「相手の気持ちを汲み取れないと商業写真は撮れない」愛される広告カメラマンになるためのキャッチャー論|竹内裕二 #写真家放談
コマーシャルフォトの世界で食べていきたい。
写真が好きならば、一度は考えたことがあるのではないだろうか。
しかし、誰もが作家性だけで活躍し続けられるわけではない。
それができるプロは限られている。
では、コマーシャルフォトグラファーとして生きていくためには、何が大切なのだろうか。
写真家・ホンマタカシ氏に師事した後、2016年に株式会社BALLPARKを設立。雑誌や広告を中心に、数多くの女優・俳優・モデルを撮影してきた。
そんな竹内裕二さんは、「プレイングマネージャーの目線で物事を捉えられる広い視野がなければ商業写真家としては成立しない」と語る。
今回の連載企画「 #写真家放談 」では、商業写真家として大切にしていることを竹内さんに聞いた。
竹内裕二
広島県出身。ホンマタカシ氏に師事、2016年に株式会社 BALLPARK設立。雑誌、広告等を中心に数々の女優、俳優、モデルを撮影。ファッション動画、YouTube、イべントのディレクションを手掛ける。
HP:http://ball-park.co.jp/ / https://betterdays-stadium.com/
Instagram : @ballpark.inc / 個展『ROOT ROOT ROOT』
常に意識してるのは、逆の立場になること
──竹内さんは数多くの俳優やモデルを撮影していますが、その人たちが竹内さんの個展に足を運んでいることも。その様子から、被写体の方々といい関係を築いていることが伝わってきます。被写体と信頼関係を築くために大切にしていることはなんでしょうか。
常に意識してるのは逆の立場になるっていうことですね。野球に例えると、カメラマンはキャッチャーなんですよ。
──キャッチャーですか。
そうです。モデルさんやタレントさんは、人それぞれその日の体調や気分とか置かれている状況で、コンディションはさまざまなんです。人を撮るカメラマンの仕事は被写体の状況をきちんと理解して、相手の気持ちが理解できてないと撮れないんですよ。
撮れないというと変だけど、そもそも自分が撮りたい写真を撮る、という仕事ではないんです。それはただのエゴの写真になっちゃうんで。もちろんエゴも大事なんです。だけど、まずは求められているものをクリアしたうえで、自分の個性を出せる人が一流だと思います。
シンプルに言うと、クライアントさんが望んでいるものを撮るというのがカメラマンです。クライアントさんの求めていることが理解できないと当然撮ることはできない。
つまり、その日の被写体の状態を理解できていないと、クライアントさんが望むいいものが撮れないということですね。
──そのときのモデルの気持ちや体調をどう察すればいいんですか?
それはもう感じるというか、相手の立場にならないといけない。例えば冬の屋外撮影は寒いですよね。寒い中で何千枚と撮っていて「笑顔ください!」と言ったところで、笑えますか?ということです。
──竹内さんがカメラマンとして第一線で活躍し続けられる理由って、そこにあるのでしょうか。
なにが求められているか理解できるのは一番大事ですね。それも野球と一緒で“この場面はバントしてほしい”と思っているところで、モデルさんやスタイリストさん、ヘアメイクさんに勝手にヒッティングされたらそれはもう大変なことになります。
そこで、もうそれ以上は望んでないから、「そこはヒッティングじゃなくてバントでいいよ」ってカメラマンは修正してあげなければいけないんですよ。それができるカメラマンが自分の中ではベストですね。
監督兼選手っていう目線で、物事を捉えられる広い視野がないと商業写真家としては成立しないと思います。
相手の気持ちを汲み取れないと商業写真は撮れない
──こうしてお話を伺っていると、カメラマンは写真を撮るだけではないんですね。
