写真家とクリエイターの交差点 vol.01 北岡稔章×tatamipi
写真家が撮影した写真の上に、クリエイターの描く世界観が加わったらどんな化学反応が生まれるのだろう。
写真家とクリエイターがコラボレーションし、1つの作品を作り上げる過程を追う新企画『写真家とクリエイターの交差点』。第一回目は写真家に北岡稔章さん、クリエイターにイラストレーターのtatamipiさんを迎え、写真とイラストが融合した作品を作り上げてもらった。
Photographer
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北岡稔章
1986年高知県生まれ。
大阪で建築を学んだ後、ビジュアルアーツ大阪写真専門学校入学。
卒業後スタジオエビス入社。
退社後、2015年独立。
2022年に写真集『私は絵が描けない / I can't draw a painting』刊行。
Illustrator
——お互いの作品を見てのファーストインプレッションは?
北岡:tatamipiさんの描く女性は見てるとスッーと入ってきて抜けていく感覚になります。何か相反するものが描くもののなかに共存してるのではないかと深く見入ってしまいます。私の写真を背景に描くと、その感覚がどう変わるかとても興味深いと思い、コラボレーションしたいと思いました。
tatamipi:シンプルな感想ですが、北岡さんの作品はどのお写真もおしゃれだなと思いました。淡い空気を纏っていて、なにか隔てた向こう側のような、懐かしい雰囲気を感じました。
今回、北岡稔章さんには候補として5枚の作品を提示してもらい、その中からtatamipiさんに最もインスピレーションの湧く1枚を選んでもらった。
選ばれたのは、青空の下で一輪の赤い花が咲き誇る1枚。
北岡:この写真は昨年(2022年)の夏頃撮影したものです。花の作品を撮影するときは基本的には光の環境がコントロールしやすい屋内で撮影しているのですが、この作品は外で一つ一つの花に向き合うことにチャレンジしていた時期の写真になります。
tatamipi:空を見上げる瑞々しいお花と、少しざらついたノスタルジックな雰囲気の掛け合わせが印象的だなと思いました。花盛りは一瞬で過ぎ去りますが、その瞬間の美しさはいつまでも人を惹きつけるように思います。思い出に刻まれるワンシーンのような、今ではない別の時間の一瞬のようなイメージが思い浮かびました。
制作過程
採用写真が確定した後、写真のイメージをさらに膨らませ、tatamipiさんの制作が進んでいく。
tatamipi:夏に撮影されたお花なので夏を感じるモチーフも取り入れたいと思い、夏を駆け去るようなイメージで、セーラー服の女の子をモチーフにしました。
より北岡さんの写真の世界観を活かすためにはどうすれば良いのか。配置や色味・透過調整、バランス調整など試行錯誤は続いていく。
tatamipi:写真の中に絵を描き込むというより、写真のイメージを拾い集めて、それを絵という形にして重ねるような……そんな想像をしながら進めました。絵を描くとどうしても写真の露出面が減ってしまうので、その塩梅が難しかったです。
——「写真を活かす」という点においてどのような工夫をされましたか?
tatamipi:黒ではなく紺色の主線にし、人物への着色はせず写真に透かすかたちでなじませるように工夫しました。(写真のざらっとした質感が印象的でしたので)人物自体にもすこしだけざらっとした質感を加えています。
完成作品
そうして完成した作品がこちら。青空や花の色味を随所に活かし、過ぎ去っていく夏の残り香を感じさせるノスタルジックな作品に仕上がった。
——完成した作品をご覧になっていかがでしたか?
北岡:写真の上にイラストをのせるのは元々あまり好きではなかったのですが、tatamipiさんが描く女性の感情の行方みたいな部分がとても気になりコラボでどう変化していくのかとても楽しみにしてました。
空と雲、制服を着た女性。この絵をいただいた時、複層的なレイヤーを感じました。写真とイラストが共鳴している部分と写真だけだと表現できない新たな感情が生まれたと思いました。色んな解釈を鑑賞者によって捉えられる作品になり、コラボでき嬉しいです。
tatamipi:許可を頂いているとはいえ、人様の作品に手を加えるというのは身体に力の入る体験で、いざ着手するとなるととても緊張しました。どうやったら写真の雰囲気を損ねず、欲を言えば写真により良い効果を及ぼすことができるか、新しい観点や工夫を考えるきっかけを頂きました。とても楽しかったです。完成した作品は、夏の懐かしい一瞬の概念のようだなと思いました。次の瞬間には目を逸しているような女の子だといいなと思います。
同じお写真に他のイラストレーターさんが描いたらどんな作品になるんだろう……と想像したりしました。これからもいろんなコラボを拝見してみたいです。