私たちが撮影日を迎えるまで #裏方対談 | わたしのone color
作品が生まれるその過程には、撮影を支えるスタッフたちの物語があります。どんな準備を重ね、どのような想いで撮影に臨むのかーー。本企画では、ふだんはあまり注目されることのない「裏方」にスポットライトを当て、撮影日を迎えるまでの道のりを紹介します。
今回焦点を当てるのは、ENCOUNTER MAGAZINEの人気企画「わたしのone color」。本企画を発案しヘアメイクを手がける前田紗良さんと、スタイリングを担当する大橋みずなさんにお話を伺いました。
HAIR & MAKE UP
HAIR & MAKE UP
前田 紗良
メイクアップアーティスト/ビジュアルデザイナー
神奈川県生まれ。2011年にメイクアップアーティストとして独立。主にアーティストや俳優、企業広告でのヘアメイク、時にはスタイリングを担当。
クライアントワーク以外にも、企画〜ヘアメイク・スタイリング、時には撮影まで自分で行う作品創りにも力を入れており、定期的に個展も開催。現在、「ENCOUNTER MAGAZINE」にて自身が企画した「わたしのone color」が掲載中。
STYLIST
STYLIST
大橋 みずな
東京服飾専門学校卒業後、スタイリスト事務所などを経て2006年に独立。現在フリーランス。
スタイリングだけでなく、近年はESMOD JAPONにてパターンを学び、衣装デザインや縫製の仕事にも幅を広げている。
「わたしのone color」
出演者本人に、思い入れのあるカラーアイテムを一つ選んでもらい、そのカラーを使ってメイクとスタイリングを行う本人参加型のビューティー企画。選んだ色にまつわる想いや、エピソードを写真とともに紹介しています。
こちらからチェック ▶︎ 「わたしのone color」一覧
その人らしさが伝わるメイク企画にこだわりたかった
ーー「わたしのone color」は前田さんが発案された企画だそうですね。その背景を教えてください。
前田:撮影の際のメイクは、一般的に撮影コンセプトに沿ってスタッフが行いますが、本来メイクというのは、その人の内面を映し出すものだと思っています。出演者本人にメイクアイテムを選んでもらうことで、その人の個性や想いを引き出せるのでは、とこの企画を考案しました。
選んだアイテムにまつわるイメージやエピソードを出演者本人の言葉で語ってもらい、より一層その人らしさが際立つよう工夫しています。「まどろみブルー」や「穏やかブラウン」といった印象的なカラー名も、出演者によって名付けられたものなんです。
ーー出演者はどのように決めているのでしょうか?
前田:そもそもこの企画は、私がディレクター的な立場に立って進行していることもあり、出演者のキャスティングも私が担当しています。基本的には、雑誌や広告、映像作品を見ていて、気になった方にお声がけをしていますね。ふだんはキャスティングから担当することはほとんどないため、とても新鮮に感じています。
ーー出演者が決まってから、撮影日を迎えるまでの流れについて教えてください。
前田:出演者が決まったら、アンケートをお送りして、ピックアップしたいアイテムと、アイテムにまつわるエピソード、そのアイテムに名前をつけるなら何にするかを聞きます。アンケートが返ってきたら、その内容をもとに大橋さんとオンラインで打ち合わせを行い、大まかな方向性が決めていきます。その後、撮影地や具体的なヘアメイク、スタイリングのプランを固め、撮影日を迎えるという流れです。
大橋:打ち合わせの際、前田さんはアンケートの内容に加えて、ヘアメイクのイメージも詳しく伝えてくれます。ときにはスタイリングのラフ案まで用意してくれるので、丁寧な仕事ぶりにとても感激しています。
前田:そう言ってもらえるとうれしいです!実はスタイリングについては、具体的なイメージがパッと浮かぶときもあれば、なかなか出てこないときもあるんです。というのも、私の場合、アンケートを見てまず思い浮かぶのは、ロケーションなんですよ。「都会的な雰囲気が合いそうだな」とか、「自然の中がぴったりかも」とか。
出演者が佇む姿を想像して、そこから細かな部分に落とし込んでいく方法が自分に合っていて。だからこそ、イメージをラフに伝えても、しっかりと汲み取ってくれる大橋さんには感謝しています。
ーーロケーションが先に思い浮かぶというのは面白いですね。では、撮影場所はすぐに決まるのでしょうか?
