出場者を応援する存在でありたい。「M-1グランプリ2024」のポスターができるまで

12月22日に決勝を控えた「M-1グランプリ2024」。20周年を迎える今大会のキービジュアルポスターは、解禁と同時に大きな話題を呼びました。今回は、2020年から「M-1グランプリ」のアートディレクションを手がける電通のアートディレクター・川腰 和徳さんに、制作にまつわるエピソードを伺いました。

PROFILE

川腰 和徳

PROFILE

川腰 和徳

アートディレクター・クリエイティブディレクター
多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業後、電通入社
アイデアとデザイン力を武器に話題の広告クリエイティブを数多く手がける。
2019年度にはアートディレクターとして初のクリエイター・オブ・ザ・イヤーを受賞。NYADC金賞、D&AD金賞、ADFESTグランプリ、ACCグランプリ、朝日広告賞グランプリ、東京ADC賞など世界最高峰のデザイン・広告賞を多数受賞。

――「M-1グランプリ2024」のポスターが反響を呼んでいます。率直な感想を教えてください。

純粋にうれしいですね。

そもそも「M-1グランプリ」のキービジュアルポスターは、大会を盛り上げることを目的に、2020年から制作させていただいています。大会のコンセプト開発に携わる機会をいただき、クリエイティブディレクター・コピーライターの有元沙矢香とともに開発したコンセプトコピーをお披露目する場として、ポスターを制作したのが始まりです。前年王者をビジュアルに起用するというスタイルが定着したのは、その翌年の2021年からですね。

2020年のキービジュアルポスター

5作目となる今回は、「大会20周年という記念すべき年でなければ実現できないようなビジュアルを」と考え、歴代王者19組が集結した特別なキービジュアルの制作に取り組むことになりました。結果として、これまでで一番の反響をいただいています。

歴代王者を全員撮影するという無謀な企画を実現できたのは、キービジュアルの制作に尽力してくださった関係者の皆さんのご協力のおかげです。本当に感謝しています。

――今回のポスターに込められた想いについて、お聞かせください。

今年の「M-1グランプリ」は、エントリー数が過去最多となる10330組を記録しました。この大会がここまで成長できたのは、これまで挑戦を重ねてきた漫才師の方々と、『俺たちが一番おもしろい。』を証明してきた歴代王者の皆さんのおかげだと思っています。

その感謝と敬意を込めて、19組の歴代王者が集結し、今年誕生する20代目の王者の漫才を見て、客席で大爆笑しているビジュアルを作り上げました。このポスターを見た今年の出場者たちが「この人たちを笑わせたい」と闘志を燃やし、その背中を少しでも押すことができていればうれしいです。

2024年のキービジュアルポスター

――「M-1グランプリ」のポスターは例年、漫才師に向けてメッセージを発信しているのが印象的です。

このポスターは、大会会場に貼られる機会が多いため、番組告知という役割を超え、漫才師の方々への応援メッセージとして重要な役割を果たしています。出場者の皆さんへの想いを第一に表現することで、結果として多くの人の心に響くものになればと考えています。

――2021年のコピーである「人生、変えてくれ。」は、毎年ポスターのどこかに使われていますよね。この言葉を起用し続けている理由を教えてください。

「人生、変えてくれ。」というコピーは、ファンの皆さんから運営に至るまで、M-1に関わるすべての人がM-1戦士たちに託す切実な願いを凝縮した言葉として開発しました。

毎年、その年の大会を象徴する新しいキャッチコピーを作っていますが、根底に流れる想いは変わらないため、2021年以降もこのコピーをポスターに取り入れ続けていますね。

漫才師や視聴者の方々が、この言葉を発する機会も増えてきており、とてもうれしく感じています。

2021年のキービジュアルポスター

――今回のポスターの制作において大変だったポイントがあれば教えてください。

「歴代王者を集める」というアイデア自体は、すごくシンプルなものでしたが、実際にやってみると予想以上に大変でした。特に、歴代王者19組の撮影スケジュールの調整では、関係各社の皆さんにご協力いただきながら、かなり奔走しましたね。

というのもこのポスターは、歴代王者を全員集めての一発撮りが希望だったのですが、最終的に別々で撮影した写真を合成しているんです。王者の皆さんはご多忙でスケジュールの都合がつかず、なかにはコンビでも予定が合わないケースもありました。そこで、都合のつく方から順次撮影を行い、東京・大阪で10回以上の素材撮影を実施。すべての撮影を終えるまでに約1ヶ月弱を要しました。

――撮影日だけでなく、撮影場所もバラバラだったとは驚きです。劇場の椅子は撮影地に一脚ずつ持っていったのでしょうか?

