今しかない瞬間と光を残して。学生写真家と人気写真家が語り合う、写真の魅力と表現について|『#アオフォト2022』特別審査賞受賞者・yume×特別審査員・岩倉しおり

2022年12月23日〜2023年1月31日に開催された、全国の高校1年生〜3年生を対象としたフォトコンテスト『#アオフォト2022』。貴重な高校生活の大半を、コロナ禍で過ごした学生たちは、どのような日々を送ってきたのでしょうか。彼ら、彼女らの軌跡を写真で見つめたいという想いに、1,663作品が集まりました。そこにあったのは、かけがえのない“今”を全力で感じようとする眼差し。大変な日々のなかであっても、変わらぬ青春の輝きがありました。

今回、特別審査賞を受賞したyumeさんに喜びの声を伺うとともに、フォトコンテストの特別審査員を務めた写真家、岩倉しおりさんとの対談をお届けします。お互いの高校生時代の思い出、写真との出会いや、写真の魅力について、語り合っていただきました。

yume(ゆめ)

愛知県出身。高校3年生で応募した『#アオフォト2022』にて特別審査賞受賞。友人の笑顔や何気ない瞬間を撮影している。2023年3月、SNSを通じて出会った9人によるグループ展『“青瞬”』を、東京・名古屋の2週連続開催。

Instagram:https://www.instagram.com/yume___91400/

岩倉しおり(いわくら・しおり)

香川県在住の写真家。『#アオフォト2022』にて特別審査員を務める。地元、香川県を拠点に、移ろう季節、光を大切に主にフィルムカメラにて撮影している。SNSで作品を発表・写真展を開催し、Instagramのフォロワーは37万人以上。CDジャケットや書籍のカバー、広告写真なども手掛ける。2019年3月、初の写真集「さよならは青色」(KADOKAWA)を出版。

Instagram:https://www.instagram.com/iwakurashiori/
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教室も、制服で過ごす時間も、もうわずか。今しかできない「#アオフォト2022」にチャレンジ

──まずは、yumeさん、特別審査員賞受賞おめでとうございます! 結果を聞いてどんな気持ちになりましたか?

yume:本当にうれしくて、うれしくて…。今でもまだ夢みたいです。ほかの応募作品もハッシュタグから検索して見ていたんですけど、私なんかがいいのかなと思ってしまうくらい、どれも素敵な作品ばかりでした。

岩倉:本当におめでとうございます! yumeさんは、どんなきっかけで「#アオフォト2022」に応募したのですか?

yume:「#アオフォト2022」のサイトを見て、「高校生限定」という言葉に惹かれて応募を決めました。ちょうど受験も終わって、今しかできないことにチャレンジしたいと考えていたので思い切って応募しました。

岩倉:高校生活も最後の年ですもんね。

yume:これまでも写真を撮ることは好きだったのですが、3年生になってからはとくに、毎日過ごす教室とか、友達とか制服とか、こういう景色のなかにいられるのも、もうわずかなんだな、という実感が湧いてきて。この限られた時間に大切な思い出を残したいと、放課後に友達に声をかけたりしてよく撮影をしていました。

──岩倉さんは、「#アオフォト2022」に集まった応募作品を審査されていかがでしたか?

岩倉:応募作品を見させていただいて感じたのは、とにかくレベルが高いということでした。なので、賞をつけるのは本当に難しかったですね。「作品を撮ろう」と計算して撮っているのではなく、今の自分たちの生活を「ありのままに切り取っている」という感じが伝わってきて、胸がキュッとなりました。大人が高校生の姿を撮影するのと、高校生同士リアルタイムで撮影するのとでは、やっぱり伝わってくるものが全然違って、当たり前なんですけど、かなわないなという気持ちにもなりました。

──レベルが高いというのは、どんなところで感じられたのでしょうか?

岩倉:驚いたのが、フィルムカメラで撮影している方が多いということでした。それに加えて、光の捉え方や構図のとり方なども、感覚だけでなく、しっかり考えられていると感じる作品が多かったですね。

──yumeさんの作品を選出された決め手はなんだったのでしょうか?

