SNSと広告業界で活躍するフォトグラファーの違い?

DESIGNER MEETS PHOTOGRAPHER Vol.11

編集思考とアートディレクションを武器に、企業やサービスの新たな価値を創出しているデザインコンサルティングファームDynamite Brothers Syndicate。日々、第一線のフォトグラファーとコンタクトをとっているクリエイティブディレクター、デザイナー、プロジェクトマネージャーが実際に出会い、影響を受けたフォトグラファーとのエピソードを明かします。

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>>>クリエイターとして突き抜けられない感覚をどうする?
DESIGNER MEETS PHOTOGRAPHER Vol.10


高橋:前回「突き抜けられない」という武井さんの葛藤のお話は印象的でしたが、武井さんにとってこれまで数多く撮られてきた写真の中で印象的な写真を今日は持ってきていただきました。

武井:2枚あって、まず1枚目は水中撮影の写真ですね。SNSで活動するフォトグラファーとしては結構早い段階でやり始めていたと思います。
3〜4年くらい前でしょうか。当時のSNSでは殆ど水中撮影はやっていなかったので、自分が水中写真をUPした時の反響が良くて、そこから「私も挑戦してみようかな」と思う人の流れが生まれたかなと思っています。SNS界隈では「武井さんは水中撮影のイメージあります」と言われることが今でも多くて、水中撮影の依頼をいただくこともあるので、そういう意味でもターニングポイントというか、重要な写真ですね。

2枚目は、YOHJI YAMAMOTOの広告写真です。僕は毎年年末に翌年の目標を設定しているんですけど、2021年の目標が実現したのがYOHJI YAMAMOTOの広告撮影でした。この仕事の経験は自分にとってとても貴重でした。自分の後ろに十数人という人がいて、写真も全部見られていて、時間も本当に限られていて…。そういう広告撮影環境のシビアさを改めて実感しましたね。SNS世界での楽しい環境で楽しく撮影して、自分が気に入った数枚を載せる、といった環境とは違って。この経験が今の自分の基盤になっていると思います。

高木:目標を決めてからYOHJIさんとのお仕事が実現するまで、どんな流れだったんですか?

武井:いろんなブランドや会社宛に自分でメールを送って営業しました。YOHJI YAMAMOTOさんには会社の代表メールアドレスにお送りしていたんですが、そのメールがブランドディレクターに渡って、そのブランドディレクターが僕の写真の雰囲気が好きな方だったようで、ご返信いただきました。

高木:地道な努力なんですね。

武井:断られるのは慣れてるんで(笑)。結構自分で営業はかけますね。最初怪しまれるのはしょうがないと思っています。営業しなくても仕事がくる人はもちろんいると思いますが、僕は自分で営業するタイプですね。

高橋:水中撮影のお話に戻るんですけど、水の浮遊感ってモチーフとして印象的ですが、モデル撮影で水を使うのって結構大がかりで大変ですよね。それも作品撮りとして「水中撮影をやってみよう」というのは、ハードルが高い気がしました。その世界観にあえてチャレンジしようと思ったのは、何故ですか?

武井:SNSの爆発的な普及によって写真全体のレベルが底上げした一方、クリエイティブはコモディティ化してきました。そんな中、どうやったらもっと工夫できるかなと考えていた時に、水中撮影は当時やられていないジャンルだったので、写真のライティング技術が上手くなくても、構図が上手くなかったとしても、潜って撮れば新鮮に映るのかなと思ってやってみたんです。

高木:新しいシチュエーションを作るって感じですね。

武井:そうですね。そういう意味であんまり深く考えなくても挑戦できました。

高木:誰も見たことのない場所に行ってシャッターを押したら、当然、誰も見たことがない写真になる。そういうシチュエーションに自ら身を置くことも、フォトグラファーの実力というか、努力の仕方なのかな思います。佐藤健寿さんとか、石川直樹さんとか。

