【フォトグラファーの師弟対談】#01 いつの間にか似てきた2人は、互いに学び合う関係 |田村昌裕×坂本美穂子

DESIGNER MEETS PHOTOGRAPHER Vol.23

編集思考とアートディレクションを武器に、企業やサービスの新たな価値を創出しているデザインコンサルティングファームDynamite Brothers Syndicate。日々、第一線のフォトグラファーとコンタクトをとっているクリエイティブディレクター、デザイナー、プロジェクトマネージャーが実際に出会い、影響を受けたフォトグラファーとのエピソードを明かします。今回は、フォトグラファー田村昌裕さんと、田村さんのもとで約3年間のアシスタント経験を得て、2022年に独立された坂本美穂子さんをゲストにお迎えし、フォトグラファーの師弟関係について伺いました。


田村昌裕/フォトグラファー

1973年東京生まれ。都内スタジオ勤務後独立。ファッション、料理、旅 などのテーマを中心にジャンルをかぎらずに撮影。雑誌 fudge,kiitosなど雑誌の表紙やタレントやモデルの書籍の撮影なども手がける。目指している写真は「想起させる写真」。

坂本美穂子/フォトグラファー

大学卒業後、専門学校にて写真を学び、その後スタジオに勤務。2年勤めたのちに、写真事務所FREAKSにて田村昌裕氏、一之瀬ちひろ氏のアシスタントに就く。2022年より独立。


教えることは、「当たり前」を壊し、自分の視野を広げていくこと

小松崎:今回は、フォトグラファーの田村昌裕さんと、2021年まで田村さんのアシスタントを務められていた坂本美穂子さんをお招きし、師弟関係の意義や、価値について考えていけたらと思っています。まずはお二人のお仕事について、改めてお伺いできますか?

田村:当初は雑誌が中心、主に女性向けファッション誌で撮影をすることが多かったのですが、最近は、料理書籍や化粧品ブランドの会報誌、ブランドのオウンドメディアなど、主にライフスタイルに関わるようなものがどんどん増えている感じです。

小松崎:ありがとうございます。坂本さんは、2019年から田村さんのアシスタントをスタートされて、2022年に独立されたということですが。

坂本:はい。今は田村さんのアシスタント時に知り合った女性誌の編集の方からお声がけいただくことが多く、雑誌がメインになっています。あとは雑誌のwebメディアなどで、インタビュー風景を撮ったり、フードを撮ったり、わりと何でも撮っています。

坂本美穂子さんの作品

小松崎:ここから本題に入っていきたいと思いますが、田村さんは、坂本さんをはじめ、これまで何人もアシスタントを育ててきていらっしゃるんですよね? アシスタントをつける理由はどういったことにあるのでしょうか?

田村:僕は、学生時代から写真の世界に入ったので、かれこれ四半世紀くらいこの業界にいるのですが、そうなってくると、自分の中で固まってきてしまう部分が正直あるんです。三脚を一度置いたら動かさないで撮れるようになってきたりして、よく言えば、感覚がわかるようになってきたということではあるのですが、わかっているがゆえに、視野がどんどん狭くなってしまうんですよね。

手に職をつけていく者の怖い部分は「飽きること」だと思っているのですが、アシスタントをつけることで、普段自分が当たり前にやっていることに対して質問されたり、作業工程をわかりやすく説明したりすることで、改めて自分も学びなおしができるし、新しい発見にもつながっていく。つまり、飽きることがないんです。

小松崎:面白いですね。「当たり前」に対して、「それってなぜ?」とアシスタントさんから問い直される感じですね。

田村:そうですね。僕の場合、アシスタントさんには本当にゼロベースから、3年くらいかけて撮影のイロハを習得してもらいます。そのなかで、自分が感覚的にやっていることを、あらためて言葉で説明していくことは、狭くなっていた視野が広がっていくような感覚がありました。

