【景色になるインテリア】大分の里山から届く、50年後の「景色」をつくる椅子。家具工房 姿誠社・西村正太

日本各地で家具をつくる作り手のまなざしを通して、ものづくりの現在地を見つめる連載「景色になるインテリア」。日々の暮らしに寄り添い、使うほどに深みを増す家具には、素材と向き合い、手を動かし続ける人々の静かな熱が宿っています。

大分県豊後大野市。静かな里山の中に、光がたっぷりと差し込む美しい工房があります。今回お話を伺ったのは、家具工房「姿誠社(しせいしゃ)」の西村正太(まさとも)さんです。

一生物という言葉の裏側にある、堅牢性。そして使い込むほどに住まいの景色に溶け込んでいく、独特の質感。西村さんが家具に込める思いと、その原点を伺いました。

PROFILE

家具工房 姿誠社(しせいしゃ)西村正太

PROFILE

家具工房 姿誠社(しせいしゃ)西村正太

大分県豊後大野市の里山に工房を構え、家具づくりを行う。代を超えて使われることを前提に壊れないことを基礎に据え、削り跡や節など木の個性を生かした椅子や家具を制作。事故による入院をきっかけに生まれた代表作「ひだまりチェア」は、暮らしの景色に溶け込む家具として多くの支持を集めている。静かな強さと日本的な美意識を大切に、50年後の暮らしの景色を見据えたものづくりを続けている。

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「壊れない」という当たり前を、一番の武器に

── 姿誠社さんのブランドコピー、「静かな強さを、暮らしのそばに」。この言葉にはどんな思いが込められているんですか?

西村:うちは夫婦二人だけでやってる、本当に小さな工房なんです。でも、注文してくださるお客さんの多くが「一生物を」っておっしゃるんですよね。代を超えて使いたい、長く使い続けたいって。その期待に応えるには、やっぱり「タフ」じゃなきゃいけない。壊れないことが、何より大事だと思ったんです。

── 「壊れない」って、家具として一番の基本ですよね。

西村:そうなんです。でも、こういう個人の工房だと、そこが曖昧になっちゃうこともある気がして。だからうちは「絶対に壊れない」っていう基礎をまず固めて、その上にデザインを載せていく。せっかく買ったのにガタガタしてきたら、一番悲しいじゃないですか。だから、その思いをストレートに言葉にしたのが、このスローガンなんです。

── 今の工房は、大分の里山にあるんですよね。その環境は作風に影響していますか?

西村:ものすごくありますね。とにかく静かなんですよ。時間の流れ方が、他とはちょっと違うんじゃないかな。その静けさが、椅子の佇まいに現れてる気がします。

── たしかに、姿誠社さんの椅子には独特の「落ち着き」を感じます。

西村:うちの家具は、あえて「削り跡」を残してるんです。手触りを感じるように。それが使い続けるうちに、いい感じに古びていく。大量生産のものとは違う、時間をかけて生まれる良さですね。こういうのは、喧騒の中じゃ作れない気がするんです。雑念が入らない、この静かな環境だからこそ、お客さんのことだけを向いて集中できる。自分には、この場所が合ってるんだと思います。

視点が交差する、夫婦二人のもの作り

── 姿誠社さんは、奥様の心子さんとのパートナーシップも特徴的ですよね。

西村:そうですね。最初は役割分担なんてなかったんですけど。僕はどうしてもサービス精神が出すぎて「もっとやってあげたい!」ってなっちゃう(笑)。でも、彼女はキッチンスペシャリストやデザイナーとしての視点を持っていて、お客さんとのやり取りがすごくしっかりしてるんです。

── 具体的には、どんな風に支え合っているんですか?

西村:例えば、工房の見学ですね。僕は性格的に、作業中でも「どうぞどうぞ!」って中に入れちゃうんですよ。でもそうすると、作業が止まってリズムが崩れて、ストレスが溜まってしまう。彼女はそこをちゃんと予約制にして、事情を説明して管理してくれる。おかげで僕は、より良いもの作りにフォーカスできるようになったんです。

姿誠社 西村心子さん

── 心子さんは、インテリアのアドバイスもされているとか。

西村:お客さんの中には「センスに自信がない」という方も多いんです。床の木目と家具が合うか、空間がうるさくならないか。彼女はアパレルデザイナーの経験もあるから、空間全体の「景色」としてアドバイスができる。木と木の組み合わせをメールでじっくり相談して、解決していく。その安心感はお客さんにとっても大きいんじゃないかな。

欠点さえも「景色」に変える、素材への眼差し

── 素材選びについても、こだわりを教えてください。

西村:一般的には「節がない直通の木」が高級で良いとされますよね。でもうちは、ちょっと違うんです。例えばケヤキの背もたれに大きな「節」があったとしても、それがいい材料なら、あえて使うことがあります。

── えっ、あえて節を使うんですか?

