【フォトグラファーの師弟対談】#03 いつの間にか似てきた2人は、互いに学び合う関係 |田村昌裕×坂本美穂子

DESIGNER MEETS PHOTOGRAPHER Vol.25

編集思考とアートディレクションを武器に、企業やサービスの新たな価値を創出しているデザインコンサルティングファームDynamite Brothers Syndicate。日々、第一線のフォトグラファーとコンタクトをとっているクリエイティブディレクター、デザイナー、プロジェクトマネージャーが実際に出会い、影響を受けたフォトグラファーとのエピソードを明かします。今回は、フォトグラファー田村昌裕さんと、田村さんのもとで約3年間のアシスタント経験を得て、2022年に独立された坂本美穂子さんをゲストにお迎えし、フォトグラファーの師弟関係について伺いました。


田村昌裕/フォトグラファー

1973年東京生まれ。都内スタジオ勤務後独立。ファッション、料理、旅 などのテーマを中心にジャンルをかぎらずに撮影。雑誌 fudge,kiitosなど雑誌の表紙やタレントやモデルの書籍の撮影なども手がける。目指している写真は「想起させる写真」。

坂本美穂子/フォトグラファー

大学卒業後、専門学校にて写真を学び、その後スタジオに勤務。2年勤めたのちに、写真事務所FREAKSにて田村昌裕氏、一之瀬ちひろ氏のアシスタントに就く。2022年より独立。


「光と撮るものをよく見ろ。そして見え方を探せ」心に根付いた師匠の言葉

小松崎:光の見極め方や、見方についてお話を伺ってきましたが、わかりやすいものではないからこそ、独学だけではなく、師匠について一緒に仕事をすることに価値が生まれるのかもしれないですね。

坂本:そうですね。私は、田村さんからは「光と撮るものをよく見ろ。そして自分の見え方を探せ。」と言われていましたので、当然のことですが、その考えは根付いていますね。

小松崎:田村さんは坂本さんへ、具体的にどのようなアドバイスをされてきたのですか?

田村:アドバイスというよりも、その人がやりたいことが全力でできているかをまず見ますね。それから、商業写真で最も重要な、見た一瞬で、全員が理解できるかどうかを考えます。

例えば、物が中に浮いている写真なら、無重力感を演出したいということになりますよね。その意図がはっきり伝わってこない場合には、「光の当て方は、こうした方がもっとリアルに浮遊しているように見えるよ」など、やりたいことに対して技術的にもう少し改善できそうなことを、アドバイスをします。やりたいことをもっと全面に出しなさい、という意味を込めて言っているつもりです。

坂本美穂子さんの作品
坂本美穂子さんの作品

小松崎:何かヒントを送ってあげることによって、そこがよりクリアになっていくことですね。坂本さんは数年間の田村さんのアシスタント経験を得て、何が一番変化したと感じますか?

坂本:撮る写真はやっぱり大きく変わりましたね。アシスタントになるときに田村さんに見せた写真と、今見せている写真では変わっています…よね?

田村:僕はアシスタントの方には常々、「フォトグラファーの仕事とは、写真をとる行為や写真を使って、社会に帰属すること」だと言っているんです。つまり、社会とつながる道具として写真を使う。坂本さんが最初に見せてくれた作品は、自分の田舎の面白さだったり、自分の好きなものだったりと、どちらかというと自分に回帰するものでした。それが独立するタイミングで作った作品では、みんなを喜ばせようとしている写真というか、周囲や社会のアプローチが内包されている作品になっていました。そういう変化は作品から大きく感じ取れましたね。

坂本:それから、田村さんから学んだ大切なことは、現場の回し方です。光の見方や作り方など技術的な面はもちろんですが、ロケ撮影での注意点や、取材先での対応の仕方、スタッフへの心配りなど、スタジオでは学べなかったことを、知識としてたくさん身につけることができました。田村さんはあぶれる人を作らないでみんなを巻き込んで現場を作るんです。それって本当に簡単なことではないと思っています

田村:最後はやっぱり一人前のフォトグラファーとして送り出してあげたいですから、自分のやり方を見て、フォトグラファーになってくれるのはやっぱり嬉しいものです。高木さんもきっと同じ想いですよね? 

高木:そうですね。デザイナーも途中で諦めていなくなっちゃうよりかは、一人前になって次行きますっていうほうが嬉しいですね。

SNSの広がりから、師匠が欲しい人が増えている? 

