中国の公園に集う、ユニークでエネルギッシュなお年寄りの姿を伝えたい。『公園奇譚』孫一氷インタビュー
東京都渋谷区のSOMSOC GALLERYにて8月11日(日)まで開催中の、北京出身の写真家・孫一氷(ソン・イービン)氏による個展『公園奇譚』。
中国のおじさん「叔叔(シューシュ)」、おばさん「阿姨(アーイー)」たちの社交場である公園で繰り広げられる、太極拳・麻雀・社交ダンス・孫の婚活……といったカオスな日常が収められた作品が数多く展示されている。
日本の公園とは大きく異なる中国・北京の公園文化とはどのようなものなのか、そして何故公園に集う人々を撮り始めたのか、写真家・孫一氷氏に詳しく伺った。
PROFILE
PROFILE
孫一氷(ソン・イービン) Sun Yibing
北京在住の写真家。
The ND Awards 写真専門部門で金賞受賞、アメリカの Getty Images アーティストクリエイションファンド受賞者。代表作に『1000米』、『在公园』、『夜曲』、『北京荒野』など。写真作品および文章は、『ナショナルジオグラフィックチャイナ』(中国科学院所類) 、『新周刊』(南方出版传媒股份有限公司)などの中国大手出版物メディアや、若者に人気のサブカルオンラインメディア『假杂志』(フェイクマガジン)などに掲載されている。
——公園に集う人々を題材とした作品を今まで数多く撮られていると思いますが、何故そのようなテーマで撮影をしはじめたのでしょうか?
元々はラテンアメリカを旅して、そこの風俗や人々、風景などを撮っていたのですが、2020年のコロナ禍で海外に行けなくなってしまった時に、自分の身近な人たちを撮ろうと考えたんですね。
私の作品に写っている叔叔・阿姨たちというのは、中国が急激に近代化した90年代にすごく元気だった自分達の親世代の人々で、日本で言うところの団塊の世代となります。
私は、自分の親たちがどういったライフスタイルを持っているのか、どのような考えをもっているのかということにその時期すごく興味があり、近くの公園に集う人々のちょっとした日常を撮影しはじめました。
——日本ではこのような写真を撮影することは国民性もあり、なかなか難しいと感じています。孫さんが彼らの自然体な姿を撮ることができているのは、中国の公園に集まる方々のオープンな気質によるものなのでしょうか?それとも常日頃から彼らとコミュニケーションを取っているからこそなのでしょうか。
写真に写っている彼らの中には矛盾した気持ちがあり、よそ者に邪魔されたくない、自分たちの領域に踏み込んで荒らしてもらいたくないという気持ちがある一方、やはりオフィシャルな場といいますか、公園というオープンな場所に出てきて活動しているので、誰かに見てもらいたいとか繋がりたいという気持ちも持ってるんですよね。
とはいえ、他の写真家たちは彼らの姿を1日〜2日などの非常に短い期間で撮って終わることが多いので、そうした消費的な撮り方に対しては彼らも迷惑に感じることがあるそうです。
しかし、僕の場合は彼らと常に話しコミュニケーションを取り、仲良くなることから始めます。何故公園に集っているのかとか、若かった時にどのようなことを考えていたのかとか、たくさんの意見交換をしながら親交を深め、最終的には彼らの一員となって同じコミュニティの中で写真を撮っているというスタイルです。
——今回展示されている作品の中で最も思い入れのある写真とその理由を教えてください。
全ての作品に思い入れがあるのでなかなか難しいですね(笑)。
その中で、あえてあげるとしたら、この辺りの作品になります。
私はこのシリーズを始める前、お年寄りというのは「ライフスタイルがすごくスローで、いろんな欲求というものがない存在」だと思っていたんですよね。
ですが、実際公園に行ってこういう写真を撮り始めてみると、もうアドレナリンが出なくなったといいますか、既に情熱を失っていると思っていたお年寄りたちが、実はすごく情熱的に色んな人たちと交流をしていました。公園に置いてある健康器具を思いもよらないような形で使っていて、まるで雑技団のようなパフォーマンスをして楽しんでいるんですね。
さらに先ほどの写真に写っている2組の男女はどちらも夫婦ではないんですよ。公園で知り合った友達ないしは顔見知りといった間柄なんですが、身体的な接触があって、傍から見るとすごく情熱的でアドレナリンが溢れていますよね。そんな姿にとても感銘を受けたので、これらの作品は特に印象に残っています。
もう一つ紹介したい写真があって、これは私のプロジェクトの中で転機となった初期の作品です。
これは運動をしている阿姨(おばさん)なんですが、よく見るとすごくきちんとお化粧をしていますよね。公園に来てるお年寄りの人たちというのは、運動するという目的で集まっているものの、公園というコミュニティを通していろんな人とコミュニケーションをとって繋がりたいという側面の方が強い方が多いです。
また、これらの写真も見てもらえばわかると思うのですが、手袋や靴下に至るまで、彼らなりにすごく細部まで気を使っておしゃれをして来ています。
僕らから見るとダサいかおしゃれかあまりわからないんですけど、彼らの服装からは自分を良く見せたいという気持ちや、誰かと繋がりたいという想いが伝わってきます。
——最後に日本の方々に向けたメッセージをお願いします。
日本は高齢化社会と言われていますし、日本のお年寄りのイメージは中国とは大きく異なるというのも聞いています。
だからこそ、こういった中国の面白くてキュートでエネルギッシュなお年寄りたちの姿を見ていただくことによって何か面白い発見や化学反応が起こるのではないかなと思います。ぜひ足を運んでいただけると幸いです。
▼information
『公園奇譚(コウエンキタン)』孫一氷(ソン・イービン)東京個展
【会期】7月20日(土)~8月11日(日) 12:00 – 20:00
【会場】SOMSOC GALLERY
【住所】東京都渋谷区神宮前3-22-11
【入場料】無料
【HP】https://somsoc.jp
《トークイベント・サイン会》
「中国の公園は何故カオス?日中シニアが直面する現実」
【日時】2024年8月3日(土) 16:00〜18:00
【登壇】孫一氷
【ゲスト】吉井忍(北京在住のフリーランスライター)
【チケット】入場無料 ※ワンドリンクオーダーをお願いします。
※サインは写真集を購入いただいた方限定で行います
《トークイベント》
「人気番組のプロデューサー参戦!日本が見習うべき中国のカオスな公園事情」
【日時】2024年8月4日(日) 16:00〜18:00
【登壇】孫一氷、宮崎壮玄(SOMSOC GALLERYマネージャー)
【ゲスト】徐真然(『月曜から夜ふかし』番組P)
【チケット】入場無料 ※ワンドリンクオーダーをお願いします。
Text:浅井智子