「シュールと言ったらムーディ勝山しかいない!」フォトグラファー大竹宏明が撮る、ムード歌謡歌手と犬コーラス隊
現在、SNS界隈でじわじわ話題となっている「ムーディ勝山と犬コーラス隊」の写真たち。実は、フォトグラファーの大竹宏明氏が撮影とディレクションの両方を手がけているのだという。「ムーディさんの写真は7年間撮り続けているので、突然こんなにも話題になり驚いています」と語る大竹氏に、ムーディ勝山氏の撮影の裏側や、シュールな世界観がどう生まれるのかを詳しく伺った。
PHOTOGRAPHER PROFILE
PHOTOGRAPHER PROFILE
大竹宏明
写真家、フォトグラファー。
WEBメディア、広告、雑誌、コーポレートサイト、宣材写真、プロフィール写真、通販サイトなどの写真撮影を行っている。特に、被写体本来の魅力を瞬時に引き出し、ナチュラルで生き生きとした写真を撮ることを得意とする。
──元々はファッション業界で勤務されていたということですが、写真に興味を持ち始めたきっかけを教えてください。
通販サイトの『マガシーク』の運営会社に勤務していた時に、CanCamやRayのようなファッション誌との連動企画を担当していた関係でスタジオ撮影に立ち会うことが多く、撮影というものに興味を持つようになりました。
その当時はまだスマホもなくてガラケーで洋服を買っていて「洋服の写真ってモデルが着ていた方が見栄えいいよね」みたいな、まだまだそんな時代だったんですよね。
なので、担当のブランドの売上を伸ばしたいという気持ちで、担当ブランドの洋服をモデルさんに着せて写真を撮って、着用例のような形でサイトに載せてみたのが始まりです。最初は本当にブログに載せるレベルの写真でした。
そこから徐々にプライベートでも写真を撮るようになり、自分が食べた食べ物とかを撮ってFacebookに載せていたら、友人から「うちの子のお宮参りを撮ってほしい」とか「七五三の写真を撮ってほしい」みたいに声をかけられるようになって、友人のそういうイベントごとの写真も撮るようになりました。
──なるほど。そこから本格的にフォトグラファーの仕事をすることになったのはどのような流れだったのでしょうか。
今はもう無くなってしまったのですが、かつて『smarby(スマービー)』という子供服・ベビー服を販売している通販サイトがあったんですね。そこの社長と偶然知り合った時に、写真撮影もできる通販のバイヤーを探していると言っていて、「僕、両方できます」と伝えたところ、株式会社スマービーに入社することになり、そこからフォトグラファーとして仕事をするようになりました。
ムーディ勝山との出会い
──ムーディ勝山さんとはどういったきっかけで出会ったんでしょうか。
ムーディさんとの出会いは2017年頃、僕がTwitterで「撮りたいです!」と声をかけたのがきっかけです。
実は、ムーディさんに声をかける前に、女性のポートレートを撮っていた時期があったんです。でも、周りのフォトグラファーがすごく上手な写真を撮っている中、僕はなかなかそんな風に撮れなくて。同じ土俵で戦っていては駄目だと思ったんですよね。
そこで、壁の方を向いてうなだれるとか狭い隙間に入ってもらうとかちょっとシュールなことをやり始めたんです。
そのシュールな世界を突き詰めていったら、ムーディさんが思い浮かんで、「シュールな人と言ったらムーディ勝山しかいない!」と思い、@を付けてメンションで「ムーディさんの写真撮りたいです」と呟いたんです。
そしたらなんと本人からお返事が来て、「本当ですか?」と言われたので、「本気です。ムーディさんしかいません!」と伝えたら、「その依頼、受け流さずに受け止めます!」というメッセージをいただきました(笑)。そこから年に 3、4回ぐらい会って撮影して……という関係が、かれこれ7年近く続いていますね。
──撮影のディレクションや撮影は大竹さん一人でされているんですか?