岩倉:日常の何気ない1シーンですが、それが特別なものに感じられるのは、構図や色合いや、ふんわりとした光の入り方を効果的に使っているからだと思います。思い出の写真としても素敵ですし、作品として完成されていると感じました。

yume:私、Instagramで写真用のアカウントを始めたとき、一番最初にフォローしたのが岩倉しおりさんだったんです。以前から岩倉さんのお写真がとても好きで、四季の風景だったり、そこに溶け込むような人物のシルエットだったり、本当にきれいだなぁと思って見ていました。憧れです。いつか自分もこんなふうに撮れるようになりたい! という気持ちで頑張っています。

岩倉:ありがとうございます。私もyumeさんのアカウントを拝見して、すごく好きな写真だなと思って見ていましたよ。

カメラを初めて目がファインダーのように。日常の何気ない瞬間も、まるで映画のようにきれいに見える

「#アオフォト2022」特別審査員賞を受賞したyumeさんの作品

──受賞作はどんなふうに撮影されたのですか?

yume:この日も、放課後に友人を誘って教室でいろいろ撮っていて。いつか見たカップルフォト作品のポーズを思い出し、2人が顔の前でハートをつくってくっついていたら、かわいいかもしれないと、その場でお願いして撮影したんです。

岩倉:やっぱりフィルムカメラで撮影されたんですか?

yume:私は、デジタル一眼レフなんです。

岩倉:そうなんですね! びっくりしました。デジタルからこういうフィルムの色味を再現できる方法を逆に教えていただきたいくらいです。

──yumeさんが写真を始めたきっかけは何だったのでしょうか?

yume:高校2年生のときに、TikTokで映像クリエイターのサカグチヤマトさんの作品を偶然目にして、心奪われて。スマホでは撮影できないような一眼レフの良さを知り、自分でも撮ってみたいと、中古で安い一眼レフを買ったのが始まりです。そのあとはもうとにかく撮って撮って…、という感じで感覚を掴んでいきました。私はとくに人を撮るのが好きなので、友人や弟をモデルになってもらうことが多いです。

──写真撮るようになって何か生活は変わりましたか?

yume:写真を始めてすぐに感じたのは、「いつもの何気ない景色が、カメラを持っていなかったときよりよく見える」ということでした。例えば、学校の帰り道、駅のホームに夕日が入ってくるその瞬間を見て、「ああきれいだな」って、いつも以上に感動してしまったり。

撮影 yume

岩倉:すごくよくわかります。たぶん、自分の目がファインダーになってしまっているんですよね。だから、そのときカメラを持っていなくても、見るもの見るもの、ファインダーを覗いているような感覚で切り取ってしまう。すべてがきれいな映像として自分の目の中に入ってくるから、ずっと映画を見てるような感覚に陥りませんか?

yume:そうなんです。これまで気づかなかった日常の何気ない景色や瞬間が、すごく特別に感じられるようになりました。

今につながるカメラとの出会い。それぞれのかけがえのない時間

──岩倉さんも、高校生時代から写真を始めたと聞きました。

岩倉:高校2年のときに、友人に誘われて写真部に入ったのがきっかけでした。私は運動部にも所属していたので、本格的に撮る時間ができたのは、3年になって運動部の活動が終わってから。はじめてみるとすごく楽しくて夢中で撮っていましたね。

yume:その頃の岩倉さんがどんな写真を撮っていたのか、気になります。

岩倉:運動会とか学園祭の様子など、本当に“ザ・青春”というような、わかりやすい思い出写真が多かったと思います。だから、大人になって、もっと登下校とか休み時間とか、何でもない瞬間を撮っておけばよかったなと後悔していて。それこそがかけがえのない大切な時間だったと、後になって気づいたんです。でも、今回「#アオフォト2022」の作品を拝見させていただいて、みんなちゃんとそのことに気づいていて、すごいな、羨ましいなと感じました。

──高校生のときの経験が、今に活きていると感じることはありますか?

