《shanai / #写真家の視る働く空間 》Sansan株式会社 篇|偶発的な出会いを生む公園のようなオフィス

オフィスとは、多様な働き方の最前線。

写真家の目に映るオフィスの魅力とは、どんなものだろう。

オフィスのあり方が問われる今、細部まで工夫を凝らされたオフィス空間を写真家が切り取ることで「これからのオフィス」を考える。

今回は、東京・渋谷にある、Sansan株式会社(以下Sansan)の本社を訪ねた。

Sansanは、営業DXサービス「Sansan」や名刺アプリ「Eight」、経理DXサービス「Bill One」などを展開している会社だ。

「出会いからイノベーションを生み出す」というミッションを掲げる同社では、リモートワークを併用しつつ、対面でのコミュニケーションを重視する「オフィス・セントリック」な働き方を推進している。

その想いを体現したのが、2024年9月に移転したSansanの新オフィスだ。なかでも、社員やゲストが集うオープンエリア「Park」には、偶発的な出会いを生む工夫が随所に散りばめられていた。

PHOTOGRAPHER PROFILE

大辻󠄀隆広

PHOTOGRAPHER PROFILE

大辻󠄀隆広

石黒幸誠氏に師事後、2007年独立。雑誌や広告をはじめ、写真展やプロダクト製作などブランドや企業とのコラボレーションも度々発信している。2023年株式会社NITOLAND設立。2023年4月、自身で企画運営を行うファッションWEBマガジン『building building magazine』を立ち上げる。

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緑あふれる洗練されたオープンスペース

渋谷の街を一望できる、渋谷サクラステージの28階。

Sansanの「S」をかたどったオブジェを横目にセキュリティゲートを抜けると、開放感あふれるオープンスペース「Park」が目の前に広がる。

かつては表参道付近に複数の拠点を構えていたSansanだが、すべてのプロダクトと社員の力を結集するため、移転を決断。

新オフィスは、28階から32階までの全5フロアで構成されており、29階以上は各部署のワークスペース、「Park」はその最下階に位置している。

開放的なこの空間は、環境を変えて仕事をしたいときや、ちょっとした打ち合わせにぴったり。

完全フリーアドレス制で、さまざまな席が用意されているため、目的やシーンに応じて自由に場所を選ぶことができる。昼休みにクッションに体を預けて、昼寝をする社員もいるそうだ。

「Park」のコンセプトは、“Nature(自然・本質)”。

デスクの上、チェアの隣、通路の片隅──
フロアを見渡せば、至るところに緑があふれている。植木職人によって丁寧に手入れされた植物は、どれも生き生きとした表情。BGMに耳を傾けると、心地よい小鳥のさえずりが聞こえてきた。

自然に囲まれ、リラックスした表情で働く社員たちを見ていると、ここがまるで公園のように思えてくるから不思議だ。

「この場所なら、肩肘張らずに自然体で打ち合わせも行えそう」
そんな想像が頭の片隅をよぎった。

何気なく辺りを見渡していたとき、ふと違和感を抱いた。延長ケーブルやモニターなど、ワークスペースに欠かせない電子機器が見当たらないのだ。デスク上にもコンセントの姿はない。

理由を探ると、オフィスの一角にランタンのような形をしたポータブル電源が置かれているのを見つけた。

29階以上ではコンセントが完備されているものの、この場所ではあえてポータブル電源を使って、電力をまかなうのだという。モニターも折りたたみ式を採用し、ポータブル電源同様、必要に応じて持ち運ぶ仕組みだ。

あえてオフィスを連想させる要素を抑えることで、Natureのコンセプトを徹底する──そんな抜かりないこだわりが、この心地よい空間を生み出しているのだろう。

細部に宿る、「偶発的な出会い」を生むための仕掛け

「Park」の中心には、32階までつながる内階段が設けられている。編集部を案内してくれた担当者によると、この階段は、「偶発的な出会いを生みたい」という想いから、大きな予算をかけてでもオフィス内に設置することにこだわったのだそうだ。

「以前のオフィスでは、フロア間の移動はエレベーターか外階段のみで、オープンに話せる雰囲気ではなかったんです。でも、この内階段ができてからは、社員間のコミュニケーションが増えたように思います」

階段を降りた先で、ひときわ存在感を放つのが、この大きなデジタルサイネージ。ここでは常に映像が流れ、約12分ごとに内容が自動で切り替わる。

ときにはサイネージに資料を投影して、チームミーティングや内定式といったイベントを行うことも。普段はオフィスに彩りを添え、必要に応じて交流の場に姿を変える。まさに偶発的な出会いを生むのに欠かせない存在だ。

オフィス内での出会いは、社員同士だけではない。サイネージの奥に設けられた「ヨリアイ」スペースには、就業後に自由に手に取れるドリンクのほか、ゲストとともに楽しめるオリジナルビールが用意されている。

同僚と仕事終わりにふらりと立ち寄って一杯飲んだり、ゲストと打ち合わせ後にそのまま乾杯したり。社員とゲストが自由に交わる場所として、この場所は日々活気であふれている。

心地よさと利便性が調和した、ほどよいミーティングルーム

オープンスペースを抜け、廊下を進んだ先にあるのはミーティングルームだ。まっすぐに伸びる廊下の壁には、Sansanのロゴをモチーフにした印象的な柄が施されている。

Aurora、Beach、Canyon……

会議室の名前に目を向けると、アルファベット順に自然にまつわる名前がつけられていた。ここにもNatureのコンセプトが息づいていることを感じる。

自然を感じられるのは、会議室の中も同じだ。

部屋の窓からは、28階ならではの東京の景色が広がる。会議室はコの字型に配置されているため、部屋ごとに違う眺めが楽しめるのも魅力だ。

廊下に出てみると、会議室が所狭しと並んでいるにもかかわらず、空間に圧迫感はない。
むしろ心地よささえ感じる。なぜだろう。

あらためて空間に目を凝らすと、会議室の廊下側はガラス張り。そしてそこに、ほどよい青みと透け感をまとった美しいカーテンがかけられていることに気づく。

「あぁ、これが心地よさの正体か」と、思わず納得してしまう。

このカーテンは、人のシルエットは見えつつも、PCの画面までは映らない絶妙な透け具合が特徴。

中に人がいるかどうかが分かる一方で、プライバシーもしっかり守る。このバランスは、社員の働きやすさにもきっとつながっている。

さいごに

オープンスペースをひととおり巡り、帰路につく。

ふと足元を見ると、床の色が白から黒へと変わっていた。その瞬間、Sansanのオフィスを離れることを実感する。

人との交流を生む場を目指して、細部まで丁寧にデザインされたオープンスペース「Park」。開放感に満ちたこの場所で生まれる偶発的な出会いは、会社やプロジェクトの発展、そして人々のつながりに大きく寄与していくのだろう。

名刺管理アプリをはじめ、出会いによってイノベーションを起こすサービスを提供してきたSansan。新オフィスには、その真髄が隅々にまで息づいていた。

Photo:大辻隆広
Text&Edit:しばた れいな