上手く撮ることより、もっと大切なこと/モーガン茉愛羅が生み出すポートレート #写真家放談


「Just Feelingですね。考えるよりも、楽しいと思ったものを撮るのが私のスタイルだと思います」

そう話すのは、16歳でモデルデビューし、女優・フォトグラファーと活躍の幅を広げるモーガン茉愛羅(まあら)さん。

公私ともに親交のある、女優・広瀬すずさんの2021年カレンダーのフォトグラファーもつとめ、表現者同士ゆえに作り出される世界観や、映し出される自然な表情が多くの人を魅了しました。

モーガンさんは、「フィルム写真とポートレートへの思い入れが強い」と語ります。被写体の表情を自然にとらえる世界観はどうやって生まれるのでしょうか。フォトグラファーとして大切にするものを、幼少期から振り返りながら教えていただきました。

芸能界での葛藤。出会ったフィルムカメラ

——イギリス人のお父様と日本人のお母様がいらっしゃるモーガンさん。芸能界に入る前はどんなお子さんだったんですか?

小さいころは、負けず嫌いで自分の主張をはっきりする子でした。保育園に通っていたとき、お散歩の帰りにみんなが乗るカートに「乗りたくない!」って言うみたいな(笑)自分で歩きたかったんです。

お絵かきや写し絵は好きでしたけど、2歳上の兄もいたので、外で毎日走り回っていました。近所にたき火ができる公園があって、友達とマシュマロを焼いたり、ビー玉を入れたり……。家に帰ると、母に「たき火臭い!」と怒られたこともあったなぁ。

——たき火にビー玉を入れてから冷やすと、キラキラして綺麗ですよね。好奇心旺盛に遊ぶ様子が目に浮かびます。2014年、高校2年生のころ、芸能界に足を踏み入れました。どんなお気持ちでしたか?

「めっちゃ可愛い子って、たくさんいるんだなぁ」って(笑)。あと、「思うようにならないな」と、想像と現実のギャップを感じていました。例えばバラエティ番組に出演するとき、活発でおしゃべりも好きだから「できる!」と思っても、すごく緊張してしまって思うように話せなかったことがあったんです。自分を出す難しさに直面して、「自分らしさを発揮できる場所がほしい」と葛藤を感じていました。

——フィルムカメラに出会ったのも高校生のときだったんですよね。

はい。ちょうど自分の表現を考えていたころに、友人からフィルムカメラをもらったんです。最初はわけもわからず撮っていました。友達を撮り続けているうちに、少しずつカメラに触れる楽しさを感じていきました。当時はフォトグラファーになりたいとは思いもしてませんでしたね。ただ、カメラマンのドキュメンタリー映画を観て、憧れみたいなものはあったかな。

好きな写真のテイストや色を探した、イギリス旅が転機に

——2018年にお父さんの故郷であるイギリスへ旅へ行ったときの写真をまとめて、写真展を開催し、フォトブックも出版されました。その背景を伺えますか。

写真の楽しさを知ってから、周りの友人や出会った写真家の方に「写真、もっとやってみなよ!」と背中を押してもらいました。

ちょうどそのころ、父と兄とイギリスへ行くことになり、「新鮮な気持ちで撮れるかも」「自分に撮れる写真を見つけたい」と思ったんです。思い出や日常を撮影するだけではなく、「作品的にどんなものを撮れるか試したい」との気持ちがありました。それで、「戻ったら写真展をやろう」と、旅の前に写真展の会場を押さえたんです。

——え!? 写真を撮る前に、写真展の場所を予約なさっていたんですか?

そうなんです。勢いと自分への賭けでした。そのため、旅の道中はドキドキしましたよ。今なら「色はブルーが好き」「この光に惹かれる」と、自分の好みがわかってきているのですが、当時はわからない状態だったので緊張はありましたね。旅の間は自分の琴線にふれたものを撮り続けました。1週間の旅で、フィルム15本、600枚くらいになってました。

——すごく勇気のある行動です……。イギリスの写真では、現地の人の自然な表情が印象的ですね。

女性フォトグラファーだったからか、初対面でも恐怖感を持たれにくかったようにと思います。20歳だったので、子どもに見られたことも(笑)。手を振ってくれるおじいちゃんや、はしゃぐ子どもたちに癒されて、温かい気持ちに包まれながら撮影しました。

——モーガンさんの人への温かさのようなものも見えるようです。そのときに持っていったカメラは?

