《shanai / #写真家の視る働く空間 》丸紅株式会社 篇  繋がりと交わりが鍵となる、新時代のオフィス

尾鷲陽介さんの作品

オフィスとは、多様な働き方の最前線。

写真家の目に映るオフィスの魅力とは、どんなものだろう。

オフィスのあり方が問われる今、細部まで工夫を凝らされたオフィス空間を写真家が切り取ることで「これからのオフィス」を考える。

尾鷲陽介さんの作品

今回は、東京・竹橋にある、丸紅株式会社(以下丸紅)の本社を訪問した。

丸紅は、2023年時点において、131の国・地域に拠点を構えるグローバル企業として世界を相手に事業を展開している総合商社。その歴史は古く、1858年まで遡り、「丸紅」としての設立は1949年のこと。当時は大阪・本町に本社を構えていたが、1972年に東京・竹橋へ移転。2013年、旧社屋の老朽化に伴い、オフィスの建て替え計画がスタートした。

「社員としてここでどうありたいのかを考えながら作り上げた」という新オフィス。社員数4000名を超える日本屈指の総合商社が新時代を共にするオフィスとは、一体どんな場所なのだろうか。

気鋭の写真家による撮り下ろしカットと共に、丸紅の「shanai」を探訪する。

PHOTOGRAPHER PROFILE

尾鷲 陽介

PHOTOGRAPHER PROFILE

尾鷲 陽介

1977年北海道名寄市生まれ。金沢美術工芸大学・製品デザイン専攻を卒業後、スタジオエビスにスタジオマンとして勤務。
2006年よりフリーランス。

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2021年5月に完成した丸紅ビルは、青々とした木々がまぶしい皇居のほど近くに位置する。ガラス張りの窓に反射する緑もまた、美しい。

尾鷲陽介さんの作品
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5階の会議室フロアから紹介していこう。このフロアのテーマは「海」。「お客様とともにビジネスの海へ」、そんなメッセージを体現しようと、あえて床を鏡面仕上げにしたのだそう。受付カウンターは船をモチーフとし、床は水面、天井は雲の流れをイメージしてデザインされている。今日の探訪もここからいざ船出だ。

尾鷲陽介さんの作品
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内階段で「陸」や「交流」がテーマとなる4階へ進む途中、壁がキラキラと輝いているのに気が付いた。

尾鷲陽介さんの作品
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この壁が表しているのは「水が流れ落ちる滝」。その滝水が陸に溜まり、やがてそこは人々が集うオアシスに…、ということで、そのまま階段を降りていくと、多様な人々がつながるための場所である「COMMUNICATION LOUNGE Oasis」がお目見えした。

尾鷲陽介さんの作品
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開放感抜群で、一日中ここで過ごしたくなるほどラグジュアリーなOasis。ドリンクコーナーやミーティングルームなどの機能が充実しているのもうれしいポイントだ。前述した「多様な人々」というのは、この空間は丸紅の来訪者以外にも、登録さえすれば平日の日中は誰でも利用可能であるため。竹橋を、丸紅を訪れた人々が、Oasisを介してさまざまな人と繋がっていく。

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そのほか4階には、多様な交流の象徴である「シルクロード」をテーマとした貸会議室も。このフロア一帯で、奈良からローマまでの道のりを表現しているのだという。部屋の前にはその土地の文化を象徴する石や生地が施されたアートパネルが設置されている。

尾鷲陽介さんの作品
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9階から20階は執務スペース。フロアは「Circle」と呼ばれるグループアドレスのエリアと共有のエリアである「Huddle」、「Round」のエリアに分けられる。

特筆すべきはRoundだ。Morning Fresh(朝)、Magic Hour(夕方)、Midnight Meditation(深夜)の全3種類のデザインパターンで構築されていて、それぞれ香り、Sound scape(音)、家具が異なるので、そのときの気分や業務内容に合わせて好きな場所を選択することができる。

「朝」は、自然を感じられるユーカリの香りに、森の音。丸紅ゆかりの地である、滋賀の森で実際に録音してきた環境音を流している。実際の時間軸と音が連動しているため、日中には鳥のさえずりが聞こえるが、やがてカエルの声や虫の声へと徐々に変化していく。観葉植物が至る所に配置され、内装も全体的にグレーやベージュといったナチュラルな配色だ。

