作風の変化って、仕事に影響ありますか?サツオワ対談 〜モデル×フォトグラファーの舞台裏|安井達郎×山根悠太郎 #3

撮る人と撮られる人——写真は二者の関係性によって生まれるものです。

今回は、モデルでありフォトグラファーでもある安井達郎さんと、フォトグラファー山根悠太郎さんによる対談をお届けします。

普段表に出ることのない撮影現場の舞台裏や、モデルとカメラマンの間に生まれるコミュニケーションの本質とは? 10の質問を通じて、撮影の準備や心構え、互いの視点が交わる瞬間を深掘りします。

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山根 悠太郎

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山根 悠太郎

1998年生まれ。島根県出身。2018年より東京祐氏に師事。2021年4月に独立。自身の作家活動の他、ポートレートを中心にファッションをはじめ、ジャンルを問わず活動。

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安井 達郎

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安井 達郎

モデルとして雑誌広告等に出演する傍ら、映像作家としてnever young beach、indigo la EndなどのMV監督を務める。近年は自身のYouTubeにて日常を切り取ったVlogを発信している。2023年より写真家としての活動をスタートさせる。

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Q:フォトグラファーとして、初めての仕事は?

山根 実は独立前に撮った写真があるんです。『SITRUUNA(シトルーナ)』っていうファッションとカルチャーの雑誌があって、表紙は師匠が撮ったんですけど、編集長が『山根くん、レモンの写真撮ってくれる?』って突然お願いしてくれて。

レモンをポートレートっぽく撮ろうと思って、ベッドの上に転がしたり、窓際に置いたりして撮影しました。それが雑誌の扉絵になって、編集長のコメントにも『表紙はアズマさん、お弟子さんのヤマネくんが扉を担当』って名前を載せてもらえて。すごく嬉しかったですね。

安井 すごい! 初めての仕事で名前が載るって、すごく特別ですね。

山根 本当にありがたかったです。人とのつながりの大切さを実感しました。

モデル×フォトグラファーの舞台裏

Q:これまでで印象に残っている撮影は?

安井 僕はね、すごく印象に残ってるのが、初めての広告撮影。23歳のときに、英会話スクール『ベルリッツ』の撮影が決まったんです。めちゃくちゃ大きな仕事で、しかも初の広告。撮影では顔のドアップ。英語が話せないサラリーマン役だったんですけど、どうしたらいいかわからなくて。

カメラの前に立っても表情の作り方がわからない。だから、とにかく“英語が話せない人”を演じようと思って、スチールなのにずっとその雰囲気を出してみたんです。そしたら、それが意外と良くて。写真の仕上がりもすごくいい感じになった。それをきっかけに『あ、撮影って楽しいかも』って思えるようになりましたね。

モデル×フォトグラファーの舞台裏

山根 自分でキャラクターを作った感じですね?

安井 そうそう。それが、今までで一番緊張した撮影でもありました。仕事の規模が大きかったし、プレッシャーもすごくて。山根さんは?

山根 僕は独立したときのことが印象的ですね。師匠のもとで3年働いて、独立するときにアシスタントを引き継ぐ準備を始めたんです。4月1日から独立するって決まっていて、3月31日が最後のアシスタントの日。その後すぐに作品を作って売り込みに行こうと思ってたんですけど、実際には何も準備できなくて。

でも、運よく仕事がすぐに決まって。独立直後なのに、15本くらいの案件をもらえたんです。ただ、最初の3ヶ月は大変で。口座に2000円しか入ってない時期もありました(笑)。でも、3ヶ月耐えたら給料が入るし、雑誌にクレジットが載ると次の仕事にもつながる。そんな流れで、気づけば仕事が回り始めてました。

モデル×フォトグラファーの舞台裏

写真 / 安井 達郎

Q:ライティングってどうやって学んだんですか?

山根 師匠の影響で、その師匠のライティング学びました。でも独立してからは、自分で試行錯誤しました。最近ようやく、自分の作風が見えてきた気がします。

安井 なるほど。独立してから模索してきたんですね。

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山根 そうですね。その中でライティングも変わってきました。最初はディフューズしまくって、光を柔らかくすることにこだわってました。でも最近は、影を意識するようになりました。光の使い方が徐々に変わってきた感じです。

Q:ポートレート撮影ではどんなライティングを?

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山根 ポートレートでは、基本的に1灯ライティングが好きですね。多灯ライティングより、1灯をどう使うかを考える方が楽しいんです。場合によっては、光を回すために天井バウンスを使ったりします。

安井 へぇ、徐々に光の扱いが変わってきたんですね。

山根 そうなんですよ。最初はガチガチにセオリー通りやってたけど、今は自由に試しながら、自分のスタイルを作ってます。

Q:撮影スタイルの変化は?

安井 人を撮り始めた頃と今とで、スタイルの変化ってあります?

山根 意識的に変えたことはないですね。

安井 最初から今のスタイルだった?

山根 撮影って意図的に変えられるものじゃないと思うんです。本能的に撮るから面白いわけで。計算しちゃうとつまらなくなるかなって。

安井 結構ライブ感を大事にする?

