【景色になるインテリア】金属が暮らしの景色になるとき。町工場から生まれたステンレス家具・FATE INDUSTRIES

日本各地で家具をつくる作り手のまなざしを通して、ものづくりの現在地を見つめる連載「景色になるインテリア」。日々の暮らしに寄り添い、使うほどに深みを増す家具には、素材と向き合い、手を動かし続ける人々の静かな熱が宿っています。

今回お話を伺ったのは、岐阜県を拠点とする「FATE INDUSTRIES」の創業者、安田さんです。

PROFILE

PROFILE

FATE INDUSTRIES

ステンレスプロダクトレーベル。岐阜を拠点に、工業的な構造設計と造形美を融合させたステンレスプロダクトを製作。

精緻な加工技術と素材特性への深い理解をもとに、実用と芸術の境界を探るものづくりを行う。

家具をはじめとするインテリア製品を主に、職人の手仕事によって一つひとつ丁寧に形づくられるプロダクトは、金属のもつ剛健さと静謐な美しさを併せ持つ。

THEO BY FATEでは、産業素材の純粋性と恒久性をTISCH氏の思想哲学を用いて紐解き、素材のもつ本質的な美を追求している。

instagramのアイコン @fateindustries_jp/ 別のタブで開く URLリンクのアイコン https://fateindustries.jp/ 別のタブで開く

──本日はお忙しいところありがとうございます。FATE INDUSTRIESは2019年に岐阜でスタートされたそうですね。50年以上の歴史を持つ「光和工業」という会社の技術を、インテリアという形で発信しようと考えられたきっかけを教えていただけますか。

安田:こちらこそ、お声がけいただきありがとうございます。実は、その会社は私の実家の工場なんです。祖父が50年前に始めた金属加工の町工場で、地方によくある小さな工場です。父もその後を継いでいましたが、当時はインテリアとはまったく関係のない仕事をしていました。

──ご実家の工場だったのですね。以前はどのような製品を作られていたのでしょうか。

安田:高度経済成長期の頃は、住宅用のステンレス製の流し台やバスタブなど、主に実用的な製品を作っていました。時代が変わってからは、工業用の機械や設備などの製造が中心となりました。一般の方の目に触れることはほとんどなく、製品を支えるどこかの部品として使われるものを多く製造していました。

──最初から安田さんも家業を継ぐことを考えていらっしゃったのでしょうか。

安田:正直に言うと、当時はあまり興味がありませんでした。地方の家業なので、いつかは関わることになるのだろうという空気はありましたが、私たち夫婦は別のことに挑戦してみたいという思いが強かったんです。夫と一緒に海外に移住し、その頃はパッケージデザインの仕事に携わっていました。

──パッケージデザインですか。まったく異なる分野ですね。そこからどのようにして実家へ戻ることになったのでしょうか。

安田:さまざまな経験を重ねる中で、少しずつ考え方が変わってきました。せっかくあるものを敬遠するのではなく、「それを受け止めて、そこから何ができるだろう」と考えるようになったんです。それで10年前に実家へ戻り、改めて工場の中をゆっくり見て回りました。

すると、そこにある金属の素材や部品がとても美しく見えたんです。それまで気に留めることもなかったものが、まったく違って見えて、思わずハッとしました。「これは価値のあるものなのではないか」と強く感じた瞬間でした。

── ずっと見てきたはずの景色が、違って見えたんですね。

安田: そうなんです。ここには、職人たちが10年、20年と磨き続けてきた美しい技術がある。けれど、その技術の多くは部品として製品の中に隠れてしまう。それは少しもったいないのではないかと感じました。「この技術を価値として表に出したい」と思ったことが、ブランドの始まりでした。

「FATE(宿命)」という名前に込めた想い

──「FATE INDUSTRIES」というブランド名も印象的です。どのような意味が込められているのでしょうか。

安田:「Fate」は宿命や運命という意味です。私個人にとっては、このものづくりと向き合うこと自体が、ある意味で変えられない事実のように感じていました。

それと、工業製品は「工芸」とは別のものとして扱われがちですよね。どれだけ丁寧に作っても、「労働の対価」としてしか価値が認められない。「できるだけ安く」という基準で評価されてしまうことが多いんです。そうした業界の状況も、どこか宿命的なもののように感じていました。

── 芸術的な価値を持ってもらえない、というジレンマですね。

安田: そうなんです。「本当にそれだけなのかな」と思うようになりました。その宿命に対する、ささやかな反抗のような気持ちもあります。「別の可能性があるのではないか」という問いかけも、この名前に込められています。

ステンレスに「ぬくもり」を宿らせる挑戦

──プロダクトを拝見すると、ステンレスでありながら、どこか有機的で温かみのある印象を受けます。これはどのようにして生まれているのでしょうか。

安田:金属というと、どうしても男性的でインダストリアルな印象がありますよね。でも私は、もう少し中性的な柔和さを感じるデザインにしたいと思っていました。とはいえ、形そのものを柔らかく見せようとしていたわけではありません。実際、製品には角張ったデザインのものも多いんです

