写真家・てんてんが多摩川に自転車を走らせた理由。写真展「ガンジスタマガワ」インタビュー

写真家・てんてんによる写真展「ガンジスタマガワ」が、8月21日(木)〜9月9日(火)の期間中、東京・目黒のBOOK AND SONSで開催されている。

晴れた日の夕方、多摩川沿いをサイクリングしながら日没まで撮影した作品群が並ぶ本展。会期にあわせて、同名の写真集『ガンジスタマガワ』も刊行された。

彼はなぜ多摩川を題材に作品を撮ろうと思ったのか。詳しく話を聞いた。

PHOTOGRAPHER PROFILE

てんてん

PHOTOGRAPHER PROFILE

てんてん

1981年宮城県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。2004年株式会社アマナ(現 株式会社アマナホールディングス)に入社。2013年に独立し、2015年株式会社佐藤写真館設立。

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ーー今回の写真展と写真集は、4年ぶりになるそうですね。

そうなんです。4年前に初めて「GREEN GREEN」という写真集を作ったときは、めちゃくちゃ大変だったし、世に出すのもちょっと怖くて。「きっとこれで写真集を作るのは、終わりにするんだろうな」って思ってました。でも、いざ完成してみるとすごく充実感があって、逆に「もっと写真集を作りたい」って気持ちが出てきたんですよね。

前回との違いでいうと、今回は写真展がメインなんです。前回は、撮りためてきた写真をまとめたような内容だったから写真展はこじんまりやりましたけど、今回はひとつの大きなテーマがあったので、それなら写真展を中心に構成してみようかなと。

ーー今回、テーマを決めようと思ったのはなぜなのでしょう?

テーマを決めたというよりは、自分の中から自然と出てきた感じですね。

そもそも僕の性格的に、テーマを見つけるのってすごく難しいんです。たぶん写真を撮る人の多くが、常にテーマを探してると思うんですけど、僕の場合、頭で考えてひねり出したテーマって、どうしても面白いと思えなくて。

それはきっと、僕がかっこつけることをかっこ悪いと思ってるからなんですよ。だからコンセプトを掲げても、すぐに撮ることに飽きちゃうし、仮に撮っても人の心に届かない気がしてくる。

やっぱり僕は、人間性が滲み出ている写真にどうしても惹かれるし、だから写真展をするなら、そういう作品を並べられるテーマがいいなと思ってました。飾ってあるけど、飾ってない写真展、みたいな。

ーーそのときに自然と出てきたのが「多摩川」だったと。

そうですね。僕は東京の郊外に住んでるんですけど、都内で撮影を終えて、夕方に国道246号を車で走る時間がめちゃくちゃ好きなんです。多摩川越しに見える夕焼けとか、強い日差しが斜めから差し込んできて、ゆっくり1日が終わっていく感じとか。

そんなことを思っているうちに、「この景色を写真にしたいな」って自然と考えるようになったんです。ゆるくでいいから、なにか形にできないかなって。

ーーそう思い始めてからは、どうしたのでしょう?

気が向いたときに、レンタサイクルを借りて夕方の多摩川に行って、写真を撮るようになりました。でも今振り返ると、そのときに撮った写真は、あまり気持ちが入っていなかったですね。

「夕方の多摩川を撮りたい」とは思っていたけど、まだはっきりとテーマが見えていなかったから、何をどう撮るか探っている状態でした。

ーーテーマがはっきりしたきっかけについて教えてください。

ある日、多摩川で夕日を見ていたら、20年ほど前のアシスタント時代を思い出したんです。当時の僕は本当に仕事ができなくて、それに反してついたカメラマンはすごく厳しくて、たぶん人生で一番辛い時期でした。

そのとき会社から休みをもらって、インドに一人旅に出たんですよ。海外で旅の写真を撮りたかったし、もしかしたら人生観が変わるかもしれないと思って。カメラとフィルムをカバンに詰めて、ガンジス川に向かいました。結局、人生観はあまり変わらなかったんですけどね(笑)。

でもふと、多摩川の夕日があのときのガンジス川の夕日に重なって見えたんです。そのとき、「今はすごく充実しているけど、あの頃はしんどかったよな」って、なんとも言えない気持ちになって。

ーーそこから「ガンジスタマガワ」というテーマが浮かんだのでしょうか?

いや、その時点ではまだですね。
それからしばらくして、「地球上の水分の絶対量が決まっている」ってことを知ったんです。そのときに「もしかしたら、あのときのガンジス川の水が巡り巡って今、目の前の多摩川を流れているかもしれない」って思って。そのときに初めて、ガンジス川と多摩川が自分の中でつながりました。

と同時に、僕たちって本当に絶妙なバランスで生きているんだな、とも思うようになって。太陽って1万5000キロも先にあるのに、そこから届いている光が今目の前の夕日になってるって、すごくないですか? そんなことを考えていたら胸がいっぱいになって、「生きてること自体が素晴らしいな」と。

ちょうどそこからですね。写真にも気持ちがグッと入るようになりました。そのときに撮れたのが、桜の木の下に咲いてる彼岸花の写真と、ビニールが飛ばされている写真です。この2枚を見たときに、写真集の始まりと終わりが決まったような気がして、「これを軸に撮っていけば形になる」と思いました。

ーー写真展を意識し始めたのもその頃からですか?

