「好き」という気持ちで作品はどこまで作れる?|俳優・佐久間麻由×プロデューサー・本田七海

「好き」という気持ちは、ものづくりをするうえで強みになるのか。それとも、制約になるのか。

そんな問いを軸に今回、2026年4月期に放送中のドラマ『スモークブルーの雨のち晴れ』をプロデュースする本田七海と、同作に出演する俳優の佐久間麻由による対談が実現。

本田は自他共に認めるBL好きで、BLコンテンツを数多く手がける映像プロデューサーだ。一方、佐久間は俳優として活動する傍ら、演劇好きが高じて企画ユニット「爍綽と」を主宰するなど、演劇プロデューサーとしての顔も持つ。

「好き」を原動力に作品を生み出す二人は、何を考え、どのように作品と向き合っているのか。その根幹にある熱量と覚悟に迫る。

PROFILE

佐久間 麻由

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佐久間 麻由

俳優・企画プロデューサー。これまで、萩田頌豊与(東京にこにこちゃん)、山田由梨(贅沢貧乏)、安藤奎(劇団アンパサンド)、神谷圭介(テニスコート/画餅)、岩井秀人(ハイバイ)、岩崎う大(劇団かもめんたる)、入江雅人、飴屋法水など、多様なクリエイターの舞台作品に俳優として参加。またドラマや、CM、コント作品などにも出演する。
近年は、企画・プロデュースとしても演劇に携わり、2022年に脚本家・演出家の福原充則らと「スリーピルバーグス」を旗揚げ。2023年には企画ソロユニット「爍綽と」を立ち上げ、精力的に活動する。

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本田 七海

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本田 七海

1994年生まれ。映像プロデューサー。日本映画大学脚本コースを卒業後、テレビ東京ドラマ室にてAPとして複数の作品に参加。その後、レプロエンタテインメントへ入社し、映像企画に携わる。
2024年、MBSドラマ「三ツ矢先生の計画的な餌付け。」で企画・制作プロデューサーとしてデビュー。以降、「親友の「同棲して」に「うん」て言うまで」(YTV)、「スモークブルーの雨のち晴れ」(YTV)など。とりわけBL作品での評価が高く、2025年には完全オリジナルのBL朗読劇「BLUE&GREY」を企画・プロデュース。

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やるっていったら引きたくない。プロデューサーとしての覚悟

佐久間麻由(写真左)/ 本田七海(写真右)

──まず、お二人の出会いについて教えてください。

本田:出会いのきっかけは、現在放送中のドラマ『スモークブルーの雨のち晴れ』(以下、スモブル)です。もともと佐久間さんの出演作品や「爍綽と」の舞台を拝見していて、エネルギーがありつつ繊細な演技が素敵だなと思っていたので、ご一緒できてうれしかったです。

佐久間:私もうれしかったです。撮影中、本田さんからは「この人は何かあるぞ」と感じさせる佇まいというか、作品に対するただならぬ熱意や想いがにじみ出ていて。この現場はきっと大丈夫だっていう安心感がありました。

本田:そんなに(笑)?

佐久間:はい(笑)。だから撮影が終わったあと、本田さんがスモブルの原作を好きだと知って、合点がいきました。

──お二人がプロデューサーになったきっかけは何なのでしょう?

本田:20代の頃、映像の仕事に携わりたくて、ドラマのAP(アシスタントプロデューサー)をやっていたんです。ただ、仕事をするうちに、作品を自分の色に染めていくプロデューサーってカッコいいなと思い始めて。自分もそういう作品づくりがしたいと、レプロに入社しました。

佐久間:私は正直なところ、自分をプロデューサーだと思ったことがないんです。やってきたことを振り返ったときに、周りの人が「それってプロデューサーだね」ってあとから名付けてくれたというか。

本田:興味深いです!それでいうと、佐久間さんが演劇プロデューサーを務める企画ユニット「爍綽と」は、どうやって始まったんですか?

