《shanai / #写真家の視る働く空間 》コクヨ株式会社 篇

オフィスとは、多様な働き方の最前線。
写真家の目に映るオフィスの魅力とは、どんなものだろう。

オフィスのあり方が問われる今、細部まで工夫を凝らされたオフィス空間を写真家が切り取ることで「これからのオフィス」を考える。

今回は、コクヨ株式会社(以下コクヨ)の品川オフィス「THE CAMPUS」を訪問。「ワクワクする未来のワークとライフをヨコクする。」というパーパスを掲げ、時代にあわせたワークスタイルとライフスタイルを提案する会社だ。

誰もが学生時代、一度は手にしているであろうコクヨの製品。大人になってからも、何気なく手にした文房具に「KOKUYO」のロゴが入っていることもしばしば。もしかしたら、今、あなたが座っているそのオフィスチェアにも「KOKUYO」とロゴが入っているかもしれない。

それだけ自然に生活に溶け込んで、人々を支えてくれているコクヨの製品。
そのヒット製品の数々は、どのように生まれているのだろうか。

気鋭の写真家による撮り下ろしカットと共に、コクヨの「shanai」を探訪する。

コクヨ株式会社HP:https://www.kokuyo.co.jp/

Photographer

横山 創大 / Sodai Yokoyama

1988年広島県生まれ。写真家 横浪修氏に師事し、2017年に独立。雑誌、広告などで活動中。

HP:https://www.sodaiyokoyama.com/

“街に開かれたオフィス”とは?

コクヨライブオフィスは北海道から沖縄まで全国にあるが、今回訪ねたのは東京・品川の「THE CAMPUS」。「街に開く、“みんなのワーク&ライフ開放区”」というコンセプトのもと、社外の人でも利用できるスペースである「PUBLIC AREA」と、“経験の拡張”をテーマにした「LIVE OFFICE」など複数のエリアからなるオフィスだ。元々2棟に分かれていた自社ビルを行き来できるよう改修。その総面積は約960坪にものぼる広大な敷地だ。

お客様や地域の方々など広く一般に解放している「PUBLIC AREA」は、大型階段やデッキが印象的な「PARK」や、人々が憩う「COFFEE STAND」、新規事業開発のための「OPEN LAB.」に、さまざまなアクティビティに応じて用途が変化できる『COMMONS』、そしてコクヨの製品が試せる『THE CAMPUS SHOP』がある。

shanaiを案内してくださった、コーポレートコミュニケーション室の兪さんによると「働くことの意味やオフィス街の在り方、企業の姿勢はこのままでいいのか、という課題意識から『THE CAMPUS』の構想が始まり、社会巻き込み型の実験場をつくることにしました。ゆったりと過ごせる街に開かれた環境を通して、多様で豊かな混ざり合いをこの場所から生み出していきたいです。例えば、ショップで新製品を試せたり、開発ストーリーを展示したりするなどの新しい取り組みは、実際社員のモチベーションアップにも繋がったんです。子どもたちの喜ぶ顔が見られたり、どんな使い方をされているのか間近で見られたり…。ショップのレジ横に『コミュニケーター』が常駐しており、商品の質問を受け付けたり、訪れた小学生から人生相談を受けたりしたこともあるそう(笑)」

また、PUBLIC AREAは、他企業との連携を積極的に行い、新しい技術の社会実装を目指す「オープンイノベーション」が生まれる場所でもある。

兪さん「オープンラボでは、様々な企業と、それぞれの想いや知見、技術を持ち寄り、少し先の働き方や暮らし方を考える実験を行っています。その過程は展示スペースやWEBサイトにてオープンに発信し、働くことや暮らすことをより豊かにする技術・仕組みの社会実装を目指しています」

3D木材加工機「ShopBot」を導入し、3DCADで設計したデータをダイレクトに製作できるデジファブ技術を活用して作られたオブジェ。全部「THE CAMPUS」の「C」で形作られている。このようなアーティスティックな作品だけでなく、プロトタイピングを繰り返しながら内装、家具などのオーダーメイドもできるという

