「対応力」がプロフェッショナルとアマチュアを大きく分ける鍵になる
DESIGNER MEETS PHOTOGRAPHER Vol.19
編集思考とアートディレクションを武器に、企業やサービスの新たな価値を創出しているデザインコンサルティングファームDynamite Brothers Syndicate。日々、第一線のフォトグラファーとコンタクトをとっているクリエイティブディレクター、デザイナー、プロジェクトマネージャーが実際に出会い、影響を受けたフォトグラファーとのエピソードを明かします。今回は、業界で活躍するプロや、SNSで人気のフォトグラファーが多数在籍するCreators Base (powerd by CURBON)からフリーランスフォトグラファーの方と写真をテーマに、オンライン座談会を行いました。
この座談会の記事
#01 個性のあるフォトグラファーが求められる、その理由とは?
#03 知識と技術の間を埋めていくのは「数」
加藤:フォトグラファーを選定するときはやはり複数の候補者をあげますか?
高橋:そうですね。特に広告などのカンプ出しの場合は、複数の方向性を考えて、それぞれのパターンを再現できるフォトグラファーを候補に出して、そこはクリエイティブの方向性とリンクすると思います。
高木:大きなコンセプトの部分は変わらないけど、この方だったら、その中でもこういう表現になるという差を出して、提案しますね。でも候補者の数はMAXで4人くらいですかね。あとはスケジュールや予算の問題もあるので、一人だけ提案してダメだった場合、単純に仕事として効率が悪くなるので、こちらの希望の優先順位で当たってください、という提案の仕方をします。
高橋:お声がけをする方全員とご一緒したい気持ちはありますが、ご一緒できる方は一人なので、残念に思うこともあります。
クロカワ:ここ2〜3年の話でいいのですが、こういうフォトグラファーはいっぱい居て探しやすい、とか、その逆であまりいないフォトグラファーの属性ってありますか?
高橋:ファッションフォトグラファーはいっぱい居る感覚がありますが…。
高木:そうですね。最近やっている仕事の中身にもよるのですが、物撮りのフォトグラファーさんは探しにくいかも。
高橋:同じ方が活躍されていますよね。
高木:はい。結構同じ人に頼みがちかもしれません。
クロカワ:物撮りを専門的にやっている人は母数も少ないですよね。
加藤:物撮りは少ないですよね。
高木:商品撮影は、コンセプトや、やりたいことの再現性を求められることが多いので、技術がしっかりとある方なら、ある程度出来てしまうのかも。ファッションシューティングは「ライブ」でやるから、フォトグラファーさんの作家性が出やすいし、このだからいろんなタイプのファッションフォトグラファーがいるのかもしれません。なので、このコンセプトならこの人、とか色々と想像できますね。
ただ、表現のアイデアを出してくれる人にはお願いしたくなりますね。とある化粧品の撮影で、フォトグラファーさんと打ち合わせした際に、その背景をライティングで作るか、壁に色を塗って作るか、色紙を湾曲させたグラデーションを作るか3つありますと言われて、それを撮影日前までにテスト撮影してくださいました。同じ色のグラデーションなのですが、違う方向で再現してくれて、どれがいちばん目指すニュアンスに近いのか実験しました。打ち合わせの際には、勝手にライティングでそのグラデーションを作るつもりでいたのですが…。僕の要求に対して、プラスアルファでアイデアを出してくれる、もしくは引き算しましょうっていう提案もありかと思いますが、とにかく一緒に画を作ってくれようとする方はやっていて面白いし、自分にないフォトグラファーの引き出しで表現のブラッシュアップをしてくれるので、お願いしたくなりますね。
