【フォトグラファーの師弟対談】#02 いつの間にか似てきた2人は、互いに学び合う関係 |田村昌裕×坂本美穂子

Designer Meets Photographer vol.24

編集思考とアートディレクションを武器に、企業やサービスの新たな価値を創出しているデザインコンサルティングファームDynamite Brothers Syndicate。日々、第一線のフォトグラファーとコンタクトをとっているクリエイティブディレクター、デザイナー、プロジェクトマネージャーが実際に出会い、影響を受けたフォトグラファーとのエピソードを明かします。今回は、フォトグラファー田村昌裕さんと、田村さんのもとで約3年間のアシスタント経験を得て、2022年に独立された坂本美穂子さんをゲストにお迎えし、フォトグラファーの師弟関係について伺いました。


田村昌裕/フォトグラファー

1973年東京生まれ。都内スタジオ勤務後独立。ファッション、料理、旅 などのテーマを中心にジャンルをかぎらずに撮影。雑誌 fudge,kiitosなど雑誌の表紙やタレントやモデルの書籍の撮影なども手がける。目指している写真は「想起させる写真」。

坂本美穂子/フォトグラファー

大学卒業後、専門学校にて写真を学び、その後スタジオに勤務。2年勤めたのちに、写真事務所FREAKSにて田村昌裕氏、一之瀬ちひろ氏のアシスタントに就く。2022年より独立。


こだわるのは、「現場を楽しく」。共同作業で生まれる写真

小松崎:坂本さんは、田村さんと一緒にお仕事をされるなかで、田村さん独自の視点やニュアンスを感じる部分はたくさんあったと思いますが、何か印象に残っていることはありますか?

坂本:田村さんのアシスタントにつく前は、2年間スタジオで働いていたのですが、そのとき感じていた撮影現場の雰囲気と、田村さんに付いて入る撮影現場の空気感が全然違うもので、驚きました。モデルさんへの接し方一つをとっても、フォトグラファーそれぞれ全然違ったりするので…。

小松崎:具体的にどう違っていましたか?

坂本:田村さんって、みんなと仲良しでフランクなんですけど、そのなかにもスタッフへのリスペクトがとてもある、「現場を楽しく」ということにすごくこだわっているという印象です。

高木:それは僕も同感です。

小松崎:田村さんはどうして「楽しさ」を一番に重視されていらっしゃるのですか?

田村:「楽しくしよう」って単なるアホなのかと思われそうですが(笑)。現場に関わる人みんなの能力を100%出したいというのはありますね。僕の場合は、これまで女性誌がメインだったこともあって、ヘアメイクやスタイリスト、デザイナーや編集者などとの共同作業になるんです。そうなってくると、それぞれの能力を活かしてほしいとか、意見をどんどんもらいたいとか、考えるんですよ。ポジションによって写真の見方が変わるのは当然だし、そこは柔軟に取り入れたいと思いますね。

自分が一番欲しいのは、一番良い写真です。それには現場にいるみんなの力が必要だし、そのためには楽しくするのが一番いいと思うんです。ストイックに接して、みんなに考えさせて、喧嘩まではいかないですが、意見をぶつけ合って良いものを作り上げていく人も当然いるわけですが、僕はそのタイプではないんですよね。

小松崎:それって一見シンプルなことに聞こえますが、実際難しいことですよね。現場を楽しくするコツとか心がけはあるのでしょうか?

高木:坂本さんはありますよね。常にキャラクターのついた靴下を履いてくるんですよ(笑)。それをみんなにツッコまれて、場を和ませています。そういうのを見ていると、田村さんの「現場を楽しく」マインドを受け継いでいるのかなと感じますね。

坂本:ありがとうございます(笑)

撮影はいつも提案型。弟子だから学べる現場のスタイル

高木:田村さんは、とにかく引き出しをたくさんもっていらっしゃるので、スタッフにいろんな提案をしてくださる。それで現場も盛り上がって、どんどん撮影が良い方に進行していく感じがします。

田村:そうですね。あまり自分からは要求はせずに、それぞれの立場からアイデアをもらうようにしていますね。各自に自分がやりたいことをやってほしいと思っていますので。「これ、どうですか?」と提案していく感じですね。

高木:カメラ変えたりレンズを変えたり、いろんなやり方で撮ったものを並べて説明してくださるんですよ。「このレンズでこの角度から撮ると、〇〇な印象を与えることができます」とか、クライアントにもわかりやすく説明してくれて、そのコミュニケーション能力もすごいなと。

