巡回展記念インタビュー – 常識を覆す、自由な写真|平間至
2024年7月6日(土)〜8月25日(日)の期間中、『平間至展 写真のうた -PHOTO SONGS-』が福島県・郡山市立美術館にて開催される。
タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」のキャンペーンポスターをはじめ、多彩なアーティストを撮った「音楽が聴こえてくるような躍動感のあるポートレート」によって、それまでにない新しい写真のスタイルを打ち出した写真家・平間至氏。30年以上にわたって第一線でカルチャーシーンを牽引している。
「窮屈な時代になっているけれど、僕の写真を通して、自由であることを感じてもらえたら嬉しい」と語る平間氏。
「平間至展 写真のうた -PHOTO SONGS-」巡回展を機に、常識や固定観念を取り払い、写真の楽しさや自由さを伝え続ける平間氏の今を聞いた。
PROFILE
PROFILE
平間至
1963年、宮城県塩竈市に生まれる。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、写真家・伊島薫氏に師事。タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」のキャンペーンポスターをはじめ、多くのミュージシャンの撮影を手がける。2006年よりゼラチンシルパーセッションに参加。2008年より「塩竈フォトフェスティパル」を企画・プロデュース。2012年より塩竈にて、音楽フェスティパル「GAMA ROCK FES 」を主宰。2015年1月、東京・三宿に平間写真館TOKYOをオープン。
@itaru_hirama https://hirama-shashinkan.jp/▼information
平間至展 写真のうた -PHOTO SONGS-
【会場】郡山市立美術館(福島県郡山市安原町字大谷地130-2)>MAP
【会期】2024年7月6日(土) — 8月25日(日)9:30〜17:00 ※最終入場は16:30まで
【休館日】毎週月曜(7/15・8/12は開館 7/16・8/13は休館)
【入館料】一般1,000円(800円)/高校・大学生700円(560円) /中学生以下、障がい者手帳をお持ちの方は無料 *( )内は 20 名以上の団体料金
【主催】郡山市立美術館
【協力】タワーレコード株式会社、富士フイルム株式会社
【企画協力】コンタクト、平間写真館TOKYO
【お問合せ】郡山市立美術館 学芸課(Tel:024-956-2200)
残そうとして、残るものじゃない
── 長い間、商業写真の世界の第一線で活躍してきたと思いますが、キャリアの成熟期に平間写真館 TOKYO(以下、平間写真館)を始められるなど「残す」ことに集中している印象を受けています。
平間至(以下、平間) まず、残すというのは写真の特性ですよね。いっぽうでメディアは消費的なので、例えば週刊誌だったら1週間経つと破棄されていくわけです。写真の「残す」という特性を考えると、消費的な社会は、ある意味写真の特性と相反する部分があると思っていて。
「スマホで撮る写真と写真館で撮る写真は何が違うんですか?」って聞かれたときも、スマホで撮る場合は短期的・消費的な記録という言い方をしています。
つまり、スマホで撮った写真を子供の世代まで残そうと思うことは殆どないんですよね。それに対して「残す」ことを大切にしている写真館で撮った写真は、子どもの代まで、場合によっては孫の代にも残っていくことがあります。
「残す」という写真の特性に見事に合致しているビジネスが、写真館ではないかと思います。
── 展示という表現は、期間の限られたメディアとも言えます。
平間 会期が1ヶ月間であれば、展示は1カ月で終わってしまう。でも、展示というのは、僕の写真を残したいと思ってくれる人がいるから開催されるんだと思います。
作品は残っても、撮影者の意志は引き継がれないパターンもあるでしょうし、それは本当にさまざまです。だから意志がどうであるかはあまり関係ないと思うんですね。
まず、自分から作品が切り離されて、他者から評価をされること。それが「残す」ことにつながっていくと思うんです。
いい意味で、それはアーティストの意図を超えるかもしれないし、本人には全く関与できないこと。でも、作品が残るということは、なんらかの価値や社会的な影響があるということだと思います。
── 平間さん自身が残したいものはあるのでしょうか。
平間 僕自身は何かを残したいとは思っていないですね。先ほどの話に戻りますが、残そうとして、残るものではないと思います。ありがたいことに、現在までに5会場で展覧会が開催されていますけども、自分の評価を高めたいとか、作品を残したいとか、そういう欲はほとんどないんです。
写真は魂の居場所である
── それでは平間さんにとって写真というメディアで「残す」価値って、どんなものなのでしょうか。