岩倉:わたしの通っていた高校には暗室があって、さらにフィルムカメラもたくさんあり、生徒は自由に借りることができたんです。だから、私も最初に持ったカメラがフィルムカメラでした。その経験が今につながっているというのはあると思います。

──高校生活を記録した自身の作品の中でも、特に印象的な1枚はありますか?

yume:そうですね…。同級生のカップルフォトを撮ったんですけど、その場に一緒にいた友人が、2人の仲の良さを引き出してくれて、すごくいい顔で笑い合ってくれて。「めっちゃいい!」って、興奮しながらずっと撮ってしまった写真があります。もうまさに理想ってくらいの写真が撮れたんです。

岩倉:それはぜひ見てみたいですね。yumeさんは、コロナ禍での高校生活だったと思うんですけど、悔やまれることもあったりしますか?

yume: 振り返ってみると、行事ごとはすべてマスクを着けていて、コロナ禍じゃないと味わえない経験をしてきたと思います。購買が無くなったり、昼食は黙食だったり…悔しい思い出ももちろんあります。ですが、それでもなんとか前向きに楽しもうと乗り越えられたから、マスクと共に生活した3年間は嫌な思い出ではなくて、全部楽しかったなと思います。

撮影 yume

絵筆をカメラに変えて。表現したいイメージを作り上げる方法

──岩倉さんの作品は、あまり人物にフォーカスしないイメージがあるのですが、それには何か理由があるのでしょうか?

岩倉:そうですね。人物だけにフォーカスするというよりは、風景全体で捉えたいという気持ちがあります。絵画みたいな感覚で見ていただけたらわかりやすいかもしれません。私は、もともと絵を描くのが好きだったのですが、途中で写真に出会い、自分のやりたい表現を、絵筆ではなく写真を使ってできないだろうかと考えたんです。なので、絵を描いているようなイメージで、背景や色、全体のバランスを考えているところがあります。

撮影 岩倉しおり

yume:表現手法を絵筆からカメラに変えた、ということなんですね! 確かに岩倉さんの表現する世界は本当にきれいな絵画のようだなと思っていました。岩倉さんは、撮影のときどんなことを大切にされているんですか?

岩倉:いろいろあるんですが…「そのとき、そこでしか撮れない写真を」ということは、常に考えているかもしれません。散歩やドライブをしながら気になる場所を見つけたら、この季節にこんな花が咲くから、こういう天気と相性が良さそうとか、この時間帯になると光が差すから、この角度から撮れば、理想の写真が撮れるかもしれないなどと、イメージした組み合わせをメモしてGoogleマップにピンを立てておくんです。「春、白い花、夜明け前の色が合いそう」とか。

撮影 岩倉しおり

yume:とても勉強になります。私もGoogleマップにピン、やります。

岩倉:季節ごとに分けてまとめておくといいですよ。私もその季節になったときに、保存してるピンを一覧で見て、撮影に行く場所を選んだりします。

yume: 私は気分や感覚で撮っている部分もあるので、岩倉さんは綿密に計算されて撮っていらっしゃるんだなと驚きました。

光を見ると、シャッターを切りたくなる。2人の共通点

──yumeさんの作品も、岩倉さんの作品も、光の捉え方がとても印象的だと感じます。

岩倉:yumeさんも同じだと思うんですけど、たぶん、感覚的に光を撮っている部分もあると思うんですよね。ただ、光を効果的に使うのはなかなか難しいことで、撮ってみないとどうなるかわからない。撮る方角を少し変えるだけで、完全にシルエットになったり、少し光を入れるとふんわりした印象になったり、光一つで全然違う雰囲気の写真になるんです。私は、枚数をたくさん重ねて、こう撮ったらこういうふうに光が入ると、だんだん掴んでいった感じです。

yume:私も光を大事にしています。感覚のところもあるんですけれど、オールドレンズを使っているので、フレアを取り入れやすく、柔らかい写真を撮るときには日光を活かしながら撮影しています。