ただ、「角が立っていると触れたときに心地よくない」という感覚があって、まずは何より手触りを大切にしていました。

──手触りですか。意外なところから始まっているんですね。

安田:はい。職人と一緒に確認しながら、心地よい触れ心地を重視して、少しずつ角の調整を重ねていきました。すると、出来上がったものの印象が大きく変わってきたんです。同じ形でも、角を落とすだけで自然と柔らかな表情になりました。

──ステンレスは加工が難しい素材という印象がありますが、特にこだわっている点はどこでしょうか。

安田:ステンレスはとても硬い素材です。熱で溶かして型に流し込む鋳物とも違いますし、手で叩いて形を作る銅とも違います。私たちは、硬い大きなステンレス板を「折り紙」のように折り曲げて形を作っています。普通であればネジで接合するところも、あえて溶接して一体化させています。

──組み立て式にしないのはなぜでしょうか。

安田:完成したときの、一つの「物」としての美しさがまったく違うからです。ただ、その分とても難しい工程になります。溶接の熱で板が歪んでしまうんです。平らな状態を保ちながら同じ形を作り続けるには、かなりの技術と手間が必要になります。

── デザインは安田さんがお一人で?

安田: 大まかなコンセプトやデザインは私が考えています。それを実現するための緻密な構造の計算は、工場を見ている主人やスタッフが担当しています。

例えば「RECTANGLES」というプロダクトでは、板の厚みを決めるのにかなり試行錯誤しました。1ミリでは安定せず、3ミリでは重くなりすぎてしまう。最終的に2ミリという厚みにたどり着きました。私が出した少し難しいアイデアを、実際の形にしてくれる人たちがいて初めて完成するものだと思っています。

「THEO by FATE」——偶然の色をアートにする

── もう一つのライン「THEO by FATE」では、溶接の「焼け色」をあえて残していますよね。これも面白い試みです。

安田: これは写真家のTISCHさんとの出会いがきっかけでした。彼がスタジオを作る際、私たちにハンガーラックの製作を依頼してくださったんです。工場を訪れた際、私と同じように「工場にあるものがとても美しい」と感じてくださり、その出会いをきっかけに、テクスチャーを生かした撮影用のプロップも製作しました。

── 普段は消してしまう溶接の跡を、美しさとして捉えたんですね。

安田: そうなんです。本来は、溶接の焼け色をいかに綺麗に消すかが技術の見せどころですが、今回は意図的に色を施す作業を行いました。バーナーの火で同じ箇所を炙り続けると、ある瞬間ふわっと金属の色が変化するんです。青くなったり虹色になったり、一つとして同じものがない偶発的な表現です。

──職人の方々の反応はいかがでしたか。

安田:最初は戸惑いもあったと思います。普段は行わない意図的な作業ですし、熱を加えることでさらに歪みやすくなるので。でも、自分たちが作ったものが雑誌などで美しく紹介されているのを見て、とても喜んでくれました。

「当たり前にやっていたことに、こんな価値があったのか」と感じてくれたようで、職人たちにとっても新しい発見になったと思います。外からの視点が、職人の持つポテンシャルを引き出してくれたのだと感じています。

日常の景色に、金属という選択肢を

── 安田さんが、これからこのプロダクトを通じて届けていきたい「景色」とはどんなものでしょうか?

安田: 日本のものづくりを支えているのは、多くの場合、私たちのような中小企業です。しかし、工場で作られたものは、工芸品に比べてどこか軽視されてしまうこともあります。そうしたものづくりにも、もっと敬意を持って向き合ってもらえるようにしたい。作り手の顔が見えるものとして、世の中に届けていきたいと思っています。

── 実際にお部屋に置くと、かなり存在感がありそうですね。

安田: 「なんとなく浮いてしまうのではないか」と心配されることもありますが、実際にはとてもよく馴染むと思います。私の自宅でも、木の床の空間にステンレスのキャビネットを食器棚として置いていますが、インテリアのアクセントとなっています。緑の植物ともすごく相性がいいんです。

── 安田さんご自身のお気に入りのプロダクトはありますか?

安田: どれも思い入れがありますが、個人的には「UMBRELLA STAND」が好きですね。三角形のシンプルな形で、オブジェのような佇まいでありながら、使い勝手もいいと思います。ステンレス製なので濡れても問題なく、重みがあるため倒れにくいんです。

── 下に水受けがないのも、面白い形ですよね。

安田: 田舎の発想かもしれませんが、水はそのまま下に落ちて自然に乾いたほうがいいと思ったんです。壺のような容器の中に入れると、どうしてもずっと濡れたままになってしまいますから。玄関先にさりげなく置いてあるだけで、その場の空気が軽やかに変わる。そんな景色を楽しんでいただけたら嬉しいですね。

── ただの工業製品ではない、職人さんの「磨きの番手」一つで変わる鈍いマットな光沢。その深さを知ると、ますます愛着が湧きそうです。今日は本当にありがとうございました。


取材の最後、安田さんが見せてくれたご自宅やスタジオの写真は、どれも清々しい空気に満ちていました。冷たいはずの金属が、職人の手仕事によって、空間に馴染む柔らかな「景色」へと変わる。それは、家業という宿命を受け入れ、新しい価値を見出した安田さん自身の物語そのもののようでした。

FATE INDUSTRIESの家具が、あなたの日常の景色をどう彩るのか。ぜひ一度、その手触りを感じてみてください。

写真:FATE INDUSTRIES