西村:削り跡を残す僕らの仕上げなら、その節さえも一つの「景色」に見えてくるんです。木のナチュラルさというか、生き様というか。それが美しいな、と感じるんですよね。

── 仕上げの質感も、一般的な家具とは違いますよね。

西村:今の家具はウレタン塗装でツルツルなものが多いですよね。それはそれで綺麗なんですけど、傷がつくと途端に「古びて汚く」見えてしまうのが気になっていて。

── 姿誠社さんの家具は、傷も味になる、と。

西村:そう。50年、60年と使ってほしいから。傷がついても、それが最初からあったかのように馴染んでしまう。うちは猫を飼ってるんですけど、猫にひっかかれた傷さえも「いい感じ」に見えるんですよ。メンテナンスをしながら、思い出や愛着を重ねていく。そんな、おおらかな家具を目指しています。

絶望の淵で生まれた「ひだまりチェア」

── 代表作の「ひだまりチェア」には、特別な誕生秘話があるそうですね。

西村:実は、2017年にこの工房を建てた直後、大きな事故に遭ったんです。地域の草刈り中に、機械で膝の上の部分を切られてしまって。救急車で運ばれて、即手術。1ヶ月半も入院しました。

── そんなことが……。作家として致命的な状況ですよね。

西村:重いものはもう持てないだろう、リハビリに1年はかかるって言われて。絶望的な気持ちでした。でも、入院中にずっとスケッチを描いていたんです。その中で「椅子なら、座って作れるかもしれない」って希望を見出して生まれたのが、この「ひだまりチェア」だったんです。僕が初めて作った椅子。それがこの子なんです。

── 命をかけて、再起を誓った椅子だったんですね。

西村:そうなんです。デザインはシンプルですけど、近くで見ると削り跡があって、手仕事のぬくもりが伝わるようになっています。最近は似たような安い家具も出回っていますけど、それでもうちを選んで注文してくださる方がいる。それはやっぱり、目に見えない部分の違いを感じ取ってくれているのかな、と思います。

── 「ひだまり」という名前も素敵です。

西村:元々は、あるコーヒーショップの方からの依頼で考えた名前なんです。そのお店の名前が、ポカポカした太陽をイメージするものだったので。最初は単純な理由でしたけど、後からどんどん「温かみ」っていう思想がついてきた感じですね。

「作家」という覚悟と、日本的な美意識

── 最近は「家具作家」と名乗るようになったそうですね。

西村:実を言うと、ずっと「作家」なんておこがましいと思ってたんです。でもここ1、2年、お客さんから「素敵な作品をありがとうございました」って言われることが増えてきて。これ、逃げちゃいけないな、と思ったんです。期待に応えるためにも、ちゃんと名乗って、もっとこの世界を深めていこうって。今はまだ、その入り口に立たせてもらっている感覚です。

── 西村さんの作る家具には、どこか「民芸」や「陶芸」のような精神性を感じます。

西村:あぁ、それは嬉しいですね。僕は陶芸が大好きなんです。陶芸の世界って、何千年も前から「古びても景色としていい」っていう、わびさびの感覚があるじゃないですか。家具の歴史は日本ではまだ浅いですけど、そういう日本人の美的感覚に響くものを作りたい。

実際に、工房では家具づくりの傍らで器も作っています。木と向き合うときと同じように、素材の表情を見ながら、暮らしの中で長く使いたくなるものを目指しています。

「陶房 ま」の器について

── 海外の方からの注文も多いと伺いました。

西村:そうなんです。駐在されている方とか、日本に住んでいる海外の方からも。分析して作っているわけじゃないんですけど、どこか日本的な感性で繋がっているのかもしれませんね。

── 最後に。納品した家具が、お客さんの家でどんな「景色」になってほしいですか?

西村:写真を見せてもらうと、空間に優しさとか温かさがプラスされているな、と感じるんです。線が少し揺らいでいるような椅子が入ることで、ピンと張った空気がふっと和らぐ。原始的な力強さと、日本的なわびさび。そんなものが、暮らしの景色の中に溶け込んでくれたら、作り手としてこれ以上嬉しいことはないですね。


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「名前は後からついてくる」。そう笑う西村さんの姿は、誠実そのものでした。 工房の名前である「姿誠社」も、最初は静かな姿という意味の「姿静」にしたかったけれど、知人のアドバイスで「誠」という字に変えたのだそう。

でも今では、その誠実さこそが、嘘のない頑丈な家具を作る原動力になっています。 「人の姿勢を支えるから、姿誠社」。

新しくアップデートされたその意味が、今日も大分の里山で、誰かの一生を支える椅子へと形を変えています。