映画『若き見知らぬ者たち』スチールカメラマン・向後真孝インタビュー「表現の裏にある想像力」

2024年10月11日(金)より全国公開中の、『佐々木、イン、マイマイン』で知られる内山拓也監督の商業長編デビュー作『若き見知らぬ者たち』。磯村勇斗が主演を務める本作は、内山監督が身近な見聞からインスパイアされて書き上げたオリジナル脚本による、今を生きるすべての表現者たちへ送る物語である。

あらすじ

風間彩人(磯村勇斗)は、亡くなった父の借金を返済し、 難病を患う母、麻美(霧島れいか)の介護をしながら、 昼は工事現場、夜は両親が開いたカラオケバーで働いている。彩人の弟・壮平(福山翔大)も同居し、同じく、 借金返済と介護を担いながら、 父の背を追って始めた総合格闘技の選手として日々練習に明け暮れている。
息の詰まるような生活に蝕まれながらも、 彩人は恋人の日向(岸井ゆきの)との小さな幸せを掴みたいと考えている。 しかし、彩人の親友の大和(染谷将太)の結婚を祝う、 つつましくも幸せな宴会の夜、 彼らのささやかな日常は、思いもよらない暴力によって奪われてしまう。

今回は、本作のスチールカメラマンを務めた写真家・向後真孝氏にインタビューを実施。撮影の裏側や印象的なシーン、映画撮影現場でのスチールカメラマンの役割について語ってもらった。

向後真孝

向後真孝

1992年生まれ。歴史と文化人類学。写真と山。私作品「山とヒト」「月草」「我喜欢吃」。

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──まず、今回のプロジェクトに参加されることになった経緯についてお伺いしたいのですが、内山監督とは10年ほど前からお知り合いだったそうですね。

共通の友人を通じての知り合いでした。ある日、監督から「映画を撮るのだけど、スチールカメラマンをやってくれないか」という連絡がありました。後々理由を聞いたところ、彼が僕の撮った写真をWEBやSNSで見てくれていて、被写体との距離感に魅力を感じてくれたのが声をかけてくれたきっかけのようです。

──監督からはどのようなリクエストがあったのでしょうか。

いわゆる記録写真というよりは写真家としてのカラーや個性を活かして撮ってほしいというオーダーをいただきました。ただ、それを映画撮影の現場で実現するのは難しい部分もありました。撮影の進行を妨げず、かつ自分自身の撮りたい写真にも妥協をしないという課題にどう対処するか、自分なりに試行錯誤しました。

──劇中では描かれていない、シーン前後の時間を撮影してほしいというリクエストがあったとお聞きしました。台本にないシーンをイメージして撮るのは難しかったのではないでしょうか。

自分にとっては簡単なことではありませんでした。描かれていない部分を事前に想定した上で撮ることになりますが、超えてはいけない一線もあります。そのため、どんな写真を撮るかは、監督と密にコミュニケーションを取りながら進めていました。

──デジタルとフィルムの使い分けについてもお伺いしたいのですが、それぞれどのカメラで撮るかは場面ごとに決まっていたのでしょうか?

現場にはデジタル、35mmフィルム、中判フィルム、ハーフの4台を持って行きました。カメラは感覚で使い分けていました。

今回の現場では、事前に写真をどのように使うかといった具体的な決め打ちはなかったので、シンプルに“良い写真を撮ること”に集中していたと思います。「このシーンはこのカメラで撮りたい」という直感に従い、反射的に選んでいましたね。

“劇中のカメラマン”として臨んだ後楽園ホールの撮影

──では、メインビジュアルもこの写真になると決まっていない状態で撮影されたのでしょうか。

そうですね。ただ、事前に台本を読んで「ここは強い画になるだろうな」と予想していたシーンの写真を、結果的にポスターに選んでいただけた形となりました。このシーンは台本を読んで最初にパッと頭の中で具体的なイメージが描けていたところだったのですが、撮影したのは約1ヶ月の撮影期間の中の最初の日でした。

初日なので、現場での撮り方を探っているタイミングではあったのですが、重要なシーンだと思っていたので、少し時間をくださいとお願いし、集中して撮影しました。そのため、この写真がメインビジュアルになると聞いた時も、撮り手として自然に納得できていたと思います。

──『若き見知らぬものたち』の撮影で特に印象的だったシーンはありますか?

