「不安があると安心する」俳優・南沙良が、フォトブック『不安定な安息』に込めた想い

俳優・南沙良のデビュー10周年を記念したフォトブック『不安定な安息』が、3月18日(火)にPARCO出版より刊行された。本書には、写真家・石田真澄による撮り下ろし写真をはじめ、南沙良自身が綴ったエッセイや手書きの日記を収録。彼女の内面に迫る一冊となっている。

3月4日(火)〜9日(日)には、渋谷PARCOにて出版記念写真展が実施された。今回は、写真展終了後の南沙良にインタビューを実施。フォトブックの見どころや言葉に込めた想いについて話を聞いた。

PROFILE

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南 沙良

2002年6月11日生まれ、東京都出身。映画「幼な子われらに生まれ」で俳優デビュー。初主演映画「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」で、報知映画賞、ブルーリボン賞他、数々の映画賞を受賞。近年の出演作に、映画「この子は邪悪」(主演)、Netflixシリーズ「君に届け」(主演)、NHK大河ドラマ「光る君へ」、ABEMA×Netflixドラマ「わかっていても the shapes of love」などがある。7月4日(金)に主演映画『愛されなくても別に』の公開が控える。

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ふだん感じる心の動きを、タイトルに反映した

今回のフォトブックは、大きく二つの物語で構成されている。一つは、何者でもない少女が女優になっていく物語。もう一つは、限りなく素に近い南沙良を映し出した物語だ。

撮影を手がけたのは、写真家の石田真澄。彼女とは、文芸誌の連載の撮影をきっかけに面識があったという。そして、ABEMAオリジナル連続ドラマ「わかっていても the shapes of love」のスチールを石田が担当することになり、二人は再会。そのタイミングで、フォトブックの撮影の企画が持ち上がり、今回の撮影が実現した。

「石田さんの写真は、光がすごく綺麗だなと思っていて。今回撮影いただいた写真もそうですが、そのときの空気感とか匂いが伝わってくるような。まるで思い出を切り取ったような写真だなって」

一つ目の物語は、まっさらな状態を表現した白いワンピース姿からはじまる。ページをめくるごとに、衣装を身にまとっていく南。女優としてさまざまなものを吸収しながら成長する姿を、衣装の変化を通して表している。

「衣装は、私が好きなもの・ことをバーっと書き出して、それを元にスタイリストさんに作っていただきました。たとえば、私は猫が大好きなので、黒いワンピースには猫じゃらしのようなモチーフを取り入れてもらったんです」

猫じゃらしのモチーフを取り入れた衣装(渋谷パルコでの写真展にて)

写真のあとに続くのは、女優として生きる南の内心を綴ったエッセイだ。昔から、本を読むのが好きだったという南。その本の中で見つけた心の支えとなる言葉や、他人との比較によって感じる苦悩、寝る前の焦燥感などが、彼女の素直な言葉で書き下ろされている。

「エッセイを書くのはとても久しぶりでした。『自分ってこうだったんだな』と、改めて発見する機会にもなった気がします」

『不安定な安息』というタイトルもまた、エッセイの中で触れられた「不安があると安心する」という彼女の相反する感情から生まれた。不安や心配ごとがあると、「私は頑張れている、社会に存在してていいんだ」と安心するという南。その心の動きを表現したタイトルは、等身大の南を伝えるフォトブックにふさわしいものとなっている。

ちなみに、物語の合間には、さまざまなヘアカラーの南の写真が掲載されている。これは、物語をつなぐ“コマーシャル”として、あえて設けられたページだ。南が書き下ろした短編小説「フィクション」と併せて、幕間の時間も楽しんでみてほしい。

女優にとって、フォトブックは「自分を出せる場所」だと思う

もう一つの物語は、台湾が舞台だ。冒頭の「週末検定一級」という南の手書き文字には、「最高な休日だった」という想いが込められているという。その言葉どおり、南にとって台湾での撮影は、特別な思い出になったようだ。

「今回、初めて台湾に行ったんですけど、それがすごく楽しかったんです。食べ物もめちゃくちゃおいしくて。石田さんには、私がはしゃいでいる姿をそのまま撮っていただきました。朝ごはんを食べている写真なんて、まさに寝起きで(笑)」

二人で会話を交わしながら、街を歩き、ご飯を食べ、ふとした瞬間に石田がシャッターを切る。まるで友人との旅行のような雰囲気のなかで撮られた写真には、南の自然体がたくさん映し出されている。

写真に添えられているのは、南自身が紡いだ言葉の数々。これは、台湾の撮影中に記録していたメモを頼りに、そのときの感情を思い出して綴ったものだ。「宇宙の藻屑になれたら」「なにかに触れたい夜」といった表現からは、彼女の繊細な感性が伝わってくる。

フォトブックの締めくくりには、3年にわたる南の日記から抜粋した文章を収録。ありのままの南を映し出したページとなっている。

「昔は、毎日のように日記を書いてました。ただ、殴り書きだったので、フォトブックにはもう少し綺麗な字でのせたいなと。それで全部書き直したんですが、これが結構大変でした(笑)」

父がカメラマンという環境で育ち、子どもの頃から写真を撮られることが多かったという南。だからこそ、役者として撮影に臨むことと、素の自分を撮られることはまったく異なる感覚がするのだという。

「女優って、自分の素を見せる機会があまりないんです。だからこのフォトブックは『自分を出す場所』だと思っていて。いつもより、“私”が集まっていると思うからいろんな人に見ていただけると嬉しいです」

彼女のリアルがギュッと詰まった見応えのある一冊を、ぜひ目の当たりにしてほしい。

▼information

書名:『不安定な安息』 著者:南沙良 写真:石田真澄
仕様:B5判(257×182mm)/並製/112ページ/オールカラー
定価:3,850円(税抜)
発行:PARCO出版 ISBN978-4-86506-468-1
発売日:2025年3月18日(火)

Photo:夢萌(インタビューカット)
Text&Edit:しばた れいな