キーワードは「混ざる」。今後のフォトグラファーのスタンスとは?

DESIGNER MEETS PHOTOGRAPHER Vol.12

編集思考とアートディレクションを武器に、企業やサービスの新たな価値を創出しているデザインコンサルティングファームDynamite Brothers Syndicate。日々、第一線のフォトグラファーとコンタクトをとっているクリエイティブディレクター、デザイナー、プロジェクトマネージャーが実際に出会い、影響を受けたフォトグラファーとのエピソードを明かします。

前回の記事
>>>SNSと広告業界で活躍するフォトグラファーの違い?
DESIGNER MEETS PHOTOGRAPHER Vol.11


高橋:過去のENCOUNTER(vol.6)の中でフォトグラファーのポートフォリオサイトでは、「仕事の写真だけではなくて、その人自身が見えてくるプライベートワークの写真も見たいよね」という話が展開されているのですが、SNSを中心に活動されている方ってそのプライベートワークの比重が高いわけですよね。その部分に共感が集まってフォロワーが増えて武井さんのように仕事でも活躍されるようになると、SNSフォトグラファーだけでなく、そこにインフルエンサーの要素も入ってきて役割が多くなりますね。広告フォトグラファー、SNSフォトグラファー、インフルエンサー。その裏にはPDCAサイクルを繰り返しながらの取り組みもされている。武井さんのポジションが特別なのかもしれませんが、今後のフォトグラファーとしての新しいスタイルを感じますね。

高木:フォロワー数を増やす施策と、良い写真を撮ることの両立は、難しいと思います。すごく単純な考え方ですが、アカウントを分けるという施策は考えなかったのですか?

武井:表に出すという部分では変わらないし、出す限りは自分になってしまうというか…。インスタで伸びる写真が自分自身でも納得できる良い写真だったらいいんですけど、そうではない写真も正直多いのでそれを載せるのが嫌なんですよね。

高橋:なるほど。撮影しているのは同じ武井さんであっても、そんなに大きな違いを感じてしまうものなのですか?

高木:僕が思うに、武井さんって器用だし、SNSにおいても広告においても求められていることが見えてるから出来るんだと思います。きちんと線引きできていて、それぞれを表現できちゃうから。

高橋:確かに。武井さん自身、SNSフォトグラファーと呼ばれることに対してどう感じますか?

武井:「SNSフォトはアマチュア」みたいなネガティブなイメージをお持ちで、そういうニュアンスを含んだ言い方で言われると、少しはマイナスな感情が湧き上がりつつも、同時に今は面白さを感じています。
SNSフォトグラファーが広告の仕事をするのが、次の段階なのかなと思っていて、「それを自分でも実現できたらいいな」と意識しながら活動しています。それぞれの世界を混ぜていきたいと思いますし、広告の写真も撮れて、なおかつフォロワーが20万人とかいたら発信力という意味でも魅力じゃないですか。
広告業界の不利な点をあえて挙げるとしたら、SNSで写真を見る今時の子に見つけられていないというか、埋もれてしまっているというか…。たとえば、この前僕と酒井貴弘さんで共同開催した個展(「emergence」)って、おそらく広告業界だけで活躍されているフォトグラファーの方々が開かれる個展よりも多くの来場者を集められたんじゃないかなと思っているんです。そこって写真の技術の問題ではない部分というか。このことには優位性を感じられるので、相乗効果を狙いつつこれからもやっていきたいですね。

高木:Twitterで見ましたが、個展の最終日にはこの時期にもかかわらずギャラリーの外にまで行列ができていました。企業は広告などのビジュアル表現によって「ブランドの価値を上げたい、認知度を高めたい」という目的で僕たちやフォトグラファーの方々に依頼すると思いますが、その際に起用するフォトグラファー自体にファンがついていることは魅力だと思います。
誤解を恐れずに言えば、広告においての本当の目的は良い写真を撮ることではなく、人の興味や関心をより高く集めることだから。さっき武井さんが仰っていた「混ざる」ということが、これからの重要なキーワードな気がしました。混ざることで新しい表現やさらなる効果が生まれてくるんだと思います。

武井:アートディレクターの立場から見て、この状況というか現象をどう見ていらっしゃいますか?

