映画『炎上』長久允監督インタビュー「やさしく、真摯に向き合うことで見えてくる」

4月10日(金)に、全国公開される映画『炎上』。

主演・森七菜をはじめ、アオイヤマダ、一ノ瀬ワタル、曽田陵介など個性あふれる俳優陣が揃った本作は、1人の少女が新宿・歌舞伎町に火をつけるまでの150日間の物語です。

あらすじ

東京都新宿区歌舞伎町、炎上。死者数不明。犯人は住所不定・無職の十代の女性。小林 樹理恵(森 七菜)はあるカルト宗教の信者の家の子として妹と共に厳しく教育されて育つ。2人は毎日訪れる辛い日々が消えるよう、そして教育熱心な父がいなくなるよう神様にお願いをしてきた。

数年後。願いが叶い突然父親が亡くなる。しかし、父親がいなくなっただけで母親から教育を受け続ける現実は変わらない。ついに樹理恵は母の目を盗み、妹を残して家を飛び出してしまう。

「あの広場に行くと、この⼈が助けてくれるよ→@kami」
行き場のない樹理恵のSNSに届いたDMを頼りに向かうと、そこには若者たちがたむろしている広場が。そこで【じゅじゅ】という名前をもらい、寝る場所、食べ物、スマホをもらい、そして仕事をもらい、1人で母親の元に置いてきた妹を連れ出し、共に暮らすという“夢”をもらった。

そんな、彼女が歌舞伎町に火をつけるまでの150日間の物語。

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監督を務めたのは、映画『そうして私たちはプールに金魚を、』で日本人初の快挙となる第33回サンダンス映画祭ショートフィルム部門のグランプリを受賞した長久允監督。

本作の制作にあたり、監督自ら新宿・歌舞伎町で取材を重ね、約5年の歳月をかけて物語を完成させたといいます。トー横キッズたちに対峙するなかで見えてきた、彼女たちの生き様とは。制作のきっかけからキャスティングの経緯、作品に込めた想いを伺いました。

PHOTOGRAPHER PROFILE

PHOTOGRAPHER PROFILE

長久允 Makoto Nagahisa

1984年8月2日生まれ、東京都出身。大手広告代理店でCMプランナーとして働く傍ら、映画やMVなどで監督を務める。2017年、短編映画『そうして私たちはプールに金魚を、』で第33回サンダンス映画祭ショートフィルム部門グランプリ受賞。19年、長編映画デビュー作『WE ARE LITTLE ZOMBIES』も同映画祭で審査員特別賞のオリジナリティ賞に輝く。その後、短編映画『DEATH DAYS』、WOWOWのドラマ「オレは死んじまったゼ!」など。

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シリアスさとキラキラと。どちらもあの街にはある

──本作を制作しようと決めたきっかけは、新宿・歌舞伎町に関するニュースだったそうですね。

そうなんです。テレビのニュース報道や、SNSに投稿されている切り抜き動画に映るトー横キッズの姿を見たとき、それはほんの一面に過ぎない気がしてならなくて。なんだかいてもたってもいられず、広場にいる子たちに話を聞いてみることにしました。いわゆる取材です。

まあ、取材といっても「今日はよろしくお願いします!」といった堅苦しい感じではありません。「何歳ですか?」「朝から何をしていたの?」など、ごく普通の日常会話をしていました。

取材を通して改めて、ニュース報道なんかで知る情報は一面に過ぎないんだと気づきました。一人ひとり、さまざまな過酷なバックグラウンドがあって、悩みや痛みを抱えている。しかもそれは、能動的に選んだわけではなく、受け入れざるを得なかった環境に置かれていたことがほとんど。

たまたま僕はそうじゃなかったけど、もし同じ境遇に置かれたら、新宿・歌舞伎町にたどり着くんじゃないかな……。

©2026映画「炎上」製作委員会

──シリアスな題材を扱いながらも、キービジュアルや作中の演出がキラキラとしていたのが印象的でした。どのような意図があったのでしょうか。

取材をするなかで「ねえ見て! これかわいいでしょ」と、自分の持ち物をうれしそうに見せてくれた子たちがいて。その表情などから、僕らよりも“目の前にある鮮やかなものに反応する力”があると思ったんですね。もちろん一概には言えませんが。

