【景色になるインテリア】 PAPER BRUT インタビュー|雪国の自然と季節の記憶を漉き込む

本連載「景色になるインテリア」では、日本各地で家具をつくる作り手のまなざしを通して、ものづくりの現在地を見つめています。日々の暮らしに寄り添い、使うほどに深みを増す作品には、素材と向き合い、手を動かし続ける人々の静かな熱が宿っています。

miho/cannan

今回は、その精神を紙というメディアで体現するアーティスト、PAPER BRUTへのインタビューをお届けします。新潟県を拠点に活動する彼らは、雪国の厳しい自然に魅了され、その移ろいや季節の変化を繊細に捉え、和紙作品として昇華させています。彼らが追求する「そのままであること」の美学、そして生活そのものをアートとする哲学について深く掘り下げました。

PROFILE

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PAPER BRUT

伝統的な和紙の技法をもとに、土地に根付く文化や自然との関係性に着目し、その土地で育まれた植物や土といった素材をもとに作品を展開。また和紙が生まれる過程を軸にした新たな表現を探求。
「ブリュット」はフランス語で「生(き)のまま」「そのまま」を意味し、素材そのものが持つ力を生かした自然や植物との共作を目指す。また、内から湧き上がる創作衝動を大切にし、生活そのものがアートであるという哲学を体現している。

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陽ノ光

生活こそがアート

━━本日はお忙しい中、ありがとうございます。まずは簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか。

泊・月白 moonmist website:  moonmist.tw @moonmist_atelier

私たちは「PAPER BRUT」という名前で活動しています。地元で採取した植物や土など、自然の素材を活かして作品を制作しています。

━━「PAPER BRUT」の「ブリュット」は、フランス語で「生のまま」「そのまま」を意味すると伺っています。この言葉に込められた哲学について教えていただけますか。

日本では洋紙が伝わる以前、手漉きの紙を「和紙」とは呼ばず、単に「紙」あるいは「生紙(きがみ)」と呼んでいました。この「生紙」という言葉には、自然から生まれた紙が呼吸をしている生の存在としての響きがあり、とても魅力的だと感じています。その思いに加えて、自然の素材に宿る“ありのままの力”という意味を重ね、紙を意味する paper と “生のまま” を意味する brut を組み合わせ「PAPER BRUT」と名付けました。

また brut には自身の内なる衝動のまま表現する芸術「Art Brut(アール・ブリュット)」への共感も込められています。また、アートを日々の暮らしの中に溢れる身近なものとして解釈しています。昔ながらの家々の軒先に干された大根や日常の営みは「作為を超えた表現」のように感じます。またアートも生活だと捉えています。

私たちは、そうした日常の中にひっそりと潜む豊かさや美しさを大切にしたいと思っています。

━━その「生のままの美しさ」を求めて、新潟の雪深い土地を活動拠点に選ばれたのですね。移住のきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

人生は「これをしたらこうなった」と具体的に言い表せないものですが、風景との出会いがきっかけでした。初めて新潟に降り立ったのは3月の半ば頃、高速バスから見た景色は、まだ雪が残る白い世界でした。その白の中にポツポツと見える淡い緑の風景を見たとき、「生きているんだな」という強い生命の力を感じたんです。その芽吹きや季節の変化をもっと感じたいという思いから、この場所を選びました。

雪国から生まれるアート

━━雪国の四季の移ろいは、作品にどのような形で影響を与えていますか。

作品を作りたいと思うのは、景色や植物が持つ何かしらの「魅力」を感じた瞬間です。風景をそのまま切り取るというよりも、その場を包み込む空気や時の流れを再構築したいと考えています。

その感覚を教えてくれたのが、「しみわたり」と呼ばれる早春の頃の経験です。日が長くなり、昼に溶けた雪が夜の冷え込みで再び凍ることで、凍った雪の上を歩けるようになります。普段は歩けない場所や高さから見る風景は、これまでの季節の記憶や様々な思いを呼び起こさせてくれます。