クロカワ:すごく勉強になります。僕も今後実践してみます。
加藤:僕も色々撮らせていただいていて、ご要望に対してそれを表現することはもちろんなのですが、それプラス、僕だから出来ることというか、自分に頼んでくれた意図を汲み取らないと、この先厳しいのかなと思っています。先程技術を磨いていると言いましたが、何で自分に頼んでくれたのかを考えるようにしています。
高木:大事なことですよね。そこで、どういうアイデアを出せるかがその人らしさだと思います。
クロカワ:多分そこがプロとアマチュアの差というか。上手く撮れました!がアマチュアで、撮れるのは当たり前でそれプラスアルファでどれだけ乗せられるかがプロの世界だなと常に思っています。そこは大きいですよね。仕事として写真を撮り始めた初期の頃は、それを痛感しますよね。自分としては、撮れた!と満足感を感じるのですが、アートディレクター含め周りの方にとっては撮れるのが当たり前の世界なので、そこから感動を引き出すにはさらに2歩、3歩が必要なのだなと当時思いましたね。
撮影現場では、もっとこうした方がいいのではないかとか、常にアイデアや要求があるので、それにどう応じるかという対応力も必要ですよね。引き出しが多ければ多いほど、要求にも柔軟に対応できると思いますし、対応力というのもプロとアマチュアを分ける大きな要素の1つかもしれませんね。
加藤:そうですよね、自分の強みの部分は出せたとしても、それ以外の部分で求められた時に応えられる対応力って大事だし、僕もこの1年で痛感したというか。
高木:対応力っていうのはおっしゃる通り、大切なことだと思います。自分がまだ駆け出しの頃は、フォトグラファーからライティングの難しい話をされて、要求を伝えてもやっていただけないことが多々ありました。リファレンスでは出来ているから出来ないことはないと思うけど…と心の中でいつも思っていました。
今ご一緒しているフォトグラファーさん達って、何かしらの工夫とかチャレンジをしてくださる。「写真」が魅力的な方ほど、クライアントやアートディレクターの要望に対応できている気がします。有名な方や売れている人ほど、そういうことにきちんと向き合ってくださる方が多い印象です。
クロカワ:フォトグラファーとしても現場でできないって言ってしまったら、負けだなって思っています。
高木:思いますよね。
クロカワ:はい。仕事として成立しないっていうのもあるし、プライドの部分もあるかもですが、出来ないって言ったら負けだし、時間や物理的な問題だったら、どうすればできるようになるのかすり合わせだなと思います。あとはフォトグラファーの経験値の部分もだいぶ大きいかと思います。フォトグラファーとして得意な部分は持っておいて、幅をある程度持っておくのも大事だなと思います。自然光で撮りたいのに曇ってしまって、さあどうしよう?みたいなこと含めイレギュラーが起きるのが当たり前なので、そこは常に意識しますね。それを考えると、機材が増えて、車の中がパンパンになっていくという、笑。
加藤:さっき高木さんの仰っていた、リファレンスがあって、そこでは出来ているのに、いざ現場では出来ないっていうのは一番まずいし、厳しいですよね。
高木:まぁ、昔の話で最近はそんな事ないですけどね。それは自分が幼すぎて、本当に無理なお願いなのかもしれないし、なめられていたのか、そんなことする予算すらもらってないよって思われたのか、わからないですけど。
クロカワ:リピートしたいと思うフォトグラファーさんって、やっぱり現場での対応力のある人ですよね。その他に、何かリピートしたくなるフォトグラファーのポイントってありますか?