写真館に遺影を撮りに来た人がいました。撮影時はお元気だったのですが、その後亡くなった知らせを受け、ご自宅に伺うと、仏壇の上に元気そうな写真が飾ってあったんです。その時に思ったのは、写真とは、魂の居場所なのだということ。
── 写真は魂の居場所。
平間 その人の魂が宿っているというか、写真の中にその人が本当にいるような気がしたんですよね。今にも動き出しそうな、そんな感じがして。
震災のとき、おばあちゃんたちが自分の成人式の写真だけを持って逃げたという話を直接聞きました。30分後に津波が来るというのに、写真を持って逃げたという。肉体は行動できるけれど劣化し、写真は行動できないけれど劣化しにくいという特性をもった、魂の居場所なんだと思います。
思い込みの枠を取り払う、自由な写真
── 平間さんは変わったものの見方をしているというか、とらわれない見方をしている感じがします。
平間 そもそも、こうあるべきだという常識が社会としての秩序を保っているのと同時に、人を苦しめていると思うんですね。
人の悩みというのは、基本的には社会の価値観と個人の欲望の歪みから生まれていて、「こうでなければならない」と思い込んでいるから、結局、多くの人が苦しんでいるように僕には見えていて。
── 思い込み、しがちですね。
平間 自由というのは、その枠を取り払うことだと思うんです。わかりやすく言うと、僕の写真を見た人は、「こんな撮り方もあるんだ」「そんなにポーズに気を使わなくてもいいんだ」と感じたりする。
── 平間さんは写真というアプローチで常識のようなものを取り払ってきたということなんでしょうか。
平間 そうですね。パンク的だと思います。思春期にパンクに触れたので、その影響は大きいですね。
── となると、知らず知らずのうちに培った思い込みを壊したくなるかもしれないですね。
平間 そう。だから、平間写真館の撮り方ができあがってしまったら、ある意味、危険な状況にあるかもしれないなということも自覚しています。
── まだ平間写真館の撮り方は完成していない、ということですか?
平間 ある意味、一般の方々の撮影は、できあがることができないんです。撮られ慣れていない方々の撮り方が「できあがった」と言えるほど簡単なものじゃない。
被写体には赤ちゃんもいれば、子どももいれば、動物もいるわけです。言葉が通じないこともある環境で、どういうふうにアプローチするか。やりがいがありますよ。
── 商業写真の最前線で活躍してきた平間さんが写真館に挑戦されていることにも、自由さを感じます。
写真館を始めたことは、僕にとっては一番の挑戦であり、原点回帰ですね。
若い人たちに、もっと自由に楽しく生きてほしい
── 今回の巡回展では、平間写真館で撮影した作品を含め、約300点を展示すると聞いています。写真展を通して伝えたいことは何ですか?
平間 写真表現の楽しさ、面白さを伝えたいと一貫して思っています。僕はフィルムの時代から写真を撮り続け、フィルムからデジタルに変わる瞬間も経験してきました。写真の表現の幅や歴史の一部を自分自身が体現しているようなところもあります。
スマートフォンで写真が撮れるようになり、写真を撮ることがより身近になった今だからこそ、写真の面白さを知ってもらえたらうれしいです。
── 平間さんがこれまで撮ってきた写真からは、自由で楽しい感覚が伝わってきます。写真展はそれを凝縮した空間なんですね。
平間 そうですね。窮屈な時代になってきている……そんな時代だからこそ、若い人たちにはもっと自由に楽しく生きてほしい。カメラを向けると、なぜかみんな気をつけポーズやピースをする。でも、立ち止まって写真を撮る必要はないんです。
みんな、どこか自分自身を不自由にしているところがある。一緒に走りながらでも写真は撮れるわけです。僕の写真を通して、自分が自由であることを感じてもらえたら嬉しいです。
▼information
平間至展 写真のうた -PHOTO SONGS-
【会場】郡山市立美術館(福島県郡山市安原町字大谷地130-2)>MAP
【会期】2024年7月6日(土) — 8月25日(日)9:30〜17:00 ※最終入場は16:30まで
【休館日】毎週月曜(7/15・8/12は開館 7/16・8/13は休館)
【入館料】一般1,000円(800円)/高校・大学生700円(560円) /中学生以下、障がい者手帳をお持ちの方は無料 *( )内は 20 名以上の団体料金
【主催】郡山市立美術館
【協力】タワーレコード株式会社、富士フイルム株式会社
【企画協力】コンタクト、平間写真館TOKYO
【お問合せ】郡山市立美術館 学芸課(Tel:024-956-2200)
平間写真館TOKYO
【住所】〒154-0001 東京都世田谷区池尻2丁目7−12 B1
【電話】03-6413-8400
【公式サイト】https://hirama-shashinkan.jp/
【お問い合わせ】https://hirama-shashinkan.jp/contact/