コミュニケーションをとって相手の気持ちをわかってあげられないと撮れないんですよね。例えば横顔が好きなタレントさんやモデルさんは、それに気づいてあげられないと撮れないし、「私はここが気に入ってる」って言っていたら、そこを本当に綺麗に撮ってあげる。
相手の中のイメージを超えていかなきゃいけないんですけど、「でも自分はこっちも綺麗だと思うよ」って提案をしてあげたり、その提案ができることもすごく大事ですね。やっぱりカメラマンは視点を常にアップデートしなきゃならないですから。
──新しい視点を常に提案し続けるって、本当に大変ですよね。
大変ですよ。「綺麗な人ばっかり撮ってていいですね」ってよく言われるけど、実際は逆ですから。もともとが綺麗な人たちなので、それ以上に撮らなきゃいけないわけです。プレッシャーたるや、ものすごいですよ。
──凄まじいですね。
だからとにかく観察してます。観察はもちろん、その日に着る服や光、それから体調とかも踏まえた判断も必要ですね。じゃあ、今日は少ない枚数で決めにいこうとか。
ピッチャーのピッチングと一緒ですよね。ストレートの調子がよければ「ストレートでどんどん攻めてこい!」って言えるけど、ストレートの調子が良くなければカーブやスライダーを使うとかね。今日のモデルさんは完璧だなと思ったら、やっぱりストレートですよね。
個人の観客を楽しませる、攻めのキャッチャーに
──竹内さんのお話を伺ってると、球場でピッチャーの球を受けているようだなって感じます。撮影現場は球場みたいなイメージなんですか?
これは冗談みたいな本気の話なんですけど、毎日野球帽を被って試合に行く感じなんですよね。だから野球を撮るのもモデルさんやタレントさんを撮るのも、仕事としてだんだん差がなくなってきましたね。つまり桐谷美玲さんを大谷翔平選手のようなピッチャーだと思えば、バッテリーを組めるわけじゃないですか。そういうふうに考え方を変えるとより楽しいんです。第一線級の球を受けられるわけですから。もっと言えば、こんな球を要求してみようかな、みたいなことを考えたらワクワクが止まらないですね。そこはもう気持ちの問題なので(笑)。
タレントさんもモデルさんも常に露出し続けてるから、新しいものを観客の皆さんに提供しなきゃいけない立場なんですよ。だからこそ「こうやって見せませんか?」っていう提案は嬉しいはずです。例えば、ストレートは完璧な状況で、「ちょっとフォークを投げてみたらどう?そうしたらみんながどういう反応するのかな」「えっ!あの人のフォーク凄い!」ってなる可能性を秘めている。
ストレートがすごいといっても、自分はキャッチャーとして、相手の武器をなるべく増やしてあげたいと思う。結局はピッチャーがキャッチャーを選ぶわけだから、それができればキャッチャーとして試合に出られるじゃないですか。
──キャッチャーとして愛される理由を感じます。
自分が逆の立場だとしたら、いつも同じストレートを求めるキャッチャーだとつまんないじゃないですか?
──ピッチャーの力を引き出す、そんなキャッチャーが求められるんですね。
力を引き出しつつ、ちょっと提案してみる。ストライクだけじゃなくてもいいんじゃない?というふうに。もし逆だったら楽しくならないですか?自分はこういうボールを投げられるんだなって。
──うん、なりますね。
それで観客がワーって湧いたら、やっている本人たちは気持ちいいじゃないですか。
──そうですね。そうか、周りにいる人たちは観客なんですね。
エンターテイメントを創っていると自負しています。
今までは会社単位や集団で動いてきたものが、個人が主役の時代になって、個人のお客さんが楽しむ時代になってきています。だからこれからは集団を楽しませるというよりも、個人の観客をどれだけ楽しませるかっていうところに力を注いでいきたいんですよ。大事なのは観客をどれだけ楽しませられるか。
その楽しみ方を例えるなら、バックネット裏で野球を見ている感じですよね。一番いい場所で、ピッチャーの球をうわー!って感動しながら見てるわけだから。今は新しい楽しみ方を作っていこうとチャレンジ中です。
キャッチャーだけど、攻めるキャッチャーに進化していきたいですね。