前田:私がイメージするロケーションはざっくりとしたものなので、撮影場所に関しても、二人で会話をしながら解像度を高めていくことが多いです。「こういう場所はどう?」といった具体的な相談をすることもありますが、基本的に二人でアンケートの内容を見ながら、出演者の感情を紐解き、場所を連想していきます。「こう書くっていうことは、こんな場所がいいのかな」みたいな。たとえば川床さんの場合は、アンケートから大人っぽい思考が感じられたので、洗練された雰囲気の場所を撮影地に選びました。
大橋:衣装は、風景に馴染んだ方がいいのか、逆にスタイリングを際立たせた方がいいのか、みたいな会話もよくしますよね。出演者の内面を表現することを何よりも大切にしているので、場所、ヘアメイク、スタイリングの方向性がちぐはぐにならないよう、都度相談をしながら方向性を揃えるようにしています。
打ち合わせだけでなく、撮影場所の候補を送り合ったり、ヘアメイクやスタイリングのアイディアを共有したりもしますね。そのときは、フォトグラファーの武井さんも含めたグループLINEで共有し、撮影チーム全員が内容を確認できるようにしています。
共通言語をもつことが、スムーズなビジュアルづくりにつながる
ーーお話を聞いていると、お二人の足並みが揃っている印象を受けます。企画開始当初から、“相性のよさ”みたいなものは感じていたのでしょうか。
前田:大橋さんとは以前、定期的にお仕事でご一緒していた期間があって、そのときに「好きな世界観が一緒だな」と思っていました。それもあって、この企画ではぜひご一緒したいなと。
第一回目の森さんの撮影では、初回ということもあり、「まずはやってみよう」という雰囲気だったんです。私もラフなどは用意せず、大橋さんに「本番は、ブルーのふわっとしたスタイリングでお願いしたいです」とだけ伝えました。そしたら素敵な衣装を用意してくれて、そのときに「共通言語をもちやすい方だな」と実感しましたね。
大橋さんは、さまざまな現場を経験されているので、言葉にしきれないことへの理解が深いんだと思います。私が、描いているイメージや守りたいラインをしっかりと汲み取ってくれるので、安心しておまかせできるんです。
大橋:“相性のよさ”でいうと、私はあまり話さないタイプなので、前田さんのコミュニケーション力にはとても助けられています。フォトグラファーの武井さんや出演者のマネージャーさんなど、各所と連携を取りながら丁寧に進行してくれる安心感があって。当日の撮影現場も、前田さんがいるととても楽しいんですよ。
ーー回を重ねるごとに撮影で悩むことが少なくなってきたと感じることはありますか?
大橋:いえ、新しい撮影が始まるたびに、初心に戻って悩んでいます(笑)。毎回悩む場所が違うんです。たとえば、山下さんの撮影のときは、撮影場所を探すのにとにかく苦労しました。最終的に、前田さんが素敵な場所を探してきてくれて。その結果、場所と出演者がうまく調和した、想像を超える作品になったと思います。
前田:場所探しには毎回かなり時間をかけています。まず「スペイン風 建物」など、連想するキーワードで検索をして、気になる場所を見つけるんです。その後、グーグルマップで周囲の環境をチェック。最終的にロケハンに行って、その様子を大橋さんと武井さんに共有しています。
山下さんの撮影のときは、最初に「ここで撮りたい!」って思える場所を2つ見つけたんです。でも残念ながら、1か所は撮影許可が下りなくて。グループLINEで「ダメでした…(泣)」って報告したりもしました。でも最終的にもう1か所での撮影がすごくうまくいって、本当にホッとしましたね。
ーー衣装も全体の雰囲気にマッチしていますね。
前田:実は撮影前までは、別の衣装での撮影を予定していたんです。でも、現場でフィッティングしてみると、大橋さんが用意してくれたもう一つの衣装の方が全体の雰囲気に合っていたので、当初の予定を変更しました。写真で見るのと、実際に着てもらうのでは全然違うなと、あらためて実感しましたね。
当初予定していた衣装
ーー撮影の際に衣装の候補はどのぐらい用意するのでしょうか?