『オートボーイ LUNA』、『CANON A-1』、『PENTAX67』、『OLYMPUS PEN-E-III』で、すべてフィルムカメラです。なかでもA-1は20歳の誕生日に祖母からプレゼントしてもらったもので、思い入れがあります。

——フィルムカメラをたくさん持って行かれたんですね。

機種によって写り方が全然違ってくるので、一つの被写体に対して、どのカメラで撮ると最適かを考えていました。ただ、とっさに撮れなかったり、「どのカメラで撮ろう?」と結局は意識が散らばって思うように撮れなかったりして。今思うと考えすぎていましたね。

イギリスの旅を通して、「一つのカメラでどう撮れるか、表現していくか」と考えるようになりました。

暗室で半日かけて写真を印刷、自分の色を見つける旅

——デジタル写真ではなく、フィルム写真に夢中になる理由は何でしょう。

フィルムの色が好きなんです。最近では知人から暗室をレンタルして、自分でプリントもしています。1ミリ単位で、少しずつ色を自分で調整できるので、自分が表現したい世界観が出せるように思います。

——どのくらいの時間、暗室で色の調整をされているのですか?

半日暗室にこもって、7〜8時間かけてプリントできるのは4枚くらいなんです。1枚の写真でも何回もやり直しすこともあって。「自分の色はこれだ!」というものに出会えたら、ハッピーでラッキーです!

いつも暗室を貸してくれているフォトグラファーの友人が、『暗室の時間は、自分の色と出会うまでの旅』と言っていて。その言葉がとても胸に刺さりました。感性が刺激されるのを感じるし、写真を見る目も変わります。学びが多く、私にとってなくてはならない大切な時間です。

——「暗室の時間は自分の色と出会う旅」。素敵な言葉です。自分の色を探すことは簡単ではないと思うのですが、理想の色はあるのでしょうか。

そればかりは、直感ですね。イメージを事前に作りすぎずに、例えば、「この写真は、もっとブルーが強いイメージだったけど、赤を出した方がグッとくるんだ」とか、プリントしながら、自分の好きな色との出会いを楽しみたいんです。

「うまくなっちゃったね」写真家の一言にこめられた意味

——フォトグラファーの活動でアパレルブランドともコラボレーションされています。被写体の方の自然な表情に引き込まれます。

撮影するときは、楽しんで撮ること、自分の心が動いているかを大事にしています。気持ちが踊って、心の高鳴りとシャッターが同時に鳴ったら、いい写真になると思います。ブランドから依頼をいただく写真だとしても、パッションを大切にしています。

フォトグラファーとしてお仕事をいただいた当初は、失敗したくないと思ってうまく撮ろうと意識しすぎたことがありました。経験するうちに、「自分らしく撮ろう、そこを求められているんだ」と気づきました。

メガネブランド「MILLE」での作品

——自分らしく撮ろうと思ったきっかけは何でしたか?

以前から「写真いいよ。どんどんやってごらん」と言ってくださっていた写真家さんに写真を見てもらったんです。正直に言うと、褒められると思っていて。でも一言、「なんか、うまくなっちゃったね」と……。楽しんでいたころの気持ちを忘れていたのかもしれない、と気づいた瞬間でした。

——方法論に頼りすぎると自分の世界観が見えにくくなる感覚、わかるかもしれません。モーガンさんは女優・モデルと世界観をつくる仕事をしていますが、写真でも感性を磨く時間が大切になりそうですね。普段から意識していることはありますか?

そうですね、いつも何かを意識しているこわけではありませんが、写真展や写真集などで作品を見るのはやっぱり好きですね。それと、暗室に入る時間は、色への感度や写真を見る”目”を変えてくれると思います。暗室のワークショップをしている場所もあるので、自分の手でプリントをしてみるのはおすすめしたいですね。

——今はどんなカメラを愛用されていますか?

