クリエイターとして突き抜けられない感覚をどうする?

DESIGNER MEETS PHOTOGRAPHER Vol.10

編集思考とアートディレクションを武器に、企業やサービスの新たな価値を創出しているデザインコンサルティングファームDynamite Brothers Syndicate。日々、第一線のフォトグラファーとコンタクトをとっているクリエイティブディレクター、デザイナー、プロジェクトマネージャーが実際に出会い、影響を受けたフォトグラファーとのエピソードを明かします。

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DESIGNER MEETS PHOTOGRAPHER Vol.09


高木:これまでDynamiteBrothersSyndicate(DBS)のADデザイナーとともに、印象に残っているフォトグラファーのお話や、一緒に仕事をしたくなるフォトグラファーについて話をしてきました。
今日はこのENCOUNTERを一緒に始めさせていただくきっかけになったフォトグラファー武井さんと一緒に、「広告業界とSNS業界でのフォトグラファーの違い」や「SNSフォトグラファーがプロとしてさらに仕事で活躍するにはどんなことが必要なのか?」などお話できたらと思っています。

高橋:武井さんは今、フォトグラファーとして大変活躍されていて、SNSでは多くのファンがいらっしゃいますよね。この記事を読んでいる方の中にも武井さんに憧れている方は多いと思いますが、武井さんが写真を始めた原点をあらためてお伺いできますか?

武井:写真を始めようとしたきっかけはそんなに深い話ではないんです。元々アートなどには関心があったので学生時代はアートのクラスで学んでみたりもしていましたが、親からは「アートを仕事にするのは難しいし、生活が大変だぞ」と言われていましたし、医者になれだの、エンジニアになれだの、いろんなアドバイスをもらっていたので、まずは大学へ行こうと思って大学に行きました。

高橋:武井さんはご出身もアメリカですか?

武井:生まれは大阪です。7歳の時に渡米してジョージア州のアトランタで生活していました。そこからペンシルべニアの大学へ行って、それ以降はカリフォルニア、ニュージャージー、オハイオなどに移り住んでいました。アメリカで過ごす中で、時間に余裕ができた時があって、何かクリエイティブなことをしたいなと考えて最初に手に取ったのがカメラでした。
日本でいうところの撮影会みたいなイベントがあって参加したのですが、スタジオでファッションを撮るものだったんです。それが初めての撮影経験です。当然、何をしたらいいかもわからないので、モデルさんから「私は何をすればいいの?」って聞かれて「最高のポーズください」って言ったら「え?」って言われて戸惑わせてしまったり、とても緊張した思い出があります。
でもその緊張感やワクワク感、それから悔しさなどのいろんな感情が自分にとって新鮮で、そこから今に至るまで写真にハマっています。好奇心旺盛なタイプなので色々なことをやってきましたが、写真が一番深くハマったという感じがするので「天職」なんだろうなと自分で思っています。

高木:いきなり撮影会に行かれたんですか?

武井:はい。もちろんカメラを買ってからは花とか街の風景とかは撮りましたけど、よくわかんないなって思って、人物を撮ってみようと思ったけどいきなりそんなことに付き合ってくれる人なんていないよなーと思っていた時に偶然撮影会イベントを見つけたので、参加してみたという感じです。

高木:何人くらいのフォトグラファーがいたんですか?

武井:5人くらいだったかな?

高橋:日本で言うところの「撮影会」と、武井さんが初めて参加された撮影会って結構違いそうですね。いきなりスタジオでファッション撮影!

武井:そうですね。最近は日本でもいろんなタイプの撮影会ができてきたイメージがありますね。

高橋:アメリカで写真の魅力にハマってから、仕事として写真を撮り始めたのはどんなきっかけがありましたか?

武井:広告写真の仕事ではないですが、個人の撮影依頼とかを受けたりしていました。教室に通ったりして独学しつつ、モデル事務所に連絡を取ってコネクション広げて撮影に入れてもらったり。そこから個人依頼のお仕事がちょくちょく入るようになりました。写真一本で仕事をしていた訳ではないんですが、形から入るタイプなので、広いスタジオも借りたりして(笑)。

高橋:個人でいきなりスタジオを持つってすごいですね。

武井:いや、本当に形だけなんですけどね。

高橋:そのスタジオは武井さん専用のスタジオだったんですか?

武井:結構有名なフォトグラファーの方が自分の事務所兼スタジオとして運営している広いビルだったんです。4部屋くらいあって月額制だったので、そこを皆で借りてシェアしてました。今でいうシェアオフィス的な感じですかね。とにかく大きくて広かったですね。

高木:なるほど。さきほど写真教室に通ったりもしていたと伺いましたが、例えば有名なフォトグラファーに弟子入りしようとか、写真家の事務所に入ろうとかは考えなかったんですか?

武井:その当時、会社員で仕事もバリバリやっていたので、それを急に辞めてプロのフォトグラファーになることに悩んでいた時期もあります。楽しそうだけど、フォトグラファーの苦しさも間近で見ていたので。

高木:当時はどんなお仕事をされていたんですか?