━━しみわたり、ですか。厳しい自然の中での、わずかな変化に気づく感覚ですね。

はい。その「しみわたり」のとき、雪の中で朽ちた胡桃の木を見つけ、持ち帰って漉き込むことにしました。その後、コロナ禍でアートイベントの開催が見送られる中で、有志の方々とイベントを開くことになったのですが、そのときに胡桃の木を漉き込んだ紙のことを思い出し、作品として展示しました。静けさの中で朽ちた胡桃の木に触れたときに聞こえたかすかな“声”を一つの詩のように束ねる思いで、展示会のタイトルを≪ Wild song ≫と名付け、その言葉にすべての思いを託しました。

景色が作品になる瞬間というのは、何かを探そうとする時ではなく、何かを感じた瞬間だと思っています。すべてがひとつの呼吸のように感じられるとき、作品の温度が生まれるのだと思います。

陽ノ光

━━その後、その作品は《 暁光 》というタイトルの展示へと繋がっていったそうですね。

はい。また、以前《 春の五色 》という季節の移ろいを草木染の紙と詩で表現した作品を制作したことがあります。そこでは、季節の記憶や様々な思いを通して感じたものをひとつの「詩」として形にしていました。朽ちた胡桃の木を見つけたときも、同じような感覚がありました。

冬の白く冷たい空気感から始まり、年が明けて日が長くなるにつれて気持ちが軽やかになる「長春色」。そして、雪の厳しさを解きほぐすようなフキノトウの苦味が広がる「山吹色」。春風に揺らぐ瑞々しい細枝の「薄柳色」へと続き、やがて雪が溶けて水となり命を与える「薄桜色」へと至る。すべてが循環する季節の移ろいを、色を通して表現しました。

個性を活かす創作プロセス

━━作品の核となる楮(こうぞ)は、栽培から紙漉き、描画、デザインまで、一貫してご自身で手がけられていますね。それを重視されている理由は何でしょうか。

紙の原料である楮やその他の植物を自分たちで栽培できるというのは、大きな魅力です。最初は単純な好奇心から始めましたが、実際に手を動かして作ってみることで、見えてくる世界が広がっていきます。そうした積み重ねが、作品の内側を少しずつ深めてくれるように感じています。

━━素材の個性を扱う中で、特に面白いと感じる点はありますか。

まさに、植物は一本一本が違う個性を持っています。初めて扱う植物からは、予想していなかった色や形、質感が現れることもあります。例えば、紙と紙の間に植物を挟んだ作品では、植物の色が紙に予期せぬ効果として浮かび上がることがあります。そうした予想外の発見が、作品作りの新たなインスピレーションになっています。

私たちは、決まった技法や手順に捉われるよりも、その植物の個性をどう表現できるかを重要視しています。植物によって繊維の長さも違えば、作る工程も異なります。制作中、作り手の意図とは違う結果になることもありますが、その植物が持つ表情や感じ取ったものをどうすれば表現できるかを見つめるようにしています。また自然に抗うのではなく、自然の摂理を理解しながら制作に取り組んでいきたいと思っています。

━━その発想の仕方は、道具選びにも現れているようですね。一般的な画材ではなく、身の回りにあるものを活用されているとか。

はい。私たちは「これを使って作らなければならない」という制約を設けるよりも、今ある環境の中で「これをやったらどうだろう」という好奇心とわくわくを大切にしています。楮の芯の部分を竹ペンのように削ったり、燃やして木炭のようにしたりして使います。散歩で出会う草木や土などを紙に混ぜたり、描くものへと使ってみたり、身の回りにあるものを活かして表現することが多いです。まさに自由研究のような感覚で楽しみながら制作しています。

伝統の余白と日常に潜む豊かさ

━━和紙づくりは日本の伝統的な営みですが、PAPER BRUTさんは、その伝統的な技法を現代的な文脈で再解釈されています。伝統的な技法には「余白」があると表現されていましたが、これはどういう意味でしょうか。

紙漉きは、農閑期の冬仕事として行われてきた身近な営みでした。伝統的な技法にも余白があり、その意味を理解し、解釈することで新しい発想や文脈が生まれると考えています。

