【景色になるインテリア】かつて「不器用だった」と語る職人の家具が、なぜ一生ものの景色になるのか?家具工房KOMA松岡茂樹

「景色になるインテリア」。この連載では、空間に溶け込みながらも持ち主の人生に寄り添い、確かな存在感を放つ家具とその作り手をご紹介します。

今回お迎えしたのは、世界8ヶ国でデザイン賞57冠という実績を持つ家具工房「KOMA」の代表・松岡茂樹さんです。かつては「驚くほど不器用だった」と語る松岡さんが、いかにして世界を唸らせる工房を率いるに至ったのか。その軌跡を辿ります。

取材では、米国まで足を運び素材の20%しか採用しないという徹底した素材へのこだわりや、1000分の3ミリの精度を追求する技術の土台、そして「人の体は美しい」という直感から生まれる独自の造形哲学について伺いました。効率化が進む現代で、あえて人の手の熱量を注ぎ込み続ける理由。本記事では、松岡さんが積み重ねてきた物作りの背景を辿ります。

「見えるものはすべて、誰かのスケッチから始まる」

━━本日はよろしくお願いします。松岡さんは、作り手としてのスタートを切った頃、ご自身でも驚くほど不器用だったと伺いました。それでも家具作りが楽しくて仕方がなかった。その情熱の源泉って、どこにあったんでしょうか?

松岡:よろしくお願いします。そうですね、元々子供の頃から手を動かして物を作ったり描いたりするのは大好きだったんですよ。学校の絵が美術館や校長室に飾られたりしてね。でも、中学に入るとそんな自分を忘れちゃって、バイクいじりに没頭していました。

━━バイクですか!

松岡:ええ。でも高校を卒業する頃に、美大に行く友達に付いて予備校にひょっこり顔を出したんです。そこで先生にデッサンを褒められて。「デッサンをやることは、すべての物作りのスタートなんだ」って教わったんですよ。

━━すべてのスタート、ですか。

松岡:「電柱も、蛍光灯も、君が着ている服も、電車も車も。見えるものは全部、誰かがスケッチを描くところから始まっているんだ」って。その言葉を聞いて、「こういう道があるんだ」って、物作りの世界にグッと引き戻されました。

なぜ、建築ではなく「家具」だったのか

━━その後、建築やインテリアの学校に進まれたんですよね。そこから家具職人を目指した理由は?

松岡:学校で勉強するうちに、建築は自分一人では完結できないな、と気づいたんです。分業だし、設計から完成まで1から10まで自分の手で手がけられるわけじゃない。物作りにはいろんなサイズがあります。ランドスケープのような大きなものから、指輪のような小さなものまで。

━━自分に合う「サイズ」を探したんですね。

松岡:そう。僕はバイクをいじっていた経験から、「機能が美しさに直結する」という感覚が好きでした。デコレーションではなく、用途を突き詰めた結果の美しさ。そう考えると、座る、持ち運ぶといった機能を追求できる「家具」というサイズ感が、自分には一番しっくりきたんです。

━━それに、「成り上がりたい」という気持ちもあったとか。

松岡:正直に言えば、あります(笑)。「好きなことをやっているから貧乏でいい」とは思いませんでした。好きなことだからこそ結果を出したい、稼ぎたい。建築で自分の作品を世に出そうとすると膨大な資金が必要ですが、家具なら工房と技術があれば、売れる売れないは別として自分の作品を作れる。コンテストに出て評価を得るという道筋が見えたんです。

「狂っている」と言われるほどの素材へのこだわり

━━今や国際的なデザイン賞を数多く受賞されていますが、松岡さんにとって賞の意味とは?

松岡:ありがたいですが、実はあまり何とも思っていないんです。うちは100年続く老舗じゃない。歴史がないから、信頼を得るための「ビジネス上の道具」として賞が必要だった、というのが本音です。

━━なるほど、常に前を向いているんですね。最近もアメリカまで素材の見に行かれたとか。

松岡:昨日帰ってきたばかりです。良い素材を手に入れるには、森林の伐採や製材の段階から関わらないと駄目なんです。今回は、アメリカの製材所のトップと直接やり取りしてきました。

━━そこまで直接足を運ぶ職人さんは珍しいですよね。何がそんなに違うんでしょう。

松岡:例えばウォールナット。普通は「青っぽい」「赤っぽい」「黄色っぽい」とか、色や木目で何通りにも分かれるんです。量産メーカーは統一感を出すために個性を消しますが、うちは逆。一つひとつの商品に個性を持たせたい。

━━個性、ですか。

松岡:ええ。普通は嫌われるようなギラギラした木目なんかも大好きです。今回、向こうの担当者が「これは日本の大手も認める100点満点の山だ」と自信満々に見せてくれた材料がありました。でも僕が検品したら、「うちで天板に使えるのは20%以下だ」って突き返したんです。

━━20%!それは向こうも驚いたでしょう。

松岡:頭を抱えていましたね(笑)。でも、「俺たちは狂ってるぐらいこだわってるんだ」って再確認できました。素材が変わればクオリティも、自分たちの商売そのものも変えていける。それが原動力になるんです。

3ミクロンの削りが、美しさの土台になる

━━技術面でも、3ミクロンという極限の薄さで木を削り出すとか。それによって、家具の何が変わるんですか?

