29歳の映画監督・写真家、枝優花の「撮りはじめた、あの頃。」 vol.03
現在、第一線で活躍する写真家たち。
その誰しもに必ずある、写真を撮り始めたばかりの頃の写真。
あの写真家が駆け出しの時に見ていたものはなんだったのか、そして変わったこと、変わらないこととは?
第三回目は2017年に初の長編映画『少女邂逅』でデビューし、第28回日本映画批評家大賞新人監督賞を受賞。その後も『イカロス 片羽の街』、最新作の『ワンルーム・エンジェル』など、話題作を次々と世に送り出している枝優花さんの魅力は、何といっても“リアル”な描写にある。現代を生きる若者たちの等身大の姿が映し出され、多くの共感を集める枝さんに、5枚の作品を当時の思いとともに振り返ってもらった。
PROFILE
PROFILE
枝 優花
1994年群馬県生まれ。映画監督、写真家。2017年、主演に穂志もえかとモトーラ世理奈を迎えた初の長編映画『少女邂逅』を発表。「MOOSICLAB2017」で観客賞を受賞したほか、香港国際映画祭、上海国際映画祭正式招待、第6回 バルセロナ・アジア・フィルムフェスティバル パノラマ部門最優秀監督賞、19年第28回日本映画批評家大賞新人監督賞を受賞した。そのほかindigo la End、マカロニえんぴつ、羊文学、崎山蒼志、Awesome City Clubなど様々なアーティストのミュージックビデオ撮影や、アーティスト写真撮影も手掛ける。 そのほか、オムニバス映画『イカロス 片羽の街』内「豚知気人生」(U-NEXT他にて好評配信中)、ドラマ25「クールドジ男子」(テレビ東京ほか)、ドラマ25「こむぎの満腹記」(テレビ東京ほか)。監督最新作は、ドラマシャワー「ワンルーム・エンジェル」(2023年10月19日(木)〜MBS毎日放送ほか)。
@edmm32初の長編映画『少女邂逅』の特写
2018年に公開した初の長編映画『少女邂逅』の特写です。ティザー映像を撮影した際に、隙間で撮ったもの。多くの方々に映画の存在を知ってもらうきっかけとなった大事な写真です。
たまたまですが中国や韓国でもこの写真が話題になり、映画の存在を知ってもらえることができました。制服や教室の質感が日本らしいと、アジアの方々からの反応が強くあった記憶があります。
ほぼ初対面だったのもあり、自分と2人の距離感のぎこちない感じも含めて空気感が残っていてとても好きな写真です。
それでも匂う懐かしさや愛しさの共存
2018年のキリンジさんのショートフィルムを監督した際に撮影した写真。これも映像の撮影前におさめたものです。まだ2人の関係が出来上がっておらず、緊張感のある空気だった気がします。安藤さん(左)が人形役だったので、人間ではない違和感と、それでもにおう懐かしさや愛しさの共存を演出できたらいいなと思い、あえて田園の広がる田舎で撮影しました。緑と赤のリボンの配色バランスが気に入っています。この時期は制服の女子を撮影することが多く続いたのですが、その中でもお気に入りのものです。
フィルムカメラで味わう、食べもののおいしさ
食べることが好きなので、よく撮影するのですが、家で作ったものや外で食べたもの、グルメドラマの現場など、とにかくそれを思い出として残しておくことが多いです。ただの記録になってしまったりするのでスマホで食べものを撮ることはほとんどなく、フィルムカメラで撮影することが多いです。ファインダーをのぞいた時に上がっているテンションがそのまま乗るので、大体仕上がりが良いことが多いです。食べ物の写真は必然的に良い感じになっている気がします。
知らないはずなのにどこか懐かしい
小学校の教室での一コマ。
いつもカメラを持ち歩いているわけではないのですが、この日はたまたま持っていて、ふと良いなと思い、おさめたものです。
自分の写真の特徴は、「知らないはずなのにどこか懐かしい」という感覚になる温度や湿度があるとこだと思っているのですが、この写真はそれが出ている気がします。また、黄色と青の色味と、縦横構図のバランスも個人的に気に入っています。全く知らない過ごしたこともない教室ですが、この写真を見るたびになぜか懐かしく温かい気持ちになります。
温かい春のにおいがする一枚
『少女邂逅』の皆でお花見をした時の写真。桜が咲いている中で写真を撮れる機会がなかなかないので、貴重です。撮影中は共同生活だったので、皆が家族みたいに仲良くなって、そこから何年経っても集まったり近況を報告する仲です。そのそれぞれの距離感が出ていて、一人一人の顔を見ると面白く、全体で見ると温かい春のにおいがして好きな写真です。私の皆への愛がわかりやすくこもっている写真だなとおもいます。