写真から映画へ——写真家・松本路子が手がける初監督作品『Viva Niki タロット・ガーデンへの道』
9月25日(水)より東京都写真美術館ホール、9月27日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開となるドキュメンタリー映画『Viva Niki タロット・ガーデンへの道』。
本作は、20世紀を代表するフランス生まれの造形作家ニキ・ド・サンファルが歩んできた道のりを、旅するように辿るドキュメンタリー映画だ。監督を務めたのは、本作が初監督作品となる写真家・松本路子氏。オノ・ヨーコや草間彌生など、著名な女性アーティストのポートレートで知られる松本氏が、なぜ今回ドキュメンタリー映画を手掛けるに至ったのか。その経緯を伺った。
『Viva Niki タロット・ガーデンへの道』
20世紀を代表するフランス生まれの造形作家、ニキ・ド・サンファル。彼女は創作活動の集大成として、イタリア、トスカーナに20年の歳月をかけて彫刻庭園「タロット・ガーデン」を創り上げた。ニキと10年以上にわたり交流してきた写真家、松本路子が、その奇跡の庭園を訪れ、これまでに撮影した貴重な写真や新たに撮り下ろしたニキ作品の映像、関係者へのインタビューを通して、ニキの歩んだ道を辿る、日仏二人のアーティストの軌跡が交差した至福のドキュメンタリー。
PROFILE
PROFILE
松本路子
写真家、エッセイスト、映画監督
1950年静岡県生まれ。法政大学文学部卒業。
10歳の頃、父のお古のカメラを手にして写真を撮り始める。
1970年代の女性運動を日本、アメリカ、ヨーロッパで記録し『のびやかな女たち』(話の特集)を出版。80年代より、世界各地の現代を代表するアーティストやダンサーなどのポートレイトを撮影。写真集に『肖像 ニューヨークの女たち』(冬樹社)『ニキ・ド・サンファール』(パルコ出版)『Portraits 女性アーティストの肖像』(河出書房新社)『DANCERS エロスの肖像』(講談社)などがある。エッセイ集を出版のほか、個展多数。東京国立近代美術館、東京都写真美術館など、国内外の美術館に作品が永久収蔵されている。
ニキというアーティストともう一度向き合いたい
——今回、なぜニキ・ド・サンファル(以下 ニキ)のドキュメンタリー映画『Viva Niki タロット・ガーデンへの道』を撮ることになったのでしょうか。
数年前、自分の人生でやり残したことは何かと考えた時、80年代から10年間撮り続けてきたニキ・ド・サンファルというアーティストと、もう一度改めて向き合いたいと思ったんです。ニキという人物を皆さんにご紹介したいという気持ちはもちろんありますが、同時に、1人のアーティストの生涯を辿ることで、自分自身の歩んできた道も振り返りたいという想いがありました。
ニキの作品は動く噴水や彫刻、巨大な建造物が多いため、直感的に動画にしたいと思いました。そしてニキの作品を旅するように辿りたいという気持ちから、映画という表現方法に行き着いたのです。
——初めての映像作品ということで、松本監督にとっても大きな挑戦だったのではないでしょうか。
そうですね。私にとっても本当に大きな冒険でした。 ただ、私は写真を50年やってきたので、この先どのくらい仕事ができるだろうかと考えた時に、もう少し冒険してみたい、何か新しいことに挑戦したいという気持ちもありました。また、体力的にもムービーカメラを担いで丘を駆け上がるということは今しかできないかもしれないと思い、映画制作に踏み切ったのです。
自由な発想と遊び心に魅了された
——松本監督とニキとの出会いについて、改めて教えてください
1981年に撮影のために彼女の自宅を訪ねたのが、最初の出会いです。当時、私は女性アーティストを1人につき1枚だけ制作するポートレートシリーズの撮影をおこなっていて、実はニキも1枚だけのつもりで会いに行ったんです。しかし、彼女の自宅で模型を見せていただきながら、タロット・ガーデンの構想について話を伺っているうちに、その自由な発想と遊び心にすっかり魅了されました。そして、彼女をずっと撮り続けたいという想いが芽生えたんです。
私は「遊び心」という言葉をよく使いますが、ニキと出会った当時、30歳くらいだった自分にはその遊び心が欠けていたんだと思います。今ほど自由や個性が尊重される時代ではなかったですし、私自身、仕事に一生懸命になりすぎて、どうしても真面目一方な方向に進んでしまっていたんです。そんな時に、軽やかに遊び心を持って作品を作り出すニキに出会い、自分にはないものを持つ彼女に非常に強く惹かれました。
ニキ以外にも多くの女性アーティストを撮影していますが、結局のところ、私は自分に無いもの、これから得たいと思っているものを持つ人々に会いに行って、撮っているのだと思います。
——彼女から得た学びで一番大きなものはなんだったのでしょうか。
「人生への探求心」を持つことです。彼女は人生における様々な事象に疑問を抱き、それを探求し続けていました。既成の概念や価値観に囚われることなく、自分自身の作品とその世界を作り上げていたのです。作品をつくる側として、既存の枠組みに縛られず、自分の発想で作品を作り上げる姿に強く惹かれましたし、私自身もそうありたいと思っています。
ニキのメッセージを受け取ってもらえたら
——本作を制作するにあたり、松本監督が写真家としてこだわった点を教えていただけますか。
私は映画を作る上で、ニキの肖像写真もぜひ見ていただきたいという思いがありました。そのため、80年代に撮影したモノクロームのニキのポートレートを、映画の中で数多く紹介しています。私は、カラーよりもモノクロの方が人物の内面をより表現できると感じているので、ポートレートは特にモノクロが好きなんです。
カラーで撮影したニキの作品の映像と、モノクロで撮影したニキの写真、その両方をうまく組み合わせることができたら素敵だなと思い、そうした構成にしましたが、その結果“写真家による映画”という面が引き立ったのではと考えています。
——長年向き合ってこられた映画がついに完成されましたが、今後さらに挑戦してみたいことはありますか?
それはもちろんです。映画制作はやり残したことのうちの一つに過ぎないので、他にも挑戦したいことはたくさんあります。ただ、映画はこの1本で一区切りとし、これからは再び写真のプロジェクトに力を注ぎたいと考えています。
とはいえ、今の一番の願いは、この『Viva Niki タロット・ガーデンの道』を多くの方々にご覧いただき、楽しんでいただき、ニキの残したメッセージを受け取ってもらうことです。海外ではカナダのバンクーバー国際映画祭での上映が決まっていますが、タロット・ガーデンがあるイタリアでも上映したいですし、世界各地の皆さんに観ていただけたらと願っています。
▼INFORMATION
『Viva Niki タロット・ガーデンへの道』
(2024年/日本/日本語/76分/カラー&モノクロ/1.78:1/ステレオ)
監督・撮影・脚本:松本路子
ナレーション:小泉今日子
編集:池田剛
音楽監修:青柳いづみこ
オリジナルエンディング曲:黒猫同盟(上田ケンジと小泉今日子)
製作:ニキの映画を創る会
助成:ポーラ美術振興財団、クラウドファンディングPLAN GO、藤田晴子の会、上野千鶴子基金
後援:ニキアート財団
グラフィックデザイン:辛嶋陽子
配給・宣伝:ミモザフィルムズ
宣伝協力:クレスト
Text 浅井智子