松岡:薄削りは、あくまで「基礎」です。鉋(かんな)の扱い、刃物の研ぎ、木の性質を知るための練習。3ミクロンの精度の狂いも傷もない状態にする。その究極のベースがあって初めて、造形力やセンスが積み重なるんです。

━━基礎があるからこそ、あの滑らかな曲線が生まれるんですね。

松岡:違いは「スピード」に出ます。一流の道具と技術があれば、迷いなくゴールに向かって削れる。物作りに時間がかかるのは、作業時間じゃなくて「悩んでいる時間」なんです。

━━悩むと、形が崩れるんですか?

松岡:ええ。着地点が見えていないから、迷いが出る。そうやって作ったものは、見た目にも「悩んだ感じ」が出てしまうんです。頭の中のイメージ通りに、体が最短距離で動いたもの。それがクオリティが高く、結果的に速い。

人の体は、美しい。だから椅子も美しくなる

━━KOMAの家具、特に椅子はフォルムが本当に美しいです。あの造形はどうやって生まれるんでしょう。

松岡:理由はシンプルです。「人の体が美しいから」。椅子は人に最も近い道具。体重を支え、長時間肌に触れる空間です。

━━人の体に合わせる、ということですか。

松岡:そうです。姿勢を崩したり、横を向いたり、足を組んだり。あらゆる座り方を想像して、そのときの筋肉や骨格の動きに合わせてカーブを決める。人の体に合わせれば、余計なものを削ぎ落とした結果、当然のように美しく、かっこいい形に着地するんです。

━━「必要だからその形になった」という、究極の機能美ですね。

松岡:まだまだ納得はしていませんけどね。うちは、売れている商品でも「もっと良くできる」と思えば、1年以内に生産を終了して新モデルに切り替えます。ビジネスとしては非効率かもしれませんが、自分たちが今「一番いい」と思えるものを作らないと、熱くなれないんです。

「人間にしかできない苦労」が、魅力になる

━━これからの時代、AIや3Dプリンターが物作りを大きく変えていくと言われています。松岡さんはどうお考えですか?

松岡:いずれAIが人間を超えていくでしょうね。僕らが作っているものも、3Dプリンターで丸ごと作れるようになるかもしれない。でも、僕はAIが書いた本を読みたいとは思わない。人が苦労して、悩んで、楽しんで作ったものに魅力を感じるんです。

━━「熱」のようなものですね。

松岡:そうです。中途半端な技術は淘汰されますが、「人が作っているからいいよね」という、言葉にならない価値は必ず残る。寄り添えるもの、人の心を動かすものを作りたい。その想いは変わりません。

組織を育てる。「お前のせい」と言えるほどの環境作り

━━最近は、若手の職人育成にも力を入れているとか。

松岡:人がいないと、何もできませんから。この数年は組織作りに一番時間を使っています。うちは残業ゼロで、休みは年間最大130日。評価制度も徹底しています。

━━職人の世界ではかなり珍しい環境ですよね。

松岡:昔、職人が辞めていくのが本当に悔しかったんです。「この会社には未来がない」と否定された気がしてね。だから、「環境が悪い」とは絶対に言わせない会社にしようと。休みも給料も、自分の作品を作るチャンスも、全て用意した。その上で結果が出ないなら、それはお前のせいだ。……実際には言いませんけど(笑)、そう言えるほどの場所を作りたいんです。

━━若手の方も、自分の作品をオンラインで販売して完売させているとか。

松岡:ええ。30代前半の女性職人で、年収800万を超える事例も出ています。自分たちの物作りを飽きずに突き詰めていける環境。それが今のKOMAの土台です。

「俺だけの特別な景色」を届ける

━━最後に。松岡さんにとって「景色になるインテリア」とは、どんなものでしょうか。

松岡:「自分にしかない、自分だけのものだ」と思える特別な感覚。それがある景色です。僕自身、サーフィンや雪山での体験、古いバイクの運転など、「俺しか知らない、言葉にできない感覚」を求めて生きています。

━━誰にも代えがたい、自分だけの時間。

松岡:家具も同じです。誰かが作った、理由のある道具に触れる。その満足感が、空間を特別にします。持ち主にとっての「宝物」になり、ふとした瞬間に気持ちが上がる。そんな景色の一部になれたら最高ですね。

編集後記

「狂っている」と自称するほどのこだわり。それは決して、自分一人のためではなく、使い手や、共に働く仲間に、本当の「豊かさ」を届けるためのものでした。

KOMAの家具が放つ静かな美しさは、松岡さんが積み重ねてきた圧倒的な「手」の熱量と、どこまでも人間らしく、泥臭いまでの情熱から生まれているのです。