フィルムの一眼レフカメラは『CONTAX(コンタックス) RX』。コンパクトカメラは『MINOLTA(ミノルタ) TC-1』、『PENTAX64 Ⅱ』を使っています。

CONTAX(コンタックス) RXの、カールツァイスのレンズが本当に綺麗で。ファインダーを覗くだけで映画を見ているような、世界が変わるような感覚が好きです。レンズが大事だと改めて感じさせてくれたカメラですね。TC-1は小さくて手のひらサイズですが、本格的なカメラで写りも綺麗でお気に入り。3年ほど使っていて年季も入ってきていますが、旅には絶対持っていきますね。

母になるこれから。「人が好き」相手を深く知って写真を撮りたい

——ー番好きな撮影スタイルはありますか?

それはもう、ポートレートです! とにかく人を撮ることが好き。一週間くらいその人と一緒にいて、人となりをしっかり知った上で撮りたいんです。どこまで近づけるかを追求するのが大好きです。

——撮られる立場も経験しているからこそ、わかる部分もありそうです。相手を知るために、どんなことをされますか?

撮影前に会って近況などを聞いて、今の状況を把握しておきたいですね。たとえば、恋愛をしていたら、もしくは……お別れした直後だとしたら、違う表情になると思います。きっと、撮ってほしい写真や、ありたいテンションのようなものが変わってくると思うんです。

——モデル、女優、フォトグラファーの3軸が交差することもあるのでしょうか。

ありますね。広瀬すずちゃんのカレンダーは、女優業での共演で親しくなったことがきっかけでした。身ひとつで仕事をしているので、意外なところでつながってくることが多いかも。これからも出会いを大切にしながら、仕事をしていきたいです。

——まもなく母になることで、4軸になるかも?

そうですね。4軸かぁ……。「ひとりの人を育てることが、私にできるのかな」と思うと、ワクワクよりもハラハラが大きいですね。それでも、「一緒にアートに触れたいなあ」とか、子どもが成長した姿をよく想像しています。

顔つきが優しくなったねとも言われるんです。自分の変化していく過程を、セルフポートレートなどでも残せたら良いですね。母としての自分は想像以上に心境など変わるかもしれませんが、楽しみながら表現を続けていきたいです。

——今後、どんな写真を撮っていきたいですか。

色々な人の写真集を撮ってみたいです。もし初対面の方なら、一か月くらいかけて会いたい。一緒に過ごして、過去や家族も含めいっぱいその人を知って……。時間をかけながら相手の鎧を外して、男の子も女の子も撮ってみたいです。それが私が一番楽しい、心躍る写真ですね。

——人が好きで、時間かけて知りたいと考えているモーガンさんなら、お子さんとも良い関係を作れそうです。最後に、モーガンさんにとって写真とは、どういうものですか?

「自分の記憶を強く残させてくれるもの」です。大切な瞬間はつねに流れていくけれど、写真に残すことで気持ちを思い出すことができる……。忘れたくないものを忘れずにいられる。今までの経験や生き方、性格も現れるので、見返すと心の旅ができると思います。

大切な人と一緒にいる瞬間や、ささいな日常を残しておきたい。これからも、まっさらな状態で、自分の目で見て感じたものを撮っていきたいですね。

■Interviewer / Writer

池田アユリ

インタビューライターとして年間100人のペースでインタビュー取材を行う。社交ダンスの講師としても活動。誰かを勇気づける文章を目指して、活動の枠を広げている。2021年10月より横浜から奈良に移住。4人姉妹の長女。

Twitter:@ayuri_0129
Instagram:@lily_ayuri

■Editor

片岡由衣

フリーのライター・編集者。東京都出身、沖縄県竹富島在住。3人の子育てを通して絵本や木のおもちゃに魅せられ、発信するうちにライターへ。島の景色を写真に撮るのが好き。

Twitter:@MomYuuuuui
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