日常の風景も少し見方を変えただけで圧倒的に美しい景色になる「蜷川実花展 Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠」スペシャルインタビュー
2023年12月5日(火)から、虎ノ門ヒルズ ステーションタワーの情報発信拠点「TOKYO NODE」で「蜷川実花展 Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠」がスタートしました。
本展は写真を中心に映画、映像、空間インスタレーションなどを手がける蜷川実花が、クリエイティブチームEiM(エイム)として挑んだもの。すべて今回の展示のために新たに制作した映像によるインスタレーション、立体展示などで構成されており、TOKYO NODEの圧倒的なスケールを活かしたここでしか見ることのできない没入型の展覧会となっています。
今回は、展覧会前日に行われた内覧会の模様と、蜷川実花さんのスペシャルインタビューをお届けします。
色彩の多様性が織りなす未来
「100万色の光彩色に飛び込む、五感でよろこぶイマーシブ体験」と題した今回の展示について、EiMのメンバーであり、データサイエンティストの宮田裕章さんはこのように語っています。
「人が認識できる色というのは諸説ありますが100万色と言われています。一方で、現代社会の中では色が消えているとも言われていて、大衆に受け入れられるために企業ロゴやデザインからも色を消していくといった流れがあるんですね。また、現代は多様性の時代と言われている一方で、SNSなどで繋がりすぎたがゆえに個性を表現することに躊躇するようになった状況もあります。そんな中で多様な“色”というのはまさに一つの可能性だと考えていて、展示を通して日常にある多様な色の美しさを感じてほしい、そして来場する方々の色々な未来を繋いでいくといいなと思っています」
“日常の中にある美しさ“と映画的な感覚を味わってほしい
今回制作された映像のモチーフとなるものは、CGで制作したものではなく現実世界のリアルな被写体で構成されています。作品のモチーフとなるものは全て日常の延長線上にある何気ない場所で撮影されているそうです。
「今回の作品は本当にカメラ1台、場合によってはiPhoneだけで撮っているものも多く、ライティングなどもしていません。日常的な誰でもアクセスできるような場所で撮っているものがほとんどです。日々を過ごしている中で、日常の中にある美しいものをたくさん拾い上げていくことはできると普段から感じていて、その“日常の中にある美しさ”みたいなことをどう表現できるかということを突き詰めた展開になっていると思っています。(蜷川)」
また、展示はそれぞれが個展であれば主作品となるような規模のレベルで制作されながらも、展覧会として互いにひとつの体験に仕上がっており、映画監督の蜷川さんならではの全体のストーリーも考えられているという。
「今まで、映画を撮ったり写真を撮ったり、色々なことをやってきたんですけれども、今回のこの展覧会で全てが集結したなと思っていて、ここまでやってきたものの経験値だったり、感覚が全て必要だったんだなっていうのが、開催を迎えて思っています。テーマを持った1つ1つの作品が、どういう風に並んでどのように繋がっていくのか、展覧会を見終わった後で映画を見終わったような気分になってほしいなと思っています(蜷川)」
内覧会終了後、蜷川実花さんにインタビューを行い、制作時の想いや心の変化について伺いました。
“自分の中に何があるか”ということに向き合うようになった
——今回の作品の制作中にインスピレーションを受けたものや新たな気づきはありましたか?
そうですね。一つはスマホのカメラの性能がすごく良くなったことによって、 写真や映像を撮ることがとても日常的になってきました。元々日常的に撮ってはいましたが、それでも今まではカメラを持ってない日は撮れなかったんですよね。
でも、ここ数年、スマホは毎日必ず持っているので、いつでもクリエイティブに対してオンの状態になっているような生活になっていて。そうすると、自分の気持ちを変えるだけで、ありとあらゆる瞬間が決定的瞬間であり、 撮るべきものであり、撮る・撮らないが自分次第なんですね。「面白い」と思って世界を見渡すと面白いことだらけなので、その中で撮っていくという体験ができるようになったことは、ここ2、3年で劇的に変わった部分ですね。今まではオンオフがあって、撮る瞬間、撮らない瞬間というものがあったのですが、より呼吸をするようにものを作れる状況になってしまったので、その境界線がないような状態。常に365日スタンバイOKみたいな状況になったので、自分のものの作り方が結構変わったというのはありました。
それによって、モチーフの選び方がより日常的になったし、スマホで撮ったら誰でも同じように撮れるわけで、より自分の世界の切り取り方だけが人との差異というか、“自分の中に何があるか”ということと、すごく向き合うようになりました。
ここ数年で本当にいつでも撮れるようになった、撮れるようになってしまったことで、日常の生活と地続きにクリエーションが来てしまったので、そこをどう作品に落とし込めるかチャレンジしていくのがすごく面白いなと思っています。
——今回の展覧会では様々なアウトプットで作品が展開されていますが、クリエイティブの引き出しというものを増やすために、普段から意識されていることはありますか?