佐久間:安藤奎さんが主宰する劇団アンパサンドの舞台を見て、衝撃的に面白くて「一緒に何かやりたい」と知り合いのツテで連絡して……というところからですね。そこから面白いクリエイターの方と出会うたびに公演を企画して、今に至るという感じです。

本田:行動力がすごい。ちなみに佐久間さんは、自分で立てた目標に対して、プレッシャーを感じることってあります?私は、やるって言っちゃったから引くに引けず。引きたくもないし、自分で自分を叩いて頑張るみたいなことがよくあって。

佐久間:あります。「なんでこんなこと思いついちゃったんだろう」って頭を抱えることとか(笑)。今はプロデューサーとしてもレプロと業務提携していますけど、一人で始めたから少し前までは相談できる人がいなくて。身体的にも精神的にもキツくて毎日眠れなかったです。

本田:わかります!私は、撮影の準備期間にスタッフと合流して、やっと少し肩の荷が降りる感覚がします。それまでは、同じ熱量で話せる人がいないなかで、作品を進めなきゃいけないしんどさがあるというか。

佐久間:私は、スタッフとキャストが決まるまでと、情報解禁までがしんどいです。そこを終えると、ひと山越えた感じがしますね(笑)。

本田:そこからはもう、腹を括りますよね(笑)。

──BLと演劇、それぞれ「好き」を仕事にされているお二人ですが、作品をプロデュースするうえで意識していることはありますか?

本田:意識的に客観視するようにしてます。というのも私、本当にBLが好きなんですよ。この仕事をやめたとしても、BLはずっと好きだと思えるくらい。だから、キャストやスタッフに「この作品をこうしたい」と、ブレることなく伝えられるし、それは自分の強みだと思うのですが、プロデューサーは自分の一言で作品の方向性を変えられる立場でもあるので、個人的な意見を言いすぎないようにしていますね。

佐久間:なるほど。それでいうと私、気になっていたことがあるんです。スモブルの現場って原作を好きな人がたくさんいたじゃないですか。主演の武田航平さんも原作のファンで、今回のドラマに早い段階から携わっていたと聞きましたし。でも、そのことって私がいただいた企画書には書かれていなくて。たぶん、私だったら、「主演の武田航平さんが原作ファンで……」って企画書に書いちゃうかもしれない。でも本田さんが、そうしなかった意図をぜひ聞きたいです。

本田:それも、ある意味での客観視ですね。というのも、原作へのリスペクトがあるので、企画書では自分のエゴをなるべく出さず、作品の魅力を伝えたいと思っているんです。ただ、映像化を交渉しに原作の出版社に行くときは、「こういう出演者で、こういうドラマにします」って熱く語りますけど(笑)。

佐久間:場面によって使い分けているんですね。私の場合、台本がない状態から舞台を作ることが多いので、「誰と何を作っていくか」という部分を重視することが多くて。本田さんの視点は、とても新鮮です。

佐久間:私は集まってくれた方たちに、参加してよかったと思ってもらえる環境を整えることを意識しています。自分がご一緒したいと思って声をかけるからこそ、場づくりには責任を持ちたいというか。いろんな客層に届くように工夫したり、終演後にゲストを招いてアフタートークを行ったりするのも、皆さんの未来に繋がったらいいなという想いからです。まだまだ力不足を感じますけど、頑張りたいところです。

本田:めっちゃわかります。他人を巻き込んだら、そこからプロデューサーとしての責任が生まれますよね。私も家で企画書を書いているときは無邪気だけど、人に見せる段階になると責任が乗っかってくる感覚がします。

プロデューサーとして「好き」な気持ちは武器になる?

──「好き」を仕事にするうえで、ユーザー視点とプロデューサー視点のバランスはどうとっているのでしょう?