僕から見たみんなは、エネルギッシュに生きている。もしかしたら、目の前のアスファルトさえも、すごくキラキラして見えているかもしれない。

そんな風に考えていたら、この物語を湿度高く描こうとは思いませんでした。深刻さだけにフォーカスするのは違うな、と。

遠くからだとシリアスに見える世界も、実はファンシーで、キラキラで、グリッターライクなのではないかという、完全に僕の見解です。

──映画化にあたって、事実と創作のバランスはどのように取られていたのでしょうか。

話を聞かせてもらった方々に、誠実でありたいと強く思っていました。だからこそ、いちばん意識したことは、エンターテイメントとして消費されない作品にすること。

具体的には、現実で起きていることに過剰に楽観的なまなざしは入れないようにしました。特に美術や衣装は、広場にいる子たちの暮らす環境や持ち物に近づけようと試みました。一方、主人公が見る夢のシーンは、完全にフィクションなので、のびやかに表現しています。

©2026映画「炎上」製作委員会

社会課題の“見えていない一面”を伝える。それが映画をつくる使命

──主人公・じゅじゅ役の森七菜さんとは初タッグだったそうですね。

そうなんです!森さんは、清純でピュアな役を多く演じられていますが、その奥底には沸騰するようなエネルギーがあるように感じてオファーしました。

撮影期間中、森さんは常にエネルギーがあって、もはや「じゅじゅ」に同化していました。正直話しかけづらかったぐらいです(笑)。お互いに集中していたからこそ、あの素晴らしい演技が生まれたんだと思います。

──じゅじゅは、吃音を抱える難しい役柄だと思います。森さんに演じてもらううえで、どのようなコミュニケーションを意識されましたか?

今回は吃音をもつ方にご協力いただいて、吃音が立ち現れてしまう背景や、当事者の心情、悩みについてお聞きする場を設けました。

特に印象に残っているのは、撮影初日。じゅじゅがトー横広場にやってきて、自分の名前を名乗るシーンを見たときには、「じゅじゅ、ここに来れてよかったね」と、親心が芽生えてしまいました……。

これほどにも難しい役に向き合ってくださった森さんには感謝でしかありません。

©2026映画「炎上」製作委員会

──三ツ葉役のアオイヤマダさんについても教えてください。

アオイヤマダさんとは、かれこれ3回くらい撮影でご一緒しているのですが、「こう生きないといけない」「このコミュニティに属さないといけない」といったルールから逸脱して活動し続けてきた人、という印象があったんです。

それが、自分     たちにしかできない生き方や考え方を選んできたトー横キッズと、どこか通ずるものがあると感じて。「三ツ葉として演技をしてみませんか?」と、出演をお願いしました。

──作中では、じゅじゅと三ツ葉が一緒に映るシーンが多いように感じました。カメラワークで意識されたことはありますか。

主人公はじゅじゅですが、ある意味「じゅじゅと三ツ葉の青春の物語」でもあります。そのため、2人が映るシーンは向き合うのではなく、同じ方向を見ているような構図を意識しました。

©2026映画「炎上」製作委員会

──映像の質感が変わっていくのも印象的でした。

ありがとうございます。本作では通常の機材とは別に、家庭用ハンディカムに使い捨てカメラ、スマホも使って撮影しました。

例えば、劇中のインタビューのシーンは証言を残すような意図があったので、ハンディカムで撮っていますね。誰が撮っているかは、見る人の想像に委ねたいので、ここでは明言しないでおきます。

──最後に、観客のみなさまへメッセージをいただきたいです。

社会問題を解決するには“仕組み”を変える必要があります。映画を作る人間として僕ができることは、そのちょっと前の段階だと思うんですね。

この作品は、性暴力、薬物、家庭内暴力などのテーマを描いています。一見するとハードな映画ですが、歌舞伎町で生きる子彼ら・、彼女たちに真摯に、やさしい気持ちで向き合いながら作りました。

最初にお話した通り、ニュース報道からは事実のほんの一面しか見えないことも多いです。その点に気づいてもらうきっかけとして、トー横キッズたちの知られざる側面を伝えられているといいなと思います。

それが、僕が作品づくりをするうえでの使命感でもあるので。

©2026映画「炎上」製作委員会

▼information
映画『炎上』
【公開日】4月10日(金)全国公開
【出演】森七菜、アオイヤマダ、曽田陵介
古舘寛治、松崎ナオ、新津ちせ、森かなた、髙橋芽以(LAUSBUB)、高村月、きばほのか、月街えい、川上さわ、ユシャ、みおしめじ、広田レオナ、一ノ瀬ワタル
【監督・脚本】長久允
【配給】NAKACHIKA PICTURES
©2026映画「炎上」製作委員会

Text: Re!na