「世界観」を伝えたかった。JR SKISKIらしさを見直した、クリエイティブの挑戦

毎年、スノーレジャーシーズンの到来を告げる「JR SKISKI」キャンペーン。そのCMやポスターは、冬の風物詩として長年にわたり、多くの人々に親しまれてきました。

出口夏希さんと青木柚さんのダブルキャストを迎え、2024年12月19日から展開をスタートした今シーズンの広告。従来のストーリー性を一新したというクリエイティブには、どのような思いが込められているのか。クリエイティブディレクターの山口広輝さんに話を伺いました。

PROFILE

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山口 広輝

ジェイアール東日本企画 クリエイティブディレクター / コピーライター
主な仕事にJR SKISKI、大人の休日倶楽部、TAKANAWA GATEWAY CITY、doda、パーソルクロステクノロジー、ロシュ・ダイアグノスティックス、ジャポニカ学習帳など。TCC賞、TCC新人賞、ACC賞、朝日・読売・日経・毎日広告賞、交通広告グランプリ優秀賞、新聞協会賞など受賞。宣伝会議コピーライター養成講座基礎コース講師、宣伝会議賞審査員。

――「JR SKISKI」2024-2025キャンペーンのクリエイティブコンセプトについて教えてください。

一言でまとめると、ストーリーではなく「世界観」を伝えていく広告です。

実は、今回のCMでは絵コンテを準備せずに、撮影に臨みました。「同じ大学に通う友人」という設定はあったものの、細かいストーリーは決めず、俳優のお二人に説明する演出も必要最小限。受付でスノーブーツを借りるシーンから、雪山を滑るシーンまで、まるで初めて雪山を楽しむかのように自由に動いていただきました。撮り直しもほとんど行わず、自然な表情や仕草をカメラに収めるよう心がけましたね。

――俳優さんの“素”を引き出したかったんですね。

そうですね。だから役名も、お二人のお名前をそのまま使わせていただきました。芸能人という肩書きを忘れて、純粋に雪山を楽しんでいただきたかったんです。演技ではなく自然な反応を見せてもらう撮影だったので、俳優のお二人にとっては、むしろチャレンジングだったかもしれません。

――自然であることにこだわった理由を教えてください。

「JR SKISKI」のCMでは、お互いを意識し合うイケてる男女が、雪山で過ごすことをきっかけに心が近付いていくストーリーを伝統的に描いてきました。でも今の若者視点で見ると、そういったストーリーには共感しづらく、自分のこととして捉えにくいんじゃないかと思ったんです。

そこで昨年から、JR SKISKIらしい表現を見直し、今の若者により響く表現を模索してきました。昨年は、別れた男女が雪山で過ごすことで素直な気持ちを取り戻すという、従来とは異なる“エモい”ストーリーに挑戦。そして今年は、さらに一歩進んで、ストーリー自体を取り払うことにしました。

最後のシーンで、出口さんと青木さんの目が合う瞬間がありますが、これも従来に比べると、自然なシチュエーションになっていると思います。やりすぎない演出の中で、いかに雪山ならではの魅力を伝えていくのか。僕たちにとっても新しい挑戦になっています。

―ストーリーを取り払うというのは、かなり勇気のいる決断だったと思います。迷いはありませんでしたか?

正直言うと迷いがなかったわけではありませんが、企画段階で大学生や弊社の新入社員にヒアリングをしたところ、「作り手側が用意したストーリーやセリフ一つひとつが気になってしまって、かえって興味が削がれてしまう」という声が多かったんです。いわゆる広告っぽい広告は、すぐにスルーされてしまうんですね。

それを踏まえて、演出や表現をあえて排除することを選んだんです。そうすることで、雪山を訪れたときの非日常感や高揚感を、受け手側が「世界観」として自然と感じ取れるんじゃないかと。結果的に、それが一番伝わる広告になるのかもしれないと考えました。

コピーを「白」と「熱」の二文字だけにしたのも、見た人がイメージを膨らませられるようにしたかったからです。今までのコピーに比べると控えめに感じられるかもしれませんが、映像とコピーが合わさることで、それぞれの雪山への想像や憧れが広がってくれるといいなと思います。

――CMの撮影において、こだわったポイントはありますか?

今回のCMは、雪山のリアルな空気感を切り取れるよう、すべてスマートフォンで撮影しました。やっぱり大きなカメラを構えてしまうと、俳優さんたちが演じようとしてしまうので、なるべく自然な表情や仕草を引き出せるように、片手で持てるサイズのスマートフォンを撮影機材に選びましたね。とはいえ、大勢のスタッフが遠巻きから見守っている状態だったので、緊張感はありましたが(笑)。それでも例年以上に、フランクな撮影ができたのではないかと思います。

――カメラを意識しないよう、あえてスマートフォンで撮影したんですね。スマートフォンで撮影したとは思えない仕上がりで驚きました!

意外とわからないかもしれないです。フレームレートやホワイトバランス、ISOなどを調整できるカメラアプリを使用して撮影したので、かなりいい画質に仕上がっているので。

ただ、アングルに関してはプロフェッショナルな印象を極力抑えました。カメラマンは昨年から引き続き、片村文人さんにお願いしたのですが、あえて雑多に切り取っていただくなど、素人感を演出してもらいました。昨年までは、作品のような映像美を追求してきましたが、今回はドキュメンタリーのような生っぽさを意識しています。

――ポスターについてはいかがでしょう。

ポスターは主に駅に掲出されますが、平均視認時間が約2秒と限られているため、目を引くビジュアルづくりを毎年心がけています。ただ、今回はCM同様に「世界観」を伝えることを重視したため、これまでのような俳優さんのカメラ目線は控えながら、雪山を訪れたとき高揚感を表現するよう努めました。

――最後に、時代とともに変化する「JR SKISKI」の広告ですが、変わらず大切にしている軸を教えてください。

表現方法は変わっても、若い人に向けて雪山を訪れたときの非日常感や高揚感を伝えることは、変わらず大切にしています。今は、雪山に行かなくても楽しめる場所がたくさんあって、日常的なエンターテインメントも充実しています。そんな中で、若い人たちの心に響く表現を探りながら、その年ならではの方法で雪山の魅力を伝えられるよう心がけています。

これまで恋愛や友情を描いてきた「JR SKISKI」ですが、今回は嗜好を変えたドキュメンタリースタイル。その挑戦をぜひ楽しんでいただければと思います。

▼information

「JR SKISKI」2024‐2025 キャンペーン
期間:2024年12月19日(木)~2025年3月31日(月)
URL:キャンペーンサイト
CM:JR東日本公式チャンネル