高木:デザイナーも一緒です。僕も後輩たちには毎回同じことを教えるのですが、それぞれ個性があるので、こちらが思いもよらない、いろんな表現が出てくるんですよね。「なるほど」と思うことも多々ありますね。

田村:そうですよね。先ほどの「飽きることが怖い」という話ですが、周りを見ていて思うのは、写真をちょっと齧って、もう全てを知ったような気になって、飽きて違う仕事をし始めちゃったりする人って、結構いるんですよ。でも、光の当たり方も、モデルさんも、色味の作り方も、毎回違うじゃないですか。そう気づくことができるのも、アシスタントがいるおかげです。彼らと同じように毎回新鮮な気持ちで仕事に向き合えることは、この仕事を長く続けるために大事だなと思っています。

なぜこの写真がすごいのか。言葉にならない「微妙な何か」を伝えることも大切

小松崎:それって、積み上げてきたことを一回壊して再構築するということだと思うのですが、坂本さんとご一緒する中で、それを体感した具体的なエピソードはありますか?

田村:再構築したエピソードとは少し違うかもしれませんが、坂本さんが、ある若いフォトグラファーの作品の色味について、「なんでこういう色味にするんですかね?」と質問をしてきたことがあったんですよ。そのとき、すぐに答えられなかったので、作品の背景を調べたりして、作品を分析してみたことがあったんです。すると、これは〇〇さんの影響を受けているんだな、ということがわかって。若い人にはこういう作風が響いているんだと知ることができました。

あとは自分と同世代の、「神カメラマン」と言われるような写真家について聞かれることもあって、あらためて彼の作品がここまで神格化される理由を調べてみたりもしました。そうするとブランディングの上手さや売れる写真集の作り方など、あらためて気づくことも多かったですね。

坂本:私は、その「神カメラマン」が現役でお仕事されていた時期を実際には知らないので、田村さんから聞くことで、その方に関してだけではなく、写真の歴史も含め、知ることができ、勉強になりましたね。

田村昌裕さんの作品

高木:以前、田村さんとお話していたときに、「天井の線が写っている写真は、〇〇年代に流行った写真」などと、ロジカルな話をしていて、その分析力や写真の見方がやっぱりすごいなと思った記憶があります。

田村:それは長くいろいろな写真を見ているし、リアルタイムでその撮影方法を真似した経験もあるからですかね。写真1枚で「〇〇っぽい」と想起させることが商業写真の仕事でもあるので、天井の線がどこまで入るとか、足が切れているとか、些細なことなのですが、構図の作り方にはやはり注目します。そういう部分が、今っぽいとか、海外風とか、ほっこりとか、雰囲気を作る上で非常に重要になってくるんですよね。

小松崎:そうした構図を作る上でのコツというかカンのようなものを言語化するのは難しそうですね。

田村:昔からずっとやっているので、なんとか説明できるようになりましたね。これまで言葉にもなっていない、教本にも載らない、だけど確実に存在する「微妙な何か」を伝えていくことは、僕が商業写真を教える上で大事にしていることです。

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■SPEAKER

高木 裕次 TAKAGI YUJI
CREATIVE DIRECTOR / ART DIRECTOR
Twitter : @takagiyuji1

高橋 梢 TAKAHASHI KOZUE
CHIEF PROJECT MANAGER


■GUEST

田村昌裕 TAMURA MASAHIRO
http://www.freaksphotos.com/masahirotamura/

坂本美穂子 SAKAMOTO MIHOKO
https://mihokosakamoto.myportfolio.com/work

■Interviewer

小松﨑拓郎 KOMATSUZAKI TAKURO
https://twitter.com/takurokoma


株式会社ダイナマイト・ブラザーズ・シンジケート(DBS)

東京港区にあるデザインコンサルティングファーム。
ブランディング、デザインコンサルティング、ロゴマーク開発など幅広いフィールドで事業展開中。

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