わたしのスタイリング思考 プロップスタイリスト・早野アレックス

はじめまして。プロップスタイリストの早野アレックスです。

いつもとはすこし違う目線で“モノ”を見て、こんな見方もあるかもっていう感覚をシェアする気持ちで日々制作しています。

まだまだ世の中の知名度は低いけれど、撮影の現場ではよく知られる “プロップスタイリング”。簡単にいうと「プロップ=小物」を使って対象物の魅力を引き立たせたり、シーンを作ったりすることです。

日本では、セットデザイン(大道具・美術)のことも含んでいたり、規模を問わずざっくりとモノのコーディネートを指すことが多いかもしれません。

私にとってのプロップスタイリングは、メインの“モノ”の持っているストーリーを、他のモノたちを使って肉付けして伝える作業。第一回は、私がどんなふうに考えてスタイリングをしているかをお披露目したいと思います。

PHOTOGRAPHER PROFILE

早野アレックス

PHOTOGRAPHER PROFILE

早野アレックス

武蔵野美術大学卒業後、ファッションスタイリストのアシスタントを経て、プロップスタイリングを学ぶため渡英。ライティングやカメラワークの重要さを知り、ロンドンでアシスタントを経験しながら写真を学ぶ。その後東京に戻りプロップや衣装のスタイリストとして意欲的に活動中。プレイフルなスタイルが定番。

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1.主役&世界観(舞台設定)を決める

真ん中のシリアルに入っていたマシュマロが主役。その色味を反映させるイメージで背景や他のプロップを選びました。
言わずもがな、犬を主役にして、背景を使ってわざと馴染ませています。

まず、主役を決めます。物語には主役がいなくちゃ。

これは、例えば自分の作品であれば自由に設定できますが、クライアントからの案件であれば商材が主役になります。

自分で主役を設定する場合は、自然とストーリーが浮かぶものや、そのモノからインスピレーションを得られるものを主役に据えるようにしています。私は物語を作るイメージで作品制作をしているので、主役の他に世界観(舞台設定)も決める必要があります。

メイン=主役が決まったら、次は世界観、という順序で決めるのもよいのですが、プライベートワークの場合は前後することもあり、ほぼ同じタイミングで主役と世界観を考えていることが多いです。

例えば、モノAにインスピレーションを受けて物語を考えていたら、モノBをメインにしてモノAをサブにしたほうがハマるじゃん!となったりします。こういうふうに、はじめの案に縛られずに物語や役を組み立てていくことが大事になります。

2.1に沿って、一緒にあるとワクワクするものを選ぶ

和菓子のデザインをモチーフに、色味・質感の似たものと、全く異なるものを組み合わせています。ポイントは左下に写っている崩したステンレスたわし。/使用したもの:スポンジ2種類、レンガ、ステンレスたわし/Photo by HIYORI OHNISHI
「海」をテーマにプロップを選んでいって、質感がマッチしたプードルの置物も登場することに。典型的な海のものを使うだけにはしたくなかったので、質感・色味ともに足したい要素を持っていたコードを使用
昆虫ブローチたちを撮影。花モチーフのランプシェードに配置してみたものの、物足りなかったので流れを出すような感覚でワイヤーを曲げて配置しました。

主役と世界観が決まってしまえば、あとは芋づる式でどんどん候補の小道具が思い浮かんできます。もし候補のプロップがしっくりこないなと思う場合は、その世界観の解像度が低い、つまり単純に引き出しがないということなので、アートブックや資料、ピンタレストなどを活用して情報を集めます。

わかりやすい絵としてまとめたい場合、主役と世界観を決めるというステップはこれでおしまい。

でも私は、ここからちょっとくずすというか、その世界感にふさわしいんだけどちょこっと違和感を感じるような、ヘンなものを投入するのが好きです。

主役とその他の候補を並べてみた時に、この舞台設定にどんな要素があるとワクワクするかな?今まで考え付かなかったけど、実際に置いてみても意外と自然なものはなんだろう?と妄想します。

明らかにヘンなものではなくて、日常でよく目にしているんだけど、はじめからこのスタイリングに組み込もうとは思いつかないモノ。そういった視点で部屋やお店のなかをウロウロしてみると、ぽろりとそういうものが出てくるんです。

これで役者が揃いましたね!つぎは舞台を整えていきましょう。

3.プロップを配置しながら、ベストな位置を決めていく

個性豊かなマドラーたちのダンスパーティがイメージ。高さや角度をつけたかったので、粘土で土台を作りました。
秋をテーマにヘンな形のお芋を撮影。全ての配置を決めたあと、左右のアイテムの存在感にお芋が負けてしまっていたので、脚をつけてみるとしっくりきました。/Photo by HIYORI OHNISHI

写真に入れる小物を全て実際に並べて、試しながら配置していきます。この作業は実物を前にして物理的に組み合わせていかなければできません。即興的な作業です。

左手に主役のモノを持ち、右手に他のモノを持ってあれでもない、これでもないと、まるでおままごとしているかのような動きで角度や組み合わせを変えて試していきます。

この作業を始める前に、こういう組み合わせがいけそうだな、と想像していても、実際にやってみると、絵として様にならないことはよくあること。

一つの案にしがみつかず、さまざまな角度、組み合わせを試してみるのがポイント。そして、ステップ2まででおこなった自分のモノ選びのセンスを信頼して、その時にあるもので必ず素敵な配置ができる、と考える。これを実行していると、ふとした時に自分なりのスタイリングができあがっています。

即興なので計画に基づいて組み立てるというよりも、「あっこれでできたな」という気づきが訪れて完成する、という感覚に近いかもしれません。

わたしのスタイリング思考

なんだか抽象的な話になってしまったのではないかと不安ですが、私のプロップスタイリングのプロセスはこんな感じです。

1.主役&世界観(舞台設定)を決める
2.1に沿って、一緒にあるとワクワクするものを選ぶ
3.プロップを実際に配置しながら、最適な位置を決めていく

楽しんでいただけましたか? 写真を通して、いろいろな人が作り出すたくさんの物語に出会えますように。では、次回の「アイデアのインスピレーションについて」でお会いしましょう。アディオス〜。