ニューボーンフォト専門家に聞いた、レタッチ術

こんにちは。よしむら写真事務所の吉村です。連載2回目となる今回は、ニューボーンフォトにとって欠かすことのできない「レタッチ」について解説していきたいと思います。ぜひ七五三など一般的な営業写真との違いを感じながら読み進めてみてくださいね。

PHOTOGRAPHER PROFILE

吉村 ひろし

PHOTOGRAPHER PROFILE

吉村 ひろし

大阪府枚方生まれ枚方在住、大阪府枚方高校国際教養化卒。関西外国語大学スペイン語学科卒。
新卒から文房具の商社での営業、ECサイトのお客様相談室の室長を経験。うつ病をきっかけにかつてやりたかった事と向き合う様になり、フォトグラファーの道へ。ブランディングとプリント販売のノウハウを作り上げ活躍するフォトグラファーへと転身。男性フォトグラファー×女性ポージングケアアシスタントと言う形でのニューボーンフォト出張撮影の専門家・株式会社サルバドールの代表取締役として活動中。

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ニューボーンフォトの魅力

そもそもニューボーンフォトという言葉は知っているけれど詳しくはわからない、という方に、少しご説明しましょう。ニューボーンフォトとは、現在右肩あがりに注目を集めている撮影ジャンルで、生後約3週間の赤ちゃんが眠っている時に可愛らしいポージングをして撮影するというものです。

従来、マタニティフォトの次にお宮参りという流れが主流だったこの業界ですが、その流れが変わりつつあり、いわゆる営業写真業界のパラダイムシフトとも言えるジャンルです。

この分野では圧倒的に女性が有利な撮影であること、大手企業の参入スピードがまだスローペースであること、フリーランスのフォトグラファーやママカメラマンが大活躍しているジャンルでもあります。これをご覧の写真家のみなさまにもご興味をもってもらえると嬉しく思います。

ニューボーンフォトのありあまる魅力については前回のコラムで書かせてもらっているのでそちらをご覧くださいね。

>>【ニューボーンフォト】プロが教えるニューボーンフォトの撮り方

ニューボーンフォトのレタッチの基本

さて、今回はレタッチについてお話をさせて頂くのですが、話に入る前にニューボーンフォトにおけるレタッチの定義、意味や注意点などをお伝えさせてください。

ニューボーンフォト

なぜレタッチをするのか?

大きく分けてレタッチする3つの理由があります。

一つ目の理由は、ニューボーンフォトは通常、生後3週間以内の赤ちゃんやママを撮影するので、お肌のトラブルなどを解決するためです。

新生児の間は皮がめくれていたり、新生児湿疹があったり、黄疸が強かったり、あとはお肌の色が赤みが強かったりとその赤ちゃんの持つ可愛さと同時に少しお肌にトラブルを抱えていることが多くあります。

出産前後の記録をそのままに残すことも尊いことですが、ニューボーンフォトでは、ママやご家族に愛され、大切にされている赤ちゃんの姿をより印象的に残すために、肌の補正をおこなうことが多いです。もちろんママやご家族のレタッチをすることもあります。

二つ目は、現場で出来なかったことの補助です。

ニューボーンフォトは出張撮影でおこなわれることが多いので、現場でのライティングが家具の反射などにより、完璧でないことがほとんどです。また現場ではスペースが足りずに充分に伸ばせなかった背景をレタッチすることで追加することも可能で、それはニューボーンフォトにとっては切ってもきれない関係にあります。フォトショップとライトルームを適切に使えないと、ニューボーンフォトのお仕事はちょっと大変になってしまうかもしれません。このあたりも参入障壁のひとつになっていると感じます。

レタッチする3つ目の理由は、作品性を強化するためです。

ニューボーンフォトは作品性でフォトグラファーを選ぶお客様も多くいます。そこでフォトグラファーはレタッチでオリジナリティあふれる色味や陰影をつけたり、色味を工夫したりすることで、さらに想い描く作品に近づけることができます。

ニューボーンフォトレタッチビフォーアフター

実際の工程

それではレタッチの順序について解説していきます。

あくまでもケースバイケースで、撮影のケースやフォトグラファーによって工程は千差万別です。工数をかけずに目的地にたどり着く方法をそれぞれ見つけてくださいね。

今回は一つひとつ詳しく書いていますが、普段はプリセットやアクションを多様して効率良く作業しています。また撮影時にはRAWで撮影している方がレタッチには向いているのでRAWでの撮影も忘れないでください。

ニューボーンフォト撮って出し

1.Lightroom(ライトルーム)での現像・下処理

圧倒的に大切なライトルームでの処理工程。ここで完結するフォトグラファーもいるくらいにライトルームは大切な存在です。さてライトルームではどんなことをしているのでしょうか?

