「SNSの次どうしよう?」迷っている人が意識すべき視点

DESIGNER MEETS PHOTOGRAPHER Vol.13

編集思考とアートディレクションを武器に、企業やサービスの新たな価値を創出しているデザインコンサルティングファームDynamite Brothers Syndicate。日々、第一線のフォトグラファーとコンタクトをとっているクリエイティブディレクター、デザイナー、プロジェクトマネージャーが実際に出会い、影響を受けたフォトグラファーとのエピソードを明かします。

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DESIGNER MEETS PHOTOGRAPHER Vol.12


高木:先日武井さんと酒井さんの個展にお邪魔した際に思ったことなのですが、自分がもし武井さんの立場だったとして想像すると、SNSでフォロワーもたくさんいて、個展には行列ができるほどたくさんの方が見に来てくれて、インスタでもどんどん拡散されていくことを実感すると「俺、結構いいかも」って感じると思うんです(笑)。「共感力」と「発信力」がとても上手にバランスが取れていらっしゃるので。

高橋:そうですよね。一方で、広告業界で活動されているフォトグラファーの方がライフワークとして個展を開かれる時って、なかなか個人の方に大勢来訪いただくことってなかなか叶わないことが多かったのではないかと思います。もちろん個人のファンがいらっしゃる広告フォトグラファーの方もいらっしゃいますが、お仕事を一緒にされている関係者の方々がやはり多いと思うんです。
すこし極端な質問になるかもしれませんが、今武井さんがお持ちの「共感力」や「発信力」を置いてでも、広告フォトグラファーの方になっていきたいのか?という素朴な疑問が湧くのですが、いかがでしょうか?

武井:高橋伸哉さんという、長い間写真をやられていてSNSでもフォロワー数も多くて、書籍も出版されたりしている著名な方はいます。オンラインサロンなども開催していて、商業的に大成功されているような。側から拝見していると広告業界には特に入り込まずに、全国を旅して写真を撮って、自分の好きな世界観で自由に生きている感じがあって、そういう世界もいいなって思います。

高橋:SNSから火が付いたフォトグラファーの方々が商業写真を仕事にしたときの可能性の幅が広がったんだなと感じますよね。これまでのいわゆる成功の形って、誰もが知ってるクライアントの広告ビジュアルを高額なギャランティをもらって撮影するようなことが一つわかりやすい例だった思うのですが、それが今はオンラインサロンで写真を趣味にしている方と直接コミュニティを作っていくことで生計が立てられる。大きな変化だと思いますし、これから先もまた新しい世界が広がっていく可能性を感じます。

高木:YouTuberもそれと同じですよね。YouTubeってユーザー数が何億人とかいる世界なので、そのうちの0.01%の人が自分のことを好きになってくれたら、それだけでもう食べていけるみたいな世界。写真の世界だってそういう生態系というか、多様化みたいなことは当然ありますよね。

武井:TikTokだったら、ぞのさんっ(@zono.sann)のスマホの動画を「かっこいい!」ってたくさんの人が言うじゃないですか。広告業界のプロ動画クリエイターから見たら、こんなの映像じゃないよ、って思う人もいるかもしれないけど、TikTokの世界の中ではバズるんですよね。それぞれの世界で活躍していることはいいのですが、勿体ないなとも思うんですよ。混ざりあったらもっと面白い世界になりそうなのに、全部自分たちがいる世界を「正」としていると、縦軸だけの価値になってしまう。

高木:難しいですね。ほんと勿体ない。

高橋:それって不思議ですよね。世界を切り取る手段が違うだけの話だと思うけど。

武井:SNSで活動を進めていくうちに違和感を感じたり、次に自分はどうすればいいんだろうって思っている人が多いって話をしたと思うんですが、そういう人たちは何をしていけばいいと思いますか?

高木:少し極端ですが、SNSから写真を始めた人は「自分のため」に撮ってる気がします。逆にスタジオに入って写真を学んだり、誰かの弟子になる人は、もちろん自分のためなのですが、結構早い段階で「誰かのため」に撮っているという気がします。簡単に言えばクライアントワークが主体って事で、そのための視点や技術を学ぶという。

SNSが主戦場の方は、常に「自分のため」がベースになっていて、フォロワーを増やすことも「自分のため」ですよね。そういったSNSで活躍する方が「次はどうしたらいいんだろう?」ってるのは、自分にはない視点や写真に魅力を感じるパターンか、ある程度自分の撮りたい「自分のため」の写真を撮り続けて満足してしまった「次どうしよう?」の2パターンな気がします。どちらのパターンでも、僕が思うのは「誰かのため」の写真を撮るということは刺激になると思います。商業写真でもそのフォトグラファーならではの視点や、対象をどう切り取るかに魅力を感じて依頼をするのですが、それでも「自分のため」の写真ではなく、自分の視点を使った「誰かのため」の写真なんですよね。