例えば、紙を漉いた後に木の板に貼って乾燥させる「板干し」という伝統的な工程があります。板干しした紙は木の板に貼ることで木目が浮かび上がってくるのですが、この技法から着想を得たのがサビを写し取ったサビ紙です。

gry space  website: thegry.space  @gry.space

このサビ紙は、レストランのシェフに気に入っていただき、メニューカバーのアートワークとして使用することで「時間の痕跡」としてさらに美しさを感じ取る日本的な美意識(侘び寂び)という解釈が深まりました。伝統から着想を得て、新しい発想や文脈が生まれることに面白さを感じています。

koya Sanju website: https://koyasanju.com/ @koya.sanju

━━シルクスクリーン作品の「LIFE IS WONDERFUL」シリーズも、日常からインスピレーションを受けているそうですね。

「LIFE IS WONDERFUL」は、もともとカレンダーシリーズとして日々の記憶や営みを描いていた作品から派生しました。このシリーズは、身近なものを描く行為を通して、人生の不思議さや素晴らしさをすくい上げ、世界を肯定的に捉えたいという思いを込めています。

koya Sanju website: https://koyasanju.com/ @koya.sanju

その気持ちは、雪国で暮らす人々の感覚にも通じています。私の好きな言葉に「正月過ぎればもうすぐ春だ」という言葉があります。1月は雪が最も多く降る時期ですが、それでも日が畳の目ひと目ずつ伸びていくことを感じ取り、小さな変化に希望を見出して前向きに生きる雪国の人々の感覚が、この言葉に表れていると思います。

━━作品は、写実的ではないものの、鑑賞者がそれぞれ独自の解釈をされることが多いそうですね。

はい。私たちは身の回りの風景や記憶、印象のようなものから作品を作っています。展示の際にタイトルなしで見てもらうこともありますが、あるお客さんがトウモロコシの絵を見て「北海道で見た木々を思い出した」と言ってくださいました。見る方それぞれが、絵から自分の心の情景を感じ取ってくださっていることが、この作品の豊かさに繋がっているように感じています。

暮らしに寄り添い、変化を楽しむ「景色」へ

━━「自然の美しさや移ろいを紙というメディアで可視化し、暮らしにそっと寄り添う存在でありたい」と述べられています。作品を日常に取り入れることによって、使い手にどんな影響をもたらすことを期待されていますか。

「こうなってほしい」というよりも、花や植物を飾るような感覚で、気軽に家に置いてもらえたらいいなと思っています。私たちの作品は、時間の経過とともに、豊かさがより深まるよう思いを込めています。

例えば、カレンダーには、白い和紙ではなく楮の表皮も混ざった生成り色の和紙を使っています。表皮部分は通常は取り除かれますが、あえて残して使うことで、インクが完全に乗らなかったり、ボコボコとした質感が出たりします。けれど、その不完全さこそが日々の表情のように感じられます。上手くいかなかったなと思う日も、時を経て振り返ったときには、「それもまたよし」と思えるよう、紙の色の変化とともに感じられるものにしたいという思いを込めています。

━━最後に、PAPER BRUTさんが考える豊かさとは何でしょうか。

豊かさというのは、特別なものではなく、日常の中にひっそりと潜んでいるものだと思います。自然や植物は、そのままの姿が力強く美しい。私たちは、その魅力を伝えたいという思いから、作品を作っています。

植物が一本一本違う個性を持っているように、人も同じで、それぞれが違うものです。自然と向き合うことで、ありのままであることの大切さを思い出させてくれます。そして、それぞれの個性が響き合うことが豊かさに繋がると考えています。

* * *

PAPER BRUTの創作活動は、雪国の厳しくも美しい自然との絶え間ない対話から生まれていました。作品に込められた雪解けの時期に感じる生命の息吹や、小さな希望、そして《春の五色》のような季節の記憶。これらが日常に取り入れられることは、私たちに自然と共に生きることの豊かさを思い出させてくれます。

窓の外の景色や、時間の経過によってわずかに変わっていく紙の様も含めて、絶えず変化する自然、そして人生の不思議さや素晴らしさを、立ち止まって感じ取れる作品たち。

それらは、まさに私たちの暮らしに静かに語りかける景色そのものなのかもしれません。