挑戦が切り拓く、限りない未来。ソニー写真&映像アワード 「THE NEW CREATORS」第1回受賞者インタビュー

ソニーが主催する「THE NEW CREATORS」は、年齢も経験も機材も問わないオープン形式で、あらゆるクリエイターが自らの“世界の切り取り方”で挑戦できる、写真&映像アワードだ。 

ソニーのグループ企業4社が新しい才能を見出し、新たな創作活動の支援を通してクリエイターと感動の未来を共創していくことを目的に、2024年11月に設立、2025年11月18日から第2回の作品募集がスタートした。 

その記念すべき第1回のアワードで、「受賞をきっかけに新しい世界が広がった」と語るのがグランプリ受賞者の河合ひかる氏と、入選を果たした小崎愛美理氏だ。「THE NEW CREATORS」を通して、ふたりはどのような景色を見たのだろうか。作品に込めた思いと、受賞を経て見えた“創造のその先”について聞いた。 

映像作品グランプリ 河合ひかる氏 

『親愛なる声へ』は、日本と中国にルーツを持つ河合氏が、「言葉は通じずともあたたかい眼差しと声が大好きだった」という祖父の死をきっかけに製作した映像作品。河合氏のアイデンティティを探る旅を映像、音、声などで編み上げたもので、河合氏本人は、「不思議な表現の作品」と語る。

──グランプリ受賞おめでとうございます。『親愛なる声へ』を製作した経緯を教えてください。 

河合:私は中国にもルーツを持ちますが、日本生まれ日本育ちです。日本語しか話すことができず、中国に住む祖父母が話している言葉も理解できずにいました。 

転機となったのは、修士課程1年のときです。周囲の多くの学生が「日本の現代社会で表現を届ける意義」を意識していることを目の当たりにして、改めて自分のルーツと向き合う時間が必要だと感じ、留学を決意しました。

そんななかで、留学の準備をしているときに、中国の祖父母がコロナに罹患したという連絡が入ったんです。 

すぐにでも駆けつけたかったのですが、日本国籍の私にはなかなかビザが降りませんでした。現地に行けない私は祖父に日本語で手紙を書き、それを中国語に翻訳してオンラインで読み上げようと考えました。 

『親愛なる声へ』より 

河合:しかし、手紙を準備しているさなかに祖父が亡くなってしまい、結局届けることはできませんでした。すべてが中途半端でした。

当時は、「この体験を作品にしよう」と考える余裕はありませんでしたが、祖父に手紙を読み上げるための勉強に使っていた中国語の単語帳は、『親愛なる声へ』に登場させています。声は別撮りで後から加えたものですが、読み上げている内容は、後に中国に行った際に祖父の墓前に供えた手紙そのものです。 

── 作品を作る上で大切にされたことを教えてください。 

河合:言葉は通じませんが「家族」という言葉を聞くと、年に一度会っていた中国の祖父母や母の兄弟たちの顔が真っ先に思い浮かびます。祖父へ手紙を書くにあたり中国語の単語を勉強しているとき、その単語が私の中で家族の声で再生されていることにはっとしました。 

たとえば、「りんご」という単語の中国語は、祖父母の声で「りんご」を切って出してくれた記憶と一緒に再生されます。でも私の口から発せられる言葉のアクセントは、家族のものとは違ってどこまでも日本語めいている。そんな私のぎこちない舌と頭の中で再生される温かい記憶──その両方を映像に編むことに心を注ぎました。 

──その大切な作品を、「THE NEW CREATORS」に応募したきっかけを教えてください 

河合:大学院の卒業を控え、アーティストとして生存していく方針を決めなければならない時期でした。モノづくりを続けていくためには実績が必要です。とてつもない焦りがあり、応募できるアワードを必死で探していました。そんなときに目にしたのが「THE NEW CREATORS」の募集でした。

魅力的な要素がたくさんありましたが、なかでもドキュメンタリー部門があったことは大きかったです。ドキュメンタリーという意識で作っていたので、ここで入選できればこの作品をドキュメンタリーと言える自信につながると考えました。 

ホームページの「世界を“感動”で満たす共創者を、待っている」というコンセプトを拝見し、もしグランプリを獲ることができたら、アーティストとして躍進できそうだなという思いもありました。 

『親愛なる声へ』より 

──受賞の連絡を受けたときはどんなお気持ちでしたか?