高橋:なるほど。SNSで一定のフォロワーがいたり、ファンが増えていることを自覚すると、新しいモチーフやシチュエーションを考えると思いますが、それを実践する人って実際はあまり多くないのかなって。そんな中で武井さんがいち早く水中撮影を実現したのはすごいなって感じました。

武井:SNSの世界って広告写真の世界とは全く違う戦場なんですよね。例えば、YouTubeしか見ない人にとっては、YouTubeの世界が一番身近な存在で、そこで活躍している人たちが輝いて見えますよね。同じようにSNSの世界では、いわゆる広告業界の中で「巨匠」と呼ばれるフォトグラファーを知ることはほとんどなくて。世界が違うのでそもそも見ないんですよね。SNSはSNSの世界だけで成り立っていて、大体オススメ欄に流れてくる人やモノが中心になるんです。
だから例えば僕がオススメ欄に入っていたとしたら、僕が新しいことをやると、それが全てになるというか…。見ている世界がそもそも違うので、そういう「違い」みたいなものはあるのではないかと思っています。

高木:武井さんはそのSNSと広告の2つの世界をつなげようとしているんですよね?

武井:そうですね。

高木:SNSを見ていて「いい写真だな」って思うことはいっぱいあるし、それらは明らかに広告写真とは違うんだけど、それを広告の世界に転用することはできると思います。いわゆる「広告」に共感や好きの感情は抱きにくいけど、SNSにおけるクリエイティブは、見た人に共感や好きの感情を抱かせるチカラは強いと思うんですよね。そもそもメディアやプラットフォームとしての違いはあれど、それだけじゃない何かはあるのかなと。

SNSで活躍するフォトグラファーの工夫と葛藤

高橋: SNS写真の世界と広告写真の世界では、良いとされるものも違うし、撮影現場の雰囲気も違うということを伺いましたが、SNSの世界のことをより深く知りたいですね。

武井:SNS写真の世界では2通りあって、まず単純にフォロワー増やしたい人たちはどうしても波に乗る必要があるので、極端に言えば写真の良し悪しというよりも、とにかくウケる写真を投稿しないといけない側面があると思います。
インスタグラムだったら今はリールのエンゲージメントが高くなっているので、音楽をつけてバズるようなリールを作ったら一番伸びるので、今リールをやっている人は一番強いですね。「自分的にはあまり納得いかないけど、いいねもらえそうだな」と思ったら載せるとか、フォロワーを増やすのが一番の目標だった時はそういうこともしていました。PDCAを回して、ウケる写真を分析してそれを実践するという、純粋な「写真」とは関係ないところで戦っていくというイメージですね。

その一方で、SNSは楽しくやりたいという人たちもいます。フォロワーが増えるかわからないけど自分の好きなものを楽しく撮影するというのが大前提で、こっちの方の人数が多く、ある部分で今悩んでいる人たちだと思います。楽しく写真をやりつつも、「この先自分が撮っている写真が何かにつながっていくためにはどうしたらいいんだろう?」と。
実際広告写真の世界で、いわゆるエモくて幻想的な写真の需要がすごく多いかと問われるとあまりないですよね。「じゃあ、最終的にどこいくの?」って話になった時に仕事には繋がりにくかったり、とはいえ、自分が望ましいと思わない写真を載せて無理やりフォロワーを増やしたいとも思わないし…って伸び悩んでいる方って多いと思うんですよね。写真のスキルはあるのに、埋もれてしまう方がたくさんいるという現状です。

高木:SNSフォトグラファーっていう名称が良い呼び方なのかわかりませんが、その定義って何だろうと思っていたんですけど、そういうことだったんですね。後者の、自分の好きな写真を載せている方たちは、自分が好きな写真が撮れたら、それで満足してるってことですか?