高木:他には…何だろう…。現場を盛り上げてくれるとか。音楽のセンスがいいとか…。
高橋:この前、アートディレクターって大きく分けて2タイプいるみたいな話になって、商品ならこの人、人物ならこの人ってある程度固定というかチームが決まっていてずっとその人たちとやるアートディレクターと、プランニングごとに変えていくアートディレクターがいて、高木さんは後者ですよねって話をしていましたよね。だけど、商品撮影だけは特定の方とずっと一緒にやっていますよね。
高木:そうですね。
高橋:たまには違う方をアサインしますか?と提案しますが、そこは頑なに同じ人ですよね。そこが私からすると新鮮です。いつも違うクリエイティビティに挑戦したいと思っている高木さんが、何故毎回その方にお願いするのか?その理由が知りたいです。
高木:補足説明すると、僕が毎回お願いしている方は、物撮りの時のフォトグラファーの方なのですが、先程高橋が言った「高木さんってよく変えますよね」っていうのはファッションの案件とか雑誌撮影のフォトグラファーのことですね。本当によく変えます。物撮りの方はやりたいことを毎回再現してもらえているので安心感があるのと、自分がこうしたいというのに対して、しっかり理解して再現してくれるし、引き出しも多いから。
昔は、すごくおこがましいのですが、アートディレクターとして「この写真は自分が撮った」と言えるようなディレクションが出来たらいいなと思っていました。それは自分がどういう絵が撮りたいかを明確に持っていて、それをフォトグラファーと共有して、その通りにアウトプットされたら、極端に言えば自分が撮ったと言っても過言ではないというか。
今はそんな事ないのですが、そういうところも含めて理解してくださる方です。撮影中、「高木さん、細かいな〜」とかよく言われますけどね。
高橋:それを私はヒヤヒヤしながら聞いていますよ、笑。でも楽しそうにコミュニケーション取りながらやっていますよね。
高木:でも今は考え方が変わって、その方の個性やクリエイティビティをどうすれば、その場で再現してもらえるかっていう方が楽しくなってきたんです。自由に遊んでくださいっていう場を作って、フォトグラファーの方が熱を持ってその場を遊んでくれる方が、表現がジャンプして、良い写真になるみたいな。
高橋:それはフォトグラファーの解釈によって方向性が変わるということですよね。
高木:そうです。ファッションの撮影も、いつもだったらキービジュアルやラフを作って、こういうポージングで、こういうシチュエーションでとかやっていたんですけど、最近はそこまで細かくやらずに、ただこの服がキービジュアルになります、あとはフォトグラファーさんがいい感じの画角で切り取ってください〜みたいな感じにして、そうすると自分が想像していないような画が出てきたりすることがあるので、それが楽しいです。
クロカワ:想像を超えていくものが出来るのを待っている、みたいな。
高木:それは自分なんかより経験が豊富で、写真やファッションを熟知されているという信頼があるからこそ、出来ることです。自分が考えるより、この人に任せた方がいいと判断したらそうします。テーマやコンセプト、「この写真で何を伝えたいか」はもちろん伝えますが、あとは自由にと。
クロカワ:どこまでの範囲でどこまでの余白があってということですよね。フォトグラファー目線でいうとコミュニケーション能力がいい意味で問われますね。ここまでははみ出していいけど、この先はダメとか、どこまで自分に権限を持たせてもらっていて、どのラインからは従うのかとか、お互いの線引きのすり合わせをするのが大事でそれは信頼関係とかにも繋がってくる問題ですよね。コミュニケーションとベースにある信頼関係と期待値みたいなものが絶対的にないと難しいですね。
高木:ただ最初に「まる投げしているのではないよ」というコミュニケーションはしなきゃいけないと思っていて。何をどう表現したいのかというコンセプト、そこに至った資料や、大量のリファレンスを使って、フォトグラファーさんにプレゼンテーションするようにしています。
加藤:そのほうがお互いの良い部分を最大限出せるような気がしますね。
高木:はい。なので、質問のお答えとしては、まずは現場での対応力。次にコンセプトを理解した上での、その方なりのアイデアや表現力ですかね。
※次回へ続く
TOP PHOTO by :クロカワリュート, 加藤幸秀
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DESIGNER MEETS PHOTOGRAPHER Vol.20
知識と技術の間を埋めていくのは「数」
この座談会の記事
#01 個性のあるフォトグラファーが求められる、その理由とは?
#02 「対応力」がプロフェッショナルとアマチュアを大きく分ける鍵になる
#03 知識と技術の間を埋めていくのは「数」
■SPEAKER
高木 裕次 TAKAGI YUJI
CREATIVE DIRECTOR / ART DIRECTOR
高橋 梢 TAKAHASHI KOZUE
CHIEF PROJECT MANAGER
■GUEST
クロカワリュート Twitter : @ryuto_kurokawa
加藤幸秀 Instagram : @yukihide_
株式会社ダイナマイト・ブラザーズ・シンジケート(DBS)
東京港区にあるデザインコンサルティングファーム。
ブランディング、デザインコンサルティング、ロゴマーク開発など幅広いフィールドで事業展開中。
HP : https://d-b-s.co.jp
高木 裕次 Twitter : @takagiyuji1