高橋:何かを実現させるための写真ですもんね。

高木:そうそう。

武井:確かにそれはあるかもですね。僕もSNSでは、自分が見てみたいとか、有名になりたいとか、承認欲求を満たしたいとか、そういうことから自分の好きなものを出していくみたいな感覚があって。ウケる写真って何かしら相手のためっていう部分もありますが、根本はフォロワー増やしたいってことですもんね。相手のためっていうのは全然視点が変わるし、最初は慣れないのでそこが苦戦する部分でもあり、そこの意識の向け方は大事だと思いました。

高木:あるプロジェクトで、SNSフォトグラファーさんを起用したことがありました。いろいろあって、毎回撮り下ろすのではなく、その都度テーマにあった写真を送ってもらって、僕がセレクトするという方法で進めていたんですが、あるテーマの時になかなかハマる写真がなくて、 それでテーマにあわせて撮り下ろしてもらう依頼をしたんです。でもなかなか写真が上がってこなくて、結局難しかった。その時に改めて「自分のため」に撮る写真と「誰かのため」に撮る写真の違いを感じました。

武井:結構あると思いますよ、そういう話って。写真って自分の考えとか感情とか入るじゃないですか。SNSで活動を始めた人って「自分らしさ」にとてもこだわるんですよね。そうじゃないと統一性がないとか、自分らしくないとか思っちゃうんです。世代も関係あるかもしれませんが。なのでクライアントワークではぶつかることもあるかと思います。

高橋:自分らしさが映し出せていないと、世の中に出したくない ということですかね。

高木:というか、これがもし広告のフォトグラファーだったら仮にそれが80点でも、クライアントやアートディレクターの要望を咀嚼した適切な写真が上がってきたと思うんですよね。

武井:そうですね。「忘れられる写真」とかっていう表現ありますよね。どんな状況でも必ず80点以上のものを撮れるっていう圧倒的な信頼性があるけど、すぐに忘れられてしまう写真を撮るのが仕事って仰るプロの方もいました。それもすごいなと思います。

高橋:クライアントワークにおいて常に80点以上出せることって当然大事なことですが、でも「自分らしさ」を常に出そうとしたら、それにハマらないことも出てくるわけで。でも80点以上を目指すということは、どこかしらのタイミングで自分にOKを出さなきゃいけないですよね。「仕事としてその撮影を完了させる」という意味においてはその人らしさが100%出しきれていないとも言える。それはある意味、「自分じゃない誰かでも撮れる写真」と感じてしまうフォトグラファーもいるのかと思うと、究極的な話だなと思いました。

武井:「自分にしか撮れない写真」って言葉はよく聞きます。SNSフォト界隈では自分らしさにとにかくこだわる傾向が強いと思いますが、それは自分発信が既にデフォルトになっているZ世代等の、いわゆる「世代」の傾向なのかなとも思ったりもしますが。仕事の依頼があると、その「自分らしさ」みたいなものを求められているんだって思うのかもしれないです。自分らしさが出ていないとクライアントは納得してくれない、と。

高木:なるほど。オファーする側もその人らしさは当然求めています。SNSをずっとやってきて、さらに仕事としての写真の道へ進みたい人は、自分の作家性というかパーソナリティを活かしたまま、新たなフィールドに挑戦してほしいですね。

Photo by : Hirokazu Takei

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SNSフォトグラファーならではの選ばれ方がある


■SPEAKER

高木 裕次 TAKAGI YUJI
CREATIVE DIRECTOR / ART DIRECTOR

高橋 梢 TAKAHASHI KOZUE
CHIEF PROJECT MANAGER


対談ゲスト
武井宏員 TAKEI HIROKAZU

写真家/実業家 大阪生まれアメリカ育ち。2018年、広告代理と委託撮影を主とする総合クリエイティブサービスを展開する、株式会社CURBONを設立。経営者でありながら、人物や広告写真を撮影する写真家としても活躍中。

Instagram : @take1officail


株式会社ダイナマイト・ブラザーズ・シンジケート(DBS)

東京港区にあるデザインコンサルティングファーム。
ブランディング、デザインコンサルティング、ロゴマーク開発など幅広いフィールドで事業展開中。

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高木 裕次 Twitter : @takagiyuji1