武井:エスティローダーという化粧品会社でサプライチェーンやプロジェクトマネジメント関連の仕事をしていました。

高橋:そのお仕事を本業にされつつも、スタジオを借りて本格的に写真も撮られて、二足のわらじだったということですね。

武井:そうですね。会社では左脳を使うような職種だったのですが、写真って右脳を使うクリエイティブさが求められるじゃないですか。今思うと脳のバランスを取るという意味でもとても良かったんだと思います。どちらかだけというのも辛いので、今も自分の会社をやりつつ、写真を撮るというスタイルのままです。

高木:写真がずっと気になって始めたというよりかは、とにかく何かやりたくて始めたのがたまたま写真だった?

武井:そうですね。

高木:いいですね。これはデザインにも言えることだと思うんですが、写真を撮ろうと思って写真を始めると、真似から入っちゃうんですよ。憧れた写真とかがあった場合、その憧れに近づけようとして作ってしまうんですよね。それは学びの順序として正しいとは思いますが、そうじゃなくて「何かやりたい」とか、「1回たまたま撮ってみたら楽しかった」とかの方がいいなって、個人的には思います。

武井:単純ですよね。そんな面白い話がある訳ではないんです(笑)。写真を学びたいとか、吸収したいっていう向上心とか欲はあったので、独学でいろんな写真のインプットはたくさんしました。ワークショップに行ったり、テキサスからフォトグラファーの方をペンシルベニアまで呼んでマンツーマンで教えてもらったりもしました。
一人のフォトグラファーに弟子入りとなると、フルタイムでコミットしなきゃいけなくなるし、それは難しかったので、生計を立てるために会社で働き、それ以外の時間で自由に写真を撮るという感じでしたね。

高橋:テキサスからフォトグラファーを呼んで教えてもらったと仰っていましたけど、自主性がすごいですね。ワークショップを探して参加するのは一般的だと思うのですが、フォトグラファーに自ら声をかけて教えてもらう行動力が武井さんらしいというか。CURBONを始められたことにも納得がいきました。

武井:CURBONを始めたのは、自分が写真が好きで写真家として生きていくと決めたけれども現実的にとても厳しい道なんだろうなとも思っていたんです。自分と向き合った時に、いわゆる写真家の体裁にはなれないなって思っちゃったんですよね。
じゃあ次に、どう写真に貢献しようかと考えた時、写真で一写真家を目指すよりも、写真の会社をビジネスとして社会の架け橋になれればいいなと思ったんです。それがCURBONにつながります。

高橋:フォトグラファーに弟子入りして独立する、写真家の事務所に入って仕事をする等のいわゆる「王道」とは違う発想や視点を当時からお持ちだったんだなと感じました。

高木:でも武井さん的には必然だったんだなと感じます。少しおこがましいですが、武井さんの写真って、色々なものを撮れるという意味で器用だなって思ったんです。そことつながった気がします。ビジネスもやって、写真もやって、他にもいろんな好きなこともあって。

武井:でも中途半端なんですよね、それは自分でも自覚していて。何か突き抜けられないというか。

高木:武井さんに共感できるところは僕にもあります。「突き抜けられない」という感覚は、自分のデザインにも葛藤があって。
だからコピーを学んだり、企画書の中でどう相手に上手く伝えられるかを考えたり、デザインだけではない周りのロジカルな部分でどう期待に応えられるか、納得してもらえるか、いつも考えています。

高橋:武井さんは「突き抜けられない」ということに対して、どう向き合っていますか?

武井:とことん向き合いますね。クリエイターって基本苦しいじゃないですか。当然比べられたりもするし。いろんな部分で苦しさはあると思うんですが、それでも逃げずに貫いてやり続けるしかないって思っています。
自分のことを写真家として見た時に、○○さんのようにはなれないなと思ったとしても、やり続けているとちょっと前に進めたかなって感じる瞬間もあったりして。それが原動力になっているかもしれませんね。

高木:わかります。

高橋:自分を成長させられることって、力になりますよね。

武井:大活躍されている写真家の方たちとお話していても、皆さんそれぞれ悩みがあって尽きないし、永遠にあるものだなって思いました。

高橋:その永遠の葛藤がある中でも、ターニングポイントになったエピソードを次回伺いたいと思います。

Photo by : Hirokazu Takei

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DESIGNER MEETS PHOTOGRAPHER Vol.11


■SPEAKER

高木 裕次 TAKAGI YUJI
CREATIVE DIRECTOR / ART DIRECTOR

高橋 梢 TAKAHASHI KOZUE
CHIEF PROJECT MANAGER


対談ゲスト
武井宏員 TAKEI HIROKAZU

写真家/実業家 大阪生まれアメリカ育ち。2018年、広告代理と委託撮影を主とする総合クリエイティブサービスを展開する、株式会社CURBONを設立。経営者でありながら、人物や広告写真を撮影する写真家としても活躍中。

Instagram : @take1officail



株式会社ダイナマイト・ブラザーズ・シンジケート(DBS)

東京港区にあるデザインコンサルティングファーム。
ブランディング、デザインコンサルティング、ロゴマーク開発など幅広いフィールドで事業展開中。

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Instagram : @dynamitebrotherssyndicate

高木 裕次 Twitter : @takagiyuji1