「撮りたい映像」を形に。ソニーマーケティング×CURBON育成プログラム参加者対談

2024年11月に始動した、ソニーのデジタルカメラやオーディオ製品などの販売を行うソニーマーケティング株式会社と、写真の学び場『CURBON+』や出張撮影サービス『Creators Base』を運営する株式会社CURBONによる動画クリエイター育成講座『映像制作を仕事に。基礎から学べる育成プログラム』。予想を上回る応募が集まったこの企画では、参加者がついに決定し、本格的にスタートを切った。

本記事では、2024年8月に実施したトークショーに登壇した映像作家・写真家の市川稜氏と参加者による対談を実施。ファシリテーターとして写真家の霜自由氏を迎え、プログラムへの参加を決めた理由や映像制作における不安や課題について語り合った。

映像制作を仕事に。基礎から学べる育成プログラムとは?

2024年11月からスタートした、ソニーマーケティングとCURBONによる合同プログラム。CURBONの出張撮影サービス『Creators Base』に登録しているフォトグラファーを対象に、3ヶ月のプログラムを通じて映像制作のノウハウを学ぶ内容となっている。 プログラムの最終ゴールは作品課題の提出で、映像制作セミナーやD.O.P/フォトグラファー大川原諒氏による相談会、課題の講評会が行われるほか、優秀者には、CURBON.JPでの特別登壇などの機会も予定されている。

参加者には、撮影機材としてソニーの『Cinema Line FX30』(映像制作に特化したカメラ)やレンズ・マイクなどが無料貸与され、最新の機材に実際に触れながら実践的に学ぶことができる。

突然舞い込んできた動画撮影の依頼

左から参加者の黒川さんと齋藤さん

霜自由:今回は参加者の齋藤さん、黒川さんにお越しいただきました。お二人は普段フォトグラファーとしてどのような撮影を行っているのでしょうか?

齋藤:普段は、スタジオでライティングを組んで、人物撮影や物撮りを行うことが多いですね。

黒川:僕の場合、プライベートでは夜景の撮影をしています。仕事では社員さんのプロフィール撮影や、建物の撮影がメインです。

霜自由:この映像制作プログラムになぜ応募したのでしょうか?

齋藤:世の中で動画の需要が高まってきたことで、「動画を撮ってくれない?」と相談されることが増えたんですよね。「未経験でいいのでとりあえず撮ってほしい!」という声にはお応えしてきたのですが、「きちんと勉強していい映像を納品したい」という気持ちがあり、基礎的な知識を学ぶために、このプログラムに応募しました。

黒川:動画撮影には以前から興味があったのですが、凝り性な性格もあって生半可な気持ちでは踏み込めずにいました。ただ、少し前にSNS運用の仕事をしていた会社さんから「インタビュー動画も撮ってほしい」と依頼され、急遽映像制作の仕事を始めることになったんです。撮影や編集をする中で「もっとこうしたい」という気持ちが生まれたものの、それを実現するための引き出しが自分の中にないことに気づき、映像制作を一から学びたいと、応募に至りました。

霜自由:なるほど。いきなり動画案件が舞い込んでくるんですね。

齋藤:そうですね。ビデオグラファーではない自分に依頼が来たことで、「あ、今はこんなにも映像の時代なんだ」と実感しました。

霜自由:フォトグラファーの仕事をしていると、こういうチャンスが急に目の前に現れることがありますよね。それを掴めるかどうかがかなり重要ですね。

周りに頼れず、募った映像制作への不安

霜自由:改めて、今回のプログラムに参加するにあたって魅力に思った点を教えてください。

黒川:3ヶ月という短期間で、機材貸与や学びの場が提供されることに大きな魅力を感じました。また、相談会やSlackでの個別相談ができること、さらに最終的に講評会で作品を発表するという明確なゴールがある点もいいなと感じました。

齋藤:私が特に魅力を感じたのは、自分の作品をプロに講評してもらえるところです。大人になると、クライアントや友人から感想をもらうことはあっても、プロに評価してもらう機会はほとんどないですよね。客観的な視点でフィードバックを受けられる機会をいただけるのはとても貴重だと感じました。

霜自由:すごく気持ちがわかります。フリーランスのフォトグラファーって「わかりません」と言える場が少ないんですよね。撮り方のノウハウが仕事道具の一つだったりもするので、同業者の友人にも正直聞きづらかったり……。だからこそ、こういったレクチャーの場は本当にありがたいと思います。参加者の方々も、ぜひ質問をどんどんしてほしいですね。

ファシリーテーターの霜自由さん

黒川:独学で学ぶにしても、今は情報が溢れすぎていて、誰のどのやり方に倣えばいいのか取捨選択が逆に難しいんですよね。その点、メーカー発信の信頼できる情報を基礎として学べるのは大きな魅力です。その上で、自分なりにアレンジしていけばいいのかなと考えています。

霜自由:お二人は既に動画案件の経験があるとのことですが、映像制作に対してどのような不安がありますか?

齋藤・黒川:全部ですね(笑)。

黒川:特に撮影前の準備が不安です。設定の仕方なども写真とは全く違う考え方だと思うので、細かい部分からしっかり学びたいです。

齋藤:私も基本的な部分が不安です。このプログラムに参加されている方も、同じように「右も左もわからない」という状態で参加している方が多いのではないでしょうか。

霜自由:そうですよね。ちなみに市川さん、お二人の話を聞いて映像と写真の違いってなんだと思いますか?