フロアごとにコンセプトがあるオフィス。

さまざまな仕掛けに、既に圧倒されながらも本丸である「LIVE OFFICE」へ。

エントランスはホテルのロビーのような造り。数多くのグリーンに心癒やされる

オフィス部分となるのは南館の4〜11F。オフィスにいるだけでさまざまな経験ができるよう、フロアごとにそれぞれコンセプトを定めたのだという。

兪さん「まずご案内するのは、7F。コンセプトは「試す」です。アトリエや長いブックシェルフを中心に、デザインや空間設計など業種特有の専門的な業務やプロトタイピング、検討・検証を行うフロアです」

各部署がバラバラで保管していた書籍やサンプル帳、カタログを集約して一覧できる

THE CAMPUSでは、より機動的で行動的なワークスタイルを目指し、場所の固定化につながる個人ロッカー、デスクトップPC、固定電話を無くした。この棚もその取り組みのひとつ。かつては営業マンが自分のロッカーに全てのカタログをストックしていたが、共通の販促物はこの棚に集約した。

内階段でひとつ下のフロアへと進む。6Fのコンセプトは『育む』。この内階段は移動も簡便になるのはもちろん、別の部署とすれ違うことで交流が生まれるきっかけに。社員間でコミュニケーションが交わされると無料で飲み物が出てくる仕組みの自販機もユニークだ。人と組織を『育む』ためのフロアは、リモートが進んだ今だからこそ、より重要な役目を果たすだろう。

このフロアは飲食可能。オフィスはちょうどお昼時だった

自販機に2人で同時に社員証をかざすと飲み物が無料で提供される自販機。この日も飲み物を手に入れる人たちの姿が

お次は5Fの「整う」フロアへ。
音楽が流れていたり、グリーンが多く設置されたていたりと仕事を始める前にリラックスできる環境で心身が「整う」フロアなのだという。

基本的に個人ロッカーはないが、一時的に荷物を預けるためのワンタイムロッカーが設置されていたり、業務上で必要な事務用品が揃ったり、郵便物を受け取ったり…。また、総務部や情報システム部もここに集中している。

兪さん「何か困った時はこのフロアへ来れば『整う』。なくてはならないフロアです」

キャンプ風のオフィス家具も自社の商品。見た目はキャンプで使うアウトドア用品のようなカジュアルな雰囲気だが、立って歩けるように設定されたテントの寸法や座面の高さ、電源の配線など仕事が出来る環境であることにこだわっている。

その下の4Fは「捗る」フロア。家具がモノトーンで統一されていて落ち着いた印象だ。

ここ数年でリモートワークが浸透したが、やはり在宅では集中するのが難しいことも。そこでこのフロアは、ニューノーマル時代にあえて出社したくなる、『捗る』環境を整備した。最新の2面スクリーンや、昇降デスク、吸音パネルを採用した集中ブース。在宅ではなかなか叶わない環境がここにはある。うらやましいほどの充実ぶりで、もしここがシェアオフィスだったなら毎日でも通いたくなるスペースだ。

兪さん「この椅子は自分好みに細かく角度を調整できるので、好きな自社製品のひとつですね」

その座り心地はまるでファーストクラス!“働く”をもっと心地よく
視界を遮りつつ、誰かが声をかけるときにも声をかけやすい絶妙な壁の高さになっている

オフィスで集い、創り、耕す。

8Fは「集う」がコンセプト。自由に集まってディスカッション、コミュニケーションしながら働くためのフロアだ。

間仕切りはカーテンでゆるく。少人数のミーティングはもちろん、2室つなげて使うこともできる。外出から帰ってきた際のちょっとしたワークスペースとして使ったり、オンライン会議のときに使ったり、出張してきた社員のワークスペースになったり…。さまざまな用途で、さまざまな部署の人々がここに集う。

