街中撮影の差がつく“減光表現”。OM-3のライブNDを使った撮影テクニック|写真家・品川力
はじめまして。写真家の品川力です。京都と東京を拠点に、街中でふと出会う「一瞬の美しさ」を切り取る作品を発表しています。
写真を撮る際に「光をどう扱うか」は、構図と同じくらい作品の印象を大きく左右する重要な要素です。見慣れた街並みも光の捉え方ひとつで、まったく違う表情を見せてくれます。だからこそ、適切なシャッタースピードや露出を瞬時に選ぶことが、表現の質を高めるうえで欠かせません。
しかし街中の撮影では、光の向きや強さを自分で選べないため、「思いどおりに光を捉えられない」と悩む人も多いかと思います。そんなときに頼りになるのがNDフィルターです。光の量をコントロールすることで、撮影条件に縛られることなく表現の幅を大きく広げることができます。
この記事では、NDフィルターを使うことで得られるメリットや、それによって可能になる表現、またフィルターなしで光をコントロールできるOM-3のライブNDの魅力について、作例を交えながら紹介していきます。
NDフィルターとは?
そもそもNDフィルターとは、レンズに入ってくる光の量を抑えるための「減光フィルター」のことです。NDフィルターを使用することで、明るい環境でも露出オーバーを防ぎながら、開放絞りやスローシャッターによる表現を楽しむことができます。
以下は、カメラの設定を同一にした状態で、NDフィルターを装着した場合と未装着の場合の写真です。


このように同じ設定でもNDフィルターを装着することによって、写真の露出に大きな変化が生まれます。
NDフィルターはどんなシチュエーションで使う?
ではここから、NDフィルターが活躍する撮影シチュエーションについて、実際の作例を交えて紹介していきます。
開放絞りで撮影したいとき
下の写真は、日中にF値を1.8に設定して撮影したものです。
背景を大きくぼかしたかったのですが、そのまま撮影すると露出オーバーになってしまうため、NDフィルターを使用しました。

ちなみにNDフィルターを使わずに撮影すると、光を拾いすぎてしまい、ハイライト部分が白飛びしてしまいます。その結果、写真のしっとりとしたムードが損なわれてしまうのです。

スローシャッターを使用したいとき
風景写真では、滝や川などの水の流れを糸のように滑らかに描写したい場合、1秒以上の長時間露光が必要になります。
しかし晴天時では、シャッタースピードを遅くすると光を取り込みすぎてしまい、露出オーバーとなってしまいます。かといって、シャッタースピードを速くすると今度は水の流れを滑らかに描写しきれません。


NDフィルターを活用すれば、取り込む光の量を抑えつつ、水の流れが滑らかになるまでシャッタースピードを遅くすることができます。以下はNDフィルターを使用し、シャッタースピードを3.2秒に設定して撮影した写真。川の流れが滑らかになっているのがわかるかと思います。

また、街中で人だけがブレたような写真を撮る場合も、できる限りシャッタースピードを遅くする必要があるため、NDフィルターが必要となります。
知っておきたいNDフィルターの注意点
ちなみにNDフィルターには、大きく2種類あります。
ひとつは、減光量があらかじめ決まっている「固定NDフィルター」。
ND8、ND16、ND64……といったようにフィルターごとに減光濃度が固定されており、数値が大きくなるほど減光効果も高くなります(例えば、ND2は光を約半分、ND8は約1/8にカット)。
そのため、撮影時には明るさに応じてフィルターを付け替える必要があります。構図を決めた後にレンズにフィルターをねじ込み、濃度が合わなければ交換・調整するという手間がかかるため、準備に時間がかかったり、レンズとフィルターにゴミが入りやすかったりするのが弱点です。また、急いで着脱しようとして落としてしまい、フィルターが割れたり、狙った写真が撮れなくなってしまったりする懸念もあります。

もうひとつが「可変NDフィルター」です。
こちらはフィルターを回転させることで、減光量を自由に調節できるのが特徴。明るさが大きく変わる環境でも、フィルターを着脱することなく撮影を行えます。
一見「可変NDフィルターのほうが便利そう」と思うかもしれませんが、注意点もあります。可変NDフィルターは、偏光フィルターを重ねた構造上、回転角によっては色転びやムラ、ケラレが出やすいというデメリットがあるのです。一方で、固定NDフィルターは画質が安定しているという利点があります。
「じゃあ、どちらを選べばいいのだろう」
そう思う方におすすめしたいのが、「OM-3」に搭載された「ライブND機能」。固定NDフィルターと可変NDフィルター、それぞれの弱点をボタンひとつでクリアしてくれます。
OM-3のライブND機能の特長
「OM-3」は、OM SYSTEMが2025年3月に発売したデジタル一眼カメラ。フラッグシップモデルである「OM-1 Mark II」とほぼ同等のスペックを備えながら、コンパクトさを追求したデイリーユースにぴったりなカメラです。
最近はカメラのコンパクト化が進んでいますが、OM-3は私がこれまでに使ってきたカメラの中でも断トツのコンパクトさだと感じました。