高木:混ぜるということを確信犯的に実行する企業やクリエイターは、年々増えてきていると思います。フィールドが違うアーティストでもフォトグラファーでも良いのですが、積極的にCDやADがアサインしていく、提案していく必要があるかなと思います。
先程YOHJIYAMAMOTOのディクレクターさんのお話がありましたが、そういう人ってまだ稀で「SNSのフォトグラファーでしょ」って思っちゃう人がまだ多いです。でもどうすれば世の中に伝わる表現が出来るのかをフラットに考えた先に、混ぜるというか、別のフィールドの方のクリエイティブを取り入れる。いい塩梅に和える提案、選択肢を持ち合わせていたいなとは思いますね。

武井:酒井貴弘さんに最近撮影依頼したとお伺いしましたが、それはどういう経緯があったんですか?

高橋:就活をする大学生を対象にしている媒体だったので、そこに対する共感が欲しいという意図はADの視点としてまずありました。また、女性のキャリアを考えるという主旨の媒体で、等身大の女性モデルを起用したのびやかなビジュアルイメージがあったので酒井さんのポートレート作品を拝見して推薦させていただき、クライアント側にも気に入っていただけました。

武井:広告業界でポートレートを撮る方ってたくさんいると思うんですが、酒井さんになった決め手というのは何だったんでしょうか?

高木:僕たちはクライアントに提案する際に、世界観を共有するための写真をあらかじめ探してラフに落とし込むことがあります。さらに、そのベースになるのは、普段の生活の中で行なっているフォトグラファーやイメージのストックです。その中でスケジュールや予算などの条件面で合う人に依頼する流れなんですけど、この媒体を担当したADの考える世界観に酒井さんがマッチしていたんだと思います。

高橋:今回はインスタのフォロワー数を見てアプローチをしたわけではなくて、フラットな視点でフォトグラファーとしてご推薦し、クライアントに選んでいただきました。

武井:そうなんですね。

高橋:普段フォトグラファーを提案する際にHPと一緒に最近はインスタのアカウントを提出することも普通になってきた気がしますが、どうですか?

高木:そうですね。HPはもちろん、インスタ、ツイッターもあれば確認します。まずは「写真」の良さをお伝えしますが、その中で、フォロワーが多い方であれば、クライアントに通すために数字を出すこともありますよね。

高橋:そうですよね。私たちの日常を考えると当然かもしれませんが、SNSでの活動や表現がクエリエイターやアーティスト個人の今を知るための要素になっているということ。この現状を認識するのは大事なことかもしれませんね。

Photo by : Hirokazu Takei

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DESIGNER MEETS PHOTOGRAPHER Vol.13
「SNSの次どうしよう?」迷っている人が意識すべき視点


■SPEAKER

高木 裕次 TAKAGI YUJI
CREATIVE DIRECTOR / ART DIRECTOR

高橋 梢 TAKAHASHI KOZUE
CHIEF PROJECT MANAGER


対談ゲスト
武井宏員 TAKEI HIROKAZU

写真家/実業家 大阪生まれアメリカ育ち。2018年、広告代理と委託撮影を主とする総合クリエイティブサービスを展開する、株式会社CURBONを設立。経営者でありながら、人物や広告写真を撮影する写真家としても活躍中。

Instagram : @take1officail


株式会社ダイナマイト・ブラザーズ・シンジケート(DBS)

東京港区にあるデザインコンサルティングファーム。
ブランディング、デザインコンサルティング、ロゴマーク開発など幅広いフィールドで事業展開中。

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高木 裕次 Twitter : @takagiyuji1