山根 そうですね。ディレクションより、その場で感じたものをそのまま撮るのが好きです。

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安井 じゃあ、モデルさんに動いてもらうんじゃなくて、自分が動く?

山根 そうですね。必要なら『こう動いてみて』って伝えますけど、基本は僕が動くほうが多いです。

安井 それが山根さんの撮影の特徴なんですね。

山根 そうかもしれません。俳優さんでも、話しながら自然に動くのを撮ることが多いです。例えば、リリー・フランキーさんを撮ったとき、細野晴臣さんのTシャツを着てたんですよ。それをきっかけに『細野さんの話をしてたら、ちょっと遠くを見てくれるかも?』って思って撮りました。

安井 すごい! そういう自然な表情が生まれるんですね。

安井 言葉がなくても成立するし、会話があればそれを生かす。どっちもアリなんですね。

山根 そうですね。その場の空気感で決めていくのが好きなんです。

安井 めっちゃ面白いですね!

Q:作風の変化って、仕事に影響ありますか?

山根 ありますね。お仕事で呼ばれる理由って、その時点での作風が評価されてるからだと思うんです。だから、大きく変えすぎると違和感が出る。でも、徐々に変えていくことで、違和感なく進化できるんじゃないかって。

安井 なるほど。少しずつ光を変えていく、と。

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Q:今後やってみたいことは?

山根 映画を撮りたいですね。やっぱり映像作品を作るのは夢です。

安井 それ、めちゃくちゃ面白そう! 何年か後にコラボ作品が公開されたら熱いですね。

山根 監督・主演は達郎さんでどうですか?

安井 それもいいね(笑)。芝居にも興味あるし。

山根 舞台もいいですよね。

安井 役者さんって、設定を与えると、その場でどんどん表現してくれるじゃないですか。あのライブ感が楽しい。

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Q:写真と演出の共通点って?

安井 写真は一瞬を切り取るから、難しいんですよね。映像は情報量が多いけど、写真は見る人に解釈を委ねる部分が大きい。

山根 たしかに。だからこそ面白いし、写真の作家性もそこにあるのかもしれません。

安井 そうそう。それが写真の醍醐味ですね。

山根 この話、飲みながら語りたいですね(笑)。

Q:映画を撮りたいって話、気になります。どんな映画を撮りたい?

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山根 ミュージックビデオとかは興味ないんですけど、映画は撮ってみたいなって漠然と思ってて。写真って止まってるじゃないですか。でも、動画なんだけど、止まってるような映像を撮りたいんです。なんて言ったらいいのか、表現が難しいんですけど。

安井 『AT THE BENCH アット・ザ・ベンチ』みたいな感じ? あれも写真家出身の方が撮ってるから、すごく写真的な映像ですよね。

山根 そうなんです。いろんな角度からカットが入るけど、あえて静かな映像。ミュージックビデオみたいな動的なインパクトじゃなくて、フレームの中で何かが起こる、そんな映像が好きですね。

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Q:ストーリーのアイデアはある?

山根 祖父が米を作ってたんです。今年からやめちゃったんですけど。

安井 おお、それ気になる。

山根 ハラダマハさんの『生きる僕ら』って小説、読んだことありますか?

安井 どんな話?

山根 引きこもりの主人公が田舎のおばあちゃんの家でお米作りを手伝って、生きる力を取り戻していく話です。僕、普段あんまり小説を最後まで読めないんですけど、あれだけは読み切ったんです。

安井 それ、映像にしたらすごく良さそう。

山根 そうなんですよ。祖父や曾祖父が作っていたお米。その記憶がすごく鮮明で、頭の中に映像として浮かんでくる。だから、映画にしたら面白いんじゃないかなって。ひいおじいちゃんの指がね、両方とも曲がってるんですよ。トラクターを押してきたから、親指が太くなって、独特の形になってる。それがめちゃくちゃかっこよくて。

安井 その手のアップ、すごく絵になりそう。キャスティングも気になるね。指が曲がってるおじいちゃん、探すの大変そう。

山根 そうなんですよ。祖父はもうやめちゃったし、シャイだから撮影するのも嫌がるし。

安井 なんでだろう?

山根 顔が丸く見えるから嫌なんですって。50mmだったら大丈夫だよって言っても、「いやいや、丸く見えるから嫌だ」って(笑)。安井さんも映画やりたいんですか?

安井 そうですね。僕、もともと映画監督志望なんです。学生時代はずっと自主映画を撮ってたんですけど、最近はちょっと離れちゃってて。

モデル×フォトグラファーの舞台裏

山根 じゃあ、脚本とか演出も?

安井 そうですね。人の芝居を見るのが好きで。演出っていうか、そういう部分をもっとやりたいなと。山根くん、カメラやってるし、一緒にディレクションできたらいいな。

山根 いやいや、僕まだアシスタント入りたいぐらいですよ。

安井 いやいや、もう一緒にやろうよ。

モデル×フォトグラファーの舞台裏

写真 / 山根 悠太郎、夢萌