THE CAMPUS設計を担当したのは、社内の若手デザイナー。若い人が考える「オフィス」とは何か、を形にした
窓からの光がたくさん取り込まれ、フロア全体が明るい雰囲気だ

10Fは「創る」エリア。面積や形状、照明環境までも自由にカスタマイズできる空間だ。コクヨらしいプロジェクトのスタイルを模索するための実験場なのだという。

兪さん「ここは1ヶ月とか、半年単位の長いスパンで貸し切れるスペースです。新規事業のローンチ前は部門を横断することもあるので、プロジェクトルームのような使い方をしています。家具は全てキャストつき。かなり自由に空間を変えられるので、なんだか自分の基地を作るような気分にもなれて楽しいんですよ!」

エリアごとにライトの色を自由に変えられるようになっている。エリア分けだけでなく、リラックスタイムに色を変えたり、緊急MTGの際には赤にしたりと用途はさまざま

11Fは「耕す」フロア。経営と社員をつなぐHUBとなる場所だ。役員個室は全廃したというのだから驚きだ。

THE CAMPUS内は社長も含めて全員フリーアドレス。つまり、社長が一般社員の中に紛れて仕事をしているということ。なんだか話を聞くだけで緊張して、思わず背筋が伸びてしまう…。しかし、その“見えない壁”を取っ払っていくのがコクヨ流なのかもしれない。

兪さん「全員フリーアドレスにすることで“斜め”のコミュニケーションも生まれやすのかな、と思いますね」

重厚な色合いになることが多い経営陣のフロアは、あえてウッド調に。間仕切りはガラスでできているため、中の様子が覗けるようになっている

心に寄り添うオフィス。

ここは「DIVERARY」というスペース。DIVE(没頭)とLIBRARY(図書館)を合わせた造語。「発散」「集中」「瞑想」のスペースを設けている。

兪さん「ここまででご覧いただいたように、オフィスは結構オープンな環境が多くて。何かアイデアを考えたり、静かな環境がいいな、というときに便利なスペースです。瞑想スペースではごろんと寝転がることもできます。来客スペースの真横なので、初めて来社された方は驚かれますね(笑)」

ここは電話やテレビ会議禁止のエリア。緊急の際には電話ボックス型の打ち合わせスペースを利用する
ロの字型のブックシェルフにはさまざまなジャンルの本が並ぶ

一通りオフィスを案内してもらったあと、オフィスの受付フロアにあるトイレを紹介してもらった。

ぱっと見て何か足りないと思ったら、扉には男女の表記がない。兪さんによると「オールジェンダートイレ」なのだという。いずれも個室タイプになっていて、光っている個室が使用中というサイン。

兪さん「ジェンダー問題はどこか縁遠いことのようにも思えてしまいますが、社内にオールジェンダートイレがあることで、それを身近なこととして感じでほしいし、近い未来にはこれがスタンダードかもしれない、という問題意識を社員に持ってもらい、刺激を与えるというのもこれを設置した意図です」

清潔で多機能トイレが当たり前の「トイレ先進国」である日本において、もはや、ジェンダーレスに驚くことは時代遅れかもしれない…。

さいごに

今回は、コクヨ株式会社の品川オフィスを訪問した。

印象的だったのは、「お客様より先に失敗すれば大丈夫」という言葉。
LIVE OFFICEの歴史は古く、1969年から。
「ショールームという非日常では、実際に使われている様子が伝わらない」ということがネックでスタートした取り組み。

そのプロセスは失敗の連続だったけれども、先に失敗することでお客様に失敗をさせずに済んだと胸を張る。
失敗がイノベーションを生み、失敗がライブオフィスを生み、失敗が常に新しい一歩を生む。
手に暮らしに、自然になじむ文房具ひとつにコクヨの想いが詰まっている。

街に開かれたオフィスから、あなたのもとへ。
コクヨのshanaiは今日も、てきぱき、わくわく、のびのび、いきいき働きます。


【連載記事】shanai / 写真家の視る、働く空間


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