風景の中に溶け込む人たちのポートレートの距離感、空気感を大切に。 #写真家放談 |小財美香子

注目のアーティストの写真を数多く手掛ける写真家・小財美香子。中学時代に祖父の影響でフィルム写真を撮り始めた彼女は、大学在学中に制作した作品集「南へゆけば」で見出した”風景に溶け込むようなポートレート”という独特の作風を原点に、様々な媒体で活躍している。

今回の #写真家放談 では、アーティストの自然体な雰囲気や魅力を写すために大切にしていることを聞いた。

小財美香子

1994年生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。中学時代に祖父の影響でフィルム写真を撮り始める。現在は、雑誌、web、アーティスト写真など様々な媒体で活動中。

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写真と共に人生を歩んできた

── どんなきっかけで写真と出会ったんですか?

12歳の頃です。中学1年の夏前から学校へ行けなくなってしまいずっと家に引きこもっていましたが、一緒に住んでいた祖父が使っていたCanon FT-bというフィルムカメラを譲ってくれたことがきっかけで写真を撮るようになりました。窓から差し込む柔らかい光やこちらを見ている祖父の優しい眼差し。今まで感じたことのないときめきのようなものを感じ、家の中でひたすらに写真を撮り始めました。その次は家のまわり、その次は隣の町へと、カメラを持っている時は少しずつ外に出られるようになりました。撮る写真は風景ばかりで、撮った写真は誰に見せることもありませんでした。

── その後も写真を撮り続けてきたのでしょうか。

はい。しばらくしてから定時制高校に進学したのですが、写真部がなかったんです。新しく部を作るのにも人数を集めなければいけないと言われて諦めました。写真部は作れませんでしたが、写真は変わらず撮り続けていました。

高校3年生の春、行きたい大学に写真の実技試験があると知り、美術部の先生に受験の相談をするようになりました。ある日「美術部に入っていろんな人に写真を見てもらおう」と言われ、そのまま入部して数週間後、階段の踊り場で人生初めての写真の展示をしました。

友人や先生たちから写真の感想を言ってもらえたことが、嬉しいような恥ずかしいような不思議な気持ちになったことを覚えています。その後も行きたかった大学に受かり、写真を撮り続けることとなりました。

── 一つのターニングポイントを経て、どんなきっかけで今のように写真の仕事をすることになりましたか?

大学卒業してから1年間は写真とは関係のない仕事をしていたのですが。仕事をやめた後もバイトをしながら写真の仕事や作品制作をするようになり、個展をしたり、ネット上に作品を掲載するようになってから少しずつお仕事のお声がけをいただけるようになりました。

今のわたしに影響を与えた作品は「南へゆけば」

── 自分に影響を与えたと考えられる作品があれば教えていただきたいです。

2015年に制作した「南へゆけば」という作品です。

2015年に制作した「南へゆけば」

── どんな作品なのでしょうか。

大学の卒業制作のために、当時親戚が住んでいたインドネシアに二週間ほど滞在し、中判カメラで撮影しました。窓辺に差し込む光、道端に咲いている花、 色とりどりの果物。綺麗だなと思ったものを撮る、ただそれだけの純粋な気持ちで。特に風景の中に溶け込んでいるような人たちのポートレートの距離感、空気感は今の私の写真のベースになっているような気がします。

結果的にこの卒業制作は学内の賞をいただきました。自分の写真をそういった形で評価してもらえたことは初めてだったので嬉しかったです。

小財 美香子

アーティストの魅力を写すために

── その後アーティスト写真をよく撮られていますね。どんなきっかけでアーティスト写真を撮るようになったんですか?

友人であるたなかさんがやっているグソクムズというバンドが好きでライブによく行っていました。

いつかアーティスト写真を撮ってみたいと密かに思っていたのですが、それまで人の写真をあまり撮ったことがなかったので自分からは言い出せませんでした。

それから何年か経ってアーティスト写真を撮って欲しいとたなかさんが言ってくださり、2019年にグソクムズのアーティスト写真を撮影しました。

グソクムズ アーティスト写真

その後は、インスタグラムで作品を見ていただいてお声がけいただいたカネコアヤノさんを始め、アーティスト写真を撮影させていただくことが多くなりました。

ジョナゴールドさんアーティスト写真

── 例えば、ジョナゴールドさんのこの写真はどんなテーマや構想で撮影しましたか?