大橋:2〜3着ですね。私はいつも、衣装に着られないようにスタイリングをすることを心がけていて。そのためにも、出演者の方が似合いそうなシルエットを複数パターン用意するようにしています。
今回だと、印象的な建物と山下さんの個性のどちらも生かしたかったので、テーマカラーである赤色をポイントで入れるという軸はブラさず、雰囲気の異なる衣装をいくつか用意しました。
この企画においては、衣装に目がいってしまうことは避けたいので、撮影地や出演者の特徴を踏まえながら、出演者が衣装をまとっているように見えるよう心がけています。
ーーお二人が印象に残っている撮影はありますか?
大橋:前田さんのアイディアに驚かされたという点で、うたのさんの撮影が印象に残っています。このときは、ピックアップアイテムがネイルだったので、「どうメイクをするんだろう」と思っていたんです。そしたら、「ネイルと透明のジェルを混ぜてつくったパーツを顔につけます」って、写真とメッセージが送られてきて。その発想はなかったので、純粋にすごいと思いました!
ネイルと透明のジェルを混ぜてつくったパーツ
前田:うれしいです。この企画では、メイクが本人の想いから離れないことを一番に大切にしているので、うたのさんが選んでくれたネイルをどうしてもメイクに取り入れたかったんです。
ちなみに、私もうたのさんの撮影が印象に残っていますね。打ち合わせのときに、「森の中で白っぽい衣装で撮影しよう」と決めたのですが、個人的にネイルカラーのグリーンを、衣装に落とし込めたらいいなと思っていて。そしたら大橋さんが、植物性の染料で染めた生地を何層にも重ねて、スカートをつくってくれたんです。
生地を染色してつくったスカート
前田:360度に広がるシルエットも、森の中に住んでいる女の子みたいでとても可愛くて。初めて見たときは、痺れました……!「もののけ姫のシシ神様が出てきそうな場所で、撮影がしたい」というリクエストに対して、イメージにぴったりな衣装を提案してくれて、「神!」って思いましたね(笑)。
私たちの仕事は、出演者をカメラの前まで連れて行くこと
ーー撮影当日、お二人が意識していることはありますか?
大橋:撮影そのものはフォトグラファーにおまかせしています。武井さんは毎回、私たちの想像を超える素晴らしい写真を撮ってくださるので、できるだけ自由に撮影していただきたいという想いがあります。その一方で、全体を見渡して裾直しをしたり、映り込む不要なものを取り除いたりすることは心がけていますね。その際は、撮影の雰囲気を壊さないよう、さりげなく対応するように意識しています。
前田:私も同じく、撮影の邪魔をしないように気をつけています。広告撮影では、ヘアメイクやスタイリストが場を盛り上げることも多いですが、この企画では、フォトグラファーと出演者の1対1の空間を大切にした方が、より自然で素敵な写真が生まれると感じています。
私たちの仕事は、出演者を撮影地に連れて行き、カメラの前に立っていただくところまでがメインだと思っていて。もちろん、「メイクがよく見える写真を数枚は撮ってほしい」などの最低限のリクエストはお伝えしますが、それ以外は必要以上に手を加えないようにしています。
――お二人のさまざまな工夫や想いが詰まった「わたしのone color」。最後に、この企画をどのように続けていきたいか、代表して前田さんから教えていただけますか。
「わたしのone color」は、メイクを通じて出演者の“らしさ”に光を当てる企画であり続けたいと思っています。一つひとつの撮影を丁寧に行っているため、掲載ペースはどうしても不定期になっていますが、その丁寧さはこれからも大切にしていきたいです。
回を重ねるごとに、たくさんの方に知っていただいて、いつかは写真集としてまとめるなど、新たな形で作品を届けるのも面白そうですね。これからもこの企画を通じて、出演者やアイテムによって織りなされるさまざまな世界観を楽しんでいただけるとうれしいです。
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Text:しばた れいな