KYOTOGRAPHIEことはじめ – 文で読む写真展
「耳で聴く美術館」を主宰するaviさんによる、フォトアートを自身の言葉で綴る連載「文で読む写真展」。今回も、aviさんが写真の奥にひそむ物語を、静かにひもといてゆく。
PROFILE
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avi / 耳で聴く美術館
美術紹介動画クリエイター。1992年大阪府生まれ。「心が震えるアートの話をしよう」をテーマに、動画プラットフォームを起点にアートの魅力を紹介。大学で美術教育を学び、教員資格も持つ。キャッチーな表現とわかりやすい解説、柔らかなCalmボイスで急激にフォロワーを伸ばし、アートの間口を広げた。現在抱えるフォロワー数は50万人を超える(2025年3月時点)。
@mimibi_art301 https://www.mimibi.ch/大阪の北摂生まれの自分にとって京都はずっと「いつでも行ける場所」だった。
京都への遠足の時すら白けきって観光もせず、ずっと同級生のEちゃんと阪急河原町駅前のマクドで喋り倒していたくらいだ。
しかし、“ないものねだり”とはよく言ったもの。
関西から東京に出てきて三年。今、猛烈に京都が恋しい。
高い建物がなく、少し歩けば何百年という歴史がある寺社仏閣に出会い、ローソンも茶色いあの京都。
そんな時に今回取材の機会をいただき、KYOTOGRAPHIE(京都国際写真祭)に伺うことができた。しかも、今では私の仕事を手伝ってくれているEちゃんと一緒に!
すっかり京都LOVERな30代の大人になった私たちによる、あの日の遠足の”やり直し”となった今回の取材。とっても魅力的な体験となったので、まだKYOTOGRAPHIEに訪れたことがない方に向けて、ぜひこの記事で共有させてほしい。

「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」は2013年から毎年春に京都を舞台に開催される、日本最大級の国際的な写真芸術祭だ。
最大の特徴は、京都ならではの趣ある歴史的建造物やモダンな近現代建築の空間に、作品が展開されること。普段は立ち入れない場所が展示会場になることも多く、ガイドマップに載っている“ザ・観光地”から一歩外れた、奥深い京都を味わうことができる。


今回会場の一つとなった京都・室町の「誉田屋源兵衛(こんだやげんべえ)」は、1738年創業の老舗帯問屋。その中にある「黒蔵」は、古くから伝わる蔵を改装したモダンな空間だ。 ここでは、ボリビアの都市ラパスの街頭で働く数千人の靴磨き職人たちの物語が展示されていた。差別から身を守るため、素顔を隠して働きに出る彼ら。その姿がどこかスーパーヒーローと重なることから、展示タイトルは「SHINE HEROES」と名付けられている。 会場内にはボリビアの音楽が流れ、八角形のドームがまるでシアターのようだった。根底にあるのは重い社会問題であるにもかかわらず、そのアプローチは明るくポップで、胸がキュッと締め付けられながらも、気づけば笑顔になっていた。



そしてもう一つ、激しく心を奪われた会場がある。
1930年に竣工し、かつて学生寮などとして使われてきた歴史ある洋館「重信会館」だ。現在は寮としての役目を終え、今回のような特別な催しの時にしか足を踏み入れることができない。東洋と西洋の文化が融合した近代の名建築である。 外観はツタに覆われ、歴史の息吹を感じさせる。ここで展示されていたのは、イヴ・マルシャン&ロマン・メフィエによる廃墟の写真群だ。
会場に入ると、まずはシアタールームで、彼らが撮影してきた廃墟と化した劇場のスライドショーを眺める。「展示はこれで終わりかな?」と思いきや、順路は建物の2階、3階、そして地下へと続いている。ここからが本番だったのだ。
建物の中はまるで時間が止まったかのようで、カビっぽい匂いが漂う。部屋の隅には砂利や枯葉が散見され、得体の知れない虫の卵の殻のようなものまで転がっていた。既存の床や天井、壁は元の形が保たれており、作品と建築を切り離すように展示しているそう。
廃墟のような空間で、廃墟の作品を鑑賞する。
なんとも乙である。
手すりがない急勾配の階段を、上から来た人と苦労してすれ違いながら登ると、屋上にも作品が展示されていた。ふと顔を上げて近くの京都タワーを見ると「あ、現代に帰ってきた」と安堵する。見事なタイムトラベル体験だった。



他にも、東本願寺や京都文化博物館別館なども会場になっており、京都の街歩きにもピッタリなイベントだ。
最後にワンポイントアドバイスをするならば、会場は靴を脱ぐことが多いので、脱ぎ履きしやすい靴で行くべし。狭い空間もあるので、リュックやスーツケースは預けて身軽な格好で回るべし。
ふだんは観光客向けですらないような造りの、京都のディープな裏側に潜り込めること。これこそが、KYOTOGRAPHIEの何よりの魅力なのだ。


また、文字数の関係でここでは多くを語れないが、京都市京セラ美術館で行われていた、南アフリカ共和国の旧アパルトヘイト問題を扱った展示も素晴らしかった。展示構成から作品の力強さまで、とても見応えのある内容だ。詳しくは私の動画で紹介しているので、そちらもご覧いただきたい。コメント欄が多くを物語っていると思う。
KYOTOGRAPHIEはこうして、京都から直接海外へ発信することにも重きを置いている。難民の問題やセクシュアリティの問題、戦争や人種差別など、世界的な問題が写真作品に投影され、展示される。外国人観光客も多いグローバルな都市・京都から、世界に向けて問いを投げかけているのだ。

かつて、河原町のマクドから一歩も動かなかった私たち。時を経てアートを通して京都を歩くと、そこには想像もしなかったほどディープで、魅力的な作品が広がっていた。住み慣れたお馴染みの場所であれ、初めて訪れる見知らぬ場所であれ、アートは私たちが知っているはずの街の、まだ見ぬ扉をそっと開けてくれる。そんなことを感じる体験だった。
今年の開催期間は終了してしまっているが、毎年春に行われているので、来年もおそらく開催されるだろう。
KYOTOGRAPHIEのチケットは、全ての会場を巡ることができる共通パスのほか、会場ごとの単体チケットも用意されている(遊園地のフリーパスと乗り物券のようなシステムだ)。自分のスケジュールに合わせてサクッと一会場だけを覗くこともできれば、パスを使って数日かけてじっくり楽しむこともできる。
ぜひ、あなたなりの京都とアートの旅を楽しんでほしい。 来年の春は、KYOTOGRAPHIEの会場でお会いしましょう。


文:耳で聴く美術館 avi
編:並木 一史