河合:連絡をいただいたのは大学院を卒業後、仕事で忙しくしていた時期でした。応募したことを忘れていて、「受賞者のお知らせ」というタイトルのメールを見ても、「そういえば応募していたっけ。受賞者決まったんだな」と他人事のように思って、メールを開きませんでした。 

その後、「グランプリ受賞の河合様へ」というタイトルのメールがきて開いてみると、自分の顔が出てきて……!すぐには信じることができませんでしたが、友達にリンクを送って「おめでとう」という言葉をかけられたことでようやく実感がわいてきました。 

──受賞後に何か変化はありましたか? 

河合:作品を作っていた当時、私は大学院生。映像関連でお金をもらっている身分ではありませんでした。そんな中でグランプリをいただけたことで、表彰式で審査員の方々や他の受賞者の方々とお話しする機会に恵まれ、副賞での体験も含め、これまで触れたことのなかった世界に引き上げていただいたと感謝しています。 

──副賞が充実しているのも「THE NEW CREATORS」の魅力のひとつです 。

河合:アワードの表彰式でアメリカに行けるのがとても楽しみです。終了後に、自費でアメリカのアートを観て回る計画を立てているのですが、表彰式でアメリカのインディペンデントフィルムを作っているアーティストなどにおすすめの場所を聞いて、そこを訪ねてみようと考えています。そんな機会、なかなかないですよね。 

1999年生まれのデジタルネイティブな私は、MVを幼少期から身近に観ていました。アーティストのMV撮影体験も「こんな機会、あっていいの?」と心待ちにしています。グランプリを獲れていなかったら、一生体験できないようなことばかり。改めてグランプリが獲れて本当に良かったです! 

──第2回の応募がスタートしました。応募を迷っている方に伝えたいことはありますか。 

河合:「THE NEW CREATORS」は既成概念に捉われない柔軟な選考をされているように感じています。応募時に学生だった私が、映画監督の上田慎一郎さんと映像作家の大喜多正毅さんに選んでいただけたことにも、それが表れているのかなと。誰にでも等しくチャンスが与えられていると思います。

受賞できなくても失うものはないですし、グランプリを獲れたらたくさんのチャンスを得ることができます。ぜひチャレンジしてみてください。 

映像作品入賞 小崎愛美理氏 

『resume』は舞台演出家である小崎氏と、照明家の中佐真梨香氏の協業によって誕生した作品だ。視点は「キャンバス」。画面を彩る光の三原色(赤・緑・青)を強く重ねると、白になる。三原色は、探検し、衝突しながら形を変え、やがて白へと還っていくのだ。

「これは光による探求の物語。過去と現在、心の移ろいと躍動がぶつかり合いながら原点にかえっていく姿を表現したいなと考えました。この作品で私が描いたのは自分自身のことだったのかもしれません」と小崎氏は語る。

『resume』より 

──「THE NEW CREATORS」に応募したきっかけを教えてください。 

小崎:私の本業は舞台演出家なのですが、コロナ禍で舞台観劇が難しくなった時期に、「どうしたらオンラインの画面越しに、生の観劇体験を届けられるのか」を模索するようになって。そこで映像制作にも本腰を入れるようになりました。 

『不確かな或る日 展』より 

小崎:「THE NEW CREATORS」の存在を知ったのは、応募作品となる『resume』をちょうど撮り始めていた時期。多くの人に見てもらいたいと、応募できるコンクールを探していたものの、『resume』はドラマでもないしドキュメンタリーでもありません。尺も中途半端で、なかなか該当するコンクールに巡り合えずに落ち込んでいたときに、たどり着いたのが「THE NEW CREATORS」の告知でした。 

公式ホームページに書かれていた、「世界を“感動”で満たす共創者を、待っている」という言葉に心惹かれました。イマジネーション部門があったので、「これしかない」と応募を決めました。 

──『resume』のコンセプト、作品に込めた思いを聞かせてください。 

『resume』より 

小崎:「舞台照明を軸にした映像作品を作ってみよう」と、照明家の中佐真梨香さんと共同制作した作品です。使用した曲は数年前、私をイメージして、Portowal birch(北島とわ&太江友城)さんに作曲していただいたものです。その楽曲から中佐さんが受けた印象をもとにストーリーを組み立て、映像作品として再構築しました。「芸術に触れる初期段階の原風景」をテーマにしています。 

少女がキャンバスに向き合い、命を吹き込むように色をのせる。その色が強く重なることで、再び白へと戻っていく。まるで、新しいスタート地点に還るかのように。 

一度色づいた場所が白へ還るのは、否定ではなく「進化」や「更新」。 自分と向き合い続けることで、新しい始まりへと踏み出していく。その繰り返しにこそ、創作することの強さと儚さがある。そんな想いを少女の姿とキャンバスの呼吸に託しました。 

『resume』より 

───受賞の連絡を受けたときは、どう思いましたか? 