撮影:yume

岩倉:ちゃんとカメラの特徴も考えて撮影されているのですね。私は、光を見ると、衝動的に撮りたくなってしまうところもあります。やっぱり何もないより、光があると撮影するバリエーションが増えるというか。出来上がりが読めない楽しさもあって、シャッターを切る枚数がどうしても増えてしまうんですよね。

──お二人は、写真のインスピレーションをどんなところから得るのですか?

yume:私は、結構思いつきで撮ることが多いのですが、いろんなアーティストのMVを見て新しいアイデアを見つけることも多いです。写真家の作品をオマージュすることもあって、そうすると、こういうふうに撮ればこう見せられるんだ、と、学べることがたくさんあります。あとは、同年代の写真家の子たちに刺激をもらうことも多いですね。InstagramやTikTokで見て「いいな」と思う作品は、保存しておきます。

岩倉:私の場合は、映画だったり音楽だったり、写真以外のものから影響を受けることが多いかもしれません。映画だと、静止画と違って1つの風景でも、構図や余白の取り方や光の入れ方などいろんなパターンで見ることができるので、学ぶことがたくさんあります。とくに好きなのは、岩井俊二監督の作品です。音楽だと、haruka nakamuraさんや橋本秀幸さんがすごく好きで、撮影中もよくかけています。目の前の光景に音楽も組み合わさって、撮りたいイメージがより鮮明に浮かび上がってくるんです。

撮影 岩倉しおり

「いいな」と感じた気持ちを大切に、そのときにしかない瞬間を残して

──今回、『#アオフォト2022』で特別審査員を務めたことは、岩倉さんにとって、どんな経験になりましたか?

岩倉:本当に貴重な体験になりました。やっぱり大人になっていくほどに、「きれい」とか「いいな」と感じる感覚や、撮り方が固まってきてしまう。“作品を撮ろう”と、してしまうんですよね。yumeさんや、応募してくださったみなさんの写真は、「いいな」という感覚に自然に従って撮っていると感じました。私もそんなふうに写真を撮りたいと、すごく刺激ももらいました。

yume:ありがとうございます。憧れだった岩倉さんと、今こうして写真の話をできていること自体、本当に夢のようで、今でも夢なんじゃないかって思っているくらい(笑)。貴重なお話が聞けて、とても嬉しかったです。

岩倉:こういう時間もそうですが、瞬間って、当たり前だけどそのときにしかないものなんですよね。あとになって、あの瞬間すごく素敵だったなと、気づいたり後悔したりすることってたくさんあって、だから、何気ない一つひとつの瞬間の大切さに、できるだけ気づけるように生きていけたらすごくいいんじゃないかなと思います。あとは、ずっと写真を好きでいてほしいですね。

yume:これからも写真をずっと続けていきたいと思いますし、日々を大切にしながら何気ない瞬間を撮り続けたいなと思います。

岩倉:年齢を重ねるごとに、やっぱり何か残っていくのって、すごく素敵なことだなと思っていて。「いいな」と思ったものは写真にどんどん残していってほしいです。のちのち見返したときに、その感覚をまた新鮮に感じられると思います。

──yumeさんは、今後も写真を続けていく予定ですか? 今思い描いている夢などあればぜひお聞かせください。

yume:友達や家族が「撮って」と言ってくれたり、喜んでくれたり、それが自分にとってのやりがいというか、幸せだなと、賞をいただいたことで改めて実感しました。大学も写真や映像を学ぶ学部に入学するのですが、同じ興味や夢を持った人が集まるなかで、一緒に制作する機会もたくさんあると思います。やりたいこと、挑戦したいことがいっぱいあるので、今からすごく楽しみです。

岩倉:素敵です。たくさんいい経験をしてくださいね。

──yumeさん、岩倉さん、ありがとうございました!

yume・岩倉:ありがとうございました!

■Interviewer

秦レンナ

株式会社ダイナマイト・ブラザーズ・シンジケート(DBS)

東京港区にあるデザインコンサルティングファーム。
ブランディング、デザインコンサルティング、ロゴマーク開発など幅広いフィールドで事業展開中。

HP : https://d-b-s.co.jp


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