自分の感性を研ぎ澄まして、感覚お化けみたいになる状況にたどり着く最短距離を見つけておく、みたいなことももちろんあるのですが、それと同時にありとあらゆる展覧会を見たというのも大きいです。今までだったら、例えば写真集だったり映像だったりを見て感じるだけでも平気だったものが、空間表現をするようになったので、実際にいろんな展覧会を見に行くとか、いろんな面白い場所に行って実際に体験するっていうことが、直接的に勉強になるようになりましたし、コロナ禍で展覧会を見に行けない時期が続いたので、落ち着いてからは堰を切ったように、あらゆる展覧会を見たり、面白いイベントがあったら行ってみるようになりましたね。
——最近ご覧になったもので印象に残っているものはありますか?
この間パリに行った際に、久しぶりにルーブル美術館に行きました。今までも何度も訪れてはいるのですが、改めてルーブル美術館の作品を鑑賞するのはすごく新鮮な体験で、自分の見る目が変わるとこんな見え方が違うんだなという驚きの連続でした。若い頃に「名作だ!」という風に仰ぎ見たときとは違って、「あ、この作家ってこんな風に思って描いていたんだな」みたいなものが、自分なりにこう感じることができるようになったりとか。名作って自分の成長とともにまた見え方が変わるんだということを体験できて面白かったですね。
——今回の展覧会では、蜷川さんの代名詞である鮮やかなお花をモチーフとした作品が多く見られますが、初期の展覧会の作品と比較し、花を撮影するということにおいて変わったと思うことと、逆に変わらないことがあれば教えてください。
基本的には変わらないですね。変わらないのですが、この何年間か何かに急かされるかのように一心不乱に花を撮っていて、とんでもない量を撮っています。
これまでも相当数撮ってきてはいるのですが、ここ2、3年の撮影量は本当にとんでもなくて。でも、これだけ撮っていても、まだ新しい表現になるのかっていう発見はありますね。
同じ種類のお花を同じような時期に撮っていても、自分の考え方が変わると、こんなに写真が変わるのかという。モチーフは同じでも、切り取る箇所が違ったりとか、光の入れ方が違ったり、自分が今、何を感じているかみたいなことを、花を介して表現しているというか、花は鏡となって自分の今の状況みたいなものがすごく写り込んでいるんだと思います。
——ありがとうございます。最後に、今回の展覧会の中で、蜷川さん自身にとって、最もチャレンジングだった作品を教えていただけますでしょうか。
最もチャレンジングだったのはやはりこの展覧会自体、なんですよね。写真の展覧会だったら、ある程度の経験値があるので、 例えば納期1つとってもこのくらいでできるよねとか、あの業者さんにお願いしようとか、経験値が蓄積してあるんですけれども、それが全く無い表現方法で行ったので、もうこの展覧会をやること自体が大きな挑戦でした。
この展覧会は過去最大級のものになりますが、もう二度とできない規模だなと思いますね。大勢の方の協力もあり、いろんなことが重なって実現できた自分にとっては奇跡のような展覧会です。それにTOKYO NODEという場所にあわせて制作した作品がたくさんあるので、他の場所ではできないんですよね。やっぱりこればっかりは実際に来ていただいて体験していただきたいなと。こんな展覧会ですというのを言葉にするのが難しい内容なので、ぜひぜひ、足を運んでいただけたらいいなと思ってます。
「蜷川実花展 Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠」 | |
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会期 |
2023年12月5日(火)〜2024年2月25日(日) |
開館時間 |
月・水・木・日曜:10:00~20:00 |
会場 |
TOKYO NODE GALLERY A/B/C |
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