クリエイターが影響を受けた一枚 vol.8 #写真で表現される“愛”

編集思考とアートディレクションを武器に、企業やサービスの新たな価値を創出しているデザインコンサルティングファームDynamite Brothers Syndicate。日々、クリエイティブの世界で活躍するアートディレクターやデザイナーが影響を受けた写真家を紹介します。第八回は、アシスタントデザイナー伊藤友香が「写真で表現される“愛”」の視点でお話します。


THEME :写真で表現される“愛”

私は、写真を長く見つめて、頭の中でその写真の物語を作ることが好きです。静止している写真だからこそ、ある部分でわかりづらさもあり、被写体の関係性を自分なりに解釈して、想像を膨らませることができるからです。

なかでも “愛”を表現した作品は、想像を掻き立てられます。

近年の、多様な性的指向や性自認に対する認識の広がりを受けて、“愛”が表現されている写真と、“写真の要素(ライティングや構図、シチュエーションなど)”から、その写真が本当に伝えたいことは何かを深く考えるようになりました。

今回は、そんな私自身の視点で魅力を感じた作品を紹介していきます。


愛する人との時間/Jess T. Dugan

©️ Jess T. Dugan

アメリカ人フォトグラファーJess T. Duganさんの作品集「LOOK AT ME LIKE YOU LOVE ME」より。

カップルのポートレートを集めたこの作品集の中で、私が1番惹かれた1枚です。

同性カップルが寝室で2人きりの時間を過ごしている様子を写した作品で、この写真を見たとき、2人の「この時間が好き」という気持ちを感じました。互いを愛しているものの、隠せないほどの愛を第三者に見せることが不安な状況だというストーリーを想像しました。

夕陽の中で電気を点けないまま、もう少しで日が落ちていく部屋の暗さが、2人の関係を世界から隠しているような1枚です。

穏やかに目をつむっている2人、寝室の落ち着いた空気、夕陽からうかがえる時間の経過。この明るいようで暗い夕陽の落ち具合から、時間の経過とともに「あと少し…」という切なさや2人のわがままな心模様を感じます。このままでいたいという「2人の愛」と「時間がない緊張感」から、もどかしい気持ちになりました。

この写真が本当に伝えたいことは、“2人の愛”と“自然の光”が生む「時間が過ぎる速さ」だと感じました。

愛する人と過ごす時間は、驚くほどあっという間に過ぎてしまいます。暗に「愛する人と過ごす時間を大切にしてほしい」という意味が込められているのかもしれません。

愛おしい生命/Lisa Sorgini

©️ Lisa Sorgini

オーストラリア人フォトグラファー、Lisa Sorginiさんの作品は、家族の風景、母親の肖像画を柔らかな光や色で表現していますが、どこか静けさを感じます。その中でも、被写体の顔を写さない作品に惹かれました。

©️ Lisa Sorgini

妊娠線、帝王切開の傷跡、ほくろやシミがある「母親である」というエネルギーを感じる肌と、まだ老いることを感じさせない真っ新な子どもの肌。母親が、産まれたばかりの肌と直に触れ合い、子を愛おしむ“愛”。あえてお腹とへそを見せていることに、お腹の中にいた時から大人への体の変化を連想し「生命がここにある」ということを感じました。

表情を写さず、2人のお腹だけを大きく一面で見せたシンプルで思い切った構図ですが、これだけでも出産を終えた人には、妊娠~出産で体験する喜び、幸せ、痛み、不安などの共感を感じるのではないでしょうか。

写真を見入るほどに思い出が蘇るような、満たされた愛を感じます。体のパーツをアップで写した構図が、親子のポートレートのような全体を捉えた構図であれば、これほどの愛や共感を感じないかもしれません。

“親が子を愛しむ様子”と“お腹だけを見せる思い切った構図”が「生命」をふと感じさせます。

この1枚の写真から「生まれもったこの体を大事にする」ということを表現しているように感じました。

母親の姿/Lisa Sorgini

©️ Lisa Sorgini

Lisa Sorginiさんの作品集、「behind grass」より。

ガラス越しの構図が、まるである一家を覗き見しているようであり、画面越しのような距離感を感じる作品です。被写体の誰とも目が合わないことが、そう感じさせているのだと思いました。

この親子の様子を見ていると、母親として、子どもが一人前の大人になるまで見放さず、子育てを果たさなければならない、という強制された不満や我慢を表現しているようにも見えました。愛しているからこそ、不満や我慢の感情に陥る。窓の外では見えない、母親たちの内に秘めた虚無感や、つまらなさを感じます。

見方を変えて写真の要素に注目すると、柔らかな光具合、暗さが際立つ室内、窓に写る外の世界が、不満や虚無感を感じさせているようにも見えて、母親の「気持ちの不協和音」を捉えているように感じました。

表向きでは見せない、どこか虚無感のある母親たちの様子は、子育てにおける「本当の姿」を写しているのかもしれません。


今回、私の個人的な見解で3つの作品のストーリーを想像しました。

“愛”が表現されている写真にはあたたかさや被写体の柔らかさを感じますが、じっくりと被写体の気持ちや写真のストーリーを考えていると、現実的で複雑なメッセージがあることに気がつきます。

以前は、写真はフォトグラファーの「美の追及」や「こだわりを貫いている」ものと捉えていましたが、そこには社会に向けた強いメッセージ性が込められているのかもしれません。写真の美しさにももちろん魅力を感じますが、メッセージ性があるからこそ価値が生まれ、見る人の心に刺さるものになるのだとあらためて感じました。


伊藤友香 / Yuka Ito
Assistant Designer/ Dynamite Brothers Syndicate


株式会社ダイナマイト・ブラザーズ・シンジケート(DBS)

東京港区にあるデザインコンサルティングファーム。
ブランディング、デザインコンサルティング、ロゴマーク開発など幅広いフィールドで事業展開中。

HP : https://d-b-s.co.jp

【関連記事】#クリエイターが影響を受けた一枚