自分のひびきを探してほしい – 恩田義則 Group Photo Exhibition「ひびき」インタビュー
2024年2月28日(水)より、ファッション・フォトグラファー恩田義則とその撮影アシスタントを経験した9名によるGroup Photo Exhibition「ひびき」が、目黒区美術館にて開催される。
2020年12月には初回開催がされている本展。3年余りが過ぎ、2回目となる今回は新たな仲間も加わった展覧会となる。
技術がどんなに進歩しても、写真の本質は、雅かに伝えたいと感じた一瞬を四角いフレームで切り取ることにあります。
心にひびくものは、一人ひとり、違いがあります。そんな各々の一ひびき一を、ぜひご覧ください。
本展DMより
「自分のひびきはなんだろうと考えるきっかけになったらいい」と語る、主宰のフォトグラファー・恩田義則氏に話を聞いた。『POPEYE』や『Olive』といった雑誌カルチャーを作ってきた恩田氏は、どのように写真と向き合っているのだろうか。
PROFILE
PROFILE
恩田義則
1970年代に、日本を代表する写真編集者であった『カメラ毎日』の編集長・山岸章二氏に見出され、『装苑』(文化出版局)『anan』(平凡出版・現マガジンハウス)などでファッション・フォトグラファーとしてのキャリアをスタ ートさせた後、『POPEYE』(平凡出版・現マガジンハウス)に創刊準備から参加する。
1980年代以降は、『Olive』(マガジンハウス)『EDGE』(学研/ペーパークリップ)などを中心に、数多くのファ ッション・フォト・ストーリーを発表し、同時に、当時全盛だった国内のデザイナーズ・ブランドで、ブランドのイメージフォトを手がけた。
1990年代には、アルマーニの発行する雑誌『Empolio Armani Magazine』にも参加した、1980年代以降の日本を代表するファッション・フォトグラファーのひとり。
自分のひびきはなんだろうと考えるきっかけに
── 写真や撮る力との出会いを演出するのが、ENCOUNTERです。そんな背景の中でお話を伺わせてください。
そうですね。今回のグループ展のテーマは「ひびき」なんです。アシスタントたちと毎年新年会をしてるんですが、3年前のその会で何となくみんなとグループで展示をしたいなという話をして。
その時に「じゃあテーマは何ですか?」と聞かれて、「ひびき展をやろう」と即答した。みんなも賛成してくれたので、2021年の12月にはじめてひびき展をやったんです。
その時はあまり考えないで「ひびき」って提案したのですが、後で考えてみるといいテーマだったんじゃないかなと思っていて。なぜかというと、ひびきは、写真撮る時の原点だから。
写真を始めた20歳から55年間プロとして活動していて、結局はひびくからこそシャッターを押す。
グループ展示をなぜやりたかったか?というと、もし個展をやったとしても、見た人が「あぁ、自分のひびきと違うな」って、世界観に入り込めないこともあると思うんです。でもグループ展だと、10人いたら10人のひびきを共有できますよね。
このひびきと自分のひびきが、よく似てるな、自分にはひびかないなとか、そういう自分の感覚を確認できるんじゃないか、だからグループ展でやる意味があるんじゃないかと思ったんですよね。自分のひびきはなんだろうと考えるきっかけになったらいいなぁと。それがこの展示のいちばんの目的です。
ただひびいて撮って終わりじゃなくて、ひびいたものを自分の世界に落とし込む。
ちょっと今ここに作品を持ってるんです。
── おー!
これはね、人が何千人って通る場所にあった球面なんですよ。これはすごく大きいんですね。
これをほとんどの人は、自分を映り込ませて面白がって撮ってるんですよ。でも自分の中では、自分が映り込んだ写真を撮っても面白くないと思ってて。
自分の中ではその日の雲の感じを切り取ったら面白いし、美しいと思ったんですね。その瞬間にフレーミングして撮ってるんです。
見極めて、見立て、絵にする。どういうふうに自分は絵に収めたいかとひびいたかで、それをあっという間に絵にすることが、写真にするということだと考えています。
── なるほど。
これは、銀色の自動車カバーなんですよ。
まっすぐ切り取ってるんだけど、自分はこの銀色が切り取られた部分が綺麗だと思った。だから本当の意味では自動車のカバーを撮っているわけではないんですよね。絵を作ってるだけなんです。
ここでも、絵として自分の世界感に落とす。ただひびいて撮って終わりじゃなくて、ひびいたものを自分の世界に落とし込む。
── それが写真であり、写真家の個性なんですね。
それは仕事の時もそうだったんです。『Olive』だったら『Olive』の世界観に落とし込んでいく。だから、他の雑誌の写真とは全く違うものになる。
『LEON』ではよくジローラモさんを撮らせてもらっていました。そこでも、ただひびいたから撮るのではなくて、自分にとっては、ジローラモさんの大人の色気は彼のお茶目な一面にあると思って、それを写真に落とし込んでたんです。
── その落とし込みという名の見極めができるから、10年間も表紙を撮り続けることができたんですね。
洒落と粋
── 展示される作品たちは、なぜひびいたんだろうか、というのは鑑賞者として気になるところです。この2枚に共通してるひびきはあるんですか?