はい、そうですね。大体の場所だけ決めておいてロケハンはせず、その場で生まれたアイデアや空気感を大切にしながら撮影しています。1回の撮影時間は大体2時間くらいですかね。
基本的には僕とムーディさんの二人で撮影しているので、割と短めの時間でサクサクと撮っています。
──ということは、離れた場所から撮っている時は、ムーディさんが一人で立っている時間が発生しているということでしょうか……?
そうですね。衣装を着てマイクを持ったムーディさんが立っていて、僕が少し離れた歩道橋の上から撮っている時とか、通行人の方が「えっ?」って感じで二度見しています(笑)。
──偶然見かけられた方はラッキーですね(笑)。また、現在犬コーラス隊とのお写真がSNSで話題になっていますが、このシリーズが生まれたきっかけはなんだったのでしょうか。
白いおじさんと白い犬が一緒にいたら面白いなと思ったんですよね。
そこでムーディさんに「白い犬にムーディさんの衣装を着せて並んだら面白くないですか?」と提案してみたら、「面白いですね、ぜひやりましょう」となって、撮り始めたという感じです。とはいえ、1匹だとあんまり面白くないかなと思って、3匹の犬でコーラス隊をつくりました。
ただ、ここまで話題になるとは全く予想していなかったので驚きましたね。Xに載せたら犬好きの方のおすすめにも表示されるんだというのはちょっと意外な発見でした。
──反響を見ていかがですか。
SNSを見ていると「誰が撮ってるの?」「これって写真集になるの?」「この色味はどんなフィルター使っているんだろう?」と、色々な反応があるのですごく面白いです。そういうところも気になるんだ!と思いながら楽しく眺めています。
──アイデアはどういったところからインプットされているのでしょうか
映画やミュージカル・お笑い番組を観る、写真を見る、写真展に行くとかはしょっちゅうしていますね。あとは1人でカメラを持って街を歩いて、なんでもないスナップを撮るとかもよくやっています。
カフェや飲食店に行って、そこの人と仲良くなることも多いので、出会った人たちとの会話の中からアイデアのヒントを貰ったりもしています。
──撮影において、大竹さんの中で大切にされているポリシーはありますか?
“まず自分が楽しむこと”ですかね。
実際楽しいというのはあるんですけど、自分が楽しんで大笑いとかしてると、相手も心を許してくれるので、まずそこからだと思っています。
──撮影はお話しながら進めていかれるタイプですか。
そうですね。結構喋ってるかもしれないな。
話しかけると逆にノイズになってしまうような撮影の時は、特に盛り上げることはせず淡々と撮るパターンもありますが、ポートレートだとよく会話するかもしれないですね。
僕の撮影の場合、隙間に入ってもらうとか、 変なことをやるので、撮っているうちにこっちも大笑いしちゃうんですよね。そうすると向こうも乗ってきてくれるというか。こちらが変なことやると向こうもリラックスしてくれるんだなと。
もちろん普通の笑顔の写真とかもちゃんと撮るんですけど、ふざけた撮影を挟むとそういう笑顔の写真もよりナチュラルになるし撮りやすくなるかなと感じています。
──ムーディさんのシリーズってこれからも続いていくのでしょうか?
はい、続けます。ムーディさんの一人の写真も続けますし、ワンちゃんとの写真も続けます。 本当は写真展とかやりたいんですけどね。今年の冬とか来年の頭とかで、なにかできないかなと思っています。
──楽しみです
あとは、自分の作品的なものはちょっと増やしていきたいと思っていて。人が映ってないスナップみたいなものとか、芸人さんシリーズも増やして行きたいですし、ゆくゆくはバンドマンとかアーティスト、劇団四季の俳優さんの撮影もしたいなと思っています。
吉本興業さんの東京本社の受付の横スペースにギャラリーのようなスペースがあるみたいなんですが、ムーディさんが「そのスペースに写真を何枚か飾ってみます」と言ってくれているのでそれも楽しみですね。受付に来た人が見てくれて、ちょっと笑ってくれたら嬉しいなと思います。
Text:浅井智子