小崎:個人の創作としては初めての作品で、「とにかく何かのコンテストに応募してみたい」という気持ちだったので本当にびっくりしてしまって。表彰式に出席したときに、ようやく実感がわいてきました。 

──表彰式で印象に残ったことを教えてください。 

小崎:写真部門の審査員のひとりである、石川直樹さんがおっしゃっていた「何を撮るかではなくなぜ撮るのか、その思いが作品を強くするんです」という言葉に感銘を受けました。「なぜ」を問い続けることは、どの制作領域にも通ずる大切なことなのだと、改めて感じました。 

また、他の受賞者の方とお話させていただいたことで、自分の作品づくりへの情熱を再認識できました。みなさんの創作に対する思いに触れて、私の創作意欲も高まっています。映像と舞台の中間で、創作をしていきたいという思いがより強くなりました。 

──多彩な副賞の中で特に印象に残っているものを教えてください。 

小崎:どれもうれしかったのですが、最新の映像制作技術が導入されている「清澄白河BASE」の見学はとても刺激を受けました。 

清澄白河BASE

小崎:映画撮影の現場に立ち会う機会をいただけることもとても楽しみですし、「カメラ・レンズの機材サポート 2年」も魅力的な副賞で、新たにソニーの機材を購入しようか考えているところです。入賞したこと、そしていただいた副賞の体験を通して、「もっと創作していいんだよ」という後押しをいただいたようにも感じています。 

──第2回の応募が始まっています。応募を検討している方にメッセージをいただけますか 

小崎:技術だけでなく、作品から滲み出る思いを受け止めて評価をしてくださるアワードだと思います。作品へ込めた情熱を、ぜひこのアワードで輝かせてほしいです。得るものしかありませんから。 


アワードへの応募は、アーティストとして自らが目指す未来を見つめ直すきっかけとなり、また、他の受賞者や審査員との交流や副賞での体験を通じて「自力では辿り着けなかった景色が見えた」「失うものは何もない。ぜひ挑戦してほしい」とふたりは声を揃えた。 

そんなふたりをはじめ、多くの参加者が新たな可能性を開拓した「THE NEW CREATORS」は現在、第2回の応募を受け付けている。この機会にぜひ、想像もできないような未来を切り拓いてほしい。 

▼Information

第2回『THE NEW CREATORS』開催概要

【スケジュール】  
作品募集期間:2025年11月18日(火)~2026年3月16日(月)  
<一次審査 結果発表 ショートリスト>:2026年5月下旬 
<二次審査 結果発表グランプリ&各賞>:2026年7月中旬  
表彰式&交流会:2026年9月下旬 

【応募要項】  
応募資格:年齢や経験(プロフェッショナル・アマチュア)は問いません。撮影機材に制限のないオープン形式で、一眼カメラはもちろん、スマートフォンで撮影された作品も応募可能です。 

【募集部門】  
写真作品:ネイチャー部門、自由部門、組写真部門  
映像作品:イマジネーション部門、ドキュメンタリー部門、ショート部門 
 
【審査員】 
写真作品:川島小鳥氏、志賀理江子氏  
映像作品:大喜多正毅氏、大友啓史氏 
 
【グランプリ】  
賞金:100万円、副賞:ソニー関連各社ならではの“特別な体験”など
※詳細は『THE NEW CREATORS』 公式サイトよりご確認ください 

主催:ソニーマーケティング株式会社  
協力:株式会社ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント、株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ、ソニーPCL株式会社 

PROFILE

河合ひかる

PROFILE

河合ひかる

1999年東京生まれ。ハーフ。文化的に構築された国籍・人種・言語・家族規範といった、人々を属性付けカテゴライズする「境界線」 あるいはこれらの記号に回収され、見過ごされてきたパーソナルで小さな「語り」に関心を持っている。作品の多くは、自分自身の記憶と身体を取り入れた切実さを伴う表象を、詩的な写実映像を用いて表現している。

PROFILE

小崎愛美理

PROFILE

小崎愛美理

創作ユニット「フロアトポロジー」主宰。演出家。  演出・構成に加え、映像制作にも精力的に取り組む。  2020年、無観客・生配信公演を実施。劇場全体をアクティングエリアとした複数カメラによる演出で、演劇と映像の融合を試みる。  2023年「天使の群像」では、巨大な鏡を用いた舞台装置により、捩れた奥行きを表現する空間演出を展開。  空間全体を活用した臨場感ある演出を得意とし、領域横断的な創作活動を行っている。 

Text:長谷川あや