小松崎:まるでビジュアルのコンサルタントのようですね。

高木:田村さんは提案するバリエーションが幅広いですし、決断も早いですね。悩んだり、困ったりしていることを見たことがないですね。

坂本:私は悩んでいるところもだいぶ見てきましたけどね(笑)。

田村:何パターンかみんなの前に並べて、選んでもらうが僕のスタイルですね。坂本さんもそういうやり方のを見てくれていると思います。

坂本:そうですね。例えば、フォトグラファーじゃないとわからないようなレンズの違いを説明するとき、田村さんは相手が理解しやすいようにお話されているのがよくわかりました。スタジオ勤務のときはそういう丁寧な説明をするフォトグラファーはあまりいなかったように記憶していたので、ぜひ真似したいと思いましたね。

田村:撮影現場のスタイルって、なかなか見られないので、師匠弟子間だとそういうことも共有できるのでいいですよね。

田村昌裕さんの作品

光の見極めと作り方に、フォトグラファーの個性が出る

高木:田村さんの光の見方にとても興味があるので、アシスタントにつかれていた坂本さんへ質問です。僕と田村さんの仕事は、ハウススタジオで自然光で撮ることが多いのですが、いつどんな状況でも、きれいな光を見つけ出すのが本当に上手いなと感心してしまいます。師匠についていると、そういう視点を習得するのが早くなる感覚はありますか?

坂本:なかなか田村さんの視点には追いつけないです。もちろん追っていこうとするんですが、実際には追い切れていないと実感します。

田村:光の見極め方って本当に難しいんですよね。技術と天性のものをうまく重ね合わせながらやっていくものだと思います。

高木:天性も必要なんですね。

坂本:田村さんの光の見方は独特だと思います。自然光のあるスタジオで撮影がある場合、大体こういう光が必要なんだろうと予想をつけて、前もって機材を準備したりするんですけど、田村さんは、用意した機材は使わないし、むしろ予想と反対のことを言われて、最初は「何だこの人?」って思いました(笑)。それくらい人と違う見方をするんです。

田村:確かに独特かもしれないと自分でも思っています。みんなと同じライティングは絶対にしたくないと思うタイプなので、雑誌に載っているライティングテクニックとか、世に溢れているライティングの講座とかには絶対載っていない、誰もこんなことやらないだろうと思うことにあえて挑戦することが、自分のモチベーションになっているような気がします。その姿勢を坂本さんは見てくれていると思います。反骨精神とまでは言いませんが、みんなとは違うことをやってみなさいと、示している部分も実はありますね。

坂本美穂子さんの作品

高木:フォトグラファーの個性やオリジナリティって、何を撮るかということと、光をどう扱うか、の2つだという気がします。商業的なフォトグラファーだと何を撮るかはほぼ決まっている状態なので、その中で個性を出すとしたら光の扱い方だけなんですよね。

田村:「光を見極める」って、抽象的な表現でわかりにくいかもしれませんが、簡単にいうと「そのクライアントの要望にマッチしたトーンに持っていく」と言い換えられると思います。例えば、作家性の強いフォトグラファーだと、クライアントも当然その人の特性を気に入ってはずなので、その作風で撮って納品する、でOKだと思いますが、自分はいろんなジャンルの仕事をやっているので、クライアントごとに、マッチする雰囲気やトーンをリサーチするんです。でも、100%クライアント好みにするのではなく、自分の好きなトーンとぎりぎりのところを狙って作るようにしています。

長年やっていると、ある程度どこでも撮れてしまうというのが正直あります。これまでの知識を活用して、クライアントの好きそうなイメージへ持っていくという作業とも言えますね。見極めるというか、どこでも大体、光は作れるし、コントロールできるようになるので、そこにある光を探し出す、みたいなニュアンスに捉えてしまわれるかもしれませんが、「作り出す」と言うほうが近いと思います。

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■SPEAKER

高木 裕次 TAKAGI YUJI
CREATIVE DIRECTOR / ART DIRECTOR
Twitter : @takagiyuji1

高橋 梢 TAKAHASHI KOZUE
CHIEF PROJECT MANAGER


■GUEST

田村昌裕 TAMURA MASAHIRO
http://www.freaksphotos.com/masahirotamura/

坂本美穂子 SAKAMOTO MIHOKO
https://mihokosakamoto.myportfolio.com/work

■Interviewer

小松﨑拓郎 KOMATSUZAKI TAKURO
https://twitter.com/takurokoma


株式会社ダイナマイト・ブラザーズ・シンジケート(DBS)

東京港区にあるデザインコンサルティングファーム。
ブランディング、デザインコンサルティング、ロゴマーク開発など幅広いフィールドで事業展開中。

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