※Lightroomとは:カメラのRAWデータの現像(編集)が可能な写真編集ソフト。主に写真の明るさや色味の調整・簡単な修正などができる。

2.ホワイトバランスの調整

まずお客様のご自宅での撮影ということもあり、ホワイトバランスが非常に取りにくいです。ましてや自然光で撮影をしている場合は一瞬で曇ったり晴れたりと、しっかりとディフューザーを使用しても一定になることはありません。

※そういった理由からライティングをしっかり組むことができると、安定した撮影が可能になり、互いに大きいメリットとなります。

そこでしっかりと改めてライトルーム上でホワイトバランスを確認します。ホワイトバランスはストロボやグレーカードに合わせきるわけではなく、あくまでも赤ちゃんのお肌が理想の発色をしている状態にあわせることが多いです。

3.コントラストの調整

光が回り切っていなくてシャドウがきつくなり過ぎている場合には、コントラストを弱くし、ハイライトを下げつつ露光量を決めていきます。こうすることで極端な光の明暗の差を埋めることができます。しかしシャドウを上げ過ぎてしまうと、コントラストが弱くなり過ぎてしまうため注意が必要です。

4.赤味の除去

生まれたての新生児は、実は結構赤黒いお肌をしていたりします。この問題を解決に近づけるために、赤の輝度を高くします。この工程で軽度の乳児湿疹が解決することもあります。ただ赤色のプロップスなど他の赤い部分にも効いてしまうので、どのくらい丁寧にするのかはフォトグラファーの判断かと思います。

※フォトショップで部分的に赤味を除去することもあります。

5.おおまかな美肌補正

ノイズ除去を使用してお肌を整えることもあります。

ニューボーンフォト現像後
※Lightroom(ライトルーム)で現像・下処理をした画像

Photoshop(フォトショップ)で加工して完成させる

ニューボーンフォトレタッチビフォーアフター

ライトルームで現像してから、フォトショップを起動させます。

今回はフォトショップの基本的な機能を使用しながら誰でも簡単にできる方法をご案内していきます。実際にはもっと細かいこともやっているのですが、おおまかなレタッチ工程を感じて頂けるのではないでしょうか。またライトルームで完成する写真があるのも事実です。かならず全行程を踏まなくてはいけないのではなく、あくまでも必要な分だけのレタッチに留めておくことが大切です。

※Photoshopとは:写真や画像の加工・色の調整、複数画像の合成、テキストの追加や装飾などが自在に行えるツール。

1.お肌の赤黒さの除去

「イメージ」→「色調補正」→「特定色域」の選択を選びます。

そこでレッド系の「ブラック」を下げます。そうすると赤の中の黒さを除去することができます。この機能とレイヤーマスク機能を使用して、必要な部分にだけ効果をかけるようにします。

2.美肌効果、ぼかし

必要な箇所を「選択」→選択範囲をコピーした「レイヤー」を作成→フィルターより「ぼかし(ガウス)」を選択、適当な数値へ調整→レイヤーマスクをかける→必要なところにのみ効果をかける。基本的にはこのような手順が簡単だと思います。

3.皮めくれや乳児湿疹の除去

スポット修正ブラシツールを使って、前の作業で隠しきれていない湿疹や皮めくれを取り除いていきます。この作業は最も細かくなりますが、ペンタブレットではなくマウスで十分な範囲だと感じます。

4.背景の塗り足しなど

この写真の場合は黒色の背景にしたいので、まず被写体の「選択」→そして「選択範囲」を反転→境界線を少しぼかす→選択範囲をコピーしたレイヤーを作成します。すると赤ちゃん以外の部分が選択されたレイヤーができます。そのレイヤーを真っ黒にする必要があるので、露光量を0にします。そうすると黒背景が完成します。また、天地(画像の上下)をさらに強調するために、ブラシツールを使ってシャドウを足すのも効果的です。

5.頬杖ポーズなどの合成について

ニューボーンフォト頬杖ポーズ合成前

よく見るポーズですが、実は合成写真でできています。この二枚の写真から、ほら、こんなふうに完成した写真ができるわけです。

ニューボーンフォト頬杖ポーズ

ニューボーンフォトのレタッチのポイント・注意点

レタッチは魔法ではなく補助のツール

今回お話したように、ニューボーンフォトにとってレタッチはとても大切です。しかし大前提として、綺麗に撮影できていなければレタッチはうまくいきません。ここでいう「綺麗に撮れている」とは、赤ちゃんのポージングやライティングのこと。

これらがしっかりと出来ていないと、撮影してきた写真と全く違う写真を作りこむことになってしまいます。実際ニューボーンフォトの初心者さんがよく“ポージングや光が思い通りにならなかったから、レタッチで解決しよう”と考えてしまいがちです。

大前提として、レタッチは思い通りにならなかった写真を復活させる魔法ではなく補助的な存在です。ポージング、ライティング、カメラワークがニューボーンフォトではまず重要だということを忘れないでくださいね。

お客様とのすり合わせを大切に

特に初心者のフォトグラファーは要望を考えずに肌を陶器のように滑らかにしすぎたり、頭の形などを極端に変えたりするといった、写真をより良く見せるために過剰にレタッチをすることがありますが、それをお客様が望んでいないこともあります。

かつそのような写真がSNSに出回ることで、「そんな写真は当たり前」「ニューボーンフォトはレタッチで何でも良く見える」と考えるお客様やフォトグラファーが増えてしまいかねません。その結果、お客様とフォトグラファーの「ニューボーンフォト」の認識にズレが生まれる要因にもなり得ます。

どの程度レタッチをして納品するのか、お客様とのすり合わせも大切にしてくださいね。

ニューボーンフォト

次回はポージングについて書いていきます。
お楽しみに。

ニューボーンフォトのレタッチに使用している便利なグッズ・アイテム

▶︎ 27インチ4Kカラーマネジメントモニター「EIZO CS2740」

正確な色で作業するための快適なモニターです。

▶︎ 左手デバイス「tourbox-neo」

各ツールの呼び出しやブラシサイズ、濃度など左手で直感的に操作できます。一度使ったら手放せません。生産性があがるので超おすすめです。