本田:私は、チームづくりの段階では、プロデューサー視点が強いかもしれないですね。基本的には「この作品はどう受け取られるのがベストなのか」を考えながら、進むべき方向性をスタッフやキャストに伝えるようにしているというか。

ただ、現場で映像をジャッジする瞬間は、ユーザー視点になります。「今のカット、めっちゃ良かった」「これは泣ける」とか。自分が最初の視聴者として、素直にいいと思えるかどうかを大切にしています。

佐久間:私は、スタッフやキャストに声をかける段階では、ユーザー視点かもしれないです。というのも、ご一緒したいと思える人と出会うと、「どういう題材で脚本を書いてもらったらおもしろいかな」「どんなキャストが集まったらワクワクするかな」といったことを自分がお客さんだったら……という視点で考えて。その後、お客さんにどう届けるかを考え始めるタイミングで、徐々に作り手の視点に切り替わっていきます。

本田:そう考えると、私たちって逆ですよね。

──佐久間さんは、ご自身がプロデュースする舞台に演者としても出演されています。作り手と演者の切り替えはどのように行っていますか?

佐久間:その切り替えは本当に難しくて。気づけば、最近はプロデュースする立場でいる時間が多くなってしまっていますね。特に稽古期間は、宣伝に力を入れなきゃいけない時期でもあって、制作業務が重なりがちなんです。

他の俳優さんが台本と向き合っているときに、私は打ち合わせや制作作業をしている。そうすると、俳優としての自分に申し訳ない気持ちになるし、本当はもう少し俳優の自分に時間をあげたいんですけど。それをどう改善していくのかが、今の課題です。

本田:側から見ていると、佐久間さんはバランス感覚がすごいと思いますよ。プロデューサーとして作品を俯瞰する力と、俳優として作品に入り込む力って、バランスをとるのが難しいと思うんですけど、舞台を拝見したときはその両方ができているなと感じました。

佐久間:それでいうと、今はなんとかギリギリでやっているものの過渡期だなって。やっぱり、空白の時間がないのがちょっときついです。ありがたいことに数年後に向けて企画をいくつも並行して進めていることもあり、打ち合わせや現場が立て込むと「余計なこと」を考えられなくて。

本田:「余計なこと」というのは、寄り道みたいな発想のことですか?

佐久間:そうですね。そういうことを考える時間がないと、どうしても経験をもとにしたアイデアしか出てこないというか。未来に繋がる新しい発想って、空白の時間から生まれるものだと思うので、これからはその時間を意識的に作りたいです。

あわよくば、そのうち自分は出演せずに、プロデュースに注力した作品も作りたいです。自分が演者として出演していると、上演中のお客さんの反応を客観的に把握できなかったり、作品を俯瞰できなくなったりするので。

──最後に、プロデューサーとして生きていくために、必要な覚悟があれば教えてください。

本田:プロデューサーって、作品の一番の責任者であり誘導者みたいなものなので、大変なことのほうが多いんですよね。

佐久間:そういった大変さって、全然褒められないし(笑)。

本田:そうそう(笑)。 ただ、つらいことがあっても「私は映像が好きだ、BLが好きだ」という気持ちが根幹にあるから頑張れるというか。もしプロデューサーをやめたら気楽にはなるだろうけど、後悔するでしょうし。だから「好き」という気持ちは、自分の中で常に大切にしています。「これでいいのかな」って不安になる瞬間もいっぱいあるけど、自信を持てるぐらいの熱量があれば、大丈夫な気がしますね。

佐久間:私はちゃんとした段階を踏んでプロデューサーになったわけではないので、そのぶん「見極める力」が大事かなと思っています。自分が何に惹かれて、何が苦手なのか、何を求めるのか。それをしっかり整理して言葉にできるようにしておかないと、ブレちゃうかなって。

あとは、今回の対談のテーマにも繋がりますけど、やっぱり「好き」という気持ちが一番大事だと思います。それが自信に繋がるし、自信がつくと判断もできる。ほんと、毎日が選択の連続なので、判断しなきゃいけないことが多くて。プロデューサーをするなら、ジャッジからは逃げられないんだって、少し前に私も覚悟しました(笑)。

文:神保 未来
写真:しばた みのり