武井:僕自身の経験や周りのお話を参考にすると、初めはそれで満足するんだと思います。もちろんその気持ちのまま続けていく方もたくさんいます。旅行先で写真を撮ったり、友達や写真仲間と一緒に楽しみながら撮るっていうこと自体が好きな方もいます。ですが、違和感を感じ始める人もいるんです。「あれ、この先何があるんだろう」とか「何のために写真を撮ってるんだっけ?」とか疑問を持ち始める人も出てくるという感じですかね。

高木:SNSで写真を撮っている人と商業的に撮っている人の違いって、もちろん最初は、両者とも純粋に「写真が好き」っていうところからスタートしているのだろうと思いますが、商業カメラマンは、途中から「仕事のために撮る」場面も出てきます。それをどう自分のフィールドや写真にするか、どう期待に応えるかが商業的な写真の醍醐味かと思います。でもSNSで撮ってる方々は、自分が好きなものだけを撮り続けるってことが続くので、それも幸せなことなんじゃないかなって思うんですけどね。

高橋:武井さんはSNS上で評価される写真をご自身でこれまで分析されてきたということでしたが、自分が表現したい世界観を主観的に撮影しつつ、同時に客観的に「他人からどう評価されるのか」を考えてトライアンドエラーを繰り返されているのは、本当にすごい…。
広告の撮影ではアートディレクターやデザイナーが考えた世界観をフォトグラファーがどんな風により魅力的に作り上げてくれるか議論は重ねるけれど、そのつくられたビジュアルをどう発信するかという点は当然フォトグラファーの仕事ではないわけで。だから、私たちがSNS関連の撮影のお仕事をいただくときに、発信や拡散に対するアイデアを持っているフォトグラファーの方々とご一緒できることはすごく強みになるんだなとあらためて感じました。
SNSで活動するフォトグラファーは写真の技術面でいうと自分の世界観や枠組みに固定されてしまいがちな部分があるのかもしれないけど、従来のフォトグラファーとは違う視点や考察があってそれは大きな強みだし、新しいフォトグラファーの形として興味深いです。

武井:僕はSNSもやっていて、フォロワーさんも増え、いろんな方が見てくださる状況になってきていますが、いわゆる巨匠と言われるような方ってSNSやってる方が少ないじゃないですか。パーソナリティーとかキャラクターを出してしまうと、仕事の幅が狭くなったりする等の理由があるのかなとか考えてます。僕自身も昔は気軽に呟いていたこととかが通用しなくなってきて、気がついたら無題のものやキャプションだけのものを発信していたり。
一方でインフルエンサーとかSNSをやる人は、どれだけ自分の個性やアイデアなどを発信できるかが重要だったりするので、相反する感じがしてSNSと広告写真の両方をやっている自分としては悩ましい部分ですね。広告業界でやっていきたいなら、自分をあまり出さず作品だけにした方がいいんだろうなとか、ウケる写真より芸術性の高い写真の方がいいんだろうなと思いますが、インフルエンサーとしての仕事もきたりするので、その時にフォロワー数は多いのにいいね数が少ないっていうのはあまり良くないから6回に1回は投稿が伸びるような写真を意識して入れようとか考えたり、その絶妙なバランスに苦労しています。

高木:いろいろな工夫をされているのですね。次回はさらにSNSで活躍されるフォトグラファーの現在地を深掘りできればと思います。引き続き、よろしくお願いいたします。

Photo by : Hirokazu Takei

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■SPEAKER

高木 裕次 TAKAGI YUJI
CREATIVE DIRECTOR / ART DIRECTOR

高橋 梢 TAKAHASHI KOZUE
CHIEF PROJECT MANAGER


対談ゲスト
武井宏員 TAKEI HIROKAZU

写真家/実業家 大阪生まれアメリカ育ち。2018年、広告代理と委託撮影を主とする総合クリエイティブサービスを展開する、株式会社CURBONを設立。経営者でありながら、人物や広告写真を撮影する写真家としても活躍中。

Instagram : @take1officail


株式会社ダイナマイト・ブラザーズ・シンジケート(DBS)

東京港区にあるデザインコンサルティングファーム。
ブランディング、デザインコンサルティング、ロゴマーク開発など幅広いフィールドで事業展開中。

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高木 裕次 Twitter : @takagiyuji1