尾鷲陽介さんの作品
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「夕方」は、ひらめきを誘発するペパーミントの香りに、仮移転先の日本橋や皇居前の雑踏の音を合わせた。無音ではなく、あえて少しだけ音を感じさせることでより仕事に集中しやすい環境を演出している。ナチュラルなイメージの「朝」とは打って変わって、赤やオレンジがアクセントカラーの少し都会的な雰囲気。

尾鷲陽介さんの作品
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「夜」は、集中力を高めるほかリラックス効果もあるシダーウッドの香りに、滋賀の湖東で流れる滝の音。外の光を多く取り入れていた「朝」「夕方」に比べ、黒、グレーといった大人っぽく落ち着いた配色でスタイリッシュな印象だ。どれも魅力的で甲乙つけ難いが、より集中したいときには「夜」が一番集中できそう。

尾鷲陽介さんの作品
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オフィス探訪でやはり欠かせないのが社食事情。社内公募で「〇Café(マルカフェ)」と名づけられた丸紅の社食の利用率は出社している社員の約半数で、おいしさはもちろんのこと、安さ、豊富なバリエーションがウリだという。取材日当日もオープン時間を迎えると、いっせいに社員たちが列をなした。

尾鷲陽介さんの作品
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メニューは日替わりで、社内SNSで随時チェックできるようになっている。「週替わりのラーメン」、「〇Café特製カレー」など、ガッツリ系や辛いメニューが人気だ。

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最後に、当日案内してくださった、総務部の中池さん、大村さん、山本さんに話を聞いた。

——新オフィスに対する社員の反応は?

山本さん「仮移転期間の拠点となっていた日本橋がとてもアクセスがよかったので、じつは竹橋に戻りたくないという声も多くあったんです。仮とはいえ、移転期間が長かったので、日本橋のオフィス時代に採用された社員も多く、わざわざ竹橋に戻らなくても、という空気になったこともありまして…。でも、やはりこの眺望は大きな魅力となったようで、社員の満足度は高いですね」

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——新オフィスの好きなところやお気に入りの場所など教えてください。

中池さん「やはり社食は外せない存在。それから、自由に席を選べるABW(Activity Based Working)を採用したことは今回の移転で劇的に変わった点ですね」

山本さん「執務エリアの『朝』のフロアがお気に入りスポットです。アロマに癒やされますし、緑も多くて心地よく働ける場所ですね」

中池さん「あとは皇居の景色ですよね。日本橋は周りがビルばっかりだったので、視界を遮るものがないのはこんなに心地よいのか、というのは社員が改めて感じているところだと思います。皇居隣接という場所の特性上、今後ここに何か建つ心配もないですしね」


大村さん「オフィスから緑が見えること自体が東京ではなかなかないですよね!1つだけ選ぶのはなかなか悩ましく、非常に絞りづらいですけど…。旧竹橋オフィスは固定席でしたが、新しいオフィスではABWを採用し、オープンな環境になったことはやはり大きなポイントでしょうか。チーム内で活発に話をしているところを目にするようになったり、他の部署のMTGが耳に入ってくるようになったり、ということは今までなかったことですよね。そういう姿を見ることで、社員同士お互いにちょっとずつ刺激になっているんじゃないかなと思います」

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——社員の雰囲気を教えてください

山本さん「オープンな雰囲気、自由で活発な雰囲気、というのはよく言われますね。移転してきてから、服装もオフィスカジュアルに慣れてきて堅苦しい感じがだいぶなくなってきたかなと思います。移転前は服装もスーツの方が多かったですが、現在はTシャツで出勤する社員も増えました。移転をきっかけに時代の流れにも乗れているかなと思います」

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さまざまな場所でつながり、交わる、丸紅のオフィス。

そこは社員にとっても、訪れる人にとっても、きっと誰もが心地よい空間。

尾鷲陽介さんの作品
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毎日同じ場所、同じ景色、同じ顔ぶれ。安定、普遍は日本人の心の奥底に眠る安心材料だからこそ、新しい働き方、新しいあり方をオフィス自らがゆるやかに提案してくるスタイルはちょうどいい距離感といえる。

「働く」をアップデートすることで、企業はさらに成長できる。そんなことを教えてくれたオフィスだった。