そんなOM-3に搭載されているライブND機能とは、NDフィルターを使わずに擬似的に露光時間を長くしたような効果を得られるものです。ボタンひとつでND段数の切り替えができるため、フィルターの交換が不要。NDの段数は2〜64まで6段階に対応しており、幅広いシチュエーションで撮影のリズムを崩すことなくシャッターを切れます。
またこの機能は、レンズの前に偏光フィルターを挟むのではなく、カメラ内部で複数枚の画像を高速で合成することで、NDフィルター相当の減光効果を作り出す仕組み。そのため、可変 NDフィルターで起こりがちな色転びやムラ、ケラレが発生しにくいうえに、ノイズを軽減する効果があるのもメリットです。
私自身、可変NDフィルターを使用しているときに、色転びやケラレが発生してしまい、煩わしさを感じる場面が何度もありました。その点、ライブNDはそのような現象が起きることもなく、個人的に撮影体験の快適さを強く感じました。

さらにライブNDの大きな魅力として挙げられるのが、効果を確認しながら撮影できる点。LVシミュレーション機能をオンにすることで、実際の仕上がりをファインダーやモニター上で確認しながら撮影できます。これは、初めてスローシャッター表現に挑戦する方にとっても嬉しいポイントではないでしょうか。

また、NDフィルター装着時にスローシャッターで手持ち撮影を行う場合、手ぶれが気になることが多々あります。しかし、強力なボディー内5軸手ぶれ補正を備えたOM-3では、シャッタースピード3秒程度までなら、手持ちでも問題なく撮影できました。この手ぶれ補正性能の高さも、撮影シチュエーションや表現の幅を広げてくれるはずです。
それでは最後に、ライブNDを使って撮影した京都の街並みの写真を一気にご紹介していきます。

≫ ライブNDを使いながらシャッタースピードを遅くすることで水面の流れを滑らかにし、リフレクションをより強調しました。

≫ ライブNDを使うことで空の白飛びを抑え、アンダー気味にすることで木の質感がより伝わるように仕上げました。

≫ ライブNDを使いながらシャッタースピードを遅くし、人だけをブラすことで動きを出しました。

≫ 絞って露出を抑えると建物の線が硬くなってしまうため、絞りを開きつつベストなライブNDの値を探り、アンダー気味に撮影してムード感を出しました。

≫ ライブNDで露出を抑えつつF2.8で撮影することで周辺をボカし、臨場感を出しました。

≫ ライブNDで露出を抑えつつ絞りを開放気味にすることで、手前の葉っぱがボケて臨場感が出るようにしました。

≫ レトロな雰囲気を強調するためにライブNDで露出を抑え、ノスタルジックな印象の写真にしました。

≫ ライブNDを使いながらシャッタースピードを遅くして人の動きを少しだけブラし、風景に少しだけ躍動感を加えてみました。
まとめ
ライブNDは、ボケ感を出しながらムードある写真を撮影したり、人だけをブラすことで躍動感のある写真にしたり、街中での撮影において表現の幅を大きく広げてくれる機能でした。
街歩きにぴったりなコンパクトさながら、ライブNDや強力な手ぶれ補正などを備え、ここまで撮り手の表現の後押しをしてくれるカメラは、今もなお稀有な存在だと思います。
皆さまもぜひ一度、OM-3を手に取ってその撮影体験を味わってみてはいかがでしょうか。
▼Information
OM SYSTEM OM-3
「OM-3」は、フラッグシップモデルである「OM-1 Mark II」とほぼ同等の高画質・高性能を備えながら、500mlのペットボトルよりも軽いコンパクトさを実現した、デイリーユースに最適なカメラです。ライブNDをはじめ、ライブGNDや多重露光撮影といったコンピュテーショナル フォトグラフィ機能を搭載し、これまでにない新しい撮影表現を可能にします。
サイズ:約139.3mm(W)x 88.9mm(H)x 45.8mm(D)
質量:約413g(本体のみ)
WEB:OM-3 商品ページ
PHOTOGRAPHER PROFILE
PHOTOGRAPHER PROFILE
品川力
京都を拠点に国内外を旅するフォトグラファー。
車メーカーやラグジュアリーホテルなどのグローバルブランドの撮影をはじめ、ニューヨークやパリコレクションなどの世界各国のファッションシーンでも活動。また日本の伝統文化や工芸などの撮影も手がけるなど、幅広いジャンルで活動している。




