするデザイナーを叱ったことがあります。jpegで送ってって言いましたけど(笑)

志村:web用などデジタル展開のみだと立ち会いもなしの場合も多いです。チェック画像を送信して、PCで確認してもらい、オンラインで完了します。

髙木:そういう意味でwebはやりやすいですよね。紙媒体だと、サイズも原寸にして印刷して見ないとわからないことが多いですしね。

志村:サイズの話でいうと、大きい広告の写真とかって空間が違うんです。距離感というか、写真自体の奥行き感というか。それを小さいサイズでチェックすると、表現しきれなかったりすると思います。

髙木:情報量の差というか、グラデーションの幅の再現具合が違うみたいな?

志村:そうですね。

髙木:最近はSNSフォトグラファーの方の人気が高まっていて、写真集を出版されたりする方もいて僕も見たりするのですが、iPhoneの中で見る発色の良さをそのまま紙面に引っ張ることって難しいんだなと感じることが正直あります。携帯画面で見える発色の良さを再現することは難しいというか…。

志村:大きい写真を想定して作ったものを小さくしても、劣化はあまりないと思います。たとえば、広告写真をwebやSNSに転用するなどは大丈夫なのですが、その逆は難しいかもしれないですね。

髙木:SNSのフォトグラファーが広告写真に挑戦する場合は、そういう部分のトレーニングが必要ですよね。

高橋:広告写真って、その広告作品は知っているけど、それを撮っているフォトグラファーのことは知らないというパターンが多いと思うのですが、SNSフォトグラファーの場合は、まずそのフォトグラファーのファンになるっていう流れが多いように思います。作家性が高いのも特徴かもしれません。写真業界の中でもいろんなミックスが起きているのが、今なのだなと感じています。
なので、スマホの中で表現をして成果を出してきたフォトグラファーたちが一般的な広告の世界で仕事をすると、距離感や密度、人々がそれに対してどう反応するかなど、これまでとは全く新しい視点で考えることが重要になってきそうですね。

志村:そうですね。きっと新鮮に思うかもしれません。

※次回へ続く

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DESIGNER MEETS PHOTOGRAPHER Vol.17
【レタッチを学ぶ】レタッチャーの写真との向き合い方。

【レタッチャー対談/連載記事】

#01 【レタッチを学ぶ】レタッチャーが新たなヴィジュアル表現をするために必要なこととは?
#02 【レタッチを学ぶ】黒子に徹するレタッチャーの仕事術とは。
#03 【レタッチを学ぶ】レタッチャーの写真との向き合い方。

Photo by : Tameki Oshiro


■SPEAKER

高木 裕次 TAKAGI YUJI
CREATIVE DIRECTOR / ART DIRECTOR

高橋 梢 TAKAHASHI KOZUE
CHIEF PROJECT MANAGER


株式会社 ヴィータ

従来のレタッチ=画像処理にとどまらず、デジタルを使ったアナログ的な表現や、より洗練された手法で、新たなビジュアル表現の制作を行なっている。現在16周年目も迎え、業界でもトップクラスのレタッチャーが所属するクリエイティブカンパニー。

http://vita-inc.com/


株式会社ダイナマイト・ブラザーズ・シンジケート(DBS)

東京港区にあるデザインコンサルティングファーム。
ブランディング、デザインコンサルティング、ロゴマーク開発など幅広いフィールドで事業展開中。

HP : https://d-b-s.co.jp

高木 裕次 Twitter : @takagiyuji1