小松崎:InstagramなどSNSの広がりのなかで、写真を独学で学ぶ人が増えている一方で、師匠が欲しいと思っている方も多くいるようです。 高木:最近は、本当の意味での「自分の写真」を撮れていない人が多いように感じます。言い方はチープで古いんですけど、「クリームソーダを撮っておけばおしゃれ」みたいな。とくに、SNS上では同じようなモチーフ、同じようなシチュエーション、同じ構図、同じような色の写真をよく見かけます。まずは人の写真の真似から始めるというのも大事ですし、いったんはそれで良いと思うのですが、その先、自分の表現ということを考え、行き詰まったときに、作家として、または商業的に成功している方の元で働いてみたいと思うのは、容易に想像できるというか…デザイナーの自分でもそう思うことがあるので。いい写真を撮る秘訣や、さっき仰っていた、言葉では表現できない暗黙知のようなもの、それを知りたいと思う欲は皆、当然あると思います。

田村昌裕さんの作品
田村昌裕さんの作品

小松崎:SNSなどで写真を撮ってきてずっと独学でやってきた方が、もし田村さんのところに門を叩きにきたら、アシスタントってやらせてもらえるのでしょうか?

田村:全然ウェルカムですよ。これまでも自分のところにアシスタントに来てくれた方って、前職が図書館の司書さんの方だったり、パン屋さんを掛け持ちでやっている方だったりといろんな方がいました。機材の名前だったり、商業写真の世界で使われている用語だったりを覚えてもらう、地味な作業から始まるので最初は苦労すると思いますが、それでもよかったら、僕は全く問題ありません。周りにも、SNSでアシスタント募集をして採用したフォトグラファーがいました。採用された方は有名なインフルエンサーだったみたいで、本人より、アシスタントの方のフォロワー数の方が多いみたいなことって、最近よく聞きますね。

ただ、商業写真では、クライアントにマッチする写真を撮ったり、現場の空気作りをしたりということも求められてくると思うので、インスタグラマーやSNSフォトグラファーとして活躍していた方達にとって、新鮮な学びが得られるのではと思います。

だんだん似てくる師匠と弟子。今や兄弟みたいな関係に

田村:この対談テーマは「師弟対談」ですが、僕と坂本さんの場合、以前よりそういうつながりって弱いよね。坂本さんだって、僕のこと、師匠っていう言葉ほどは思っていないでしょう?(笑)

坂本:そんなことはないですけど…(笑)

高木:「師匠と弟子」という言葉で考えると、厳しい上下関係をイメージしがちですが、田村さんは本当に明るく優しいし、僕から見るとこの2人って友達みたいに見えるんですよね。

田村:それが今のご時世というか…。他のフォトグラファーの話を伺っていても、同じような感じだなと思います。あまり上下関係をはっきり分けている人ってもう最近はいないのではないでしょうか。もっとなんていうか、一緒にモノを作る仲間?みたいな。

坂本:先生…先輩…。うーん、でも田村さんて、逆に「師匠っぽい」かもしれません。丁寧に教えてくれるし「師匠!」と呼びたくなる感じ。最近思うのは、田村さんと私って似てますよね(笑)。

高木:わかります! 兄弟みたいですよね。空気感とか。 田村:だんだん似てきたという言いほうの方が近いかもしれません。もしかしたらそれが「師匠と弟子」っていうことなのかもしれないですね。モノの見方が似てくるというか、だから考え方も似てくる…それは坂本さんが僕に似てきているのもあるし、僕も坂本さんに似てきている部分もあるかと思います。こういう関係って、面白いですよね。

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■SPEAKER

高木 裕次 TAKAGI YUJI
CREATIVE DIRECTOR / ART DIRECTOR
Twitter : @takagiyuji1

高橋 梢 TAKAHASHI KOZUE
CHIEF PROJECT MANAGER


■GUEST

田村昌裕 TAMURA MASAHIRO
http://www.freaksphotos.com/masahirotamura/

坂本美穂子 SAKAMOTO MIHOKO
https://mihokosakamoto.myportfolio.com/work

■Interviewer

小松﨑拓郎 KOMATSUZAKI TAKURO
https://twitter.com/takurokoma


株式会社ダイナマイト・ブラザーズ・シンジケート(DBS)

東京港区にあるデザインコンサルティングファーム。
ブランディング、デザインコンサルティング、ロゴマーク開発など幅広いフィールドで事業展開中。

HP : https://d-b-s.co.jp