市川:もちろん、シャッターとフレームレートは違うから概念としてはそもそも違いますが、結局のところは一緒ですね。

映像作家・写真家の市川稜さん

霜自由:一緒なんですか!?

市川:何も違わないと思います。だって、動画は写真が動いているだけだから。今回の参加者の皆さんのように、写真の撮り方を知っているという前提があったら尚更です。例えばシャッタースピードをフリッカーが出るから1/50sにするとか、1/100sにするとかの塩梅や、フレームレートを30fpsにするのか24fpsにするのか、はたまた120fpsで撮って30fpsに戻すのかとか。そういったことを知っておけば難しくないと思います。

霜自由:なるほど。そう言ってもらえると少し安心ですね。

ソニーのカメラは「できないことがほとんどない」ことが魅力

霜自由:ちなみに、市川さんが映像制作を始めたとき、一番苦労したことは何ですか?

市川:絵コンテの描き方がわからなかったことですね。動画の絵コンテって世の中にあまり出回っていないんですよ。それが一番難しかった。どうすれば他人に意図が伝わる絵コンテになるのかがわからなくて。とりあえずつくってみるんですが、「これに一週間もかけていいのか?」といった労力のバランスにも悩みました。

霜自由:わかります!絵コンテって本当に難しいですよね……。それをどうやって乗り越えたんですか?

市川:ひたすら描くことですね。効率のいい解決方法は今でも見つかっていなくて、泥臭くやるしかないです。(笑)

霜自由:今回はソニーマーケティングとの合同プログラムということで、Cinema Lineカメラ『FX30』が一人一台貸与されるということですが、そもそも市川さんがソニーのカメラを愛用している理由は何でしょう?

市川:理由はすごくシンプルで、「ソニーのカメラでできないことがほとんどない」からです。世の中にはたくさんのカメラがありますが、「できないことがある」カメラが多いんですよ。でも、ソニーのCinema Lineは弱点が少ない。ハード面でもソフト面でもこれを超えるものが存在しないので使い続けています。今回、皆さんが使うのは『FX30』ですが、初めて映像制作をするにはとてもいいカメラだと思いますね。

『FX30』

霜自由:それはなぜでしょう?

市川:『FX30』はAPS-C機で、シネマカメラの業界で一番使用頻度の高いフォーマットだからです。映像制作の現場では、最近は少しずつフルサイズ機が使われ始めていますが、まだまだAPS-C機が使用されるケースが多いです。個人的にはフルサイズも好きなのですが、これから映像をやっていくことを考えると、最初にAPS-C機のフォーマットに慣れるのは大事だと思います。

霜自由:確かに最初にメジャーなフォーマットに慣れるのは大切ですね。今回のような限られた期間の中で上達するにはどんなことを心がければいいのでしょうか?

市川:まずは「撮ること」ですね。説明を聞いてから撮るのではなく、撮ってから説明を聞くことが大前提だと思います。撮ることで初めて自分の不安や疑問点がわかりますし、「何がわからないのか」が明確になります。だからまずは行動することが大切です。

齋藤・黒川:なるほど。

市川:それから、自分なりの視点を見つけることも大切です。映像制作には決まった型がないので、「自分だったらこうするな」「でも他の人はこうなんだな」という考え方を強く持つことが重要です。いろいろなやり方や演出を学んでいく中で、自分の好きなスタイルが見つかってくると思います。

一番大切なのは、つくった理由を伝えられること

齋藤:いい映像を撮るために一番大切なものは何でしょうか?

市川:技術ももちろん大切なのですが、一番はコンセプトを固めることかなと僕自身は思います。僕の場合は撮影前にコンセプトを一文でまとめるようにしていますね。例えば誰かを撮るときに、その人のテーマを「ギャップ」にしたら、それをどう映像で表現するかをじっくり考えます。ペットを撮る場合も「この猫のどこが魅力的か」を考え、それを伝える方法を決めるのがコンセプトづくりです。その上で、順撮りにするのか手持ちにするのか、使用するレンズはどうするのかなど、自分なりのルールを決めることで個性が出てくると思います。

映像制作では「なぜこの映像をつくったのか」と必ずと言っていいほど聞かれます。そのときに、何を表現したいのかが明確でなければ説明できなくなりますよね。自分が誰に何をどう伝えようと思ってこの作品をつくったのかを伝える核となるのがコンセプトだと思っています。

霜自由:ありがとうございます。ここまでお話を伺ってみて、参加者のお二人はいかがでしたか?

齋藤:具体的に制作のイメージが湧いてきました。技術的なことは講師の方にたくさん質問しようと思いましたし、漠然とした不安が解消されて何か映像をつくれそうな気がしています。このプログラムが始まるのが楽しみです!

黒川:「コンセプトを決める」というプロセスが一番大事だと知ることができてよかったです。技術だけでなく、伝え方を工夫して「こう見えるだろうな」という部分を映像に凝縮できたら楽しいだろうなと感じました。作品をつくるというゴールに向けて頑張りたいと思います。

次回はいよいよプログラムの内容に迫ります!フォトグラファー・大川原諒氏による相談会の模様もお届けする予定ですので、ぜひお楽しみに!