本阿弥光悦の書が好きなんです。
字の太さ、細さ。本阿弥光悦の書は洒落てるんですよね。そこまでの洒落感には追いつかないけれど、自分の中で、洒落感で撮ってる感じがあるかも。
彼もけっしてうまい字を書こうとは思ってない。自分の感覚で強弱を付けて、空間を上手く字配りして書いている。こういう感覚が一人ひとりの個性だと思うんですよね。
こういうものを自分の中で探せると写真も面白くなる。「美しい」とか「可愛い」で撮っていないで、自分はどういう部分を洒落感として感じているか。
── 本阿弥光悦って、硯箱も作った方ですよね。作者の意図が盛り込まれていて、そこに粋だなって感じさせるものだと思うんですけど。
そうそう。だから写真の写実性は、じつはあんまり好きじゃないんです。さっき話したように、自動車のカバーは見えなくていい。
写実性を意識するなら「自動車のカバーですね」って分からせなきゃいけないんだろうけど、僕はそういう意識は全然ない。この銀色と黒のストライプがかっこいいなと。
── はい。
瞬時に見立てて切り取り、暗室やフォトショップで自分の世界感に近づける。写真にしていくとは、そういう作業だと思っています。
── そうやって瞬時に見立てるのは、目の前にあるものに、自分なりの価値を見出していくようなことなんでしょうか。
そうですね。
── 千利休は茶を喫することに価値を見立てて広めていった方ですが、写真家もそういうふうにして、自ら価値を見立ててそれを共有していく。そんな役割があるのかもしれないですね。
そうですね。だからそういう意味では「写真はこうでなきゃいけない」と自分は思ってないんです。
「こうであらねばいけない」ではなく「これっていいでしょ?」
そもそも自分の世界に落とし込んでるっていう写真は、なかなか理解されないと思うんですね。
── そうかもしれません。
そういう意味では、今回グループで展示することによって、こういう写真もありなんだなって感じてもらえたらと思う。自分がなににひびくのか、考えるきっかけになったらいいな。少しでも勇気づけられる人がいるんだったら、それでいいなと思ってます。
今75歳なんですが、自分は55年間、本当に写真を楽しんでるんです。写真はこうでなきゃいけないっていう意識は取り払って、いかに自分の世界を写真に落とし込んでいくかを大切にしてきました。
でも「うまい写真はこういうものだ」って、思っちゃってる方もいると思うんですよね。
── あー。そういう固定概念が、気づかないうちにもインストールされているかもしれません。
そんなことより、自分の世界観を写真に落とし込んでいったものの方が面白い。
枠に捉われないで、自分らしく、思いっきり取り組んで楽しんでほしい。今まで見られなかった、これもありだねっていう写真を見たいんですね。ひびき展では、自分はこんなことをやってみてもいいんだなって、元気づけられたらすごく嬉しいです。
▼ information
Group Photo Exhibition 『ひびき』
参加フォトグラファー
恩田義則 / 山吹泰男 / 鷺坂隆 / 城石裕幸 / 三東サイ / 水谷綾子 / GENKI / 河合綾 / 堤敦子 / 池田宏
2024年2月28日(水)-3月3日(日)10:00-18:00 最終日15:00まで(入館17:30 / 最終日14:30まで)
目黒区美術館 区民ギャラリー / Meguro Museum of Art, Tokyo
〒153-0063 東京都目黒区目黒2-4-36 地下1階(JR目黒駅西口から徒歩約10分)
写真展詳細ページ:https://mmat.jp/public/gallery_exhibition_schedule.html