思い出せないようなシーンはひとつもないくらい濃い撮影だったのですが、印象に残っているのは後楽園ホールでの格闘技の試合のシーンです。

このシーンは実際の格闘技の試合を撮影する時と同じ配置で臨みました。自分も“試合を撮影するスチールカメラマン役”として出演しながら撮れるという環境で、画面に写ってもいいし、シャッター音がシーンの場の音になるのでシャッター音も出せる。この時だけは、ムービーカメラの位置や音を気にせず撮れるシーンだったんです。

現場には、実際の格闘技の試合さながら、リングの外に複数のカメラマン役が配置されていましたが、その方々は役者ではなく、後楽園ホールで試合を撮影しているプロのカメラマンでした。

彼らに事前に動き方を教えていただき、シーンの中での動線を打ち合わせました。途中まではリングの縁に立っているはしごの上から撮影していたのですが、最後のラウンドだけはリングの外に降りて、中判フィルムカメラで撮影に挑みました。

「最後のラウンドで10枚撮り切ろう」という気持ちで撮影を始めましたが、実際の試合と同じく、選手がどこに来るか予測できない中で、動き回りながらシャッターを切りました。その10枚のうちの1枚がこの写真です。

出演しながら撮影するという独特の緊張感もありましたし、映画の世界の中のカメラマンとして撮影した写真でもあるので、他の写真とはまた異なるものになっているかなと思います。

自分以外の仕事を理解することが正しい判断へと繋がる

──今回『若き見知らぬ者たち』の撮影現場に入る前にどのような準備をされていたのでしょうか?

台本は読み込んで現場に臨みました。登場人物がどんな人間で、どのようなバックボーンを持ち、どんな行動をとるのか、自分なりに想像を膨らませてみたりもしました。「この人物ならこの行動や表情はしないのかな」という感覚はなんとなく持っていたので、それをもとに監督と話し合いながら理解を深めていきました。

──スチールカメラマンの立ち回りとして心掛けていたことはありますか?

多くの人が集まり、ひとつの作品を作り上げていく場なので、自分の仕事以外にも気を配ることでしょうか。スチールの仕事は写真を撮ることですが、現場ではそれだけを最優先にはできない。とはいえ「邪魔にならないように撮れるものだけ撮ろう」という心構えでいたら、そこにいる意味がない。なので、そのちょうど良い塩梅を探ることを心掛けていました。

周りのスタッフさんとコミュニケーションを取ることも大切だと考えています。映画とひと口に言っても、おそらく現場ごとに進め方や空気感は異なると思うので、見ているだけでは分からないことがあります。なるべくコミュニケーションを取り、状況理解に努めることで、「今なら撮れる」とか「今は控えた方がいいな」といった判断ができるようになると思います。

──今回の撮影現場で、ご自身の中で新たに学んだことや気づきはありましたか?

「力を抜くこと」の大切さを学んだ気がします。自分のやり方が固まってくると、こだわりやプライドが生まれると思います。でも、こだわりを常に通せる場ではないからこそ、ギュッと入ってしまっていた力を抜くきっかけにもなったと思います。

──最後に映画を観る方へ伝えたいことはありますか?

Instagramでの100日投稿は、映画本編のストーリーとは違った構成を組んでいます。映画を観る前でも観た後でも、改めてInstagramの投稿を見てもらえたら、本編とはまた違った楽しみ方ができるのではないかと思います。よろしければ、ぜひInstagramもチェックしてみてください。

『若き見知らぬ者たち』Instagramより

▼INFORMATION

映画『若き見知らぬ者たち』
全国公開中
原案・脚本・監督:内山拓也
出演:磯村勇斗、岸井ゆきの、福山翔大、染谷将太、伊島空、長井短、東龍之介、松田航輝、尾上寛之、カトウシンスケ、ファビオ・ハラダ、大鷹明良、滝藤賢一、豊原功補、霧島れいか
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