そのときは、なんとなく「できたらいいな」ぐらいの気持ちでしたね。ただ、1年ぐらいそうやって撮り続けているうちに、「このままじゃ終わらないな」と思って、自分で締め切りを作ったんです。

とにかく逃げられない状態にしようと思って、BOOK AND SONSさんに連絡して、1年後のギャラリーを予約して……。完全に見切り発車でした(笑)。

ーーそこから撮影の姿勢も変わっていったのでしょうか?

そうですね。仕事がない晴れた日の夕方は多摩川に行くって決めて、週1回は通ってました。

多摩川って言っても広いので、羽田から福生までのおよそ50キロを撮影範囲にして、「今日はここ」みたいな感じで気分で撮影してましたね。今回発表する写真のほとんどが、そのときに撮ったものですね。

ーー撮ろうと思うときの決め手は何だったのでしょう?

どうでもいいことなんだけど、ふと感極まっちゃう瞬間ですかね。虹が出ているとかよりも、もっと普遍的なもの。僕は、いわゆる“映えるもの”には興味がなくて。興味がないというか、むしろ嫌だとすら思ってるんです。

ーー“映えるもの”が嫌だと思うのは、どうしてですか?

わかりやすく言うと、Instagramが苦手で。というのも、Instagramが流行り出してから、世の中の写真に対する価値観が大きく変わった気がしてるんですよね。

世の中的にいいとされる写真が集まって、それを見た人が同じような写真を撮り始めて、そうやって結果的にどの写真も似てきて。それがなんかちょっと気持ち悪いというか。

それよりも僕としては、本当に自分が「いい」と思うものを撮ってる写真の方が素敵だなと思うんですよ。何かを表現したい人って、自分らしさを探しがちだけど、それで見つけたものって結局「こうありたい自分」「他人にこう見られたい自分」であって、たぶんそれは本当の自分らしさじゃない。だからもっと自分の価値基準でやろうぜって思うんです。

だから今回の作品は、僕が素直に「いいな」と思った瞬間を撮っています。人物写真も多いですけど、それも撮りたいと思う人がいたら「撮らせてください」って声をかけて撮ってますね。

ーー今回、お写真セレクトするにあたって、基準にしたことがあれば教えてください。

狙って撮った写真は、自然とあまり使ってないですね。例えば桜とか。綺麗だけど、どこかつまんないなって思っちゃうんです。

やっぱり予想外に出会えたものの方が魅力的に感じるというか。写真の魅力って、そういう偶然性というかロマンチックな部分にあると、僕は思っているので。

それでいうと、僕が一番好きな写真は、この桜の木の影が団地の壁に落ちてる写真なんです。

これは桜を撮りに行ったときに偶然見つけた景色なんですけど、団地の夕方の雰囲気とか、壁に落ちてる桜の影がいいなと思って撮りました。やっぱり目的を持って撮るよりも、偶然の出会いを楽しむ方が、自分は好きなんだなって思いましたね。

ーーてんてんさんが普段撮られている広告写真って、偶然の出会いとは逆で、段取りが大事ですよね。仕事ではどうやって切り替えているんですか?

いや、でも基本的には、広告の現場でも偶然性を求めてるんですよ。表情を撮るときでも、「こういうコミュニケーションを取ったら違う表情が出るかな」とか、そういう気持ちでやってます。

広告は作品じゃないから、クライアントさんや関わっている人たちが幸せになることを一番に考えて撮っていますけど、それでも根底では思いがけない瞬間を求めていたりして。偶発的な出会いを欲しているのはたぶん、写真を撮り始めてからずっと変わっていないですね。

ーーなるほど。根っこの部分はずっと一緒なんですね。

そうですね。大学の友達にもよく「撮るものが変わってないね」って言われるんですよ。実際、前回の写真集のときと撮っているものはあまり変わってないです。

ただ、雰囲気は今までとだいぶ変わっていると思います。前はもっとクリアな感じを求めていたけど、最近は「綺麗なだけじゃダメだな」って、“苦味”を求めるようになっていて。そういう変化も含めて、今回の展示を楽しんでもらえたら嬉しいです。

ーー最後に、「ガンジスタマガワ」をどんなふうに楽しんでもらいたいですか?

今って、写真がめちゃくちゃ溢れている超写真飽和時代じゃないですか。パソコンとかスマホで写真が見られるのは、いい時代ではあるんですけど、消費される時間が短すぎるというか、作品としての写真と向き合う機会が減っている気がしていて。

だからこそ、写真展に足を運んで、じっくり写真と向き合ってもらいたいですね。たぶんこの展示を見た後は、きっと多摩川に行きたくなると思うので!

▼Information
てんてん 写真展「ガンジスタマガワ」
【会期】2025年8月21日(木)〜9月9日(火)
【時間】12:00-19:00
【会場】BOOK AND SONS
【住所】東京都目黒区鷹番2-13-3 キャトル鷹番
【定休日】水曜日
【入場料】無料

Text&Edit:しばた れいな