劇場の椅子をそれぞれの撮影場所に運ぶことは現実的ではなかったので、簡易な椅子を使用して撮影を行いました。背景を設置し、合成する角度と高さを計算した上で椅子を配置して撮影を進めましたね。劇場の椅子や空間は別途撮影を行い、後から出演者と合成しました。

――そう見えないほど、椅子も人物も自然に溶け込んだ仕上がりですね。

合成技術はもちろん、撮影の時点で「これは全員一緒に撮影したのかな?」と思えるクオリティを目指しました。

例えば、光を忠実に再現するために、劇場にスタッフを配置してシミュレーションを行い、本番の光の当て方を細かく調整していきました。中央に強いスポットライトが当たり、端に向かって光が徐々に落ちていく劇場特有の様子を自然に表現したかったんです。そのため、かなり綿密な計算を重ねながら撮影を進めていきました。

また、撮影全体を通して同じトーンを維持するため、フォトグラファーの川村将貴さんにすべての撮影に参加していただきました。10回以上にもおよぶ撮影すべてにスケジュールを合わせていただいて、ありがたかったですね。

――そのような試行錯誤の末に完成したポスターですが、関係者の方から反響はありましたか。

そうですね。ウエストランドの井口さんがXで反応してくださったり、マヂカルラブリーの野田さんがYouTubeで触れてくださったりと、漫才師の方々を筆頭に関心を寄せていただいているなと感じています。また、うれしいことに、大会20周年を記念してヨシモトブックスから発売された「M-1グランプリ大全2001-2024」の表紙にも起用していただきました。

――ポスターが解禁される前日に、「お前たちが一番おもしろい。」と書かれた劇場のポスターが公開されましたよね。告知から解禁までの二段階の展開も印象的でした。

ポスター解禁の盛り上がりを最大化するため、今回はまずティザーとして誰もいない劇場のビジュアルを公開し、その翌日に本編のポスターを解禁するという流れを作りました。「お前たちが一番おもしろい。」という言葉が誰からのメッセージなのかがポスター解禁で明らかになるという展開は、見てくださった方々に驚きとよろこびをお届けできたのではないかと思います。

――最後に「M-1グランプリ2024」に向けて、制作サイドとしてメッセージをお願いします。

キービジュアルポスターを毎年楽しみにしてくださる方が増え、「M-1グランプリ」への熱量がますます高まっているのを実感しています。このようなおもしろい大会は、世界に類を見ないと思いますし、今年もすべての漫才師が積み上げてきた歴史の先に新しいドラマが生まれるのではないでしょうか。

出場者の方はもちろん、関係者一同もこの日に向けて全力で準備を重ねています。ぜひ、リアルタイムで見ていただけるとうれしいです。

▼Information

M-1グランプリ2024

【敗者復活戦】
放送日時:2024年12月22日(日)15:00~18:30 生放送
場所:新宿住友ビル 三角広場
放送:ABCテレビ・テレビ朝日系列全国ネット 生放送
MC:陣内智則、齋藤飛鳥
出場者:マユリカ/カベポスター/家族チャーハン/十九人/金魚番長/ナイチンゲールダンス/ドンデコルテ/シシガシラ/カラタチ/ひつじねいり/例えば炎/オズワルド/フースーヤ/今夜も星が綺麗/インディアンス/豆鉄砲/男性ブランコ/ダンビラムーチョ/滝音/豪快キャプテン/スタミナパン(エントリー順)

【決勝】
放送日時:2024年12月22日(日)18:30~22:10 生放送
場所:テレビ朝日
放送:ABCテレビ・テレビ朝日系列全国ネット 生放送
MC:今田耕司、上戸彩
出場者:真空ジェシカ/トムブラウン/ヤーレンズ/エバース/ダイタク/令和ロマン/ママタルト/バッテリィズ/ジョックロック(エントリー順)+敗者復活枠1組

Text:しばた れいな