撮影の中でヴィンテージカーを使いたいというリクエストがありました。それに合わせて年代感を演出することになり、写真やスタイリングなどを含め00年代を再構築するような方向性になりました。

── 撮影前や撮影中に、アーティストからのリクエストなどはあったりしますか?

打ち合わせの段階で写真のイメージをいくつか提示していただいていたので、そのイメージを汲み取りつつ撮影中は基本お任せしていただけました。

── クライアントにお任せしてもらえるのは、信頼の証ですね。

「撮影は小財さんに任せます」と言ってもらえるように撮影前の打ち合わせはなるべく念入りにコミュニケーションを取るようにしています。

── この撮影はどのように進行したのでしょうか?

場所を変えて3パターンほど撮影することは決まっていたので、あらかじめ場所だけ決めて、順々に撮影していきました。移動中にいいロケーションがあれば予定していなかった場所でも撮影しましたね。

── アーティスト写真で撮影シーンやロケ地が設定された場合、その理由やイメージなどを教えてください。

今回のテーマに沿ってシティ感は出しつつも、どこか親しみを感じるような生活感がある街を選んでいます。

── アーティスト写真は基本的に1枚が採用されると思いますが、このアーティスト写真では何カット撮影されたのでしょうか?

200枚ほど撮影しました

── ずばり、この1枚が選ばれた理由は?

光と表情です。

ジョナゴールドさん アーティスト写真アザーカット

── アーティストの自然体な雰囲気や魅力を写すために大切にしていることって、どんなことでしょうか。

まずは自分がリラックスして撮影することだと思います。リラックスしていないと、ここだという瞬間を見逃してしまいますし、緊張していると相手にも伝わる気がします。緊張してしまう原因をひとつずつ解消して撮影に臨むようにしています。

── 実際に写真家になってみて、どんな職業だと思いますか?

作家としての制作は個人プレーで閉じこもっていることが多いのですが、仕事となると撮影前、撮影中、撮影後、それぞれ想像していたより人との関わりやコミュニケーションがとても大事だなと思います。また心も体もある程度はタフなほうがいいかもしれないです。もしくは、そうなっていく気がします。

E.scene アーティスト写真

── さいごに、今注力している作品・仕事があれば教えてください。

2017年からパーソナルワークとして父と母が住んでいた北海道を撮影しています。

私が2歳の時に母が病気で亡くなり、私が覚えている一番古い記憶の中には母はいませんでした。小さい頃は、母のことを知りたいと思い、家族に聞いていたのですがみんななんだか悲しげで。幼心に母のことを聞くのはとても気を遣うし、あまり深くは聞けませんでした。

ふとした会話の中で、父は母と2人で夏休みの間、キャンプをしながら道内を回っていたと話していました。しばらく経ったあと、屋根裏部屋に置いてあった段ボールの中に2人が書いた道内の旅行記を見つけました。

訪れた場所、2人が思ったこと、挟み込まれた写真、どれも自分が初めて知る父と母の姿がそこにはありました。その旅行記を持って北海道で撮影するようになったのが2017年でした。

この作品はこれからも撮り続けたい作品ではあるのですが、一区切りとして近い内に展示をしたいと思っています。

今までの作品は風景写真が中心だったので、人が主役の作品を撮りたいです。例えばひとりの人にフォーカスした写真をZINEだったり写真集だったり形として残るようなものを作りたいです。


小財美香子さんの愛用機材

カメラ:CONTAX G2、Nikon F3
フィルム:Kodak PORTRA400 


アーティスト写真について

ジョナゴールド

2015年10月、RINGOMUSUME(りんご娘)加入。以降、グループの一員として音楽・芸能活動を通した地方からの情報発信と、地元青森の活性化、全国・海外の第1次産業をエンタテイメントで元気付けることを目標に、ライブ活動やCDリリース、メディア出演、農業など精力的に活動を続け、2022年3月に卒業。2022年4月よりシンガーとしてのソロプロジェクトスタート。デビューシングル「7号線」5月7日リリース。iTunes Storeミュージック総合トップアルバムにて初登場1位にチャートインするなど、青森発のポップシンガーとして注目を集めている。

2023.1.18 リリース(CD&デジタル)1st Album「WEEKEND」